シャーレ警備員は相談役……? 作:絆ストーリーを増やし隊
そろそろ報告書を作らなければならない。
それも文字数を抑え簡潔に纏めた物を。
最も望ましいのはシャーレの機密、次に先生の弱みだが……
しゃらくせぇ! 適当に書いてやるか。
新たな機密とか抜けてないしな。弱み? 弱点だらけだろあの人……書くまでもないわ。
そんなことよりも今は……
手元に隠したモニターと操縦桿を見る。
モニターには先生が映し出されており、操縦桿をちょっと操作してやれば画面が引いたり、近付いたりしてする。
だが等の本人である先生はそんなことお構いなしにキヴォトスの町を歩いていた。
さて、俺は一体何をしているのか。
答えは簡単。盗撮である。
“今日はアビドスからだね”
音声もバッチリである。
この超高性能指向性マイクを
このドローン、元が天下のミレニアム制であり恐ろしい程の隠密性能を誇っている。
まず光学迷彩。先ずとお出しするのが頭おかしいが仕方ない。その次に無音飛行を可能にするホバーバーナー、アンチ温度感知機能に自動追尾機能等々。
改造をいくらか施したが……本当に付け足す、というくらいしかやることがなかった。
さて、今度は何故? という疑問が浮かび上がることだろう。
俺は考えたのだ。
先生という存在に対し、俺の出来る限りの工作とはなにか。
関係構築の妨害、という手段は諦めた。
ならば……逆にその絆で雁字搦めにしてやれば良いのではないか?
と言うのが先日空崎ヒナと対面した時に思い付いた苦肉の策だ。
その為には現在の先生と生徒の関係をより深く知る必要がある。
その二人の間しか知らない秘密などを手に入れれば……と言ったところか。
情報は武器である。使いようによって人を救う事もあれば殺す事もある、むしろ殺す方がよほど簡単かもしれない。まぁ、先生に限ってそんな弱みは無いだろうさ。
雑に事務作業をしながら先生を監視する。今回の目的地であるアビドスは言ってしまえば砂漠と一体化したゴーストタウン。電車はおろかバスなど通っていない完全な僻地だ。
なので前の様にバイクに乗って先生は移動をしている。
因みにこのバイクには発信機やドライブレコーダー等を付けさせているが先生の任意で止めることが出来るようになっている。結構こまめにオンオフを繰り返している様で、安全確認のためという名目で生徒との大事な会話を盗み聞くことは出来なかった。盗聴器? バレた時、俺に疑いの目が向かなくてもこのバイクを整備している俺の管理問題になるから論外となる。
つまり、こうしてバイクをドローンで追う事しかできないんですねぇ……お、どうやら先生が第一住民と出会ったようですね。
“おはよう、シロコ”
「ん、おはよう、先生。今日来るって聞いてたから、待ってた」
“……どのルートで行くとは伝えてなかったと思うんだけど”
「なんとなく……?」
“……そっか! ”
狼の耳に、ダウナー系の落ち着いた声。チャームポイントでありトレードマークである水色のマフラーに灰色の髪色に青の瞳に黒と白のオッドアイを輝かせ、自転車にまたがる彼女は砂狼シロコと言う。
資料映像では無表情な事が多くて冷たいイメージが有ったが、先生と話すあの姿を見ていると……表情の変化が少ないだけで感情豊かであると良く分かる。
「じゃあ一緒に行こう」
“うん”
先生と砂狼シロコが並走しながら走り出す。
…………あの、先生バイクなんですけど。しっかりとスピード出しているように見えるのにロードバイクでついて行けるのは何で何ですかね?
そんなこんなで十数分、中道を抜けたり、誰も居ない道路をぶっ飛ばしたりしてようやくアビドス高等学校が見えてきた。
いや、何で息切れの一つも無いんだよ……汗はかいているみたいだけど……疲労感とか、そういうの……お持ちではない?
で、あの校門に見えるピンク色の塊は……小鳥遊ホシノか? 相変わらず、眠そうにしているな……
「シロコちゃんと先生だぁ~おはよぉ~」
「おはよう、ホシノ先輩」
“おはよう、ホシノ”
「いやぁ、今日もいい天気だねぇ。絶好のお昼寝……び、日和だねぇ?」
「……?」
猫背のまま片手を開けながら先生とシロコに挨拶する小鳥遊ホシノだが、今一瞬目がきらめいたのを此の高性能カメラは見逃さなかったぞ。
あとお昼寝という単語に恥ずかしがるんじゃない。砂狼シロコが不審がっているぞ? お昼寝が何かの隠語だと間違えてしまいそうだ。
「…………じゃあ先生、自転車を駐輪所に止めてくるね」
“うん、私も駐車スペースに置いてこないと”
「じゃあおじさんは先生について行っちゃおうかなぁ~」
「教室で待ってるから、すぐ来てね」
“わかった”
ここで砂狼シロコと別れるのか。
バイクだから駐車場に止めるんだな。真面目な先生らしい。
“それじゃあ一緒に行こうか、ホシノ”
シロコと別れ、2人は並んで歩いていく。
「先生も忙しそうだねぇ~ちゃんと寝てるのぉ?」
“皆が手伝ってくれるからね! ”
“感謝しかないよ”
「いつでも呼んでね、私達は先生のためならなんでもするからね~」
“そのセリフ、前にシロコにも言われたよ”
「私達の気持ちは一緒って事だね~、流石シロコちゃん。おじさんと以心伝心だぁ」
ふらふらと歩きながら、体勢を崩したふりしてぐっと近寄るホシノ。
なんでふりって分かるのかって?
あれ程の使い手が重心を崩すものかよ(確信)
「……?」
しかし、一瞬だけ惚けた目を止めて鋭い眼光に変わり、戻る。
ど、どうしたんだ……? 何か疑問を抱いたような感じだったが……
「……うへ」
“ねぇ、最近はどう? ”
「最近? 問題はないよ~、先生のおかげだねぇ」
“それもあるけど……”
先生はヘルメットをバイクの収納スペースに仕舞いながら、じっとホシノの顔を見つめて微笑む。
“私はホシノの調子が聞きたいかな”
「わ、私? だ、大丈夫だよぉ?」
“……それなら良いんだけどね? ”
“お昼寝でも何でも付き合うから、私が必要な時は必ず呼んでね”
「も、もう……必要な時って……それじゃあ私が今すぐ来て! って言ったらどんな時でも来てくれるのぉ?」
“あはは、そうだね……ホシノがどうしてもって言ってくれるのなら……”
“どんな手を使ってでも直ぐに駆け付けるって約束するよ”
「…………」
“あ、あれ? ホシノ……? ”
あーあー小鳥遊ホシノ固まっちゃったじゃん!
こう返してくれたらいいなって問いかけて、望んだ答えが来たけどその威力に耐えられるかどうかは別なんだなぁ……
再起動した自爆少女が大変暴走しながら取り繕って、アビドスの校舎の中に入って行ったところで一旦監視中断。
というのもあれ以上はバレる可能性がある。何かに紛れるにも紛れる何かが必要だ、無慈悲だが……人も何もないアビドスにはそんなものはない。
隠密機能を充実させないと……校舎内でこそ本当の姿が見えるだろうし。
またあのバカ技術者集団に頼み込むか? 経費で落とすのも限度があるし……どっかで大義名分を手に入れる必要があるな。
アビドスでの予定業務は3時間程。適当に仕事してたらそんな時間は直ぐに……ほら出てきた。
先生はアビドスの生徒たちに別れを告げるとまたバイクに跨って走り出す。
去っていく先生を見つめる小鳥遊ホシノの視線がちょっと危うい感じがする、砂狼シロコもか……? こっちはどっちか言うと小鳥遊ホシノを気にしているな。
……気になるな、業務連絡装って通信してみるか。
材料は……あぁ、この手紙とか使ってみるか。
「もしもし、先生? 今どこに居らっしゃいますか?」
“うん? あぁ、今アビドス出た所だよ”
「そうですか……アビドスの子達はどうでした? 前の件からよく通っていますが」
“皆たくましく頑張ってるよ! シロコが銀行強盗を企画したりしてもうたくましすぎるくらい”
「それは素晴らしい。学生は元気があってナンボですからね。実際に行動に移されてはちょっと困りますが」
銀行強盗……実際にあったらしいんだよな。カイザーの子会社で。
アビドスに関わっていると予想されるブラックマーケット最悪の犯罪集団『覆面水着団』実際かなりの被害がカイザーに出たらしい。その金が何処に言ったのかも全くの不明と……実力的に彼女等ならできそうだから怖い。
だが報告に有った人数と彼女らの人数は一致しないので問題はない。人違いだろう。
“そ、そうだね! ”
「……」
やめてくれ! その意味深な返しは!! クソが! 俺は聞かなかったぞ! 何も勘づかなかった!
「小鳥遊ホシノはいかがです?」
“ホシノ? ”
「彼女、例の一件の時かなり怖い思いしたんでしょう。先生、あなたはそのメンタルケアを含めてアビドスの仕事や小鳥遊ホシノの当番の比率を増やしているものと思っていましたが……」
“……”
“そうだね、そういう理由もあったね……でも”
“彼女は大丈夫。私なんか居なくても、支えてくれる友達がいるからね! ”
「……そうですか」
感動的なセリフなんだけど、なんだかなぁ……こう、致命的な見逃し方をしている気がしますよ先生殿。
“と、ホシノの様子だね”
“君が考えてくれたお昼寝作戦が功をそうしたのかな? ”
“寝不足っぽいのも薄らいでいる気がするよ”
“……ただ、寝てるとき手を握っててほしいと言われるようになったけど”
「お、そ、それは良い兆候ですね??」
“疑問符ついてるけど? ”
「気のせいですね」
“あと、距離が近くなった気がするね……みんなの前でもちょっとだけ近くに来てくれるようになったんだ”
“心を許してくれているのかな、うれしいよ”
先生よ、もうその段階は通り過ぎている……
“ただそうだね……”
“ちょっと匂いを気にされたような気がするんだよね”
“……私臭くないよね!? ”
「私からの観点では、問題はないかと? ま、まぁ大丈夫そうで良かったです」
“うん、ありがとう”
“要件はそれだけ? ”
「いえ、一応仕事の名目で通信しているのでしっかりとご報告を。先生宛に手紙が幾つか来てますよ」
“なんだろう”
「その内の一つは依頼、の様にも見えますね。他のは……トリニティの鷲見セリナ? って子からとゲヘナの……」
“あ、ちょっと待って”
「はい?」
“……ごめん、報告はなしで良い? 多分、依頼の方はミレニアムのゲーム開発部からだよね!? ”
えっ、今もカメラに写っている先生はタブレットを操作していない筈……もしかして脳波コントロールですか先生?
「どうかしましたか?」
“うちの……生徒の一人が、それは自分の仕事だって……あぁ! ごめん切るね!! ”
「はい???」
あ、切れた。
なんだ? 訳が分からんぞ?
そんなシャーレに来た依頼書などの報告を上げる生徒は存在しない筈だ。
あの先生のタブレットと俺のPCに来るものしかない筈……?
しかし通信が切られたのなら仕方ない。監視を続行しよう。
先生はふらふらと運転しながらもゲヘナへと向かっていく。
目的地はまたも風紀委員本部。
本日は空崎ヒナとの会談が入っている。
そちらが終われば給食部へ視察しに行く予定だ。そこで夕食を済ませて帰ってくる。
そして仕事は終わり……ではなく恒例の地獄書類整理の時間となる。
マジで人手寄こして……このままじゃ俺とカイザーが何するまでもなくシャーレ崩壊する……
当番の回数などを増やす、なども先生と相談したが、先生は生徒に呼ばれて外出することが多くせっかく呼んだのに事務処理だけを手伝わせてしまう事に深い拒否感を覚えているので無理だ。それなら生徒を連れまわすとのことで、結局書類仕事は終わらなくなる。
無限螺旋の完成である。
はぁ……
ゲヘナの自治区に入った先生は早速銃撃戦に巻き込まれている。
最近知ったんだが、先生に銃弾が効かない。銃弾は何故か曲げられてどこかに飛んでいく。爆発も逸らされる。
護衛要らねぇじゃん。
と思うのだが、先生からの言い訳によるとあの防御は生徒の力によるものであまり多用させると疲れてしまうらしい。
んなわけねぇでしょ。銃弾曲げる力をもった生徒なんて存在するわけないでしょう。というかどこに居るんだその生徒。
と、こんな与太話を報告書に書くわけにもいかず日夜頭を捻らさせられている。
そんな訳で銃撃戦に巻き込まれている先生を見てもある程度はゆっくり見ていられるようになったのだ。
今何が起きてるんだ?
まず? あれはヘルメット団か、いろんな派生形があるが細かい違いなんて分からんからヘルメット団で統一する。
で? 先生側は風紀委員か。前線指揮官である銀鏡イオリとその部下数人が交戦しているが……
クッソ程ヘルメット団が多いな。人数比率だと風紀1ヘルメット10くらいか。
いくら銀鏡イオリの戦闘力が優秀だとしてもこれは無理だな、三倍差位ならひっくり返せるんだろうが……
一応先生も巻き込まれてるんだし……ドローンを操作し、とある機能の準備をする。
「いたっ! 痛いっ!! 先生! 助けてくれ!」
“うん、任せて! ”
あ、先生が動いた。
風紀委員がどんどん勢いを取り戻していく。見る見る内に形勢は逆転していく。
元々の人数差があったこともあり、その被害は微々たるものだが……前線がいきなり劣勢に置き込まれたことで後詰めであるヘルメット団の半数が逃亡していく。
「お、おいお前ら! 逃げるな! こんなのは一時的な───ぶべっ!」
“ごめんね。イオリ”
「おう! 一斉掃射開始!」
「了解! くらえええ!!」
逃げる奴らをとどめる声を真っ先に仕留める。
その後、声を上げながらの一斉掃射による殲滅射撃は……実際に被害以上の恐怖を煽る事だろう、ここまで半壊した士気で盛り返す事は不可能だ。
情勢は決した。
この戦い、風紀委員の勝利である。
なんで?
何で指揮しただけでここまで戦局が変わるんだよ……一般風紀委員もそうだが、銀鏡イオリの動きが特に生き生きとしている。何でか銃弾が着弾した標的の背後に散弾? が飛び出していき、それに当たったヘルメット団もどんどん沈黙していく。それが一気に三発も。あのスナイパーライフルの連射速度はどうなってるんだよ!
……そもそもスナイパーライフルかどうかも怪しいわ。何でか凸ってるし。
この調子なら直ぐに制圧されるだろう。万が一に備えていたこのドローンの機能も使う必要は無いな。
機能を収納……ん?
「ぬ、おおお……よくも、我々クラクラヘルメット団の悲願の邪魔を……」
撃ち漏らし……いや、ヘイローがブレてるしあれ以上は必要ないと転がされていた奴か。
片手に手りゅう弾……もし投げ込まれても大丈夫だろうけど……
機能の照準をそのヘルメット団の右腕に合わせて……ショットッ!
「ぐえ! ……ってあれこれってトリモチ?? う、うごけん……!」
ふはは、痛くなかろう。それは特性の弾丸だ、しっかりと手と手榴弾を固定させてやるぜ!
見る人が見れば水につけてたらとれるってわかるから後で病院に行ってくれ。
さて、裏で遊んでいる内に制圧が完了したみたいだ。
「ふぅ、さぁ! 規則違反者どもめ覚悟しておけよ……しっかりと本部で絞ってやるからな!!」
「く、くそぉ~」
先生は苦笑いしながらその光景を見守っている。
銀鏡イオリがヘルメット団を縛り上げて連行の準備を始めている。どこかと連絡を取っているのを見るに本部に応援の要請だろう。大多数が逃げたとはいえ
「た、たすけてくれぇ!」
「うわ! なにこいつベトベトじゃん!」
あっ、風紀委員がさっきのヘルメット団に気付いた。トリモチだもんな。黒光り用にも使われるし……あっ風紀委員の子が逃げて……銀鏡イオリを連れてきたな。
「うぇ……ホントにベトベトじゃん……」
「たすげでぇ……」
「おいやめろ近づくな! う、撃つぞ!」
「なんでもいいからぁぁぁああ!」
「あああ!!!」
あーあー、一緒にべたべたになっちゃってもう。
後ろで先生が生暖かい目で見守ってるよ……いや何か満足そうだな?
こうして遊んでいる間に結構時間が経ったな、もうすぐ応援が……来た来た。
…………んっ!!?
「先生! 怪我は!」
“無いよ、大丈夫。イオリ達が守ってくれたから”
「そう……良かった。そのイオリは……」
「いいんちょう……」
「……大丈夫そうね」
「委員長!?」
空崎ヒナ!?
どうしてここに……いや、あり得なくはないか、言ってみれば先生は客人でありその客人が戦闘に巻き込まれたんだ。責任者として様子を見に来た、と言ったところか。
……表向きは。
ていうかあっさりと銀鏡イオリが見捨てられていてる……まぁ、見た目ギャグだし……
「もうすぐ護送用の応援が来る。先生は私と一緒に一足先に本部へ来て貰う。護衛は私がする」
“そうだね……”
“うん、時間も押しちゃってるしお願いしようかな”
「任せて。何が来ても瞬殺して見せるから」
“頼もしいね”
「手始めに……」
あれ? 空崎ヒナが銃を手に……おいおい嘘だろ光学迷彩の上この距離だぞ!! マッズ!!?
「怪しいドローンから破壊する」
空崎ヒナの持つ軽機関銃の銃口が確実にドローンを捕らえる。
同時に回避運動とドローンの緊急用装置を起動!
“ヒナ!? ”
間に合えッ!!
スピーカーから爆音。ついで暗転し、ノイズが走る。
ど、どうだ……頼む! 成功していてくれ……!
画面が……息を吹き返す!
「……爆発したし、多分破壊できたと思うのだけど」
“凄いね、全く気が付かなかったよ”
“どうやって気付いたの? ”
「……一瞬光が見えたから」
よし! 音声も良好!
いやー危なかった。保険の保険として積んでいたダミーボムとデコイが上手く行ったようだ。
ドローンが撃墜される寸前、ドローンからダミードローンを産み出し銃弾の盾に、その上でゼロ距離でボムを起動させることで撃墜できたと勘違いさせ、本体は迷彩状態で爆風に乗って移動するという殆ど自滅覚悟の回避行動だ。
空崎ヒナは未だに違和感を覚えているようだが、さすがにそんなアホなことして回避したとは思わない筈。
しばらく動かないようにして、離れたら追尾させよう。
それにしても光、光か……砲身を出していたから光学迷彩に乱れが出たか?
多分ステルスに全機能を注いだ状態で距離を今よりも離せば問題ない筈だ。
「じゃあ先生移動を……これは?」
“うん、ヘルメット”
「そ、それは分かってるけど……ヘルメットを私に差し出してる理由の方」
“だってヒナ走ってきたんでしょ? ”
“このバイクなら2人乗りくらいなら簡単だし”
「…………」
“ヒナ? ”
「は、走るよりもそっちの方が早いのは確か!」
“そ、そうだね”
「お、お邪魔します……」
“うん、しっかり捕まってね”
「う、うん」
“ほら、もっとぐっと”
“危ないからね”
「で、でもこれ以上は距離もそうだけど……ぅぅ……匂いも……」
“よし、じゃあ行くよ”
“イオリも、また後で! ”
「放置!!?」
…………よし、行ったな。
何かもう色々大変なことになってるけどすまない、俺にはどうすることも出来ないんだ……
全身ベトベトでちょっとイケナイカンジになってしまっている銀鏡イオリに内心謝罪し、先生の尾行を開始する。
発信器もあるし楽々発見できた。
うぉ、やっぱ2ケツか。サマになってるなー
しかし、空崎ヒナの特徴的なふわふわ髪はヘルメットの中に収まってるし、あの服も上着を被せられているので隠れているから言われないとあれが空崎ヒナだって分からないな。
ただの身長の小さな生徒と乗ってるように見える。完璧な変装? だな!
ちょいと操作し、指向性マイクを先生に向ける。
「先生、香水つけてくれてるのね」
“うん、ヒナが選んでくれたし”
“私としても好みの匂いだしね”
「そう、良かった……」
“そう言うヒナも、香水つけてくれてるんだね”
「そ、それは……! せ、先生が選んで、くれたものだから……」
“嬉しいよ”
「───っ!」
ヘルメット越しに頭をぐりぐりと先生の背中に擦り付ける空崎ヒナ。
照れ隠しのつもりだろうけど……ただ甘えているようにしか見えんぞ。
…………今なんか、何かがカッチリと嵌まったような気がするけど投げ捨てる。
知恵を捨てろ!
「…………先生」
おっと空崎ヒナの声色が……
「このキーホルダーどうしたの?」
えっ? どれ!?
カメラを最大限ズーム!
どれどれ……これは、先生の鞄に……クジラのキーホルダー? い、いつの間に……少なくとも朝には無かった筈だぞ?
“ちょっとね、とある子から貰ったんだ”
“可愛いでしょ? 何も装飾の無い鞄は無骨過ぎるからちょっとしたアクセントにどうかって”
「……そう、成る程、ね」
温度がいきなり氷点下!
必死に高性能CPUが答えを導くのを妨害する。
至ってしまえば、十中八九俺の精神が削れていきそうになるからだ。
まだ、まだだ、まだ俺は何も気付いていない……!
そ、そうだ! 今日はこれくらいにしよう!
これ以上はバレる危険性が格段に高まるからな! ドローンの整備もしなくては!
帰還命令を出す寸前。空崎ヒナの口元が動く。
バイクを運転している先生には聞こえない、だがこの高性能指向性マイクが拾ってしまう位の声量。
「小鳥遊、ホシノ……」
もし無事に先生が帰ってきたら、腹と背中に雑誌を仕込ませよう。
相談は無し、つまりはハートフルにてストレスレス!