白梅に明くる夜ばかりとなりにけり   作:FOOO嘉

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MEMちょの憔悴顔…とても興奮しちゃったよ❤︎
有馬ちゃんより余程モラルハザードだよ❤︎❤︎


20◼︎⚫︎年12月10日

「あかね?どうしたのよボーっとして」

「アクアくん今頃どうしてるのかな⋯って思って」

かなちゃんが苦虫を噛み潰したような顔でお酒を煽る。

あぁ、ダメだよ。そんな一気に飲み干していい度数じゃないのに。介抱するのはいつも私な

のに。文句を言って聞くかなちゃんじゃないから今更言わないけど。

「·····何よ急に」

「この前部屋を掃除してたら、あの映画の台本が出てきてね」

「はっ、アンタまだ持ってたの?相変わらず生真面目ね〜もしかして今まで出演した作品の台本全部取っておいてたり⋯しそうねアンタ」

の台本全部取っておいてたり⋯しそうねアンタ」

「え?当然だよ?」

当時の自分の書き込みを読み返すのは恥ずかしさもあるけれど新しい発見もある。

今の自分ならもっと深い部分で解釈できるのにという過去の自分の未熟さが恥ずかしくなることもあれば、まだ子供だった自分にしか抱くことが出来ない感情に新鮮な気持ちになることもある。そういう過去の自分の物の捉え方と今の自分の捉え方を比較することで新しく生まれる自分の感情を汲み上げる作業は嫌いじゃない。

新しく生まれる自分の感情を見つける作業が私は嫌いじゃない。歩く黒歴製造機なところがあるかなちゃんは好きじゃないだろうけど。

 

「あっそ」

つまらなそうに鼻を鳴らすと、かなちゃんはカクテルのお代わりを注文する。

この数年で随分大人っぽくなった横顔を眺める。

勿論かなちゃんは今でも童顔で可愛いんだけれど、ある時期から纏う空気が大人びたものになってきた。

女を綺麗にするなんて言葉があるけれど、あの頃の、今日あまの収録を経た後のかなちゃんはまさにそれだった。

そして恋を失って、深く傷ついて、立ち上がったことでもっと綺麗に強くなった。

無邪気で華やかな輝きから、少し翳りのあるしっとりとした妖艶さ。

かなちゃんをそう評価する声は少なくない。

「かなちゃんはアクアくんのこと思い出したりしないの?」

「誰がするってのよ!!あんな奴」

図星を突かれるとムキになって怒るところは変わらない。

初恋を拗らせて拗らせて拗らせきった挙句に昇華しようともがいているのが今のかなちゃんだ。

わかってるくせにかなちゃんが怒るように仕向けるなんて我ながら性格悪いなぁなんて思う。

「アンタこそいつまでも引きずってるわけ?とっくに元カノなのに」

「そういうつもりは無いんだけどな〜でも、そう見えちゃうのかな」

「男っ気の無さを見てたらね。百合疑惑まであるわよ?」

「無理して彼氏作らないようにしてるつもりは無いんだよ?一応出会いがあればなとは思ってるけど、お芝居の現場に入るとお芝居のことしか考えられないし、前程バラエティーのお仕事があるわけでもないからついお芝居のことを考えてる時間が増えてるだけ」

アクアくんと別れてから良い人がいなかったわけじゃない。いいなと思ったり、お付き合いした人もいる。だけど不思議なことに長く続かない。アクアくんよりも誠実な人やストレートに想いを伝えてくれる人もいたのだけれど本当に不思議なことに長続きしない。

きっとそれはかなちゃんも同じ。

アクアくんが誰にも負けない唯一無二の男性だとは決して思わない。

彼だけを思い続けるなんて誓いを立てるつもりもない。

だけど、突然心に穿たれた穴の痛みに狼狽えて、何とか堪えられるようになっている間に穴はそのまま固まってしまった。

はそのまま固まってしまった。

普通の女の子ならたくさん泣いて、友達と慰め合って、それから新しい恋を見つけてその穴を塞いでしまうのかもしれない。

だけど、塞ぐ術を見つけるには私もかなちゃんも忙し過ぎたし、手軽に塞ぐことができないくらい穴の形は歪過ぎた。

 

 

 

 

私よりも度数の高いお酒を口にしながら顔色一つ変えない黒川あかねの横顔を睨みつける。

酒を飲んでいるときでもしゃんとしてるのが可愛げのない女。

「かなちゃんこそ浮いた話なんて無いじゃん。散々『アクアよりいい男をすぐに捕まえてやる』なんて鼻息荒く言ってたのに」

「別に鼻息荒くしてないわよ!人を飢えた狼みたいに言うな」

「ふふ、そうだよね。かなちゃんは狼っていうより柴犬だよね。ツンツンしてても嬉しいと尾っぽをぶんぶん振る柴犬だね。ちなみに柴犬って狼に一番近いらしいよ」

「飲み会でおっさんが若い女から『へぇ〜物知り〜』って言われたくて仕入れたような豆知識披露してんじゃないわよ。そもそもドヤる程のトリビアでもないじゃない」

「すみませんオリーブフライ一つ」

「聞きなさいよ!!」

「ごめん。だってかなちゃんのツッコミくどくて長くて」

「わかった。あんたあーくんの話題にかこつけて喧嘩売りたいのね、そうよね、そうでしょ」

「あはは。素になるとあーくん呼びしてる。もしかして、今でもたまに呟いてる?」

「〜〜〜〜!!!!!!」

「あ、図星なんだ」

顔が赤くなるけれど、これはお酒のせいなんかじゃない。

怒りと羞恥心だ。

私も人のこと言えないけれど、こいつの底意地の悪さは年々いやらしくなっていく。

何がいやらしいかって、この底意地の悪さを公私に渡っておくびにも出さないのだ。

それが撮影の打ち上げだろうがプライベートの飲みの席であっても。

私と二人でいるときのみに遠慮なく発揮される。

ついボロを出してしまう迂關な私とは大違いだ。

そのせいで未だに「有馬かな 性格悪い」「黒川あかね 清楚」なんて予測検索で出てくる始末。嘘が上手い。アイかっての。

今ガチに出ていた頃のびくびくおどおどとしたチワワっぷりは何処に行ったのかしら。

同じイヌ科でも今のコイツは狐よ、女狐。

「ええそうよ。今でも思い出すわよ。そりゃあんだけ好き勝手して突然消えられたら忘れたくても焼き付いちゃうでしょ」

「アクアくんだってああするしかなかったんだよ」

「わかってるわよそんなこと。今ならアイツがどんな気持ちだったのか、少しはわかってるつもりだから」

好きな人が目の前から消えて、初めて本当の意味で好きな人が見えるようになるなんて皮肉なものだわ。

「当時は悔しかったけれどね正直。何も知らされてなかった私と違って、アイツの目的も何もかもわかってたアンタが羨ましかったし、正直憎いとも思った」

「かなちゃん⋯」

「そんな顔しないでよ。昔の話よ。今ならわかるわよ。何でアイツがあんたをアイ役にしたのかも。……それにルビーを最後まで遠ざけたのも」

「私だって全部教えてもらったわけじゃないよ。半分は私の推測」

「でも合ってたじゃない」

 

うぬぼれじゃないけど、好意は抱かれていたと思う。

あかねが言うには恋愛感情はあかねじゃなくて私に向けられていたらしい。

それが本当なら両想いだ。

こんな性格の悪い女に惚れるなんて本当見る目の無い奴。

こんな可愛い女に惚れるなんてなかなか見る目の有る奴。

だけどアクアが見ていたのが「有馬かな」なら、私が見ていたのは「星野アクア」じゃなく

て「私」の好きなアクアでしかなかった。

結局「私」「私」「私」「私」。どこまで行っても「私」だけ。

私の感情は全部「私」の為のものでしかない。私の心の向けられるのも「私」だけ。

「私」という主人公を軸にすべての人を見ていただけ。その人が何を思って、何を堪えて、何に苦しんでいるのか、あの頃の私には見えていなかった。

だからアクアは最後まで私には何も教えてくれなかった。

両想いなんかじゃない。

アクアの片想いで、私の片想い。だけど決して両片想いでもない。

そのことに気づいたのは全部終わってから。

アイの墓を暴いて、アイの輝きを曇らせて、アイの伝説を歪めて。

最愛の妹からの罵声と引き換えに仇の心を再起不能なまでにへし折った。

何もかも失ったアイツは私たちの前から姿を消した。

 

「アクアくんがいなくなった時のかなちゃん凄く落ち込んでたよね」

「そういうアンタは翌日も撮影に出てたわね」

「破局した時に結構気持ちに整理つけてたから。それに覚悟もしてたよ」

「悪かったわね。こっちは完全な不意打ちよ。意識の外から顎を打ち抜かれた気持ちだったわよ」

「膝から崩れ落ちるやつだ」

「半笑いで言うな」

 

崩れ落ちたのは事実なので否定できない。

両想いだと確信を持ち始めてからの私は呆れるくらいおめでたかった。

「あの映画」の撮影が済めば晴れてアクアと交際開始だと私は何処かで浮かれた気持ちだった。

ルビーとの険悪な仲だって私が取り持ってやればあのブラコンのことだから最後には仲直りするだろうと楽観的に考えていた。

微塵も私の前からいなくなるなんて想像していなかった。アイツが嘘吐きなのを都合良く忘れて、いなくならないでという言葉に頷いたのを信じきっていた。我ながら本当におめでたい。恋は盲目なんて可愛いものじゃない。

アイツは未練を断ち切る素振りすら見せてくれなかった。

それが悲しくて、悔しくて、腹が立つ。

 

「でもアクアくんはきっと今でもかなちゃんを応援してると思うよ。アクアくんの推しはルビーちゃんとかなちゃんだから」

「私はともかくルビーのことは応援してるでしょうねあのシスコン」

「かなちゃんのことも間違い無く応援してるよ。アクアくんかなちゃんのこと大好きだったから」

「もうアイドルじゃないっての」

 

遠い場所からでも見守ってるつもりなのかしら。

推し活に場所は関係無いって言ってたのはルビーだっけ。

だから離れても平気なのだとしたら。

 

 

私はアイツの【推しの子】になんてなりたくなかった。

 

 

 

 

 

 

有馬かなと黒川あかねがバーの初恋を失ったほろ苦さと痛みを肴にカウンターでカクテルを傾けている頃。

 

 

「休学する」

「ほう」

「私に相談は?」

「休学届は出して来た」

「いつ?」

「今日」

「事後報告じゃないか」

 

 

 

豚鶏キムチ鍋を囲みながら、アクアは一応の報告を同居人にしていた。

 




【推しの子】
「の」を「っ」に変えると【推しっ子】
「っ」はツクヨミの「つ」


わかった。そうだったのか。全ては収束するんだ。
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