それいけ! 魔虚羅くん 作:まこーら
報告してくださった方ありがとうございました。
「……もう朝か」
シャッターの隙間から差し込む僅かな光が魔虚羅の意識を浮上させる。
眠気眼(眼は無いが)で魔虚羅がベッドの傍にある時計を見ると、針は午前10時半を指していた。
魔虚羅は身体を起こし、ベッドから降りると部屋の外へと出る。
体長が体長だけに扉を通る際には少し屈まなくてはならないが、それ以外は魔虚羅の体躯に合わせた設計になっている。
ベッドや机等、着ているパジャマを除いて全て市販品で済んでいるのは世界に様々な体躯の人間がいるおかげである。
雄英高校の入学試験から早1か月。既に雄英高校から合格通知は届き、魔虚羅の雄英高校への進学は確定した。
今日は卒業と入学の狭間、気だるげに過ごす期間の中の1日。事前課題も特にない。
10代半ばの少年少女が唯一何もせずダラ着くことの出来る期間を魔虚羅もまた過ごしていた。
外から聞こえる鳩の鳴き声を聞き流しながらゆっくりと階段を降りる。
降りた先には薄暗いリビング、そして食卓の間が広がっている。
電灯は一つもついておらず、幾つかある窓のシャッターは全て降ろされている。階段横に付けられた明かり窓から漏れた光が唯一の光となり部屋の中を照らしていた。
「……」
魔虚羅は無言で部屋の中を歩いていく。
薄暗く静まり返った部屋には魔虚羅の他に誰もいない。
そんな部屋の食卓にはラップの掛けられた皿が数枚と、置手紙が一枚乗せられていた。
魔虚羅は特に何を思ったわけでもなく、皿を手に取るとキッチンのレンジの中へと移した。
ヴーーーン
使い古した電子レンジの振動が土台となっている物置に伝わり、うなりのような音が部屋に響く。
魔虚羅はそんな音を意にも介さず、お茶を入れて食卓へと戻った。
妙に意識を乱してくる電子レンジの振動音。
魔虚羅がそれに対し微動だにしないのは電子レンジの音に慣れたというのもあるが、何より魔虚羅の意識は先日の入試に向けられていたからだった。
「久しぶりの外の空気、新鮮だったな」
そう、魔虚羅にとって雄英入試の日が正真正銘久方ぶりの「外出」だった。
同年代が日常的に行くような学校も、コンビニも、映画館へも行かない。
普段から魔虚羅は外出は極力控え、基本屋内で生活している。
一般人であれば入試、それも超難関かつ高倍率ともなれば緊張する他ない時間を過ごすことになるだろう。
しかし魔虚羅にとっては緊張を越えて良い気分転換になる時間だった。
何故魔虚羅はそんな生活をしているのか。その理由は全て魔虚羅の身体的特徴が引き起こす事柄にある。
体長は2m50cm(現在成長中)、筋骨隆々の身体に人型の肉体でありながら異形の顔面。
そんな男が歯を剥き出しで街道を闊歩していたら待ちゆく人はどうするだろうか。
当然通報する。
その後は入学式の時よろしく、ヒーローを呼ばれ騒動に発展するわけだ。
その騒動が話し合いのみで解決出来ればまだマシだが、生憎魔虚羅の生活圏は関東圏である。都心から外れてはいるものの、都心を中心に関東ではヒーロー事務所が最もあるとされ、同業者が多いこの世界においても特に競争率は高い。
生き残るために手柄を求める彼らが聞く耳を持ってくれることは少なく、殆どの確率で荒事になる。そんな面倒に出かける度に合うのは馬鹿らしく、その他諸事情を含め魔虚羅は外出を避けていた。
面倒事が起きるのは所かまわず、学校でも等しく起きる。
その為中学校からは通信制に。それでも高校進学を決め、雄英高校への受験を決めたのは「母へ恩返しがしたい」という想いが魔虚羅にあったからだった。
魔虚羅はゆく先々で己の意志に関わらず問題を引き起こし、その責任は親に向けられる。
他児童の保護者、教師、警察、挙句の果てには見知らぬ人……向けられたバッシングに魔虚羅の父は耐えられなくなったのか産まれて数年で消息を絶った。
父が消えたことで二分されていたバッシングの矛先は全て母親に集中する。
それでもめげることなく、母は魔虎羅をここまで育て上げたのだ。
魔虚羅は母親と数年もの間言葉どころか、顔すら合わせていない。
それでも魔虚羅をここまで育ててくれたのは紛れもなく母親だった。
お金を稼ぎたいわけでも、名声を得たいわけでもない。
ただ母親に少しでも「産んでよかった」と思って欲しい。
そんな想いで魔虚羅は超難関、誰もが憧れる雄英高校の試験を受けるに至ったのだった。
ピロピロリ~
思い耽っていた魔虚羅の意識を電子レンジの音楽が現実に引き戻す。席からゆっくりと立ちあがると、催促の音を定期的に流すレンジの下へと歩いていく。
その途中で魔虚羅はある写真立てに目を止めた。
キッチンの端。汚れないよう小さなデッキのような場所に置かれた写真立てを魔虚羅は手に取る。
この家屋に唯一ある写真。それは幼少期の魔虚羅と母親がにこやかに笑い合う写真だった。
「母さん、俺受かったよ。雄英高校に」
誰もいない静まり返った部屋で魔虚羅はポツンと呟く。
身体は異形のそれ。けれど浮かべる表情は年相応の、人間味を感じさせる物悲し気なものだった。
それから更に1か月の月日が経った。
枝先に小さく縮まっていた蕾が開き桜舞い散る頃、春。
出会いと別れの季節というように、魔虚羅もまた雄英高校の入学式を迎えていた。
届いたグレーの制服に赤いネクタイを締め、魔虚羅は玄関に向かう。
(制服ってこんな子どもっぽかったか?)
魔虚羅は久方ぶりの制服に違和を感じつつも、雄英高校の制服を着れたことに僅かながら笑みを零す。
雄英高校への進学はあくまで母の為。けれど魔虚羅の心の片隅に、自分でも気づけない程のすみっこには雄英への憧れがあった。
その零れた笑みを魔虚羅は知らず、魔虚羅以外も知る由は無い。
今日もまた、家には魔虚羅以外誰もいないのだから。
「それじゃあ、行ってきます」
誰もいない家に魔虚羅は一言挨拶を告げる。当然返事は無い。
そんな寂しさも魔虚羅はいつしか慣れてしまっていた。それが個性によるものなのか、素の心身で慣れたものなのかは誰にも分からない。
少しでも学校生活が続けば良い。
そう考えながら魔虚羅は玄関をくぐり、久方ぶりの外へと身を乗り出した。
目指すは雄英高校ヒーロー科。
多忙だった為短めです。申し訳ない。
今週……来週くらいまでは忙しい日々が続くので、更新がやや遅めになるかもしれません。
ご容赦を。
加えてアンケートにも答えて頂けたら幸いです。
AもBも展開を考えてはいて、迷い中なので参考にさせていただけたらと思います。
魔虚羅のクラス
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A組
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B組