「寒いね」
「言うな」
「寒いね」
「黙れ」
「寒いよ」
「おい」
「仕方ないじゃないか」
「寒い寒い言うな。余計寒くなる」
「そっち行ってもいい?」
「入る前に言うもんだろ。もう入ってるじゃねぇか」
「あ〜あったかい」
「⋯流石は子ども体温。ガキはこういう時に重宝するな」
「温かいなら温かいと素直に言ったら?」
「⋯⋯」
「ヒャッ」
「…フッ」
「冷たい手で背中を触るのはギルティーだと思うのだけど?」
「人の布団に勝手に入って来る奴が悪い」
「だって寒いんだもん」
「仕方ないだろ。暖房壊れたんだから」
「早く直してよ」
「無理だ」
「業者…」
「無理だ」
「むぅ」
「仕方ないだろ。正月なんだから」
「こた⋯」
「こたつで寝るのは風邪ひくぞ」
「どっちみち風邪引くよ。それとも直るまで毎晩一緒に寝る?」
「⋯⋯仕方ないな」
「その仕方ないはどっちの意味?こたつで寝るのを了承したという意味?それとも私と一緒に寝る方を了承したの?」
「言って聞くお前じゃないだろ。好きにしろ」
「ほほぅ⋯⋯」
「おわっ。足の裏くっつけんな。冷てぇだろ」
「風邪引きたくないからね。湯たんぽになってもらうよ」
「寧ろお前が湯たんぽなんじゃ」
「美幼女を湯たんぼにするとか、ロリコン冥利に尽きるね。全国のロリコンを敵に回す行為だ」
「自分で美幼女とか。つかロリコン自体が社会の敵だろ」
「よう、社会の敵」
「黙れ豚まん」
「豚じゃない。殺すよ?」
「だって⋯なぁ」
「お腹をぷにぷにするな!」
「ぷにぷに出来る時点で⋯」
「年相応だから。年相応の女の子の柔らかさだから。わからないかな」
「知るかよ」
「わかれよ。ロリコンの癖に」
「ロリコンじゃねぇし」
「血の繋がらないロリと同棲してるのはロリコンだろう」
「得体の知れないクソガキに寄生されてる被害者だ」
「同じ布団で寝て、ロリを後ろから抱きしめて、ロリのお腹を触ってるのは一発アウトじゃないかな」
「デブ猫触るのと同じだろ」
「デブじゃねぇし」
「デーブ」
「ロリコン」
「ロリコンじゃねぇし」
「スケコマシ」
「肉饅頭」
「性犯罪者」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふぅ〜〜〜」
「ひゃっ」
「くくく⋯っ」
「耳に息を吹きかけるのは性犯罪者だよ」
「嫌なら自分の布団で寝るんだな」
「それは嫌」
「……」
「……」
「……」
「……おい」
「何かな?」
「なんで向き変えた」
「別に困らないだろう?それとも恥ずかしくて顔を合わせられない?」
「そのドヤ顔やめろ」
「暗いのに見えるの?」
「見えなくてもわかる」
「本当に?本当に今私がどんな顔して君を見てるかわかってる?」
「……わかるわけないだろ。暗くて見えないからな」
「ふふっ。君は嘘吐きだね」
「うるせぇ」
「ねぇ」
「なんだよ」
「北海道楽しかったね」
「お前ひたすら食ってたな」
「君はひたすら飲んでたね」
「仕方ないだろ美味いんだから」
「仕方ないよね美味しいんだもん」
「冬眠前の熊みたいに食い溜めしてたなお前」
「君だって食べてたじゃないか。というかカウントダウン見たかったんだけど」
「まだ言ってんのかよ。混むの嫌なんだよ」
「見たかったな」
「…」
「見たかったなカウントダウン」
「カニ鍋にしてやったろ」
「あれって埋め合わせのつもりだったの?」
「……」
「カニ鍋突きながら紅白見るってさ、去年と一緒じゃない?」
「去年はカニ鍋じゃなかっただろ」
「人混みが嫌なんじゃなくて、家で紅白見たかったから帰って来たんだよね本当は」
「別に」
「紅白の司会、星野ルビーだったね」
「ああ」
「シスコン」
「うるせ」
「白組は姫川大輝だったね」
「ああ」
「かわいいところあるね君は」
「寝ぼけてんのか?」
「照れるなよ」
「はいはい」
「気に病む必要は無いよ」
「急になんだよ」
「見守ることに使命感を抱く必要は無い。少なくとも君に課せられた使命は果たした。あとは好きにすればいい」
は好きにすればいい」
「はっ」
「…」
「…」
「……」
「……」
「本当にそう思うか?」
「ん?」
「あんなにルビーを悲しませたのに」
「…」
「…温かいでしょう?」
「?」
「私の身体」
「ああ」
「君の身体も温かい」
「…ああ」
「君は今こうして生きている」
「……」
「天童寺さりなに雨宮吾郎を二度失う痛みを与えずに済んだ」
「星野ルビーに兄を永遠に喪失する苦しみも与えずに済んだ」
「少なくとも彼女が生きることを放棄するような絶望を与えなかった」
「最適解でなかったかもしれないけれど、悪手だったとも思わないよ。不器用なやり方だと呆れはしたけれど」
「ルビーの心を傷つけた」
「君が過保護にし過ぎた弊害だね。痛みから遠ざけてばかりいたから。それは君のせいでもある」
「ルビーの母親を辱める真似をした」
「君の母親でもあるだろ」
「あの子の大切な宝物を踏みにじる真似をしたんだ俺は」
「事実を晒すことを辱めるとは言わないよ」
「知らなくても良いことだってある。綺麗なままのアイがあの子の真実ならそのままでも良かったはずだ」
「事実を知って、それが宝物かガラクタなのか、真実を決めるのはあの子自身の問題だよ」
「…」
「何度も言うけど、君は過保護過ぎるよ」
「そんなことは……ないだろ」
「あるよ。けど、見ただろう彼女の輝きを」
「君が思うよりも星野ルビーは強い。君への怒りも、君がいない寂しさも、君と決別した痛みも、全部乗り越えて輝いてる。それはすべての痛みを感じないフリをして【嘘】で自分を誤魔化した星野アイよりもずっと力強い光だ」
「君が守った光だよ、アクア」
ツクヨミがアクアの頭を胸に抱き寄せる。
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、トクントクンと優しい鼓動が響いてくる。
小さな背中に腕を回すと、アクアは臉の重みに逆らわずにそっと瞳を閉じた。
胸に抱きしめた金紗を撫でながらツクヨミも目を閉じる。
「おやすみ、アクア」
「……おやすみ、ツクヨミ」
最初の夜が静かに静かに更けていく。
トクントクンと、2人の鼓動が、スゥスゥと、2人の寝息が、冷たく優しい夜の中に溶けていく。
ひとまずこれにておしまい