シャーレ警備員は相談役……?   作:絆ストーリーを増やし隊

6 / 8
case5 『セミナー書記の場合』

 カタカタと小気味良い音を奏でながら無数の数字を入力していく。

 そう、今日も今日とて先生の補助をしているのだ。

 

 と言っても先生はこの場にはいない。何でもミレニアムサイエンススクールという学園のゲーム開発部? とか言う所に行っているらしい。

 何でも勇者になってくるとかなんとか……何の話やねん。

 

 それにしてもミレニアムかー、前に当番で来ていた早瀬ユウカが所属している学園なのだが……その特徴を簡単に言ってしまえば技術者集団と言うのだろうか。

 キヴォトスの最先端はミレニアムから、というフレーズが存在するくらいにその技術力は飛び抜けている。

 この前使ったドローンもミレニアム製だし、ヘリに積み込んでいた非殺傷武装もミレニアム製、いつの間にか変わっていた先生の電卓もミレニアム製だ。

 

 光学迷彩やねばねばランチャーのような無理な構造に無理な機能を詰め込む事に何らかの美学を見いだしていると言うのだろうか、普通に考えて何に使うんだよとツッコミを入れたくなる様な製品が兵器で販売されている様なミレニアム。

 その中で様々な部活を聞いたことがあるのだが……ゲーム開発部というのは初耳だ。

 

 しかし、ホントにゲーム作ってたんだなぁ。

 ゲームは好きだ……ミレニアムが作ったとなればおそらく技術力の結晶、何が出来てもおかしくはない。

 

 先生から話を聞いて調べてみたのだが、それらしきものは残念ながら存在しなかった。

 何かそれらしきクソゲーは見付けたのだがさすがに違うだろう。

 

 アレは最新とは正反対の物で、機能美とは真逆なグチャグチャな代物だった。

 意味の分からん展開の連続、イカれた難易度設定、失われていくプレイヤーの正気。

 頭おかしなったでホンマ。

 

 約丸1日のプレイ時間を費やし、トゥルーエンドをクリアした暁には満面の笑顔と共に低評価をぶちこんでやった。

 ゲームへの愛は感じられた、あの作り込みはそれがなければ無理だ。だからこそ最後までやり遂げた所はある。それはそれとして低評価を付けるけど。

 

 もしこのゲームを作った部活だとしたら先生はもう帰ってこれないかもしれない。

 

 それは何故か。

 

 ゲーム開発部が先生にゲームを無理矢理先生にやらさせて、無理矢理高評価レビューを書かせるとかそんなところだろうと想像が付くからだ。

 

 あのゲームをクリアするには殺意とも呼べる反骨心を持たないといけない。あの先生には無理だ。

 

 あー、思い出したらバグ吐きそう。一回休憩挟もう。

 

 ネットサーフィンでも……ん? メールか? 

 差出人は……セミナー、か。

 

 早瀬ユウカか? 最近は当番じゃなくても来るようになったからな。先生がいるかどうかの確認だろうか。でも、その場合はセミナーの名前は使わず、個人名で来る筈……

 

 取り敢えず中身を確認。

 

 どれどれ……ふむ……はぁ、成る程な。

 

 これは……セミナーの会計ではなく書記の方か。

 

 最近ミレニアムから買った商品をシャーレへ輸送する際について話があるから警備隊長である俺と話がしたいと。

 そんでもって直接顔を合わせて話したいから空いてる時間はあるかってところか。

 

 正直今やってる仕事は先生の仕事だ。俺がやる必要はない。後で先生の睡眠時間が削れるだけだし……

 

 今日ならば何時でも大丈夫、と返しておくか。

 

 お、返信が早いな……今から? 

 まぁ、問題はないけど……随分急ぎなんだな。

 

 直ぐ向かうという返信が来てから約30分。

 シャーレの門前に白い髪をした女生徒が現れる。

 

 いつもの呼び出し音だ。

 

「ミレニアムサイエンススクール、セミナーから来ました生塩ノアです」

 

「確認した、門を開ける中に入ってくれ」

 

「はい」

 

 俺も一階のエントランスルームに移動する。

 

「貴方が警備隊長さんですか?」

 

 早瀬ユウカとは対照的な白の物質型ヘイローに、同じ白を基調とした制服。

 アメジストのような瞳は柔らかそうな表情とは裏腹に理知的な光を宿している。真っ白な美しい髪が膝下まで伸ばされており、黒タイツとの対比が眩しい。

 

 彼女こそセミナー所属、早瀬ユウカと対をなす書記の役割を与えられた人物。生塩ノアである。

 

「そうだ。まさか先生もまだあっていない生徒に俺が先に会う事になるとは思わなかったな」

 

 そう、実は先生はまだこの生塩ノアという少女に出会っていないのだ。

 セミナーに行くと確実に早瀬ユウカが対応するし、そもそもセミナーに行く機会が少ないと言うのは確実にあるだろうが……本当に珍しい事があるものだ。

 

「その事は後程、まずはお仕事の話をしましょうか」

 

「ごもっとも、執務室へ案内しよう。付いてきてくれ」

 

 ……? 今後程って言った??? 

 案内しようとか言っているのに聞き直すのは流石にカッコ悪すぎる。

 聞き間違いだとは思うけど……

 

「ここだ」

 

「わぁ、ここが普段ユウカちゃんが遊びに来ているシャーレの執務室なんですね」

 

「遊びに……いや、確かに業務外でも来ることは多いが」

 

「あ、これミレニアム制の電卓ですよね。こっちにはマグカップも」

 

 何かと物を持ってくるからシャーレの備品のいくつかが更新されてしまっている。

 文句を言おうにも性能は良いし寄贈だから規則的にも問題はないし……あれ? 文句言う必要全く無いよな。

 

 精々先生の生活領域が侵食されているだけだな……ヨシ! 

 

 ふざけるのもほどほどにして仕事の話を始める。

 

 予算は……問題なし。

 製品も……間違いなしで、弾薬もOK。

 

 最低限のチェックを済ましてから輸送に関することについて話し合う。

 と言ってもほとんど形式的なものだ。お互いに分かり切ったことを再度確認しあうだけ。

 それでも品目の数から時間がかかってしまったな。

 

「一度休憩にしよう」

 

「そうですね、そろそろ一時間ですし」

 

「飲み物を入れる、何がいい?」

 

「ではお言葉に甘えて……珈琲を」

 

「砂糖とミルクはいっしょに持ってくる。好きな分だけ入れてくれ」

 

 珈琲を入れるなんて言うたいそうなことを言っているが実際は珈琲メイカーを使って入れるだけの簡単なお仕事だ。

 豆は……先生の好きなやつは置いておいておくか。正直そんな種類があるわけでもないし俺の好みでいいだろ。

 

 機械が作り出してくれるのを少し待ってから再び生塩ノアのもとへと戻る。

 

「珈琲だ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「……?」

 

 今どこか上の空だったな。

 一時間くらいしか話していないが彼女は聡明な人物だ。まだ学生らしき可愛げもあるがそれを差し引いても大人びている、と表現しても問題ないくらいには理知的な会話を繰り広げてくれる。

 

「すまないな、俺が確認を逐一取ってしまうから話を長引かせてしまった。疲労がたまっているのなら続きは後日でも構わないと思うのだが」

 

「いいえ! 違うんです、これは疲労ではなくって……少し、考え事を」

 

「……考え事、か」

 

 ふむ? こんな子でもやっぱり悩み事はあるんだな。

 やっぱりセミナーの財政がやばいんだろうか……今回のような大口の取引を何件もしているはずなのに早瀬ユウカが頭を抱えているという話は聞いたことがある……主に先生からだが。

 やっぱ研究者がバカスカ金を使うんだろうな……

 

「お恥ずかしながら……私自身では解決できなくって」

 

「いや、攻めているわけじゃない。むしろ悩み事があるのは良いことだと思う、それほど真剣に取り組んでいるという証だからな」

 

 雑にやってたら悩み事なんて生まれん。怒られたらどうしようという心配だけが発生していく。

 

「良ければ話くらいは聞く。安心しろ、シャーレの警備員として秘密は外に漏らさないことを誓おう」

 

「……そうおっしゃられるのでしたら、少しお時間いただいても?」

 

「構わない」

 

 さて、どんなセミナー内部事情が飛び出すのか? 

 

「ユウカちゃんのことなんですけど……」

 

 ……いつものじゃん! 

 

 

【case5『“セミナー”生塩ノア』悩みの連鎖】

 

「最近、ユウカちゃんがため息を吐くことが多くって、最初はいつも通りミレニアム学園の爆発事故や“C&C”の破損した建物等の請求書、開発部の予算配分などに頭を悩ましているかな? って思ってたんです」

 

 ??? 

 

 え、なに? ミレニアムって爆発するの? ていうかC&C……あれか! メイドのコスプレしたくそつよ戦闘集団! 周りの被害とか考えず戦うせいで周囲が更地になる奴ら! 

 なるほどな、早瀬ユウカそんなところの面倒も見ていたのか。いやまぁ、生徒会みたいなものだから学園内のあらゆる不祥事が押し寄せてくるのはそりゃそうだわな。

 

「その言い方だと原因はそうではないようだが」

 

「はい、それに関しては日常茶飯事なのでいつもはどこかで消化しきるんですけど。あまりにも長く悩んでるようでしたから一度それとなく探ってみたんです」

 

「それで?」

 

「どうやら、シャーレの先生について頭を悩ませているようでして」

 

「そ、そうなのか」

 

 アカン、心当たりしかないぞ!? 

 どれだ!!? 

 く、詳しく! もっと詳しく! 

 

 平静を装った俺が珈琲を飲みながら目で続きを促す。いや、目に当たる部分ないから黙って聞いている感じになっている。

 

「普通に聞いても誤魔化されてしまったので、盗聴器を仕掛けて様子をうかがってたんですけど……そしたらユウカちゃんの声で“先生の食生活が……”とか、“先生の睡眠時間……”とか、“ほかの生徒にあってる時間長すぎじゃない? ”……とか……」

 

「…………」

 

 な、なんだ、これはどうすればいいのだ!!!?? 

 どこから突っ込めば良いんだ俺は? 生塩ノアがさらりと盗聴していることか!? それとも早瀬ユウカが明らかに先生を監視していることか!!? 

 

 お、落ち着け、落ち着くんだ……今回の件、俺に原因は……原因は……

 

 …………あるやんけ!!! 

 思いっきり俺のせいじゃん!!! 

 言った覚えあるよ俺! 先生のこと管理してあげてくれって! 

 

 ど、どう誤魔化すべきだ!? どう着地点を作るべきだ!!? 

 とりあえず流れに身を任せて時間を稼ぐ! 

 

「他には……? あるんだろう、それだけでそこまで悩むようなことになるとは思えない」

 

 悩むようなことあると思いますけど口ではこう言っておく。あるんだったらあるで掘り起こさないとやばいし。

 

「……あそこの空気清浄機。ありますよね」

 

「ん? あ、あぁ……確かこの前早瀬ユウカから試作品だから使用感を確かめてほしいと……」

 

「試作品じゃありません、あれはユウカちゃんがポケットマネーでエンジニア部に頼んで作ってもらった特注品です」

 

「なに?」

 

「設定された特定の人物の映像と音声はもちろん体温、心拍数、水分量、身長などを測り、特定のアプリに自動送信する機能が通常の空気清浄機能の他に付いています。エンジニア部から聞いたことがあるので確かです」

 

「…………ふぅ」

 

 き、気づかなかった……馬鹿な、ここはシャーレだぞ……? 

 この俺が日夜防諜に努めているんだぞ……? 

 怖い……ミレニアムの技術力怖い……そんな機能を空気清浄機に平気で付けるエンジニア部怖い……

 

 ……ん? エンジニア部? 

 

「まさか、自爆機能は……?」

 

「ユウカちゃんがエンジニア部を脅したようでついていないようです」

 

「そ、そうか、ならまだ良い」

 

 いや良くないけども。

 

「他にも……いろいろ見つけてしまったんですけど……どうしましょうか……」

 

「…………」

 

 予想以上に予想以上なんですけど……

 いやでもこれ……んー……問題なくない? 

 最近の先生の食生活は……やっぱりか。

 あとは……ある条件さえクリアすればだけど丸く収まるな。

 先生の尊厳以外は。

 

「生塩ノア、一つ聞きたいのだが」

 

「なんでしょう」

 

「先生の監視を初めてから早瀬ユウカは君たち友人への接し方を変えたか? 君たちよりも先生を優先するようなことがあったか?」

 

「それはありません! ユウカちゃんは優しくて真面目で……」

 

「なら、問題はない。先生が相手だからな。当人間の問題だ」

 

「しかしそれはあまりにも……」

 

「というのもだ、しっかりと理由はある」

 

「理由、ですか?」

 

 首をかしげる生塩ノア。

 まぁ当然だろう。成人男性を盗撮、監視することを肯定される理由に思い当たらないのだ。

 おかしなことじゃない。普通はそうだ、先生が普通だった場合は。

 

「早瀬ユウカが先生の様子を逐一チェックしている理由に行きつくのだが、先生は野放しにすると体を壊して倒れる可能性が非常に高い」

 

「……えっと?」

 

「激務すぎるんだよ、この仕事が。その上あの人自分の食生活とかとんと無関心でな、食うものが無くても仕方ないで済ますんだ」

 

「……すみません、いまいち話が掴めないんですが」

 

「早瀬ユウカくらい先生の体調を気遣ってやってくれる人物が居ないと先生が不摂生で死ぬ」

 

「えぇ……それは、何と言いますか……」

 

 情けない話だけどマジなんだよな。

 

「今さっき調べて気づいたんだが……早瀬ユウカがこの空気清浄機やらを持ち込んだあたりから先生の食生活が改善傾向にある。俺はのんきにも『あぁ、やっと見直したのか』と考えていたのだが。

 ……おそらく早瀬ユウカが干渉しているのだろう」

 

 最近は別の問題が発生して“最近夜中のシャーレにピンクの天使が来るんだよね……”と世迷言を吐き出してきたからな。

 早瀬ユウカの存在は先生にとってありがたい。

 正直に言ってやめさせたくない。俺の仕事が増える……

 

「…………」

 

「君の考えていることはわかる。大方、友達がダメ男に貢ぐ彼女みたいになってると危惧しているんだろう」

 

「そ、そこまでは思っていませんよ……?」

 

「そうか? では思い違いだが……いずれはそうなる可能性が見えているのも確かだ」

 

 そこまで行くと先生の方から断るとは思うけどな。

 

「今現状で早瀬ユウカの過干渉を止めることは難しい」

 

「やはり、そうですよね」

 

「だが一定のラインを引く必要がある。そこで、君には一つ協力してもらいたいことがある」

 

「協力、ですか?」

 

「早瀬ユウカの状態を報告してもらいたい。こちらも先生と早瀬ユウカとの出来事に関して、できる限りわかることを伝える。君の得意分野は記録、だったはずだ。簡単だろう?」

 

「それは……」

 

「お互いに出来事を報告し合い、早瀬ユウカがのめり込み過ぎる兆候が見えたら俺から先生に改善を促す。逆に、先生が早瀬ユウカに頼りすぎるようになれば君から早瀬ユウカに伝え、先生のためにならないと距離を開けさせてやってくれ」

 

「……なるほど、ラインを引く、というのは取り返しがつかなくなることを防ぐこと、ですね」

 

「そうだ。現状口を突っ込んでもよくなる未来が見えないからな」

 

「…………わかりました。代替案が思い浮かびませんのでまずはその方針を試してみましょう」

 

「交渉成立だ。俺のモモトークだ、何かあれば連絡してきてくれ」

 

 生塩ノアとモモトークを交換し、今ここに密告同盟が結成された。

 

【case5“セミナー”生塩ノア 終】

 

 よしよし、上手くいったぞ。

 これで急な暴走によるシャーレ崩壊巻き込まれエンドは回避できる。

 生塩ノアのメンタルケアは急務だがこれを先生に任せるわけにはいかないな……張本人だし、ちょくちょくモモトークで話を聞くとしよう。

 愚痴るだけでも不安やストレスは解消されるらしいしな。

 

 同盟が成った後、残りの仕事を片付けて生塩ノアが帰る時間となる。

 

「では、何かあればご連絡します」

 

「待っている。ほかにも面倒ごとがあれば相談してくれ、できる限りで手を尽くそう」

 

「ありがとうございます……少し気が軽くなりました」

 

 生塩ノアを見送って執務室へ戻る。

 

 さて、先生が戻る予定までまだ時間はある。残りの仕事を片付けるとしよう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。