それいけ! 魔虚羅くん   作:まこーら

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第2話:適応

入場ゲートでのトラブルは収まり、魔虚羅を含めた学生らは問題無く事前説明を受け終わり各試験会場へと向かう。

巨人が通るのかと思える程巨大な扉を前に、試験開始を今か今かと待つ彼らをプレゼントマイクとセメントスは高台から眺めていた。

 

雄英高校のスタートを出す時間は会場担当者に(常識の範囲内で行うことを前提に)任されている。

本会場にて、そんなスタートを出す係が2人なのである。

 

 

「多少のトラブルはあったが試験は定刻通り始められそうだ。マイク、準備を」

 

「おうとも! にしてもこうやって見るとアイツマジで目立つなー。個人的注目株だぜ、アイツは」

 

 

高台の下を見下ろすマイクの視線の先には魔虚羅がいた。

 

ゲート前でスタートを待つ学生の集団。その中でもずば抜けた体躯を持つ魔虚羅はその容姿もあり、ひときわ目立っている。20m近くある高台の上からも視認出来るほどだ。

言わずもがな存在感もある為、魔虚羅の隣合う人は一定間距離を取っている。

 

そんな光景を前に「アイツは只者じゃない……」なんてわかってますよ顔でニヤつくマイクの様子に半ば呆れたようにセメントスはため息を吐く。

 

 

「私も気になりますが……校長からも言われたでしょう。『色眼鏡で彼を見ることの無いように』と」

 

「そりゃ言われたがよ、別に「校長とのコネがあるから注目してる」……なんてクソみたいな理由じゃねぇよ」

 

「わかってますよ。ただ公平な視点を持って試験監督は行うべきということです」

 

「ヘイヘイ真面目だねお前は。言われなくてもそのつもりですよ」

 

「……時間ですね。マイク」

 

「あいよ!」

 

 

マイクは首に付けたスピーカーの調子を確認すると、高台の踊り場へと身を乗り出す。

 

 

『はいスタートォォ!!』

 

 

スーッと大きく息を吸い込むと、その空気を一息に。始まりの鐘を告げるべく吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいスタートォォ!!』

 

 

「……!」

 

 

ざわつくゲート前。何の前触れも無く、スタートの合図が響き渡る。

それと同時に魔虚羅は一目散に飛び出した。

 

 

 

ドシンドシンドシンドシンッ

 

 

 

足にエンジンがあるわけでも、タイヤがあるわけでもない。技術なども特に見られないただの素走り。

されどその一足一足が大地を震えさせる。

 

圧倒的力、それにおまけするように付いてくるスピードが魔虚羅の身体を先へ先へと進めていく。

その様はさながら重戦車。突然のスタート合図、およそ人と認識できない程の存在の突出に学生らは呆然と立っていた。

 

 

『ほらどうしたどうした! 試験はもう始まってンぞぉ!』

 

「……やばッ」

「いけいけいけいけ! 後ろ詰まってんだよ!」

 

 

眼前の異物の動きに目を奪われていた学生らも一歩遅れて動き始める。

ただ遅れた一歩はあくまで時間的な一歩。原付程度のスピードであれば出すことの出来る魔虚羅との距離は既に大きく開いてる。

 

スピードに優れた者を除き、魔虚羅は他の学生ら大きくリードを取ったまま試験場の内部へとたどり着いた。

 

 

「……市街地、か」

 

 

魔虚羅が面する大通りはコンクリート舗装、車道には白線・標識も用意されている。側方には見渡す限りの商業ビルが乱立しており、都心の街並みが完全に再現されている。

 

それでいて圧倒的に「人」が足らない。無人の都市と称するのが相応しい場だった。

 

 

 

 

ガガガガガガガガ……

 

 

 

「……」

 

 

 

そんな物音一つ経たないような場において機械の駆動音が小さく響く。

 

その音は次第に大きくなり、その発生源は建物の影から姿を現し魔虚羅の前に現れた。

 

 

『ガガ……目標発見』

 

「あれが試験の標的、仮想敵か」

 

 

魔虚羅の前に現れたのは緑色の鉄装甲をもったロボット。キャタピラの脚に鳥類のように長い首、小型の頭部にはモノアイが光り対になった腕部の先からは爪のような突起が生えている。

 

本試験である「雄英高校ヒーロー科入学試験」は倍率300倍をも超える大規模試験。全国から1万人以上の志願者が集まるこの試験において、効果的かつ効率的に志願者を秤にかける手段として「仮想敵撃破のレース」が選択されている。

 

試験場の仮想市街地には1~3Pが割り振られた仮想敵であるロボットが配置されており、その撃破数を学生らは競う。

魔虚羅の前に現れたロボットには装甲上に『1P』のペインティングが為されていた。

 

 

『標的捕捉、ブッコロ……』

「まずは一体ッ」

 

 

ロボットが攻撃の姿勢に入るよりも先に魔虚羅は間にあった数メートルの距離を一瞬で縮める。

この素早さは彼の個性に起因するものではない。その恵まれた体躯が為す順当な力だ。

 

ロボットの懐に入った魔虚羅は前傾姿勢を崩し、拳を突き上げる。

その拳はロボットの装甲をスナックのように容易く貫いた。

 

 

『ス……ススス……』

 

(案外脆いな。最低点数の敵だからこんなものなのか?)

 

 

魔虚羅は手ごたえの無さに首を傾げつつ、火花を散らすロボットの残骸を道端にはたき落とす。

堅そうな見た目をしていた分、相反する柔さを体感すると認識がバグるアレである。

 

 

『目標発見!目標発見!』

 

『標的捕捉!標的捕捉!』

 

 

そうこうしている内に魔虚羅の下にロボットが押し寄せる。

数は7体。1Pのような爪ではなく分厚い装甲にトンカチを携えたモノ、ガトリング砲台を備え付けたモノもいる。

 

一本道の大通り。魔虚羅の四方はロボットに囲まれた。

 

 

「トンカチとガトリング……説明にあった2Pと3Pだな」

 

『ブッコロス!』

 

「ッ!」

 

 

魔虚羅の背後から放たれた銃弾を数発背に受けたところで、魔虚羅は銃撃の直線上から離れる。

実際の弾丸ではない為致傷性は無いものの、常人ならば痣が幾つも残るものだ。

 

何も魔虚羅も痛みと無縁の存在ではない。弾丸を背に受けた痛みは走る。

それでも魔虚羅の白き身体に痣を残すには優しい弾丸だった。

 

 

「いってぇ……ガトリングの奴らをまず倒したいが」

 

『ブッコロス! ハンマー!』

 

「まずはお前らだよな!」

 

 

正面2体の2Pロボット、仮称『トンカチ』が振り下ろしてくる2つの拳を魔虚羅は己の拳を持って迎え撃つ。

拳と拳の押し合いは魔虚羅に軍配が上がる。魔虚羅の拳はトンカチの拳を突き飛ばし、姿勢を大きく崩させた。

 

それでも完全に優勢というわけでもない。

先ほどの1P敵の装甲を貫いた時には感じなかった痛みが僅かに魔虚羅の拳に伝わっていく。

 

 

(馬鹿正直にトンカチとやり合うのは微妙そうだな……ッ)

 

 

魔虚羅は跳躍すると姿勢を崩したトンカチに向けて拳を振りかざす。それを止めさせまいと銃弾が飛び交うも魔虚羅は臆することなく渾身の右ストレートを叩き込んだ。

 

その拳はトンカチの装甲を大きく凹ませ、火花を散らさせる。その装甲を貫くことは叶わなかったものの1体は沈黙。即座に隣で体勢を持ち直しかけていたロボットにも渾身の蹴りを頭部に食らわせ、活動停止させた。

 

 

「……今度のは堅いな。2Pでこれなら3Pはもっと……チッ」

 

 

トンカチの残骸を足場に立ち上がろうとする魔虚羅に向けて弾丸の雨が飛び交う。今度の弾丸は一方からではなく、三方から。正面が建物の魔虚羅に逃げ場は無くなっていた。

 

 

「地味に痛いんだよ、それ……!」

 

 

 

ギ……ギギギ……

 

 

 

頭上の方陣が鈍い音を奏で始める中、魔虚羅は防御の姿勢を取ることなく3Pロボット、仮称『ガトリング』目掛けて駆け出す。

 

ガトリングとの距離は数メートル。魔虚羅の拳が届くには十分な距離。

けれどその拳はどこからか湧いてきた1Pロボットに阻まれた。

 

 

『ブッコロス! ブッコロス!』

 

「邪魔!」

 

 

増援でやってきた1Pのロボットの猛攻をいなし、撃破しつつ魔虚羅は体勢を立て直す。

残る敵は3体、ガトリングだけだった。

 

その銃口は全て魔虚羅に向けられる。逃げ場も遮蔽も道のど真ん中には無い。

弾丸の雨は必中。この状況を見ている者がいたなら皆そう思っただろう。

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガコンッ

 

 

 

ガコンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い駆動音。

方陣は2度、回転した。

 

 

 

『ブッコロス!!』

 

『ガトリング!!』

 

『フットベーェ!!』

 

 

 

無数の弾丸が魔虚羅の身体へと飛んでいく。魔虚羅はそれらを避ける素振りも見せず、ただ立ったまま。

弾丸は魔虚羅の身体に全て命中した。

 

 

 

そう全て命中し、それらの弾は全て()()()()()()()

 

 

 

『ヌッ!?』

 

『ヌオッ!?』

 

 

跳弾となった弾丸は全て主である3Pロボット『ガトリング』へと帰っていく。その速度は先ほどの倍。

小型の弾丸はガトリングのカメラ、精密部分を貫き一瞬の動作不良を引き起こす。

 

魔虚羅はその隙を見逃さず、間合いを詰め拳と蹴りをガトリングに食らわす。

その一撃一撃は容易く装甲を貫き、その場にいたロボットすべてを沈黙させた。

 

 

 

魔虚羅の個性は『適応』。

時間経過等を経てあらゆる事象に適応し、その事象に対し有効な耐性・特性を獲得する。

シンプルにして明瞭。最強の後出しジャンケン!

 

 

この能力により魔虚羅の身体はガトリングの弾丸に適応、肌は弾丸をはじき返す『ゴムの肌』へと変化。弾丸を弾き飛ばす肉体を得た。

 

また方陣は2度回転した。この際にロボットの鉄装甲に適応、拳は鉄を貫くだけの強固な拳へと変化。2Pロボット相手には貫けなかった装甲も、3Pロボットの装甲を容易く貫いた。

 

 

装甲から貫いた拳を引き抜くと、魔虚羅はその場にすっと立ち上がる。先ほどまで静かで信号以外物一つなかった道路にはロボットの残骸が山積みになっている。

後方からする戦闘の音も次第に大きなものになっており、試験がヒートアップしていることが伺える。

 

 

「これでポイントは20弱……他の奴らに邪魔されないうちに稼がないとな」

 

『目標発見! ニガサナイ!』

 

 

路地に入り、次の大通りに向かおうとした魔虚羅の前にロボットが次々と現れる。

路地・屋上・店内、様々な場所から低ポイント・高ポイントも関係無く、現れたロボットの数は総勢10体。多勢に無勢という言葉もあるように素の状況なら苦戦もするかもしれない。

 

しかしながら今魔虚羅は『適応』している。適応した今の魔虚羅の前には玩具も同然。

魔虚羅が浮かべる常の笑み。その口角が更に吊り上がった。

 

 

「……こっちのセリフだッ!」

 

 

魔虚羅は駆け出し間合いを詰める。スピードは変わらず、パワーも変わらない。けれど適応したその身体から放たれる一撃は簡単にロボットの身体をえぐり、ガラクタへと変化させる。

 

それは近接用のロボットであれ、遠距離用のロボットであれ変わらない。

向けられたトンカチは正面から打ち砕き、放たれる弾丸はそのまま相手に返す。

 

『適応』を乗せた拳は、蹴りは次から次へとロボットを倒していく。

そうして1分と掛かることはなく10体の制圧を完了した。

 

 

「次だ」

 

 

残骸の山に気をくれることもなくただ先へ先へと進んでいく。

ひたすらに点数を稼ぎ、残骸を増やしていく為に。

 

 

 

その魔虚羅の圧倒的な様を傍から見ていた同会場の生徒は口々に言葉を綴った。

 

 

ある者はアレは「悪魔」だと。

ある者はアレは「神」だと。

 

 

人によって表現は様々。

けれど喜々としてロボットを破壊していく様を見た彼らに唯一一致した表現がある。

 

 

 

アレは「化け物」だと。

 

 

 

 

その後、事前説明に合ったお邪魔虫である0Pロボットが登場するも、魔虚羅が相対する前に何者かに撃破され試験終了。

合計敵P75P。入試成績2位を収め、魔虚羅の入学試験は幕を終えた。

 





ゲゲゲ見てきたので投稿遅れました。多くの評価励みになります。
2~3日に一回更新あればくらいで思ってもらえたら幸いです。

魔虚羅の一人称

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