シャーレ警備員は相談役……? 作:絆ストーリーを増やし隊
現在、キヴォトス上空を、飛行中……
えー、あそこに見えますのが万魔殿、万魔殿でございます。ゲヘナ学園の生徒会の本拠地です。
なにか仕事をやってるとかの話はとんと聞きませんがあそこがこの混沌極めるゲヘナの本拠地ございます。
更にあそこ、見てくださいあのこちらにロケットランチャーを向けている少女たちの姿を!
あれが打ち込まれればこのシャーレの備品であるヘリコプターは木っ端みじんとまではいかなくとも飛行不可能状態に追い込まれるでしょう。
させるか!! 喰らえ!! 暴徒鎮圧ネットキャノン!!
照準を定め、スイッチを押す。同時に正確な軌道でロケラン担いだ少女たちに迫り、爆発、ねちゃねちゃしているネットが散布される。
黄色い悲鳴が上がっているのだろうがはるか上空を飛んでいる俺の耳には届かない。
“うわぁ、大丈夫かなあの子達”
背後の客席に座る先生がその惨状を見て心配している
「なんのためにクッソ高い費用捻出して非殺傷武装に変更していると思ってるんですか、無事も無事ですよ。例えロケランが誤爆してもあいつらはいてぇ! で済みますが、貴方はそうでないでしょう」
“そうなんだけど……”
「ですからね、これくらいは納得してください」
“ごめんね……”
「構いません。むしろその感覚は大事にしてください。あなたにしか持てないモノです。……もうすぐ到着しますから、準備の程をお願いします」
“うん”
ヘリコプターを操作し、着陸の準備を始める。
遠くの方にヘリポートが見える。
さて、何故俺がシャーレを離れてこんな場所、ゲヘナの管理区までヘリを飛ばしているのか、その理由は……普通にこれも業務の一つだからである。
シャーレ警備部。その名とは裏腹に複数の業務がある事は知っての通りだと思う。
事務仕事、先生の業務補佐、清掃等々。
これホンマに警備の仕事か??? となるような業務が多岐に渡って展開している。これもその一つ、先生の護衛と運転手だ。
今回、先生はゲヘナ風紀委員との正式な打ち合わせに来ている。
何故生徒会の立場である万魔殿相手では無いのかは知らない。
「お、誘導がある。ゲヘナでも風紀委員はしっかりしてるんだな……」
言ってから気づいたけど結構失礼な事言ってるな俺。でも仕方ないじゃん、暇つぶしにヘリ堕とそうぜ! みたいなやつらがごまんといるんだぜ。
ほどなくしてヘリポートに着地する。
周囲を取り囲むゲヘナ風紀委員の中から二人、銀色の髪をした褐色の少女……あれは
……確かに苛めがいがありそうだな……っと、いかんいかん。
もう一人の方は……青髪に……あの服、ぜってぇ天雨アコだろ。なんだあの服……横がヤバイって……あれだけで人物が特定できるって……
“今日はよろしくね! ”
「はいはい、打ち合わせが終わったらさっさと帰ってくださいね。こっちにも仕事がありますから」
「……今日は真面目な顔してるんだな、先生」
いつもどんな顔してるんだよ先生。
さて、先生が二人の風紀委員幹部に連れていかれるのを見送って……後は帰ってくるまで俺の自由時間となる。
時間まで寝てるかな、と思っていたその時、風紀委員の一人とおもしき女生徒がヘリコプターの中で待機している俺に近づいてきた。
「先生の護衛の方ですよね、あなたを施設内の案内するように仰せつかっています」
「……」
「護衛殿?」
「いや、すまない。すぐに行くよ、ありがとう」
案内とはちょっと予想外だが好意はありがたく受け取っておこう。ヘリコプターから降りて、目の前の風紀委員についていく。
色んな施設を簡単な説明と共に紹介される。
と言ってもアホほど広いゲヘナ学園の風紀委員本部の周りくらいだが……他の場所に行くと余りにも手入れされていないから遭難する可能性が出てくるからな。
「以上が風紀委員の施設です。機密により案内できていない場所が幾つかあったのはすみません」
「謝る事じゃない、むしろここまで丁寧に色々説明してもらって良かったのかと恐縮してしまいそうだ」
「そういう指示でしたので」
そんなゲヘナ学園だがやはり風紀委員本部はしっかりと管理が行き届いているのが良く分かる。少なくとも中央広場みたいに草木生え放題伸び放題のジャングルと化している訳ではない。
……手入れが行き届いているのは確かなのだが、全体的に古かったり、修理痕や電球が切れている個所が有ったりしているが予算はしっかり出ているのだろうか?
口にする事ではない。だが少し気になってしまった。
自身の意識を逸らす意図も込めて会話を引き延ばす。
「それは天雨アコが?」
「いえ、天雨アコ行政官からは指示を受けていません」
「……ならば、誰が?」
「ええっと、それは……直ぐにわかるかと」
そう言って風紀委員は足を止め、目の前の扉を見る。
釣られて見てみれば……『執務室』と書かれている。今まで案内された場所を考えてみれば通されるはずも無い部屋の筈だが……
そう首をひねっている間にも風紀委員はその扉をノックし始める。
「お客様を連れてきました」
「入って」
「失礼します」
今の声は……どこかで聞いたような……
風紀委員はよどみなく扉を開け、中に通される。
部屋の中は暗く、デスクの手元を照らすライトのみがこの部屋の光源だ。
何故電気を付けないのかは分からない……いや、なんとなくわかるけど分かりたくない。
正直逃げたい。電気付いていないってことは外から見て今は使われてませんよーって見えるようにしているってことでしょ?
ていうかさ、執務室を使えて? 一般風紀委員に施設内を案内するように許可と指示を出せる人物? もう心当たり二人しかいないんだけど、そのうち一人は先生と会談している筈だからもう一人しか居ないんですけど。
「では、外で待機しておりますので」
「ありがと」
外から扉を閉められることで更に(恐怖が)ドン! 正直ここでつかまって質問からの拷問されても驚かない。
怖すぎてさっきから一言も喋れないんですけど。
「さて、初めまして……よね?」
何故かの疑問符。
さてさて、覚悟は決めた。こんな密会を用意するんだ、スパイの事がバレてるのならもうすでに俺は捕まっているだろうし、怖がり過ぎても話は進まない。
「すまないが位置関係的に顔が見えなくてね、まずは歩み寄っても構わないかい」
「こっち、椅子に座って。この距離なら見えると思うわ」
「ではお言葉に甘えて」
ライトの光に照らされた小さくて細い手指に誘導されて椅子に座る。
どうやらデスクの上には幾つもの資料が置かれており、先ほどまでその処理をしていたものと思われる。俺が目の前に来ても片付けないのはそれが見られても問題ない物だからなのか、それとも見せるためのモノなのか。
怖いから見んとこ。
ライトがいじられる。少しだけ光が弱くなった代わりに、周囲を照らす様に変化した。
ようやく相手の顔が見れる状態になる。
照らされた光によってその姿が露わになる。
まず目に入るのはその白くもふもふとした大量の髪。次に目に入るのは巨大な物質型ヘイロー。黒く、まがまがしくも思えるその姿は……僅かにひび割れているようにも思えてしまう。
身長は……あの小柄な小鳥遊ホシノよりも更に低い、140前半ぐらいか。その体を構成するパーツもその身長に見合った細く、華奢なものだ。
ここまで特徴と状況が一致すれば間違いない。
彼女こそがこの風紀委員会のトップにしてゲヘナ最高戦力と名高い存在。空崎ヒナその人だ。
疑念が確証に変わり、更なる疑問を呼ぶ。
「やはり君だったか、空崎ヒナ」
「…………」
空崎ヒナは沈黙を貫いている。
まるで何かを確認するように、じっと俺の顔や体を見ている。
「何か?」
「…………ちょっとした疑念が有っただけ、もう済んだわ」
「何の疑念が有ったのか、聞くのが怖いな」
「大したことじゃない……時間が迫ってるし、手短に済ませるわ」
コホンと、一つ声を整える空崎ヒナ。
何だ、何を切り出させる?? 施設を確認させたのに何か意味があるのか?
わ、わからんぞ、この超高性能CPUを以てして答えを導き出せない!?
「あ、あの……その……」
……ん?
今まで完全に魔王然と威厳を発していたしていた空崎ヒナの様子が……?
「せ、せんせい! の事について……ちょっと聞きたいことが……」
「…………」
………………はい。
【case4『“風紀委員会”空崎ヒナ』私なんかが】
「あの、警備員さん?」
「…………はっ!」
余りの衝撃にCPUが一瞬停止していた!?
おちおち落ち着け! あの空崎ヒナだぞ!! 全てのチンピラ、テロリストに畏れられ! あのカイザーですら“勝てないからやめろ”って指示を出すあの空崎ヒナだぞ!!
聞き間違いか……? 記憶容量を確認……
間違いじゃなかった、か……
先生?? どんな手を使ったの???
何をどうしたらこの短期間で空崎ヒナにこんな乙女みたいな表情させられるの? まだ一か月たってないよね?
確かに、確かに俺の想定ではデロデロになるんじゃねぇかな! とは予想した。
でもあれはあと数か月先の見込みだった。
……ふぅ、一回冷却完了。事実だけを受け止めてまずは俺の仕事をしよう。
「すまない、少し驚いてしまってな」
「い、いや、こっちこそ突拍子の無い事を聞いてしまった……」
「問題ない、聞きたいことがあるんだろう? 先生について」
まずは現状把握だ。
空崎ヒナの攻略され具合ではもしかしたら……俺の工作は全て…………反転している可能性がある。
「いいの……?」
「何を遠慮しているのかが分からない。時間が無いのだろう? 早くした方が良い」
「じゃ、じゃあ……、先生、二日前のお昼の事、何か言ってなかった?」
「二日前……?」
何かあったか?
思い出せ、頑張れ俺!
確か……昼、先生がちょっと生徒にあってくるって言って数時間抜け出していったような……それか。
ま、まさか……大成功したのか? 香水作戦が……?
わ、分からん……今日初めて直接であったもんだから匂いの比較も出来ない……
「デートの件か……?」
「デ……ッ!? そ、そうじゃ……ないことも、ない……?」
「昼ぐらいに先生が何時間か抜け出していった件だろう。随分楽しそうだったが」
「そ、そうなの?」
「あぁ、いい買い物もできたってホクホク顔で帰って来たのをよく覚えている。それが何かあったのか?」
「う、ううん大丈夫。一先ず、聞きたいことは聞けたから」
「……?」
なんだ? 俺は今何の情報を漏らした……何の情報を抜き取られた……!!?
「それだけが要件の全てか?」
「いや、まだある。これは質問じゃないのだけれど……」
「構わない、(何故か)相談を受けるのには慣れている」
ホント、何で何だろうなぁ……
「じゃあ……あなた目線からで良い。私なんかが先生の横を歩いていたら、おかしいと思うわよね?」
し、質問の意図が分からない……意味も分からない……
過去最高難易度の相談が来たな……理解不能な意味で。
んー、前の小鳥遊ホシノの時とは別ベクトルだが……これは……やはり……
「最近先生が、いつもよりも多く構ってくれるようになった。私の小さな功績をそんな事ない、これはすごいことだって言って沢山褒めてくれる。風紀委員に仕事があるって言う口実で、私の隣に居てくれる時間が格段に多くなった」
先生……最近外出多いな、って思ってたらそんなことしてたのか……監視強めるか。
もしかして、最近獅子奮迅の活躍で仕事を始末していったのはその為か? アビドスへ出向していた時と似ているな? 先生の事だ、空崎ヒナの状態がそれほど危ういものだと判断したか。
「最初はすごくうれしかった、けれど……明らかに無理してるのが分かってしまった。先生が無理をしているのは私のせいだ、ってわかってしまった」
公的に会っていないという状態を作り出し、こうして相談しに来ているという事は……他の風紀委員メンバーにも相談できない事なのだろう。彼女の中では。
おそらくは、空崎ヒナがここに居るというのは先生はおろか他の風紀委員幹部メンバーも知らないのだろう。外回りでもしていると情報偽装しているのだと思われる。
外に待機している風紀委員も指示を受けただけで中でこんな会話が行われているなんて夢にも思っていないはずだ。
「先生は、キヴォトス全ての為に働いている。そんな先生だから、やさしい先生だから、こんな私を気にかけてくれた……けど」
「…………」
「おそらく、風紀委員会に来る為に仕事を無理やり終わらせたりしていたでしょう? 目に見えて無理させていたのが薄々分かった。そんな私に、先生の隣を歩く権利なんて……」
ふ、む……
とりあえず、あれだな……?
絶対口には出せないが……胸の内ならいいよな??
キヴォトスの子供……胸の内にため込んで沈んでいくやつ多すぎる!!
成程な! そりゃ先生も目に掛けるわ!
というか何でこの子こんな自己評価低いの?
君ゲヘナ最高戦力と名高い存在なんだよ? わがまま放題でも誰も文句言わないぞ
どうするか?
決まってるよ、最初は生徒先生間の絆の構築を邪魔しようと動いていたけどこれ無理だわ。明らかに先生の人心掌握術が異次元に達している。真面にやっても無駄だ。
しかし、それは工作班の敗北を意味しない……!!
方向性を切り替えるのだ!
仕込みを始める! まずは……
「あー、すまない。先生の行動は君の負担になっていたのだろうか、なら俺が注意して、止めるべきだな」
「そ、そんなことは無い! 私は……」
「そうなのか?」
「先生は悪くなくって……迷惑をかけている私が悪いの……」
自己評価の低さによる勘違いから手を付ける必要がある。
「君が迷惑に思っていないのだとしたら……俺には止めることは出来ないな、説得材料がない」
「どうして? 生徒の面倒を見るのが先生の責務だから……?」
「違う」
ここは言い切る。
「空崎ヒナ、君は勘違いしている」
「勘違い……?」
「先生が、君によく構いに行くのは先生の責務、仕事から来る義務感からではない」
いや、少しはあるかも……いや、無いわ。
短い付き合いでも見ている時間が長いからか、それとも他の理由からか……先生の行動理由の半分くらいは分かるようになった。
「じゃあ、何で?」
「そんなの決まっているだろう」
すまんな先生。分かってて尊厳破壊するわ。
でも半分は正解だろうから許してくれ。残り半分はわざと言わないけど。
「君が好きだから、先生は君に構いに行っているんだ」
「……へ?」
「む? 聞き逃したか。先生は君が好きだから────」
「聞こえ、聞こえてるけどっ! えっ、ええ!?!?」
驚きのあまり百面相を始める空崎ヒナ。
おお、歳相応の顔も出来るじゃないか……うわ、自分で言っててかなりおっさん臭いな。
「声が漏れても知らんぞ」
「で、でも!!?」
「嘘かどうか気になるなら聞きに行くと良い。先生、私の事は好きですか、と。ほぼ百パーで好きだよと返答が来るぞ」
「き、聞けるわけがない……っ!」
でしょうね。
「と、言う事だから君が気にする必要は無い。度が過ぎて身を崩す前に俺が止めるが、ある程度なら先生自身の良いガス抜きになる」
「う、うぅ……」
「むしろこちらからお願いしたいぐらいだ、そちらの都合が合う限りでいいから先生のガス抜きに付き合ってやってくれ」
これで良いだろう。これに加えてちょくちょくゲヘナからの依頼を優先するようにしたら風紀委員の負担も減る筈だ。
未だに机に突っ伏して「えぇ?」「でも……」とかオーバーヒートしている空崎ヒナ。
これで多分大丈夫だろう。
先生に甘える事で先生が助かるという事実を埋め込むことで甘えることへのハードルを下げることが目的だ。小鳥遊ホシノの時と一緒だな。
違うのは完全にブレーキをぶっ壊しにかかっているという点か……もう知らん。先生は自らの善性によって自爆するのがお似合いだ。
その過程で多くの生徒を救うのだろう。
【case4『空崎ヒナ』終】
「さて、もう時間ギリギリだな。ヘリへ戻らなければ」
「ま、待って!」
「待たない。最初から俺に話をしに来たこと自体がおかしいからな。先生と直接向き合って解決する類の話だこれは」
でも面と向かって言えないから一番先生に近そうな大人に相談しに来たことをはわかった上での発言である。
だが本音だ。
スパイとして状況を把握、支配する必要が無ければ先生を引きずってでも顔を合わせて話をさせていたかもしれない。それがうまくいくかどうかは別として、だが。
「ではな」
扉を開き、暇そうにしていたここまで案内してくれた風紀委員に声を掛ける。
「待たせた、話は終わったからヘリまで案内してくれ。説明を受けた後でもここは広すぎて迷子になりそうだ」
「了解です」
風紀委員に案内され、ヘリポートまで戻ってきた後ヘリに乗り込む。
直ぐに出発できるように準備していたら遠目に先生の姿が見えた。
どうやら天雨アコの姿は無い様で、銀鏡イオリだけが案内役で傍に着いている。
楽しそうに談笑しながら歩いて来ているのを見守っていると……お?
空崎ヒナが歩いてきた。望遠カメラオン……ちょっと顔赤いな。
銀鏡イオリはかなりびっくりしている様で、やっぱりこの場には居ないはずだったのだろう。
そのまま先生と空崎ヒナはいくつか言葉を交わし、にこやかに分かれて先生がヘリコプターへ帰ってくる。
「お疲れ様です。先生」
“うん、待っていてくれてありがとう”
「構いませんよ……先ほど風紀委員長と話していましたね?」
“ヒナの事だね”
“今日は忙しいから、また今度会う約束をしたんだ”
どおりでびっくりしていた銀鏡イオリが硬直したまま動かなくなったのか。
心の許容量を超えてしまったんだな……
「うれしそうですね」
“そりゃあね! なんてたってヒナの方から誘ってくれたんだから! ”
微かな疲労とそれ以上の充実感を纏わせ、にこやかな笑みを浮かべる先生を見る。
…………さて
シャーレに帰ってもまだまだ仕事が残っている!
ヘリコプターを操作し、シャーレへの帰路を急ぐのだった。