シャーレ警備員は相談役……? 作:絆ストーリーを増やし隊
不穏な事を終わらせたら今度は真面目に仕事をするとしよう。
俺は警備隊長、一人しか居ない警備部の警備隊長なのだ。
ただの警備と侮るなかれ、ここは治安世紀末キヴォトスである。
石ころを投げつける感覚で手榴弾が投げ込まれる狂気の町だ。
自動操縦にしていた警備ドローンから緊急アラートが無いことを再確認してリアルタイム映像データを閲覧する。
あ、チンピラがドローンに手を振っている。
なんか言ってるな? 音声は……
「おーい、警備のおっさん! 先生はいるかー?」
人気者だな、先生。
スピーカーをオンにしてっ、と。
『悪いな、先生は仕事中だ』
「そっか! わりいな! 先生に会ったらこの前万引きの濡れ衣晴らしてくれてありがとなってよろしく言っておいてくれ!」
『分かった』
チンピラ達が談笑しながら歩き去ってくる。
シャーレの先生が来てからここら周辺一気に治安良くなりすぎだろ。
まぁ配属一週間ぐらい毎日寝る間も惜しんで周囲の生徒達に会いに行っていた実績が実を結んだと言うべきか……
変化が速すぎてついてけねぇぜ。
さて、何故にこんなことに成っているのか説明しよう。
俺の本来の所属は悪名高き『カイザーコーポレーション』。そこで一般的な警備隊長をやっていたのだが、ある日連邦生徒会長が失踪しキヴォトスは大混乱、これを見逃す『カイザーコーポレーション』ではなく、この機に一気に勢力を強めようとした、そんな時にどこからともなく現れたのが“先生”という存在、そして“連邦捜査部S.C.H.A.L.E”だった。
この二つの存在は僅か数日でキヴォトスの治安を完全とまではいかないまでも復旧、残った大小さまざまな問題を解決していった。
俺がこんなところで警備隊長をさせられている理由は、初日に『S.C.H.A.L.E襲撃』という事件があったのだがその時に不明な施設の潜入捜査という理由からS.C.H.A.L.Eの建物周辺に居て、なし崩し的に暴動の鎮圧に協力し、傭兵だって嘘を吐いたところ“先生”からのご指名で警備部にスカウトされた。上に確認を取ったところ「都合良いしそのままスパイしろ」と無茶ぶりされて今に至る。
で、今やっているスパイ活動というのが以下の通り
・“先生”に対する身辺調査
・“連邦捜査部S.C.H.A.L.E”の隠された秘密(そんなのあるのか知らんが)の解明
・“先生”と生徒との関係構築の妨害(なお露骨にやり過ぎるとスパイだとバレてクビにされ、カイザーの方からもペナルティが飛んでくる可能性がある)
となっている。
当然ここに含まれないS.C.H.A.L.Eの警備や事務仕事もやっているのでかなり忙しい。何ならS.C.H.A.L.Eの情報は持ち出せないので先ほどやったように逐一目を盗んでセキュリティをいったん殺してからやる必要があるという……それも出来て数秒、それ以上はごまかしがきかない。その数秒の間に送信が完了する必要があるので長文や画像などは送れないという……
まぁ、いいんだよこんなことは。給料二重取りみたいになってるからお金に余裕あるし、いざと成ったら逃げればいい。逃げれば良いんだよ……っ!
さて仕事仕事……先生は、あれ? 居ない?? さっきまでデスクで作業していたのに
疑問に思い映像データを巻き戻そうとしていたその時、無線による通信が入る。
この無線は“当番”である生徒もしくは先生しか持っていない。つまりは先生からなのだが……
「はい、こちらシャーレ警備部」
“ごめん! 今から急いでゲヘナに行きたいんだけど!! ”
「何かありました?」
そう聞き返しながら遠隔操作で直ぐに動ける乗り物の用意をする。
ヘリは無理だな、車……いや、バイクの方が良さそうか。ドローンで自動操縦などのセットアップしておくか。
“うんちょっと生徒からモモトークがあって”
“緊急みたいだから向かいたいんだ”
「了解です、今丁度表に自動操縦バイクを回したところです。行先は音声入力してください」
“流石! アビドスの時にこれがあれば……! ”
「いやこれむしろそのアビドスでの遭難の一件があったから実装出来た設備なんで……」
“そうだよね……”
“色々譲ってくれたユウカには感謝しないとね”
「血相変えてましたからね、先生が遭難したって聞いた時」
あの時は死ぬかと思った。このメタリックボディがみしみし音立ててたもんな。あれ以来真面目にS.C.H.A.L.Eの仕事もしようと思ったんだよなぁ……
えーっと? 今が大体この時間で……向こうに付く予想時間が……ん──ー
「時間的に一々戻ってきたらアビドスへの視察予定時間に間に合わなそうなのでそのまま向かってください」
“わかった”
“もし、ユウカが来るまでに間に合わなかったら……”
「大丈夫、うまくやっときます」
“ごめんね……”
監視カメラで先生がバイクに乗り込んだのを確認、門を開ける。
颯爽とバイクで駆けていく先生を見送って再び門を閉じた。
「……さて、仕事しますか」
勿論、シャーレの仕事の方をだが。
先生の仕事は異常に多い。どれくらい多いかというと真面にやっていたら定時には上がれないくらいだ。
その上で先生としての業務が間に挟まり、さらに時間を浪費する。
この仕事量は正直何者かの思惑を感じるが……俺にはさっぱりである。
このままだと先生は余裕で過労死、再びキヴォトスに混沌が訪れるのだと予想は付くのだが……
「現状先生に死なれたら俺の命すら危ういんだよな」
原因が俺の職務怠慢だったりすると警備部は何やってんだ! と生徒たちに報復を喰らいかねない。
そうなった場合『カイザーコーポレーション』は絶対に護ってくれないだろう。賭けても良い。
利用価値が無ければ切り捨てられる。
なので交渉材料が必要だ。
少なくともこのシャーレのどこかに古代の遺産? 的なものがあるのが分かっている。その情報を多く得ることが出来れば……それを手土産に『カイザーコーポレーション』は情報と引き換えに護ってくれるだろう。
それまでは先生の安全を優先するべきだ、というのが俺の優秀なCPUの出した結論である。
という事で先生の仕事の一部、誰にでもできる計算等の書類を持ってきて処理していく。
何で漢数字しか使っちゃダメなんだよ……いいじゃんアラビア数字で! ていうかアラビア数字って言い方すらここに来て初めて知ったぞ俺は!
監視カメラのチェック、ドローンなどのシステムチェックをしながら先生の仕事である書類を捌いていく。
…………
………………
……………………終わる気しねェ!!
正気の沙汰じゃねぇ! 何で俺はこんな仕事塗れにされてんだ!!
でも……カイザーよりはマシか??
いやしかし……
自覚できる程に疲れが溜まってきたその時、監視カメラの映像に誰かが来ている映像が映し出されていた。
もうそんな時間か。
時計を見る。
ぴったし14時だ。
同時に呼び出し音。自動的に音声もオンに。
「すみません! 今日の当番の早瀬ユウカです」
先生は……やっぱ間に合わなかったか。
「確認した、今門を開ける。中に入って上がって来てくれ」
「はい!」
門を操作し、ロックを解除。
俺自身も立ち上がって早瀬ユウカを迎えに行くことにした。
本来居る筈の先生が居ない事情を説明しないといけないからだ。
やんなるね。
シャーレオフィスまで登ってきた一人の女生徒を出迎える。
黒色で艶のある物質型ヘイローに
理知的と思わせるすんとすました表情の中に、隠しきれない柔らかさと幼さの残る青色の瞳を輝かせていた。
足元に目線を移せば
うおふっと……
彼女こそが本日当番である早瀬ユウカである。
「あれ? 警備員さんじゃないですか」
自分が機械で良かったと思う。もし目線がバレていたのならここに俺だったものが散らばっていた事だろう。
「……先生はどこに?」
すました表情はどこへやら、眉を顰めて心配そうな表情で周囲を伺う早瀬ユウカ。
「先生は予定していた視察が長引きまだ戻っていない。申し訳無いがこの資料の山を手伝ってくれ、先生が戻ってきても終わる気しないんだ」
「はぁ……
「そうらしい。詳しいことは帰ってきてから本人に聞いてくれ」
「……いえ、お忙しいのにそんなことは出来ません。こっちの書類貰っていきますね」
「あぁ」
明らかに落胆した声色、当然だ。当番の一番の利点である先生と長時間一緒に居れるというのが潰されているのだから。
普段の学校での活動が忙しい生徒ほどそう感じる。
この早瀬ユウカはキヴォトスの誇る三大学園の一つ、『ミレニアム』の生徒会的立ち位置である『セミナー』の会計をしている。
故に権力は大きく、先ほど先生が乗っていったバイクを格安で手に入れられたのも彼女の伝で紹介されたミレニアムの誇る最強技術者集団『エンジニア部』の力あってこそ。
そこらの学生の忙しさの非ではない筈、その時間をなんとか捻出しこちらに来てくれているのだ。
その気持ちは押して図るべきだろう。
しかしまぁ……
「先生も悪いとは思ってるだろうしなぁ」
でなければ朝やここを出る際あのような事は言わないだろう。
続きをしようと気合いをいれる。
「あの、警備員さん」
「お、ふぅ……なんだ?」
変な声出してしまった。
いや、タイミングが悪いわ。
抗議しようと振り返ると早瀬ユウカは神妙な顔で既に終わらせた書類を横に退かしていた。
……えっ、早すぎない?
「少し、相談に乗ってほしいことがありまして……その、先生の事で」
「か、構わないが」
あ、やっべ呆気にとられて普通に了承してしまった。
【case2 『“セミナー”早瀬ユウカ』:私の存在】
「あの、正直に言ってほしいんですが……先生から私の事について何か聞いていませんか?」
「なにか、とは」
「あの、その……」
どんどんしおらしくなっていく早瀬ユウカ。
何だ? 何を聞きたい? 何を聞き出そうとしている?
最近の早瀬ユウカと先生の会話を思い出す。多分そこに鍵がある筈……
わからん、一先ずは正直に話して様子を見るか。
「頼りにしてる大切な生徒とは聞いているが」
「本当ですか!? ……じゃなくて、その……口うるさい、とか……」
あー、成る程。
これはあれか、先生が早瀬ユウカに対して陰口を言っていなかったかどうか気にしているのか。
その原因は……前の領収書の件かな?
先生がアホみたいに散財して早瀬ユウカが怒ってたやつ。
確か『クラブふわりん』とか何とかの領収書とかでも結構過敏に反応していたな。結局は早瀬ユウカが危惧していた『大人のお店』ではなくそう言う名前のソシャゲの課金だったんだが。
えっ、あれはどう考えても先生の落ち度でしょ。変形ロボに食費削ってまで10万溶かすのは正気ではない。
……一応の確認だけとるか。
「クラブふわりん」
「ぐっ……!」
目をぎゅっと閉じてうつむいてしまう早瀬ユウカ。
何だこの子分かりやすすぎる!
もっと隠す努力をしろ! 一単語だけで情報だだ漏れじゃないか!
……学生だから仕方ないか、むしろ可愛げと取るべきだろう。
全く動揺しない子供もそれはそれで嫌だしな。
全ての子供は純粋であれ、なんて言うつもりはないが少なくとも進んで大人の汚泥にまみれに行く必要もない。
大人の事情は大人だけで解決するべきであり子供を巻き込むべきではないのだ……本来ならば。
……今自らがやっていることを棚にあげているのを自覚はしている。地獄に行くのは承知の上だ。
無いでしょ。自己責任である。この
「この前弾薬費の件でこちらに来た時の一件だな。詳しい話は知らないが」
嘘である、監視カメラでずっと見てました。
「そ、そうです。ちょっとあの時言いすぎたかなって思いまして……先生は優しいから何も仰りませんが、大人の人相手に言いすぎたかなって……」
みるみる萎んでいく早瀬ユウカ。
ふ、む……どう返答するべきか。
正直、“そうだ、言いすぎだ。先生は傷付いてる”とか言うのは簡単だ。先生とミレニアムに亀裂を入れれる
しかし、だ。この事が先生にバレると───いや高確率でバレるだろう、あの人は生徒の変化に非常に敏感だ───適当なこと言った俺が処される。間違いない。
じゃあ俺がするべき事は……
「そんなことはない、早瀬ユウカ。信じれないかもしれないが、先生は君の事で愚痴を一切言ったことがない。むしろ感謝しているとのことだ」
「……ホント、ですか?」
「あぁ、だが本人には言わないでくれよ。俺が言ったとバレたら機密を漏らした罰として何を奢らされるかわかったもんじゃ無いからな」
いい感じによいしょして! 生徒を傷付けず!
「そうだな、むしろもっと見てやってくれ。短い付き合いだがあの先生は自制心が少し低い。君のようなしっかり者が傍で見てあげる必要がある」
むしろ悪化させ! 先生に更なる負担を掛けて!
「俺は所詮同僚に過ぎない、最も近しい君にしか出来ないことだ」
「最も、近しい……私にしか……」
合法的に!! 俺に一切の責を負わないようにした上で!!
「あぁ、よろしく頼んだよ、早瀬ユウカ君」
「……しょ、しょーがないですねぇ!! 私にしか出来ないと言うのなら仕方ありません! これから私が責任を持って先生を管理していきます!」
「その調子だ」
人生の墓場送りにしてやる!!!
じゃなかった、先生としての立場を崩壊させてやるぜ!!
「私だけ……私だけが……えへへ」
早瀬ユウカの蒼の瞳に一点紅く煌めく瞳孔に、暗い火が一瞬だけ灯ったような気がした。
いい感じだ。今は火種程度で良い、時間はある。
離反工作も良いがこちらの方向性も良い。
どちらにせよ先生が生徒の統制を取れなくすれば勝ちなのだから。
【case2『“セミナー”早瀬ユウカ』終】
「そろそろ先生も帰ってくるだろう。俺は先に自分の部屋に戻るとする」
現在15時過ぎ、あの先生ならばこれ以上の遅刻は自らが許すまい。
「あっ! すみません職務外の事まで相談してしまって!」
「構わない。何かあればまた相談してきてくれ、他ならぬ先生の事を先生自身に相談するわけにはいかないだろうからな」
「ありがとうございます」
先生への相談を俺に来るようにすればコントロールも容易からな。
……気の良い人と子供を騙すのは心が疲れる。
逃げるようにしてその場を離れ、本来居るべき場所である警備員室に戻ってきた。
一息吐いてからバイクのGPSを確認する。予想通り、あと数分もしない内に戻ってこれる位置を走っている。
無線通信をオンに。
「あー、こちらシャーレ警備部」
“あっ! 聞こえてるよ! ”
焦っている先生の声が無線越しに響く。
安否確認が終わったから正直に無線を切っても良いのだが……早瀬ユウカを利用している手前もある、自らの罪悪感の処理の為一言付け加えておこう。
「無事でなりよりです先生。もう早瀬ユウカは到着しています。現在一人であなたの仕事を処理してくれているので、到着次第労ってやってください」
“勿論! ”
「具体的には仕事終わりにカフェにでも連れてくかディナーでも誘って日頃の感謝を伝えると良いかと」
“随分具体的なアドバイスだね!? ”
「それくらいしてあげてくださいよ」
“やらないとはいってないよ! ”
“ユウカの都合が大丈夫なら! ”
「ではその予定で……どうせその後も仕事があるんでしょう? シャーレの警備は任せてください。後はお二人の時間をごゆっくり」
“なんか含みがある気がするけど……”
“ほんとうにありがとう! ”
返事はせず通信を切る。
さて、さっさと今度こそ自分の仕事を終わらせようか。