白梅に明くる夜ばかりとなりにけり   作:FOOO嘉

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丸くて柔らかい餅みたいな感触と申しており。


20◼︎⚫︎年5月5日

「18、19…」

「腕が震えてるよ。ほら、がんばりなよ」

「にじゅ、20……に…じゅう…じゅ…いち…ダメだぁ」

「あーあ、情けないぁ」

 

心が挫けると、既に感覚が無くなっていた腕は途端に容易く崩れ落ちた。

カーペットに落下した衝撃で、床と背中の重りに挟まれた背骨がバキバキと音を立てた。

背中の上に圧し掛かる柔らかい感触からは一向に退く気配が無い。

 

「運動不足じゃないの?前より腕立て伏せ出来てないよ~?」

 

わざとらしく伸ばされた語尾から感じる確かな嘲笑。

笑いを含んだ声は、こちらを煽る意思を少しも隠そうともしない。

喉の奥に含んだような笑い声に応じて背中の感触がゆさゆさと揺れる。

いい加減退いて欲しい。

 

「お勉強ばっかりして、もやし君になっちゃったのかな」

「いや、俺の筋力に変化は無い」

「あははは、負け惜しみだ」

「ただ、以前より重りの重量が変化していることが原因だな」

 

これがウェイトリフティングの競技であれば、すぐさまに競技の中止が言い渡される。

申告された重量より重たいバーベルが用意されているのだから、敵対チームもしくは運営側の不正が疑われるレベルだ。

 

「今までと同じだけの回数をこなす為には相当な筋力アップが求められるなこれは」

「そ、そんなに増えてないもん!!」

 

ぺしぺしと小さな手で頭を叩かれる。

珍しく狼狽えた声に、大福顔を更に膨らませていることが容易に想像ができる。

 

「そんなことは無いだろう。背中越しにもわかるぞお前」

「何がだよ。そんなに少女の体重に敏感なんて気持ち悪いよ君?」

「いや、重量が増してるのもだが、背中に感じる肉の感触がな…」

 

尻は流石にセクハラになるかと思い自重した。

以前背中に乗せた時は少し固さの残る子供らしい感触だったのに、今はむっちりしてる気がする。

桃ではなく肉まん的な…いや、子供の尻の感触に一家言あるみたいじゃないかこれでは。

 

「──── ッ!! ──── ッ!!!! ──── ッッッ!!!!」

「いてぇいてぇ、悪かったって。無言で叩くな」

 

 

 

 

「大体君は私への敬意というものに欠けるんだよ」

 

敬意って言葉知ってるかな?と煽るように不敵な笑みを浮かべているところ悪いが、口元にソフトクリーム付いてんぞ。

商店街をソフトクリーム片手に闊歩する姿はどこからどう見てもただの子どもにしか見えず、カミサマのカの字も見当たらない。

 

ソフトクリーム100グラムあたりのカロリーが222キロカロリーか…

 

バニラソフトを片手にご機嫌なツクヨミの笑顔を前にして、その指摘は野暮というものだ。

あと、丸くなっていくコイツを見てるのは面白い。

野良猫が飼い猫になった途端にどんどんデブ猫になっていくのを思い出す。

 

「それで、今日は何にするの?」

「昼食ったばかりなのにもう夕飯か?肥えるぞ、更に」

 

脛を蹴られた。

 

「昼はヘルシーメニューだったから問題ないだろう」

「お前肉が殆ど入ってないから低カロリーと思ってるんじゃないか?」

 

言っておくが、お前が上機嫌で食べてたカルボナーラはカロリー爆弾だからな。

そもそもベーコンは入っていたのだが、コイツの中ではベーコンは肉としてノーカンなのだろうか。

 

「今日は焼き魚と煮物かな。春菊のおひたしも残ってるしな」

「春菊か…」

「神様のくせに好き嫌いするな」

「焼き魚も少しテンションが上がらないね」

「ヘルシーで丁度いいだろう?」

「……君は私が太ったというけれどね、君の筋力の衰えの可能性をどうして考慮しない?見たくない現実から目を逸らすのは人の子らしいと言えばらしいけれど、聊か滑稽にして哀れだよ」

「めちゃ早口だな」

 

コイツ凄いな。ブーメランが刺さるどころか、刺さったままブーメランごと飛んでくる勢いだぞ。

 

「あらぁ、つーちゃんこんにちは」

「こんにちはです~」

 

誰?

 

「今日はお兄ちゃんとお買い物?良かったわね」

「えへへへ、うん、そうなの」

 

誰ぇ?

 

一作だけとはいえ銀幕デビューを果たした幼女(神様)の猫かぶりスキルは伊達ではない。

瞬く間に商店街のおばちゃん達にチヤホヤされていくツクヨミ。

ああ、晩飯前なのにまたお菓子貰ってら。

デブ猫、デブ犬がより丸々とするのって、きっとこういう理由なんだろうな。

 

「あれ?斉藤くん?」

 

目的の買い物をさっさと済ませてしまおうと思っていると、見知った顔に声をかけられた。

 

「あぁ、こんにちは」

「斉藤君この辺住んでるんだっけ。へぇ~夕飯の支度?自分でちゃんと自炊するなんて偉いね」

「金が無いだけだよ」

「そんなことないって。料理が出来るっていいな~」

 

同じ学部の女生徒は、腕が触れそうな距離まで近づいてくる。

有馬やあかねもそうだったが、距離感バグってるのか今どきの若い子は?

医学部行くお金を出してもらっただけでも申し訳無いのに私生活に係る諸々まで迷惑をかけるわけにはいかないから自炊してるだけなんだがな。

医学部だからというのもあるが、どうにも同じ学部の連中はボンボンやお嬢様が多い。

前世の時もそうだったんだが、そういった連中からすると俺は物珍しいのかもしれない。

そういや、やたらとご飯を奢りたがる子がいたが、餌付けでもしたいのか。

 

「お兄ちゃん、早く買い物行こ?」

 

なんか距離近ぇと思っていたところに、ツクヨミの登場。

正直めんどくさくなってたから、ナイスタイミングだ。

学友は会話に割り込まれたことを特に気にする様子もなく、現れたツクヨミに目を丸くしていた。

 

「この子、斉藤君の妹さん?」

「かの「従姉妹の子を預かってるんだよ」

 

このクソガキ、今絶対『彼女』って言おうとしただろ。

おい、俺にしか聞こえないように舌打ちするな。今後の俺の学校生活地獄になるだろう。

 

「へぇ~~可愛い~~お人形さんみた~~い」

 

外面(だけ)は良いツクヨミは、愛想良くしていれば確かに美少女と呼んで差し支えないだろう。

日本人離れした薄い色素の髪やふわふわとした睫毛とつぶらな瞳は、彼女の言うように人形のようだ。

 

「え~そんなことないよぉ~」

 

微かに頬を染めて首を振るツクヨミ。

芸が細かい。

お前絶対内心「当然でしょ?」とか思ってるだろ。

目が愉悦って言ってんぞ。

 

「ん?」

 

そこで、学友が不思議そうにツクヨミの顔を見つめた。

 

「なんか何処かで見たことがあるような気がする」

「そうか?」

「えっとね…そうそう、あのアイドルの人の映画」

 

15年の嘘の公開から2年目になる。

最近では話題になることは余り無いが、記憶が風化するにはまだ新しい映画だ。

出番は決して多いという程でもなかったが、ツクヨミの演じた役どころと、彼女の普通の子役には無い得体の知れなさはちょっとした評判にもなっていた。

それを覚えているのかもしれない。

 

「あの映画見たの?」

「うん。私は良く知らなかったけど、ママが大ファンでね。それに出てた子に似てるような」

「そうか?」

「うん。だってすっごく綺麗な子だったじゃん」

「人違いじゃないか?こいつはただのクソガキだぞ。おい、蹴るな蹴るな」

 

大事にならないようにしらを切ろうとしているのに、無言で脛を蹴るな。割と痛いんだぞ。

 

「え~そんなにあの映画の子みたいに綺麗~?」

「うん、貴女もとっても可愛いもの」

 

何で自分から振るかなぁ話題を。

これはちょっとした騒ぎになるだろうか、そうなったらさすがに面倒くさいなと辟易していると、彼女は首を傾げた。

 

「あ~でも、あの映画の子より、貴女の方がまんまるで可愛いね」

 

「ま゛」

 

ツクヨミの口からジャイアントロボみたいな声が出た。

すげぇ面白い。

 

「そうよね~あの映画の子ってちょっと不気味だったものね。ツーちゃんの方がころころしててずっと可愛いわよ」

 

話を聞いてたのか、青果店のおばちゃんがフォローになってないフォローをする。

 

「ツーちゃんの方がぷくぷくしてて癒されるわぁ」

 

花屋のお婆さんの追撃。

 

「本当だ。お肌すべすべのぷにぷに~~やぁ~ん可愛い」

 

遠慮なくツクヨミの頬を撫でる学友。

ツクヨミは抵抗など一切見せない。

というか、白目を剥いていた。

 

 

 

 

 

「まぁ、気にするなよ」

「うるさい」

 

夕食の支度をしながら、部屋の隅で体育座りをする大福あらためツクヨミを一応慰めてやる。

 

「まんまるでころころでプクプクのぷにぷにでもいいじゃないか。そういう猫とかかわいいだろ」

「それデブ猫みたいで可愛いって言ってるよね?」

「まぁな」

「消すよ?」

 

振り向かずに吐かれる毒にも心なしかいつもの切れ味が無い。

鼻声なあたり、多分声を立てずに泣いていたのだろう。

 

愉快。

 

すげぇ泣き顔見たかったのに残念だ。こいつの吠え面をいつか拝みたいと俺もルビーも思っていたが、善意の第三者によって容易くそれが達成されるとは世の中実にままならないものだ。

 

しかし、いつまでも部屋の隅にいられると邪魔で仕方ない。

 

やれやれ。

 

「おい、元気出せよ。今日はメニュー変更してお前の好きなドライカレーにしたんだから」

「……レーズンは?」

「入ってる」

「ピーマンじゃなくてパプリカにしてる?」

「彩り考えて赤にしたぞ」

 

顔は見えずとも、機嫌が上向いているのが空気で伝わってくる。

 

「あと、デザートも冷やしてある。牛乳に蜂蜜と練乳加えたやつ」

「やれやれ。そこまでご機嫌取りされたら仕方が無いね」

 

 

ちょっろ。

 




・斉藤███
斉藤夫妻の養子になったアクア。
新しい名前███には本人含めてまだ馴染んでない。
15年の嘘やら芸能活動で得たお金で医学部に入ろうとしたが、ミヤコさんが意地でもお金を出すと言って聞かなかったので折れた。主に壱護社長の預金残高や給与がゴッソリ減った。

・斉藤ミヤコ
アクアにとってはきっと良いことなのだろうと一人暮らし&芸能界引退を快諾。
でも、女性関係だけは釘を刺す。まだお婆ちゃんになりたくないから。

・医学部の女生徒達
賢くてイケメンで落ち着きがあって気配り上手な斉藤君が好き。
親の金で好き放題してる同級生の男共が猿にしか見えてない。
お金なら自分の家に十分あるので養うこともやぶさかではないとか。

・お隣さん
去年引っ越してきた医大生の男の子に落とされたもうすぐアラサーのお姉様。
料理上手なのか、作り過ぎたと言っては手料理を差し入れしてくれる優しいお姉さん(下心有り)
すまんな、その手料理半分はツクヨミの腹の中に収まるんだわ。
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