シャーレ警備員は相談役……? 作:絆ストーリーを増やし隊
はい死んだ!!
いやもう死ぬ!! これ死ぬって!!
怖い怖い怖い!!!
ああ──困ります!! 困りますお客様!! こちら居住区となっております!!!
クソがなめてんじゃねぇぞ!!! どうせどっかの企業だろ!!! ぶっ飛ばしてやるっ!!
………………
…………
……
よし!!!!!
本日の襲撃対処完了!!!!!
はい、何が起きてたかと申しますと、何者かがね、このシャーレにハッキングをですね、仕掛けていたんですねぇ。
見逃してやっても良かったんですが……警備部の沽券にかかわるのでしっかりとね、撃退をさせていただきました。
……まぁ、ガンスルーした場合でも結果は変わらなかったかな。このシャーレ、深層までハッキングしようとすると謎の力(爆笑)(恐怖)(発狂)に一瞬でファイアーウォールごと電子機器を吹き飛ばされるんですね。一度見たことがあるがマジで意味わからん。“くしゅん”って音と共に相手さん沈黙しやがるんだ。その後先生に“ハッキング対処ありがとう”って言われたんだけど……なにそれ、知らん……こわ……
今のハッキングが『カイザーコーポーレーション』のものだったとしてもね、そんなわけのわからん防衛機構に高価な電子機器を焼かれるのを防いだこれは功績ともいえるだろう。
ていうか俺如きに防がれるハッキングじゃ意味ないよ。何も抜けねぇから。
さぁて、今日も仕事仕事!
こういう突発的襲撃の対応も仕事だけど日常的な業務もしっかりあるんだなこれが!!
でもこういう時に限って仕事はさらに降りかかってくるわけで……
「おーい、警備員さーん?」
どこかで聞いたような間延びした声。
反射的にスピーカーをオンにし……直ぐにオフにする。
声の主はモニターの先に居るのではなく、俺の真後ろ……警備員室の扉を挟んだ向こう側に居た。
さてと、彼女は今本日の当番で先生の手伝いをしており、こんなところにはいない筈だが……
「あれぇおかしいなぁ?」
監視カメラを警備員室前に切り替える。
映し出されたのはピンク色の髪に大きなアホ毛、気だるげな黄と青のオッドアイと八重歯が特徴的な小さな小さな少女。肩からベルトで吊り下げられたSGと不釣り合いなくらい大きな携帯シールドがしっかりとした存在感を示している。
間違いない。『アビドス』に所属している“元副生徒会長”にして“対策委員会委員長”である小鳥遊ホシノだ!
聞き間違えではなかったか……
マジか……マジかぁ……よりにもよってこの子か……
とりあえず、居留守がバレると不味いので返事だけはしておく。
「こちら警備部、何か用か」
「あ、やっぱり居たんだね~」
怖い怖い!!
いや、さっきのハッキングの比じゃないくらい怖い!!
畜生! 『カイザーコーポレーション』のスパイであることがバレたら確実に殺される……
ただでさえアビドスの生徒たちにはぶっ飛ばされても文句言えないくらいに色々やったからな! カイザー!! 借金でがんじがらめにしたり、土地を手に入れる為に生徒誘拐させたり……借金を盾にこの小鳥遊ホシノの身柄を抑えることに協力したりもしたらしい! それも半ば騙すような形で!
俺が直接かかわった事じゃないが……まぁ、そこからの奴が助けてくれた先生の近くでスパイ活動してたら潰しに来るよね。
よし、絶望したら冷静になったぞ。
「扉越しですまないが、要件はなんだ」
「んー? なにか警戒してる? 何かしちゃったかなぁ?」
「仕事柄最低限の警戒をしないといけなくてな、つい先ほどサイバー攻撃があったばかりなんだ。君が小鳥遊ホシノであるかの確認を取っていたのもある」
「うへ、間が悪いときに来ちゃったかな」
「構わない、して要件は」
俺を怪しんで来た……と言う感じでは無さそうだな。
ならば良し! ボロが出ない様に振る舞えば問題なし!!
「えっと……ちょっと直接会って話したいんだけどぉ……」
「…………」
あ、この流れは……
「先生に関して、か?」
「うへ」
図星らしい。目が⁅><⁆ってなってる。
全く先生はモテモテだなぁ。
ともあれそう言う事ならこちらに否は無い。扉のロックを解除する。
「どうも~」
それを合図と受け取った小鳥遊ホシノが警備員室へ入ってくる。
「ようこそ、警備員室へ……と言っても面白いものは何も無いし、不用意に何かを触る様ならたたき出すのでそのつもりで」
脅しはかける、出来るかどうかは置いておいて。
「そんなことしないよ~信用無いなぁ」
「なら良い。で、相談か、聞きたいことがあるのだろう。先生について……安心しろ、この場所の会話が外に漏れる事は無い」
本来の任務の都合上、最初期の時間はその為に全力を尽くした感はある。
「すごいねぇ……じゃあ遠慮なく~」
【case3『“対策委員会”小鳥遊ホシノ』:先生と生徒】
ずっと立っているというのも何なので椅子を取り出して座らせてあげる。俺がスパイだという証拠になるものはもうないので安心して相談を受けることが出来る。
「先生ってさ、誰にでもあんな感じなのかな?」
「というと」
「ほら、誰にでも優しいじゃん? 昨日アビドスに来た時も……何というかすごく距離が近くって、おじさんびっくりしちゃった」
ふむ、おそらく昨日俺が先生をそそのかしたお昼寝の話をしているのだと思われる。
「優しい、というのはそうだな。多くの生徒の為あれほどまでに身を粉にして走り回る人物だ……しかし、距離が近いというのはどういう事だろうか」
「えぇ! あ~……て、手つないだり?」
「俺が認識している限りではそのような事をしていた記録は無い」
「そうなの!?」
やったのか、先生……マジでやったのか……いや、そこまでが計画通りだから俺がドン引き噛ますのはおかしい。
「え、えぇ……じゃ、じゃああれって……みんなにやってることじゃなくて……」
小鳥遊ホシノがどんどん加熱されて赤くなっている。
思った以上に小鳥遊ホシノからの好感度が高いな??
アビドスで何があったのか……
これは情報収集を怠ったのが敗因か、次大きな事件があれば無理にでも同行するべきだな。
「とりあえず先生をヴァルキューレ公安局に通報しとくか」
「やめてあげて!!?」
「ロボットジョークだ」
「警備員さん機械だから分かりにくいよ! びっくりしちゃった」
そんなことしてまかり違って先生が逮捕されてしまったら俺も犯罪示唆的な容疑で捕まっちゃう。
「聞きたいのは以上か?」
そうだったら簡単な相談だったで済むんだけど……
「あ、ちょっと待って、警備員さんは先生と結構話すんだよね?」
「それなりに、業務の関係もあるしこのシャーレ正社員? のような人員が俺と先生だけだからな。ちょくちょく飲みに行ったりもしている」
「警備員さんお酒飲めるの……?」
「なんか飲めた。他のオートマタ連中は飲み食いできないらしいな」
「警備員さんも結構謎だよねぇ」
確かに、カイザーの方の同僚とは全然話が合わなかったんだよなぁ。あいつらホントにCPUついてんのか?
「俺の事は良い。先生の事だ」
「ありゃ、脱線しちゃってたや……そう良く話す仲なら、先生と仲の良い生徒って誰か知ってるかなぁって」
「…………」
死ぬほど答えづらい質問来たな。
正直に答える事は簡単だ、今頭に浮かんだ十何名かの名前を上げるだけ……多いな。
ただそうなった場合、目の前の少女が大いに曇る事は想像に難くない。
では“君が一番仲が良さそうだ”と耳障りの良い事を囁くか?
「……んー?」
無理だ、あからさまな嘘はバレる。そんな予感がある。
「そりゃあ話には聞く、酒の席なら口も回るからな」
「あーやっぱり……それって─────」
「その中には君の話もあった、後輩達の為にいつも考えていて、優しくて素敵な女の子だって言っていたよ」
「……うへ」
「口を滑らした、内緒にしておいてくれ」
よし、この質問は流せた。素敵な女の子云々も先生が実際に言っていた事実しか言ってないから問題は無い。
他にも色々言っていたけどそっちを聞かせると赤く成るで済まなさそうなのでカット。
あの先生、酒入るとダメだわ。
延々と生徒の事褒め続けるんだ……
俺の記憶容量が生徒の個人情報で埋め尽くされてしまって、今では特徴を聞くだけでも特定できるくらいには結構詳しくなってしまった。
とりあえず小鳥遊ホシノは先生周辺の交友関係を探ろうとしているのは分かった。
「で、先生の周辺を探ってどうするつもりなんだ?」
少しだけ語彙を強めて聞く。
体をくねくねしだした小鳥遊ホシノが動きを止めて、未だに赤らめた頬を保ったままようやく話してくれる。
「……うん、私このまま先生に甘え続けても良いのかなって思ってさ」
「…………」
「先生は甘えさせてくれる、私達アビドスのみんなが心のどこかで思っていて、諦めていたことを実現させてくれる」
小鳥遊ホシノは少しずつ、少しずつ言葉を溢していく。
「私が捕まっていたあの時も、あの後も……先生は夢のような奇跡をくれた。他にも私たちと同じように困っている生徒が居るのなら、先生にはそっちに行って貰った方が良いのかなぁって、さ……」
それは俺の知らない、彼女達と先生が紡いだ絆の始まり。
彼女達だけの物語。
「それに、もう……これ以上は、頼れないなって……」
成程、引け目か……
これは……先生には解決できない問題だ、正確には時間と共にこの子自身が折り合いをつけていく問題だ。
さて、難しいぞ。
“伝えるべき”か“突き堕とす”か
放置はありえない。俺に相談しに来ているという利点を手放すべきではない。
伝える事を選んだのなら、この少女がどう選んだとしても悪化するのとはないだろう。
そう難しくもない。ただ単純な事実をそのまま伝えるだけ、小鳥遊ホシノも本当は気付いていることを明確な言葉にし、確信させるだけ。
その後の事は先生が上手くやるだろう。なげやりに聞こえるかもしれないがそれが一番上手く行く。小鳥遊ホシノの不安を確実に終わらせることが出来る。
突き堕とす、を選んだのならアビドスは、特に小鳥遊ホシノは先生との関わりを減らしていくだろう。
そうなれば俺の当初の目的である“先生と生徒の関係構築の妨害”に成功した、と言えるだろう。
さて、さて、さて、さて
「小鳥遊ホシノ」
「なに?」
「君は……」
あぁ、駄目だ。勝手に声が言葉を紡いでしまう。
頭では考えているつもりなのに、それが意味をなさない。
「先生を嘗めすぎだ」
「……」
「子供に頼られて迷惑に思う大人がこのキヴォトスで“先生”なんてやるものか」
そう、これが答え。
誰もが信じられなくてもそれが真実。
頭がふわふわする、いらんことまで喋ってしまいそうだ。
「良いことを教えてやろう」
「良いこと?」
「俺が見るに……先生は生徒限定の超ドMだぞ」
「どえむ? ……っ!?」
「君らが迷惑を掛けてやれば掛けてやるほど大喜びしてくれるだろうさ」
うぶだなぁ、あわてふためいてるよ。
「だから安心して迷惑を掛けまくってやれ、むしろご褒美だから」
「い、いやいやいや! おかしいって!」
「真実だ、受け入れろ」
「こんなのが真実だとしたら余計受け入れがたいなぁ!」
「だから、小鳥遊ホシノ」
モニターを操作し、休憩中の先生を映し出す。
どうやら仮眠中のようだ。アイマスクを付けて、じっと休んでいる。だが見える口元は幸せそうに緩んでおり、時折何事かを呟いているように見える。
「ほら、見ろ。あれが迷惑を掛けられて疲れはてている男の顔か? 違うだろ、大切な存在を見守ることが出来て満足なやつの顔だ。だから……先生にはいくらでも甘えなさい。と、ここまで言っても中々納得出来ないだろう?」
「……」
「その分何かを返してやって行けば良い。というか人間関係なんてそんなもんだ」
持ちつ持たれつ、借りて返して。
そうやって繋がりを維持していくんだ。
ていうかむしろ甘えるのなんて子供の特権だぞ。
今やらないでいつやるんだって言うくらいのな!
「ううん、分かったような、分からないような……」
「頑固だな……」
「性分なのかなぁ?」
「じっくりやっていけば良いさ。ほらもう行け、休憩が終わる時間だろ」
小鳥遊ホシノが時計を見る。
もうかなり話し込んでいる。それにこの相談は明確な答えが直ぐに出る類いのものではない。
小鳥遊ホシノ自身の納得が必要だからだ。
今、小鳥遊ホシノの頭の中はぐちゃぐちゃにかき回されているのだろう。今までの先生の行動、言葉にホシノ自身の主観で組上がった“先生像”というものが今、俺の言葉で掻き回され、再構築されていっている。
だが完成するにはまだ足りない、大事な大事な最後のピースが足りていない筈だ。
その最後のピースを埋めるのは……
「うん、行ってくる。そんでもって話してみるよ」
「そうしろ、しばらくの間先生の執務室のカメラ録画は切っといてやる」
「ありがとう、警備員さん」
【case3『小鳥遊ホシノ』終】
小鳥遊ホシノが警備員室から出ていき、どっと疲れが押し寄せてくる。
うぉぉ……緊張した……
もう仕事終わりで良いんじゃない?
結構な大仕事したよ俺。
ていうか……マジでどの口案件なんだよなぁ
切り替えよう。
ソラちゃんのおでこ見に行こう。
その後は先生に届いた懇願書の危険物チェックしてー、無人機系統のメンテナンスしてー
やることいっぱいでお目目ぐるぐるだぜ!!