それいけ! 魔虚羅くん 作:まこーら
第4話:入学・邂逅
電車と徒歩を合わせて1時間と少し。極めて平均的な登校時間を経て、雄英高校へとたどり着いた魔虚羅を迎えたのは溢れんばかりの桜の木々と花びらだった。
桜の花道を魔虚羅をはじめとした多くの学生が歩いていく。
あの圧倒的倍率の試験を突破した学生のみが歩き、門をくぐることの出来るこの時期だ。試験の時とは比べ物にならない程歩く人の数は少ない。
それでも雄英高校はヒーロー科のみでなく普通科やサポート科などを併設しており、マンモス校としても知られている。
故に門までの道は都会の大通りよろしく学生でみっちり埋まっており隙間などは作り辛いこの状況。けれど魔虚羅の周囲だけは避けるように隙間が生まれている。
そんなことは気にせず魔虚羅は歩みを進め、雄英高校校舎へと続く正門に辿り着いた。
「今日から雄英生か」
こんな環境がクラスの中で、学校の中で日常になる。日常になれば良い方で悪化する可能性の方が高いだろう。
そんな当たり前が少しでも続けば、1日でも長続きすれば良い。
そんなことを思いながら入試の時と同じく、魔虚羅は正門をくぐった。
「クラスは1-A。教室は左の棟の……上の階か」
「何あの浮いてる奴……ヤバ」
「それよりあのデカさでしょ。顔もコエー」
(何処へ行っても、か)
周りの視線や声を気にすることなく、魔虚羅はその脚を進めていく。
彼らは皆子ども、何より雄英生だ。良識を備え持っている。差別などという意識は毛頭ないだろう。
それでも、彼ら自身も気づかない心の奥底にある恐れ・蔑みがヒソヒソ話す声や視線に乗って魔虚羅へと届いていた。
齢15の子どもであればこのような視線・言葉を貰えば当然落ち込む。場合によっては不登校、逆上ということにもつながる。
けれど魔虚羅はこんな状況には慣れた。慣れ過ぎてしまった。
魔虚羅にとってそんな言葉も視線も、生み出す人さえも極めてどうでもいいものだった。
「……カッコイイ!」
「……は?」
そんな中告げられた思わぬ言葉に魔虚羅は唖然とする。
先ほどまでの学生らしかり、恐怖や忌避を示すような言葉を想像していた。それが魔虚羅にとっての普通。
容姿を褒めるような言葉が飛んでくるとは思いもしなかった。
魔虚羅は自身の耳を疑いながらもゆっくりとその場を振り返る。
そこには体格は平均的、目を輝かせた緑髪の少年が立っていた。
「それ、本気で言ってるのか」
「本気です! ムキムキの筋肉にその笑顔……まるでオールマイトみたいだ!!」
周囲を見ても同意の表情を浮かべている者は一人もいない。
緑髪の少年を除き、ここにいる誰もがそんなことを思いもしなかった。
「オールマイトって……初めて言われたよ。やっぱり俺のこと馬鹿にしてるだろ」
「そんなそんな! 誰にも負けないという無敵の笑み、その雰囲気がその……オールマイトみたいなんです!」
そんなわけないだろ。なんて声が微かに魔虚羅の耳に入ってくる。
魔虚羅自身の思いもそうだ。
それでも魔虚羅の眼前の少年の目は、顔は嘘をついているようには到底見えなかった。
「……そっか」
「あ、僕緑谷出久って言います! 1年A組です!」
「俺もA組だ。名前は魔虚羅」
「魔虚羅君か……! よろしくね!」
緑谷はそう言うと手を差し出し、魔虚羅はその手を握り返す。
どこからが知り合いで、どこからが友人なのかは魔虚羅にも誰にも分からない。
けれどお互いを認め合ったこの瞬間を言うならば、魔虚羅にとっての初めての友人は緑谷になる。
そんなことを心の奥底で感じた魔虚羅の口角はほんの少しだけ上がった。
「それじゃあ行こうか魔虚羅君」
「ああ」
魔虚羅は頷くと、玄関を経て先ほどよりも人気の少なくなった廊下を緑谷と進んでいく。
長い長い廊下を数分歩くと「1-A」の表札の付いた巨大な扉の前に辿り着いた。
その扉の大きさは2m以上の体躯を持つ魔虚羅の背を優に超える。
これまで魔虚羅たちが通ってきた廊下もただ天井が高いというわけではなく、様々な体格の者が気兼ねなく学校生活を送ることが出来るような作りとして、いわば「バリアフリー」の一環として意図的に作られたものだった。
そんなことを魔虚羅はいざ知らず、教室の扉をガラガラと開いた。
「机に脚を掛けるんじゃあない!」
「一々突っかかってくんなクソメガネ!」
瞬間目に入る男子2人の喧嘩の様子。
1人は高身長で如何にも優等生な雰囲気を醸し出しているメガネ男子。
もう1人は若干とげとげした頭髪に初対面の相手に堂々と中指を立てる獰猛男子だった。
「大体何だいその着崩し方は! 校則違反だぞ!」
「うるせェな。俺のオカンかお前は」
「オカンじゃない! 僕は飯田天哉だ!」
「……初日の朝から凄いね」
「いいじゃないか、賑やかで」
「賑やかかなぁ」
教室に入るのも憚られる為、教室の扉の前でその光景を見守る魔虚羅と緑谷。
そんな2人の存在に口論していたメガネ男子が気づくと魔虚羅らの下へと向かってきた。
「おはよう! 君たちもこのクラスかい?」
「うん! 僕緑谷出久!」
「魔虚羅だ」
「俺は飯田天哉! よろしくな、緑谷君魔虚羅君!」
メガネの男子、飯田は2人に向け手を差し出す。
2人はそれが握手の手だと理解するとその手を握り返し、教室の敷居を跨ぎ中へと入っていった。
席に着いた魔虚羅と緑谷は談笑に花を咲かせる。
教室に置かれた机にはちらほらと空席が見られ、ホームルームの開始まではまだしばらく時間があるようだった。
「はぁ……入学式楽しみだなぁ。カメラとか持って行っていいかな!?」
「カメラって……そんなに楽しみなもんか? 入学式って大抵退屈なものだろ?」
信じられないことを言う目の前の男を見て納得いかない様相で魔虚羅は頬杖を付く
「普通の入学式ならそうなんだけど……なんたって雄英の入学式だからね! 有名なプロヒーローが沢山登壇するっていう噂がネットには広まってるんだ!」
「へぇ、ヒーローが出るなんて豪華だな。流石雄英」
「教師も皆プロヒーローだし最高だよ! 魔虚羅君は好きなヒーローとかいるの?」
好きなヒーローはいるのか。
その問いを緑谷が投げた途端、魔虚羅が放つ雰囲気が一変する。
見た目に反し比較的温和だった雰囲気が重く、冷たいものへと。
この時緑谷は本能で感じ取った。
触れてはいけない何かに触れてしまったのかもしれない、と。
「好きなヒーロー……か。尊敬できるヒトはいるが……ヒーローはいないかな」
「……そ、そっか」
(これ以上話を広げるのは止めといた方が良いのかも……)
「そ、それよりも魔虚羅君の個性ってどんな個性なの?」
「そう言えばさっきもそんなこと言ってたな」
「さっき聞きそびれちゃったし、良ければ聞きたいな」
緑谷の言葉に魔虚羅は一瞬身構える。
これまで人と交友を持つ機会が少なかった魔虚羅にも同じように個性を聞き出そうとしてくる輩は何人かいた。
ある者はいじめを容易なものにする為に。
ある者は善悪問わず計画に利用しようとする為に。
大抵碌なことはない。聞き出そうとしてきた輩を魔虚羅は全て蹴散らしてきた。
そんな過去がある中で、同様の言葉が緑谷から告げられたのだ。
身構えるのも必然だろう。
(少し話しただけでわかるくらいの人の良さ……アイツらとは違うか)
魔虚羅を貶めようとした者らと緑谷とでは雰囲気がまるで違う。
僅かな関わりの中であるが、人の良い緑谷であれば問題無いだろうという思考に切り替わり、しばらく黙った後魔虚羅は静かに頷いた。
「良いぜ、教えてやっても」
「本当!? あ、ちょっと待ってね……」
魔虚羅の返答に緑谷は喜びの表情を浮かべたかと思えば、急いで鞄の中を漁り出す。
鞄から引き抜かれた緑谷の手には一冊のノートが掴まれていた。
「? なんだそれ」
「ヒーローノート! プロヒーローとか知り合った人の個性をこのノートに纏めてるんだ」
「へぇ、後で見せてもらってもいいか?」
「勿論だよ! 魔虚羅君の個性を聞いた後でも大丈夫かな?」
「構わないよ。俺の個性は──────」
「──────悠長に会話とは非合理的だね」
魔虚羅の言葉を遮るように若干ドスの聞いた男性の声が黒板の方から魔虚羅らの耳に届く。
声のした方を見ると寝巻をたたみ、眠気眼に目薬を打つ気だるげな男の姿があった。
「えっ」
「誰……?」
「担任の相澤だ。よろしくね」
そう言う相澤の髪はボサボサ、全身黒づくめの服装に首元には帯状になった布が巻き付いている。
およそ教師の姿には見えなかった。
「先生……?」
「ほら時計、もうホームルームの時間始まってるから。お喋りの時間じゃあないんだよ」
相澤の冷淡な言葉に教室の喧騒はぴしゃりと止む。
「これからこのクラス最初のホームルームを行う。各自ジャージを着て、5分後にグラウンドに集合だ」
「グラウンド? 入学式は外でやるのですか?」
「それもジャージで?」
「質問には後で答える、テキパキ行動しろ。……それから魔虚羅」
相澤の指示で渋々行動を始める生徒らを横目に、相澤は魔虚羅を呼び止めた。
「お前は校長室に行け。グラウンドへは……都合が付けば後で来ればいい」
「校長室……ですか?」
「そういう指示だ。ウチの校長からのな」
「根津さんの……」
「何分多忙な方だ、早いとこ行ってこい」
魔虚羅は静かに頷くと、クラスメイトが向かうグラウンドとは逆方向へと小走りで向かっていく。
目指すは校長室、根津のいる元へと。
ジャンプフェスタとか個人的事情により中々更新出来てませんでした……申し訳ない。
年末忙しいですねホント。
それで従来ならこの後「個性把握テスト」のルートに入るわけですが、筆が重くなることこの上ない予感がします。活躍描くのクソムズそうですホント。
というわけで毎度の如くアンケートに回答お願いします。
個性把握テスト
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魔虚羅不参加でも良い
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魔虚羅には絶対参加して欲しい