シャーレ警備員は相談役……? 作:絆ストーリーを増やし隊
やっとの思いで漕ぎ着けた夕食。適当に居酒屋に入ろうと考えぶらりぶらりと歩いていたのがが運の尽き、青髪の横乳丸出しに絡まれ適当なおでん屋台に強制的に連れ込まれたのだった。
【case7『“ゲヘナ風紀委員行政官”天雨アコ』魔の手から守りたい!】
「ちょっと! 聞いてるんですか!?」
うん、聞いてるしキレそうだよ。
「うんとかすんとか言ってください! あなた表情がないから無言だとなにも分からないんですよ!」
「……はぁ」
「溜め息! 溜め息つきましたね!?」
溜め息も吐きたくなるだろうさ。仕事終わりに? 精神すり減らしながら生徒の相談に乗って誘導し? 今度こそ酒飲むかって時に半分拉致のように屋台に連れ込まれてこの調子で捲し上げられてたら不機嫌にもなるだろうさ!
第一に
ふぅーふぅー……ビークール、ソークール……
もう腹が限界だ。屋台の親父に大根と糸こんにゃく、たまごを注文し横乳へ顔を向ける。
「お前今何時だと思ってんだ、こちとら仕事は終わってんだよ」
「……その事に関しては謝罪しますが、こちらとしても緊急事態ですので」
「なぁにが緊急事態だ。さっきから話を聞いているにだが……空崎ヒナが急にオシャレし出したり、香水を日頃からつけるようになったりしたって話だろう」
「緊急事態じゃ無いですか!!」
「緊急性が何も分からんわ! 話を聞いて欲しいんだったらもっと理知的に、相手に敬意をもって話せバカモン! 理解して欲しいと言う意志が全く見えんぞ」
屋台の親父からおでんを受け取って一口。
……うめぇ!? 大当たりじゃん!? さ、酒がほちぃ……
「く、くぅ……っ!」
「いや“くぅ……っ! ”じゃないんだが……まるで完封されたような雰囲気を出すのを止めてくれないか? 普通の事言っただけだろう」
「あなたの言葉は、一理ありますね」
「一理認めれたのは偉いぞ。多分十理はあった筈だからもっと飲み込んでいけ」
「ですが! ヒナ委員長の異変の前には全てが霞みます」
「霞んじゃったかぁ……常識……」
目がイッてる……もう怖いよこの子。というか何でこの地区にいるんだよ……ここゲヘナじゃないんだけどさ。こういう劇物は産地で封印しておいてくれないと困るよ~
まぁ、絡まれたのはもう無かったことには出来ない。ノンアルコールなのにインアルコールより面倒そうな天雨アコの話を聞くとしよう。
適当に聞いてたら満足してくれないかなぁ? 無理か。
追加で牛スジと餅巾着、たまごを注文する。
「異変って何だ」
「もう伝えた筈ですが?」
「オシャレなんぞ誰でもするだろ。高校生なら」
「いいえ、ヒナ委員長は最低限の身だしなみを整える事はしますがそれ以上となると“無駄だから”なんて言って……うぅ~! どれ程頼んでもやってくれなかったんです!!」
この子マジで酔っぱらってないのかな? テンションが酒飲み何だけど。
餅巾着を一口……出汁が染みてる~餅と巾着うめぇ~
「なる程なぁ、願ったり叶ったりじゃないか」
「それが私のお願いを聞いてくれた結果だったら私もとやかく言いません! ですが……タイミング的にあの男が関与しているとしか思えないんです」
「あの男……先生か?」
天雨アコは肯定を示す様にオレンジジュースをイッキ飲みした。
コトリとグラスをテーブルへ戻し、次の一杯を大将へ催促しながら怒りやら何やらが混ざった涙目でこちらを睨みつける。
「あなた、シャーレの警備員でしょう。あの男がヒナ委員長へ何をしたのか知っていませんか!?」
「えぇ……」
あぁ、これそういう?
「私には分かってるんです! あの大人である先生がうちのヒナ委員長をたぶらかしかどかわし、穢れ無き純白を自らの色に染め上げようとしてることぐらい!」
「凄い妄想力だ。後先生に謝ろうな? 風評被害はなはなだしいから」
「じゃああなたは胸を張ってそんなことはないと言い切れるんですか!?」
「そんなの当たりま───」
その時、脳裏をよぎった“香水”の二文字。
「今、言葉に詰まりましたね」
「……そんなことはない」
くっ! 事実無根ではないと知ってしまっているばっかりに!!
「いいえ、有能な行政官である私には嘘は通用しません」
「行政官ってそういうものだったか……?」
「ともかく! 何か知っているのならきびきび吐いてください。最近ヒナ委員長が男物のスーツカタログ何て見出したりしていてもう私は気が気じゃないんです!」
何やってるの空崎ヒナ……?
自分で着る用……じゃないな、まさか先生用か!? プレゼントする気か!?!? 先生を自分好みに染め上げる……いいや違う、あのキーホルダーへの対抗心か!
まぁ、見て妄想しているだけだろうけどその姿を見られるなんて余裕がないみたいだな。
「まさか先生に男装女子性癖があったなんて……ヒナ委員長の男装……じゅるり」
天雨アコはどんな勘違いの結果そうなったんだ。
いっそのこと勘違いのまま置いておくのが一番楽か? いいやその前に着地点はどこにあるんだこれ?
追加で大根とはんぺん、つくねにたまごを頼みながら探りを入れる。
「不本意ながら先生が空崎ヒナに影響を与えている事は認めよう。だがな、それによって起きる不具は発生し得ないと思うのだがどうだろうか」
「ヒナ委員長が染められているだけで大事件なのですが」
「人間関わりを持つだけで何かしらの影響は与え合うものだろう。諦めろ」
「うわあああああ!!! ヒナ委員長ぉ!!!」
やべぇな、思ったよりも話が前に進まねぇぞ。とにもかくにもこの天雨アコは先生が空崎ヒナに大きな影響を与える事に恐れている。手遅れだろという感想は一先ず置いておいてまずは妥協させよう。
はんぺんを齧りとって、一旦落ち着いてから話を続ける。
「まあまあ落ち着いてくれ、このままでも君が得するかもしれないだろ」
「得ですか?」
「さっき言っていた男装の件もそうだが、空崎ヒナの思いがけない一面を見ることが出きる、そういう機会を提供してくれていると、そう思えば幾分か楽になるのではないか?」
「いや、ですがそれは……どうなんしょうか」
「納得できなくても今さら先生と空崎ヒナを引き剥がすのは難しい。それは君も分かっているだろう」
「……いえ、先生を仕事にがんじがらめにした上でゲヘナに関する事の窓口を強制的に私だけにすればなんとか」
「無理な想定はやめておけ?」
暴走の引き金が軽すぎないか? ちょくちょく話に聞くに思い込みが激しいなこの子。
「あぁ、そうだ。君も先生とよくからむのだろう」
「仕事でしかたなーく、ですけどね」
先生のコミュ力でここまで嫌われている? のは凄いな。大概の相手は警戒心がゼロになるのに。
それでも先生は関わり続けるだろうし……歪んだ方向にいかないと良いけどな。感情。
「君の要望を通すために先生を利用するというのはどうだろうか」
「……どういう意味ですか」
お、目が据わってるけど興味を持ったな。
「簡単な話だ。君が先生と関わりを持ち、さりげなしに空崎ヒナに合う衣装やアクセサリーの提案をする。先生がそれに同意すれば先生がそれを空崎ヒナに伝える。空崎ヒナは先生の言うことなら……と通る可能性がある。どうだ?」
実際問題先生が言ったところで恥ずかしがってやらない可能性の方が高いが……もうこの場を凌げれば何でもいいや。酒飲ませろ。
「私が言うより先生が言った方が話を聞いてくれるという現状に大きな不満を感じますが……良いでしょう。試す価値はありそうです」
「これにはまず手始めに先生を自然な流れで納得させる必要があるのだが大丈夫か?」
「ふ、私を誰だと思っているのです。優秀な行政官である私の手に掛かれば赤子の手を捻るようなもの……掛けてもいいですよ!」
「遠慮しておくが自信があることは良いことだ」
こうして先生の魔の手から守ろうとした衛兵はその魔の手を利用し、自らの欲望を掴み取る事を選んだとさ。
【case7『天雨アコ』終】
ええんかい。
まぁいいや、元より俺の得にはならなそうな相談だったし適当で良いんだ適当で。俺に解決できるような内容でもなかったしね。
「さて、話も纏まったことですし」
おう、かえれかえれ。明日も仕事だろうあんたも。
「これとこれとこれとこれください」
食うんかい。
「帰らんでいいのか」
「何ですか、私が食事することに文句でもあるのですか」
「無いが……終電まで時間もないぞ」
「ぱぱっと食べて向かえば良いのです。最悪迎えを要請すれば良いことですし」
「権力の私物化だな……」
「人聞きの悪いこと言わないでください!」
それにしても……えぇ、帰らんのか……酒飲めないじゃん。
もうええか、このおでんが旨すぎて全部許せる。大将、たまごくれ。
「適当に店を選びましたが当たりでしたね……」
「あぁ、旨い」
「今度チナツも連れてきてあげましょうか」
「俺も先生を連れてきてやろう」
そんでもってその時こそ酒を飲もう。
いそいそとおでんを食い終わり俺達は解散した。
終電にはギリギリ間に合うようで可哀想な風紀委員は誕生しなかった。よかったよかった。この時間に呼び出しとか俺ならキレるね。
家に帰る前に一度だけシャーレの仕事用端末を確認。案の定先生からメールが届いていた。
一応確認だけしておくか……なになに……生徒拾った……?
???
??
なんて?????? 拾った???? 拾うもんだっけか生徒って?????
速攻で電話をかける。
待ち構えていたのかワンコールが終わるくらいで電話が繋がる。
“待っていたよ”
「強キャラ感出しても無駄です。自首してください」
“……誘拐じゃないからね? ”
「良かったです。まずは一安心と言ったところですね」
“信頼関係!? ”
声の感じからして外か、ミレニアムにはもういない感じかな?
「で、何ですかあの訳の分からんメールは」
“あぁ、その事なんだけど……『廃墟』って知ってる? ”
「『廃墟』?」
確か……ミレニアムの自治区にある未開発地区だったか。危険な自動機械がうろちょろしてるという。
カイザーも幾らか手を出していた筈だ。だが俺は絶対に近寄るなと部隊に配属されなかったのでよくは知らない。
「名前だけですね」
カイザーから情報を制限されているので本当に言葉通りになる。
“調べる事って出来るかな? ”
「シャーレの権限を使えば何とか、えっまさか拾った生徒って……」
“想像通りかなぁ”
「迷い込んで……とかですか」
“それが違うんだ、眠り姫って感じで”
なんだそら。
「調べるには現地にいかないといけませんね……今日は帰ってきてますね?」
“うん、明日また行くつもり”
「書類仕事……」
“……ユウカに手伝って貰う約束をしておくよ”
「当番分の予算捻出しておきますね……っと、じゃあ明日行く時に俺も同行します」
“よろしく”
通信を切り、頭の中で予定を組み立てる。時間的余裕は充分だけど『廃墟』、『廃墟』かぁ……
なんとも言えない感覚を内に感じながらゆっくりと帰路を歩いていく。
夜風が少しだけ強くなった気がした。