白梅に明くる夜ばかりとなりにけり   作:FOOO嘉

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医学生の癖に飲んでばかり


20◼︎⚫︎年3月19日

 

暦の上では春とはいえ、斉藤家では炬燵がまだまだ活躍中。

温かな飲み物は手放せない。

私の注文通りのよく練られたココアを飲む。

文句を言いつつもこうやって作ってくれるのだからつくづく彼は優しい。

 

対面に座るアクアは、嫌々引き受けた脚本の報酬で得たお酒をおでんの出汁で割って飲んでいる。

実に美味しそうに飲むのだからこっちまで飲みたくなるのだけど、案外モラリストな彼は決してその杯を寄越してはくれない。

もっとも、以前寝落ちした隙に残っていた彼の飲みかけを一口飲んだだけでひっくり返ったのだから、大人しく引き下がるべきだろう。

人間の体は良くも悪くも口にしたものの影響を受けやすい。

 

アクアはよく酒を飲む。

今の名前はアクアじゃないけど。

元々医師である自覚があるのか疑わしくなるほど夜遊びと深酒が習慣付けられていたことはカラスの目から見ていたので知っている。

その結果引っ掛けた女の数も、それで巻き込まれたトラブルも見てきたので知っている。

 

私個人の思い入れ的にはゴローと呼びたくもあるけど、彼的には完全な過去のこととして処理されているようなので呼ぶと嫌な顔をする。

古傷を抉られるという程大袈裟なわけでもなく、大人になってから子供の頃の微妙なあだ名で呼ばれるような居心地の悪さだと本人は言っていた。

私にはピンと来る話でもなかったから、そんなものかと思う程度ではあるが、疫病神と今更彼に呼ばれたいのかと問われれば、似たリアクションになるのかもしれない。

 

大根を箸で切り分けて一口食べる。よく味が染みている。

 

「おい、お前の分はさっき食べたろ」

 

ケチケチしないでよ、どうせ隣からの貰い物だろう。

料理上手な隣人がいて良かった。

お隣のお姉さんは多分君の為に気合いを入れて作ったのだろうけど、そんなこと今更言わずともおそらく察してるんだろう。

その上で素知らぬふりをして好意の形として食べ物を貢がせてるのだからタチが悪い。

雨宮吾郎と星野アクアの経験の有効活用なのだろうか。

年下の男に骨抜きにされて料理に勤しむ隣人には同情を禁じ得ない。

おこぼれに与ってるから言える立場じゃないけど、引っ越して来た男が悪かったと諦めて欲しい。

 

アクアは「ったく、ホントに食い意地が張ってんだから」と文句を言いつつはんぺんを頬張ると、今度は冷やで飲み始める。

本当にお酒好きだね君は。

大手を振ってお酒を飲める歳になるのを待っていたのはわかるが、20歳になったばかりの若造の飲み方ではない。飲酒量ではなく趣味嗜好が。

しかし、何かから逃避するような飲み方ではない。

純粋にお酒を楽しむ飲み方をしているので、止めはしない。

人生を楽しんでいるようで何よりだ。

 

それに、決して口にはしないけど。

絶対に言うつもりはないけれど。

今のアクアはなんだか懐かしい。

雨宮吾郎の頃の彼に戻ったようで、私の心を甚く擽る。

天童寺さりなと死に別れてからの頭のネジが何本か取れてしまった彼ではなく、天童寺さりなと日々を過ごしていた頃のような、優しくて不器用で、面倒見がいい癖に捻くれ者な彼に。

命を跨いで尚贖罪じみた生を過ごしていた彼が、ようやくそれらを清算したと心が理解しているのかもしれない。

 

その結果、妹や自分を好いていてくれた子達のいる場所から遠ざかる選択を選んでしまったのは運命なのか因果なのか。

彼女達からすれば堪ったもんじゃないのだろうが、そんなこと私の知ったことじゃないし、私からすれば彼女達とてどうにか出来なくもなかったのに選択肢を放棄したり、ミスったり、果ては呑気に構えて逃したりしてるのだから仕方の無いことだろう。

せめてもの慰めに今度彼とご飯食べているところの自撮りでも送ってやろうかなと想像してみたりもする。神の慈悲として。

今更それを見て乗り込んで来るような馬鹿馬鹿しい真似はしないだろうが、せっかくの生活に余計な波風は立つのも億劫なので想像するだけに留めておく。

 

「有馬かな、最近大人びてきたとは思わない?」

「そりゃあ、アイツも21だからな」

「それだけかな。本当の意味で大人になったんじゃない?黒川あかねも色気が増してきているし。女が変わるのは男と相場が決まってるんだよ」

 

 

と、この前立ち読みした雑誌には書かれていた。

買おうとしたら店主に「お嬢ちゃんにはまだ早いよ」と少女マンガを勧められたので購入には至ってないが。不敬過ぎる。許し難い。勧められたマンガは面白かったけど。

 

「それならそれで安心だよ。アイツらが自分の進みたい道を歩けてるなら。きっとこれからも色々な出会いや別れを経験して、どんどん魅力的になっていくんだろうさ」

「自分から手酷く捨てておいて綺麗な思い出にしたがってる下衆男みたいな言いっぷりだね」

「人聞き悪いこと言うな別に捨ててねぇよ」

「でも進路も言わずに黙って家を出たんだよね?」

「ミヤコさん達には相談した。ルビーとは絶縁状態だったし、芸能界引退した俺の進路なんて有馬達からすれば知ったことじゃないだろ」

「君は情が深い割に相手の執着に無関心だね」

 

感情が重たい割に存外割り切りが良い。

 

「それに構ってほしくてチラ見するようなことしたくないからな。別れるならスッパリした方が後腐れ無いだろ」

「発想が女を捨てる側の男のものだよ。傲慢。非情。人でなし」

「バチクソに言うな」

「綺麗になっていく彼女達を後方腕組み理解者面して見守ってる感を出している癖に」

「言い方にいちいち棘がある」

 

未練タラタラに元カノ達のドラマを見て泣きながら自棄酒煽るよりは遥かに健全だし、私としてもそんな君の姿は面白くないからいいのだけど。

 

「そろそろ寝るか。お前もさっさと寝ろよ」

「もうそんな時間だね」

「言っておくが、布団に入ってくるなよ」

「寒くなかったらね」

「猫かよ。毛布あんだろ」

「毛布如きで凌げる寒さじゃないじゃないか」

「暖房付けてもいいって言ってるだろ」

「電気代が勿体無い」

 

電気代節約に協力してあげてるのだから感謝して欲しいくらいだ。

それに、私の体温で君が熟睡出来てることはわかってるんだよ?

 

「女と同衾するのは初めてじゃないでしょ?」

「お前を女と認定はしていない」

「じゃあ尚更問題無いんじゃないかな?」

 

 

結局、その夜も私はアクアの布団に潜り込んだ。

何度も潜り込む私もいけないかもしれないが、拒まない君も悪い。

そもそも私が潜り込んだ時点で気付いているのはわかってるんだよ?

気付いておいて追い出さない辺り、人肌恋しいんでしょ?

そういうところが可愛いんだからね君は。

 

 

「じゃあ、おやすみアクア」

「おやすみ、ツクヨミ」

 

 

春先なのに今夜もまた冷え込みそうだね。

 

困ったことに。

 




出演作品を欠かさずチェックする程に思い入れがあり、
キスシーンやらに凹まない程度に割り切ってます。
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