それいけ! 魔虚羅くん   作:まこーら

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入試編
第1話:魔虚羅


とある年の冬。

厳密に言えば正月を過ぎ2月に入ろうとする頃。世間は受験シーズンを迎えていた。

 

今年の冬は特に厳しい寒さとされ、都心付近では雪がちらつく程度ながら振っている。それでも極寒であることに変わりなく、この時期になると子供も大人も揃って着込んでいる。

 

今日もそんな冷え込む日。ただ頑張る彼らを応援するかのように日が優しく照らしてくれて、いくらか暖かい朝を学生は、そして雄英高校の入場手続き口に立つこの男は迎えていた。

 

 

「……~鋭児郎さんね。確認完了、頑張って! はい次の人ー」

 

 

受験票を受け取り、確認し返す。雪崩のようにやってくる学生を次々と男は雄英へと迎え入れていく。

試験を迎えた雄英、今日の男の担当は受験票確認、入場案内だ。

 

 

「……はい確認完了! 頑張って!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 

学生の元気のよい返事に男は微笑みで返す。

入場手続きを担当して10年にもなるこの男にとって、学生と触れ合うこの一瞬一瞬が1年間での楽しみになっていた。

 

(有望な子たちを見ると、なんでか自分も元気づけられるんだよな~)

 

 

雄英の門を叩く学生は有望な子どもが大半だ。それでいて人間性も優れた子たちばかり。

そんな純粋で綺麗な彼らとの触れ合いは老いた身体に活力を与えてくれる。

冷え着いた身体をも温めてくれるだろう。そう思っていた矢先だった。

 

冷え着いた身体を温めていた日の光が遮られ、大きな影の中に身体が入り込む。

途端に冷凍庫にでも投げ入れられたかのように男の体はガチガチと凍りついた。

 

 

(さっむ! こんなに寒くなるならもっと着込んで来れば良かったよ……)

 

 

冬の寒さはここまで厳しいモノかと男は身震いする。いつまで経ってもその寒さに慣れるような気はせず、震えが止まらない。

とは言えただ震えていては仕事が溜まる一方だ。観念して男が再開しようと見上げた。

 

 

 

そこには、()()があった。

 

 

 

「ひっ⁉」

 

「……」

 

 

視界に入った者の存在への恐怖から男はその場で尻餅をつく。

身長は2mを優に超え、およそ中学生のものとは思えない鍛え上げられた白き肉体は1種の尊敬すら抱かせる。

 

しかし、そんな尊敬も一瞬にして消え失せる。人で言うなら目に当たる部位からは左右2対の翼が生え、胸の上部には巨体に似合わない程小さな鎖が縫い付けられている。

 

剥き出しの歯と吊り上げられた口角。そして頭上には身体の一部とは到底思えない舵輪のようなものがその巨体と見えない糸で結びついたかのように浮かんでいる。

それら構成する全てが眼前の存在を異物だと認識させる。

 

 

(この止まらない震えと寒さは天候だけのものじゃない⁉ なんだこの……この……)

 

 

一言では表しようがない眼前の存在。異物ながら純粋すぎるもの。ある者は崇め、ある者は忌避を示すだろう。

ただ一つ。長年ヒーローの卵と触れ合ってきた男の本能がその存在を「危険なもの」だと訴えていた。

 

 

「……あの」

 

「ヴ……ヴィランだァーー⁉」

 

「え」

 

 

掛けられた言葉など耳に入るわけもなく、男は声を絞り出し叫ぶ。

整列していた学生らは状況もわからないまま、入り口前の2人を避けるように出来る限り後方へと下がっていく。

 

 

「ヴィランって……あのヴィラン?」

 

「天下の雄英にヴィランなんてくるのかよ、捕まりに来るもんじゃんか」

 

「でもアイツの見た目的にヴィランでも可笑しくないし……」

 

 

 

突然の事態にざわつきだす学生たち。そのざわめきが伝播するより先に、現場に2人のヒーローが到着した。

 

 

「あっ、ヒーローが来たぞ!」

 

「プレゼントマイクとセメントス! ここで本物が見れるなんてツイてるぜ!」

 

 

 

「ヘイヘイヘイヘイ! ホントにヴィランなのかよ⁉ コエー顔してるぜ!」

 

「相対するだけでこの悪寒……並みの相手じゃない。イレイザーを呼んだ方が良いのでは?」

 

「もう呼んでるっての! 今は俺らでコイツの足止めすんだよ……ヘイ、そこの……ボーイ?ガール? 俺の声聞こえてるか?」

 

「……」

 

「少なくとも聞く耳は持ってなさそうですね。一先ず私の個性で固めます!」

 

 

セメントスは個性発動の為に地面に手を着こうとする。

その瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い駆動音が宙に浮かぶ舵輪の回転と共に響いた。

 

 

「ッ⁉」

 

 

突然の動きにマイクとセメントスは後方へと距離を取る。

目の前の存在の動きに2人は警戒するも、舵輪が一度動いたのみでそれ以上の動きは無い。

辺りが静けさに包まれた頃、異物と認識されるそれは口を開いた。

 

 

「……すみません、状況に慣れるのに時間が掛かりました」

 

「普通に喋れるのかよお前……」

 

 

舵輪の駆動と眼前の存在から丁寧な言葉が飛んできたこと。2重にプレゼントマイクは驚く。

 

 

「何分人と話すこと自体が久しぶりだったんで」

 

「どんな生活してたらそんなことになるのかね……」

 

「その、諸事情がありまして。それでさっきの人を驚かしてしまったみたいで……すみません」

 

 

その異物のような巨漢は表情は変わらないものの、申し訳なさそうな様子を見せ、尻餅をついたままの男に手を差し伸べる。男は顔を引きつらせながらもその手を取り、立ち上がった。

 

 

「俺は今日受験する為にここに来ました。ヴィランじゃありません」

 

 

そう言って巨漢は受験票をマイクらに差し出す。そこには彼の顔写真が載った上で、所属学校・雄英高校の印鑑まで押されており偽造の可能性は無い。眼前の巨漢が雄英高校の受験生であることに疑いの余地はなかった。

 

 

「……マジでただの受験生だったな」

 

「申し訳ない。緊急の呼び出しだったとは言え、人生の掛かった試験を前にこのようなことを……何とお詫びすればいいか」

 

「別に構いませんよ。こういうの慣れてますから」

 

「そう言ってもらえると助かるぜ。えっと……その、ま……ま……なんて読むんだコレ」

 

 

「──────誤解は解けたみたいだね」

 

 

マイクが受験票に載った名前の解読に難航していると背後から言葉が飛んできた。

声がした方を見ると、服を着たネズミ──根津が立っていた。

 

 

「根津校長!」

 

「いかにも。私が根津校長サ」

 

「すみません校長。試験日にこのような事態に……」

 

「君たちも君たちの仕事をしたまで。怪我人が出るようなことにならなくて良かったのサ」

 

 

根津は係員に入校手続きを再開するように伝えると、止まっていた人の流れが再度動き出す。

呆然として立つ巨漢に根津は近づいて言葉を掛けた。

 

 

「ようこそ雄英高校入学試験へ──────魔虚羅くん」

 

 

 

 





筆がノッたりしたら続ける予定。

魔虚羅の一人称

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