シャーレ警備員は相談役……?   作:絆ストーリーを増やし隊

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case6『アビドススナオオカミ』の場合

 “───ということでもうしばらく帰れそうに無いんだ”

 

「はい、承知しましたが……今日の仕事明日に回すんですか」

 

 “…………仕方ないよね! 逃げてるわけじゃないよ!!! ”

 

「まぁ後で死ぬのはあなたですけどね」

 

 “はい”

 

 悲痛で悲し気な先生の声を最後にぷつりと通信が途絶える。

 空は日が落ち始め、いい時間に成って居る。今日の業務は終了、途中まで先生の仕事を肩代わりしていたがもう疲れたので止めました。

 

 疲労を回復する飯を食うためにシャーレの外に出る。前にも説明したと思うがここDUシラトリ区の治安は非常に良い。食事処で流れ弾を気にすること無くゆっくりと味を楽しむことが出来る。この件に関しては先生に感謝だ。

 

 さてさてどこで食うか……

 

「おっ、警備員じゃーん」

 

「今から飯? 奢ってよ」

 

「警備員のおっさん飯食えたんか」

 

 おっ、チンピラ三人衆じゃないか。彼女達の本名は知らないがアダ名なのかそれぞれをいちご、わたし、らぶらぶと呼びあっている。

 

「お前らか、悪いが今から大人の時間なんでな……」

 

 そそくさと去ろうとしたのだが彼女達はぐるりと俺を取り囲み、慣れた仕草で肩を組んできた。

 

「おいおい連れないこと言うなよー!? 先生は今日いないんだろー?」

 

「くひひ、アンタを助けてくれるやつはもういないぜー」

 

「大人しく私達に飯を奢るんだー! 腹減ってんだー!」

 

 知り合いだからこそ悪ふざけだと分かって対応できるがこんな状況端から見たらただのカツアゲだろ。

 いや実際にたかられてんだけどな? 

 

 というか腹をすかしているのか? となると……

 

「その様子だと律儀に先生との約束守ってるんだな」

 

「まぁーな」

 

「無暗やたらに人襲ってカツアゲしない、犯罪しないってやつだろ? 守ってる守ってる」

 

「アタシら真面目だろー? だから飯奢ってくれよー!」

 

「ふぅん……」

 

 今チンピラが述べたのは先生が取り決めたこの区画のルールだ。先生が最低限の治安は守りたい! と意気込んで妥協に妥協を重ねた結果できた必要最低限の治安維持協定。

 逸脱した場合制圧されるくらいにしかデメリットはないが、守っている限りさまざまな保証と特典をシャーレから受けられるようになる。

 先生の言葉だが、治安を守るルールを作るのなら守らせる事を意識するよりも率先して守りたくなる様に整えるべき、とのこと。

 俺も最初はバカにしていたのだが……僅か一週間でこの区画は生まれ変わり、予定されていた治安維持用の予算はこのまま行けば1/3に押さえられる。

 しかもこれは先程述べた保証をこの予算から抜き出した上での話だ。

 

 恐ろしい。

 

「お前ら、今週分の配給はどうした?」

 

「げっ」

 

「な、何のことかなぁ?」

 

「あったら腹減らしてないんだよなぁ」

 

「使いきったのか……」

 

 ここシラトリ区にはシャーレの名義経営するカフェが存在するのだが、シャーレは治安維持の一貫として治安維持に協力してくれた見返りに多少の賃金とそのカフェの一食無料券を配布している。それを配給と呼んでいる。

 それがあれば普通に一週間飯には困らない筈なのだ。

 

「おい、何に使った」

 

「……新しいガンアクセサリーがあって」

 

「私は前から欲しかったピアス」

 

「制服にボロがきてたから新しいの買った」

 

「うーん、らぶらぶ以外有罪!」

 

「やったぜ」

 

 シャーレから支給されている金額は微々たるもの、嗜好品などに使えば速攻で消える程度のものしでしかない。

 

「欲しいもんがあるんだったらバイトしろバイト。聖人過ぎる先生が希望者には宿も貸し出してるんだし、ちょっとバイトしたら生活費削らずに余裕で買えただろ」

 

「だったらシャーレが仕事募集してくれよー!」

 

「私ら前までやんちゃし過ぎてどこも雇ってくれないんだよねぇ」

 

「でもそれは生きるために必要な犠牲ってわけで」

 

「…………」

 

 まぁ、そうなるか。

 どこの会社も悪評持ちの生徒を好き好んで雇わない。雇うとしたらブラックマーケットの犯罪者がバイト私兵として雇うくらいしかないが……先生がそれを禁じているからな。いや、禁じているというには語弊があるな、やりたくないのならやらない方がいいと言っているだけか。その為の生活保護なわけだし。

 

 最初の方は順風満帆だったがこういう問題が起きるよなぁやっぱ。後で先生に報告して第二案の確立を急ぐこととするか。

 ……働きすぎだな? 俺。

 

 仕事としてシャーレのスパイをやっているわけだが子供に苦しんで欲しい訳じゃないしな。

 まぁ、先生に馴染めない生徒に関しちゃ身分を隠してこっそりとまだマシなカイザー系列の傭兵バイトの紹介をしているので完全なシャーレへの善意でやってる訳じゃないのでまだセーフとしたい。

 

 一先ずこの場を切り抜けるか……あれ? 今のは確か……? いや、先にこっちだこっち。

 

「分かった分かった、今度また仕事を募集する。清掃とか警備とかになるが良いな?」

 

「えー先生の補助とかは?」

 

「人気過ぎるし、先生の業務をもう少しコントロール出来るようにならんと無理だ」

 

「やっぱ人気なんだね先生」

 

「……ちょっと引くくらいにはな」

 

「残念だねぇー」

 

「だから今日のところはこれをやるからどっか行け」

 

 俺は懐から取り出した三枚の紙を彼女達に突き出した。

 

「これは……!」

 

「シャーレカフェの上級食事無料券!?」

 

「たまにしかないシャーレのバイトで好成績を残した者にしか与えられない最上級品じゃん!?」

 

「売るなり使うなりしろ。売ればしばらくは食えるだろうし使えば大満足を得られる事間違いなしだ」

 

「ごくり……」

 

「そんなの……っ!」

 

「速攻で使うに決まってんじゃん!? 誰がもらいもんを売るなんて恥ずかしい真似をするかよ! と言うか二度と手に入らない可能性の方が高いじゃん!」

 

「お、おう……」

 

 そこまで驚かれるとは思わなかった。

 シャーレの福祉として月始めに何枚か貰えるからな……余りを押し付けただけなんだが……

 

「じゃあ早速行ってくる!」

 

「警備のおっさんも一緒に行く?」

 

「飯食おうぜ!」

 

「あぁ、いや……そうしたいのは山々なんだが、お客さんが来ていてな」

 

 いちごわたしらぶらぶから目を離し、奥を見る。少し離れた場所にサイクリング用の自転車に跨がり、じっとこちらを見つめている砂狼シロコの姿があった。その手が愛銃に延びかけているのが少し嫌な予感。

 俺の視線? を追った三人衆はそれぞれ納得した様子で頷いた。

 

「知り合いの生徒?」

 

「私ら邪魔になるね」

 

「じゃあね警備員のおっさん! これ(食事券)ありがとう!」

 

「おーう、大変だろうが面接諦めんなよー」

 

 手を振って三人を見送り、砂狼シロコの元へ移動する。と言ってもあの三人を見送った辺りで向こうから近付いてきていた。

 

「……カツアゲ?」

 

「違うぞ」

 

「良かった、雰囲気的に違うと思ったけど、もしそうなら今から追いかけて取り戻そうかと思ってたから」

 

「気持ちは嬉しいな」

 

 優しさに溢れてる。きっと教育が良かったんだろうなぁ。

 しかし砂狼シロコの通うアビドスとこのシラトリ区はかなりの距離が開いている。もし自転車で来ていたのならかなりの労力を要するに筈だが……

 

「アビドスの砂狼シロコだな、緊急の要件か?」

 

「違、わない?」

 

 言いかけてからコクりと首をかしげる砂狼シロコは手を顎に手を当てて少し考え込んだ。

 正直この子と長居はしたくない。この前の小鳥遊ホシノと同じ理由で、負い目があり、バレた場合死ぬしかないからだ。この無表情の裏で何を考えているのか怖くて読む気にもならない。

 たっぷりと時間をかけて思考したらしき砂狼シロコは変わらない表情のままようやく言葉を口にした。

 

「シャーレの警備員だよね。先生は居る?」

 

「あー、それはだな……もしかして約束とかしていたか?」

 

「それは、してないけど……相談したいことがあって」

 

「相談、か」

 

「うん、ホシノ先輩の事で……知ってるよね?」

 

「……あぁ、知っている」

 

 やっちまった感否めない相談も受けましたね。

 

「ホシノ先輩の様子が最近おかしくて……先生もなにかおかしいけど、相談するなら先生かなって」

 

「あ、あー……他のアビドス生徒には難しいのか?」

 

「そんなことない。けど先生に聞くのが一番早いと思ったから」

 

 先生に聞くのが一番早いと申したか。心当たりはいくつもあるけど詳しく聞くか。

 

「何か小鳥遊ホシノと先生との間に何かあったのか?」

 

「……ん」

 

「やはりそうか」

 

「待って、やはりって何か知ってるの?」

 

「……ここではなんだ、中で話そう」

 

「分かった」

 

 夜飯は遥か先になりそうだ。

 

 

【case6『“アビドスの切り込み隊長”砂狼シロコ』距離】

 

 場所は変わってシャーレの執務室。きょろきょろと周囲を見渡す砂狼シロコを対面にお菓子と麦茶を用意してどしりと座り込む。

 

「どうした? 初めての執務室と言う訳でも無いはずだが」

 

「うん、でも何か見られている気がして……」

 

「……監視カメラとかあるからそれじゃないか?」

 

 勘が鋭い。俺が設置した隠しカメラに気付いたか? 大丈夫大丈夫……俺の知らん間に設置されたカメラの方かも知らんし……

 

「どうしても気になるのなら俺の警備員室とかもあるが……」

 

「……ううん、大丈夫」

 

 砂狼シロコはこう言っているが……後で調べとくか、今日生塩ノアから衝撃の事実を聞かされたばかりだし。

 と、意識を砂狼シロコに集中させよう。話を聞くと言っておいて上の空は不味い。

 

「警備員さん、最近先生とホシノ先輩が隠れて何かをやってるみたいなんだけど心当たりは無い?」

 

 あります。めっちゃくちゃあります。でもこの時点でありますと告げるのはもう関わってると自供していると同義なのでまずは嘘を吐かない範囲で……

 

「隠れて……もう少し詳しく聞かせて欲しい」

 

「詳しく……」

 

「そうだな、君がそう思った出来事とかを聞かせて欲しいな」

 

「出来事……」

 

 首を傾げ、特徴的な狼耳をぴんと立てて……多分集中してる? 

 

「数日前、ホシノ先輩と先生が同じ匂いして帰ってきたから」

 

「ふむ……んっ!?」

 

「どこで何してたの? って聞いても答えてくれなかったのが最初」

 

「そ、そうか」

 

 はい終了!! 即通報!! 

 え!? まさかそこまで行ったのか先生!??? 

 

 い、いや無い。それは無い! 

 先生の態度も兎も角、小鳥遊ホシノ側が平然としてる訳が無いわ。

 

「次におかしいと思ったのが、ホシノ先輩っていつも先生と一定の距離を空けてたんだけどいつの間にかそれが無くなっていたの。たぶん皆も気づいてる」

 

「距離が近いくらいなら……」

 

「そして、先生が来る日はホシノ先輩が絶対に起きてるようになった。すごく眠そうなのに」

 

「普通に先生と小鳥遊ホシノが仲良くなっただけ、というのは?」

 

「それもあると思う、だけどホシノ先輩の態度を見るにそれ以上に何かあったはず」

 

 砂狼シロコがじっと俺の顔を見つめる。

 それ以上話を続ける様子はない。次は俺の番という事だろう。

 それにしてもそんな小さな気づきからよく先生に聞いてみようとなったモノだ。

 ……それほどまでに今の関係を崩したくない、という恐怖心の表れだろうか。

 

 そこまで慎重になってしまうほどのモノを壊そうとしたんだ、俺達(カイザー)は一生恨まれても足りないな? 

 

 …………今の相談には関係ない、一回切り替えよう。

 何を話すか、昼寝の事をそのまま話した場合先生への裏切り行為に……なるかこれ? 分からないけどやめておこう、今まで築いた信用を崩すほどの話じゃない。じゃあ俺の立場から知りえた情報を不自然なく伝えよう。

 

「私が知っている事は……先生が生徒のカウンセリングのようなことをしている、という事だな」

 

「カウンセリング?」

 

「今の学園生活に不安がある者、友人関係に疑問がある者、立場に潰れそうになっている者……その他にもこの土地には多くの悩み事を抱えている生徒がいる。ちょうど今の君みたいにな。先生はそう言う人物を見つけて、普通に接しているようにしながら本人で解決できるように手助けをしている」

 

「……難しい、普通にこうして相談したらダメなの?」

 

「そう口に出せない子も居るって言う事だ」

 

 あんまり理解できないのか首を傾げ耳を倒す砂狼シロコを横目にCPUをフル稼働。合間にお菓子をつまんで補給することでエネルギーを保つ。

 

「君の先輩の話では無いが……余りにも無理をして体を壊しそうな子が居てな、立場もあり弱音を口に出す事も出来ない。そう言う生徒に先生は“シャーレ”の業務と言う名目を作って時間を作り、リフレッシュさせてあげたりしている」

 

「いいの? それって」

 

「あまりよくは無いが……問題点と言っても先生の仕事する時間がバリバリ伸びる程度だ。生徒側が気にするようなことじゃない」

 

 少しずつ理解している砂狼シロコを見ながら言葉を選んで伝える。

 生徒の方に責は無いよ、全部先生が勝手にやってることだからねぇ~仕事1割私事9割くらいで動いてるからねぇ~あの人。

 

「と、前置きが長くなってしまったが俺が知っているのはそんな行動をしている先生が小鳥遊ホシノを気遣っていた、という事だ」

 

「じゃあ……ホシノ先輩、前のあれが……聞いてこないとっ!」

 

「待て待て待て!」

 

 今にも駆けだしそうな砂狼シロコを呼び止めてどうにか話を続ける。

 

「先生は必要だったら他の生徒にも声を掛ける」

 

 たぶん、という前置きがつくけどな。

 

「だから何か問題が有ったり、君たちアビドスの力が欲しいときはそれとなく言ってくるはずだ」

 

「…………」

 

「先生を信じろ。あの人は……君たちの頼れる大人だろう」

 

「…………ん」

 

 少し落ち着きを取り戻した砂狼シロコの前にお菓子を差し出す。夜飯前の時間にお菓子は本来やめておくべきなのだが、甘いものは癒されるからな。

 今の彼女には必要だろう。

 

「…………」

 

「それで、聞きたいことは聞けたか?」

 

「聞きたいことは、聞けた……だけどどうしたらいいか分からない」

 

「どうしたら?」

 

「ホシノ先輩は私たちの気づかない心の傷を負ってた。それを知ってしまった私は、どうにかしたい。一緒に背負いたい」

 

「そこからの話は俺には出来ん。君たちアビドスに関して深く知っている訳じゃない」

 

 心の傷を負っている事は確かだろう。今回の件か、それとも()の件か。

 猶更俺が触れることは許されない。負い目がでけえよ。

 一般論で流させてもらおう。

 

「月並みな事しかいうことが出来ないが……気遣う必要は無いと俺は思う」

 

「どうして?」

 

「先生が動いているから、というのと……心の傷を癒すのは日常の時間が一番効く」

 

「…………むしろ、何もしない方が良いってこと?」

 

「どうしてもというのなら止めはしないが」

 

「ううん、一度先生にも聞いてみるけど……そうする」

 

 ……思ったよりも素直に聞いてくれたな? 

 小鳥遊ホシノのケアをしている先生の邪魔をしたくなかったのは本音だし、日常を過ごすのが一番心を癒すというのも本音だが……ほぼ初対面の俺の話をちゃんと聞いてくれるとは思わなかった。やっぱりこの立場の信用度はすごいな。

 

「でも一つだけ……」

 

「なんだ?」

 

 据わった目をして……重要そうな雰囲気だな。

 

「ホシノ先輩、先生とべたべたし過ぎなのは流石にどうかと思うんだけどそれはどうしたらいい?」

 

 知らんわ。

 そんな真剣な表情をされても知らんわ。

 この流れでする質問でもないと思うんですけど。

 別にいいんだけどね? この質問に答えなんて無いでしょ……雑で良いか。

 

「そこに関しては同じように距離を詰めれば良いと思う所存であります」

 

「急に口調が変わった!?」

 

 おっと、雑にし過ぎて超過稼働気味のCPUにエラーが。

 

「コホン。君も先生と仲良くしたいという事だろう、簡単な事でも、趣味の話でも先生と話をして小鳥遊ホシノと同じように距離を詰めれば良い。先生と生徒が仲良くする分に問題は全くないし……君も小鳥遊ホシノと先生が仲良くしてることに関して悩みを抱えている訳じゃないだろう?」

 

「……ん」

 

 あれ? 一瞬間があったような……

 

「ホシノ先輩が自分から頼って来てくれるまで私たちはいつも通りに接するし、頼って来てくれないなら……遠慮する必要も無いよね」

 

 ……良し! ともあれこれで相談完了だな。

 

【case6『砂狼シロコ』終】

 

 さて、本格的に良い時間に成って来た。砂狼シロコが家に帰るにはそろそろここを出ないとマズイことに成る。

 

「さて、君はそろそろ帰ると良い。私も夜飯を食べに行かなくては」

 

「そうだね……この時間でもいないってことは、先生は今日帰ってこないのかな?」

 

「そう、だな……遅くなると連絡は有ったが」

 

「仕方ない、今日は帰るね。相談に乗ってくれてありがとう警備員さん」

 

「構わない」

 

 砂狼シロコが自転車に乗って去っていく

 

 ……マジで自転車で来たのか、あの距離を。

 アビドスの明日は分からない。先生の人間関係は複雑骨折以上に難解を極めてきた、そろそろ並みの人間ならばオーバーヒートしてもおかしくないのだが……ヤバいなあの人。

 

 予定通り酒でもキメて今日は寝よう。明日の業務が山盛りだからな……

 

 

 

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