白梅に明くる夜ばかりとなりにけり   作:FOOO嘉

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バレンタインイベントはスルー


20◼︎⚫︎年2月25日

 

「あら、お兄さんいらっしゃい。いつもご贔屓にどうも」

「いえいえ、ここの魚が一番美味しいんで」

「ありがとう。嬉しいこと言ってくれちゃって。お兄さんいい男だから、これおまけしちゃうね」

 

馴染みの魚屋で、お目当ての鰤の切り身の他におまけで、小ぶりの鯵を二尾貰う。

味もさることながら、この店はサービスが良い。お世辞だと知っていてもいい男と褒められるのは悪い気はしない。

 

「お兄さん、あのドラマの主人公みたいでカッコいいわね」

 

精算を終えるとそんなことを言われた。

 

「鳴嶋メルトの?」

「そうそう。メルトくんのドラマ。お兄さんメルトくんに負けてないよう?」

「あははは、ありがとうございます」

 

お世辞以上に、他人の口から友人の活躍を耳にするのは不思議と嬉しく思う。

最も、そのドラマの脚本を書いたのは俺ですとも言えないので、笑って当たり障りの無い会話でやり過ごすのだが。

 

 

「ツーちゃん、こんにちは。今日もお兄ちゃんと一緒なのね」

「ホント、いつも可愛い〜髪の毛サラサラ〜頬っぺたぷにぷに〜」

 

青果店ではツクヨミが絶賛店員にちやほやされている最中だった。

店員さん、そいつの頬っぺた正月で更に肉付きが良くなってるだろ?

 

「えへへ、ありがとう〜」

 

 

誰だお前。

 

 

 

 

「君は少しは私に感謝すべきだと思うよ」

「いつにも増して偉そうだな」

「こうしてただで果物にありつけるのは私の人気あってのものだっていうことだよ。今果物高いのに」

 

おまけしてもらった林檎を摘みながら、恩着せがましいツクヨミの物言いを右から左へ聞き流す。

まずお前はわざわざリクエスト通りにうさぎ形に切ってやったことへの感謝をしろ。

 

 

『患者に寄り添ってこその医者でしょ!!』

 

 

メルトの憤りに満ちた声に、鍋にかけていた火を止める。

TVでは白衣に眼鏡姿の鳴嶋メルト扮する主人公の医師が年配の医師に盾突いている。

完治の見込みが薄い患者に対して終末期医療に切り替えることに納得が出来ない主人公が異議を唱えている場面、物語の佳境のシーンだ。

 

「おい、TV見てるなら飯と味噌汁つげ」

「もう、カミサマ使いが荒いなぁ」

 

しゃりしゃり口の中で林檎を咀嚼しながら炬燵からモゾモゾと抜け出す行儀の悪い神様(笑)。

食いながら喋るな。

筍と油揚げの煮物と今日おまけしてもらった鯵の唐揚げをテーブルに並べる。

 

「主人公にそっくりないい男としてはドラマの出来はどうだい?」

「メルトはよくやってるよ」

「君の脚本を演じるのに力不足じゃないかな彼は」

「役者の演技にケチ付けられるような脚本じゃねぇよ」

 

寧ろ、よくあんな脚本をここまでのドラマに仕立て上げたものだ。学業の片手間に書いた決して出来のいいとも言えない脚本なのに。

 

「ヒロインが不知火フリルとはなかなかお金かけてるねー作品の人気はある程度担保されてるんじゃないの?」

 

筍を頬張るツクヨミの謎の上から目線なコメントはともかく、まさかフリルが起用されるとは思わなかった。

というか、鏑木さんから声をかけられた時は細々とネットで配信されるドラマだと思っていたのに、まさかのゴールデン。

というか【『15年の嘘』の脚本が送る医療サスペンス】って何だ。俺は聞いてない。

そもそも、15年の嘘でメルトの演じた医者が人気出たのに気を良くした鏑木さんに押し切られる形で脚本家の真似事をしたのがいけなかった。

どうせ原形も残さず手直しされるだろうと、小遣い稼ぎで書いたのが運の尽き。創造性豊かでも無い癖に、パクリと思われるのも癪だからと妙なプライドに拘ってドラマや小説の医者を参考にはせず、前世の自分をモデルにしたら、鏑木さんに予想外の好感触だったのだ。

 

『うん、いいよアクアくん。おっと、今は違ったね。この主人公の医者、いいね。本当は優しい熱血漢なのに不器用で、無自覚に女にだらしないクズなのに悪意が無いから憎めない。めんどくさ…複雑な人間性がリアリティーをもって描かれているよ』

 

全く嬉しくなかった。

 

けれど、報酬が良かったので何も言えない。

人間札束で頬を叩かれると何も対抗できないし、美味いもので釣られると逆らう気は失せる。

 

純米大吟醸うめぇんだわ。

 

「このドラマって、主人公とヒロイン結ばれるの?」

「俺の脚本ではヒロインが病死して、主人公が刺されて終わる」

「振り返れば奴が…」

「ストップ。俺も書いてから思ったから」

 

今から一緒に、これから一緒に殴りに行きそうなオチだなとは思った。

 

毎週欠かさず聴いているルビーがMCを務めるネットラジオをつける。

 

『メルトくんのドラマ評判良いよね』

『おかげさまでな。って言っても周りに助けられてばっかりで、主人公なのに情けないけどな』

 

タイムリーなことにゲストはメルトのようだ。

ドラマがクライマックスを迎えつつあるからだろう。

 

『私も見てるけどさ、メルトくん的にはどうなの?もっとあの主人公色々抱えてるから、屈折した影があると思うんだけど』

『う…俺も正直それは思う。俺じゃちょっと軽くなっちゃうんだよな…』

『だよね!あの先生のキャラってさぁーー』

 

一歩間違えれば炎上しかねないコメントだが、ルビーの持ち前の天真爛漫なキャラと、すっかりイジられキャラが定着しているメルトの軽妙な掛け合いのおかげか、コメント欄は荒れている様子も無く、2人のやり取りを楽しんでいる様子で安心する。

 

これは、なかなかお似合いの2人かもしれない、そう思うと少し寂しくもあるが、ルビーとて立派な大人なのだと感慨深くなる。

 

それにしても、歌もダンスも、そしてトークもルビーは頑張っているようで何よりだ。

 

「顔」

「ん?」

「だらしなくなってる。緩みすぎ」

「うるさい」

 

仕方ないだろう、嬉しいんだから。

アイドルになるならトークも重要、そう言っていた言葉の通り全力でアイドル活動をしている姿を見られるだけで、十分過ぎるほどに幸福感を覚えてしまうのだから。

 

 

「……ま、君が幸せそうだから、私としてもいいけどね」

「なんだいきなり、気色悪い」

「今の無し。もっと苦労しろバカ」




バレンタインもこの2人はダラダラ飯食って駄弁ってました。
貰ったチョコは主にツッキーの胃袋に。顔がより丸くなりました。
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