それいけ! 魔虚羅くん   作:まこーら

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第5話:個性把握テスト 上

 

 

相澤の指示の下、魔虚羅は校長室の前までたどり着いた。

魔虚羅の眼前の扉はクラシックなデザインで高級感を味合わせている。それでいて簡素な廊下の風景から浮き過ぎない程度のものになっているのは職人の技だろう。

 

そんなことを魔虚羅気にすることなく、呼び出しの合図として校長室の扉を数回叩いた。

 

 

「どうぞ、入りたまえ」

 

「失礼します」

 

 

中の人物から了解を得ると扉を開け、魔虚羅は部屋の中へと足を踏み入れる。

応対用のソファとテーブル、その奥にある『校長』と名札が置かれたデスクに声の主である根津校長は座っていた。

 

 

「入学式以来だね。元気してたかい?」

 

「ぼちぼちです。お久しぶりです、根津さん」

 

「折角の機会に立話もなんだ。座って話そうじゃないか」

 

 

根津の提案に魔虚羅は頷くと応対用の席に腰を下ろす。

根津は2人分のお茶を組むと、机に並び魔虚羅の向かい側に座った。

 

 

「出張やら何やらが重なってね。中々時間が作れずすまなかった」

 

「お忙しいことは理解しています。それよりも今回の呼び出しの件は……」

 

「ああ。いつも通り経過の報告だ」

 

 

根津は魔虚羅の前にお茶を差し出すと、組んだお茶を一口飲む。

魔虚羅も差し出されたお茶を口に運ぶと渋くも落ち着く味わいが口の中に広がった。

 

 

「まず過去にあった一騒動の件だが清算が済んだよ」

 

「……その結果は?」

 

「お咎め無しだ。近隣に即時出動可能なヒーローがいなかったことや相手した敵が要警戒犯だったことが幸いした」

 

 

根津の言葉に魔虚羅は安堵のため息を吐く。

魔虚羅はその容姿故厄介事に巻き込まれる。それは年に数回しかない外出日も例外ではなくある時はヒーローに、ある時はヴィランに喧嘩をふっかけられるわけである。

 

おかげで外出はよりしづらくなり、魔虚羅の肌は女子も羨む真っ白肌になっている。

 

 

「毎度のことで慣れてしまったが……トラブル体質だね君は」

 

「身に染みて理解してますよ、ホント」

 

「それで次は……君のお母さんの件だね」

 

 

根津は鞄から複数枚の写真を取り出し机の上に並べて見せる。

「勿論盗撮じゃないからね?」と根津は断りを入れて並べたどの写真にも30台後半程度女性の姿が映し出されており、その女性こそが魔虚羅の母だった。

 

 

「君のお母さんは私が紹介した研究所で良く働いてくれているよ。会った当初と比べて大分落ち着きを取り戻して同僚との関係も良好のようだ」

 

「そうですか……良かった」

 

 

魔虚羅はほっと先ほどと同じくため息を吐く。

けれど魔虚羅の浮かべる表情は安堵しきったとは言い難い、複雑なものだった。

 

 

「その様子だとお母さんとはまだ?」

 

「ええ、根津さん……じゃなくて校長が母を助けてくれたあの日以来まともに会ったことは一度も」

 

「今まで通りの呼び方で良いとも。にしてもそうか、適度に家に帰らせるようにはしているんだけどね」

 

 

魔虚羅が眺める写真の何枚かには母が笑顔を零す姿もある。それ程にまで回復したことは喜ばしいものの、そんな表情を浮かべる母の姿を魔虚羅が眼前で見たのは擦り切れそうな程に遠い記憶の彼方。

 

或いはその記憶も作り物。人の思いが作り上げた紛い物に過ぎないかもしれない。

どちらにせよ母の姿を写真越しにしか見れないのは魔虚羅にもどかしさを感じさせた。

 

 

「……そうですか」

 

「……もどかしいだろうけど急ぎ過ぎてはいけない。ゆっくりと、着実に関係を修復していくんだ。勿論協力は惜しまないとも」

 

「顔に出てましたか。何から何まで……ありがとうございます」

 

 

魔虚羅は深く深く頭下げる。

 

 

「要件は以上だ。若人から青春の時間を奪ってしまったね、すまない」

 

「いえ、母のことも聞けて嬉しかったです」

 

「相澤君のことだろうからキツめなテストでもしてそうだけど……君なら大丈夫なのサ!」

 

「はい。失礼します」

 

 

魔虚羅は再度頭を下げると校長室を後にする。

 

小走りで廊下を駆け、相澤に言われた通りグラウンドに向かうとジャージ姿の学生がソフトボールを投げている様子が遠目に入った。

入学式はどこへやら、だだっ広い校庭の中1年A組の面々がテストに取りくんでいる最中だった。

 

周囲の視線を感じながらも気にせず魔虚羅は相澤の元へと向かった。

 

 

「戻りました」

 

「ああ、おかえり。今体力テストみたいなのやってるところだ」

 

 

相澤は魔虚羅を一瞥するとソフトボール投げのサークルの方に目を戻す。

相澤は記録係を兼任しているようで、今は手元の端末でソフトボールの飛距離を測っていた。

 

 

「……ッ」

「どこまで行くんだ……」

 

 

計測する相澤を、正確には相澤の持つ端末にクラスメイトたちは熱いまなざしを送る。

馬券を握る賭け士のように、彼らが浮かべる表情はただクラスメイトの記録が気になるという理由だけでは不相応な険しいものだった。

 

 

「……ただのテストじゃなさそうですけど」

 

「そんな特別じゃないさ。個性が使用可能で成績最下位は除籍ってだけの体力テストだ」

 

「十分特別ですよ。初日から除籍って……」

 

「雄英の校風は自由。教師だって例外じゃないからね」

 

 

ケロっと言う相澤を見て魔虚羅は唖然とする。

 

私立の学校ならともかく、国が運営する学校でこれはいかがなものか。

そんな思いが魔虚羅の胸中を巡るが、口に出したところで無駄だと悟った。

 

 

(『相澤君のことだろうからキツめなテストでもしてそうだけど……』)

「いつもこんなことしてるのかよ……」

 

「なにか言ったか?」

 

「いえ、何も」

 

「そうかい。……えー記録は『150m』」

 

 

「「「おおっー!!」」」

 

 

提示された記録に生徒らは盛り上がりを見せる。

ある者は楽しそうに、ある者は苦しそうな表情を浮かべるその光景を魔虚羅は眺めているとポンと相澤に肩を叩かれた。

 

 

「ほら、次はお前の番だ」

 

「……俺が来る前にも色々やってたと思うんですけどそれもやるんですか?」

 

 

横暴な相澤に抑えていた魔虚羅の威圧感が周囲に滲んでいく。

そんな魔虚羅を前にしても相澤は態度を変えることなく、首を横に振った。

 

 

「お前の実力はテストや過去の事件から概ね把握してる。校長の呼び出しもあったことだし、それらを差し引いてここまでの種目は免除だ」

 

「……」

 

「代わりに残り1種目の成績は3位以内に入れ。そうすればお前を除籍対象から外そう」

 

 

「そりゃあないぜ先生!」

「一人だけ特別条件だなんて公平とは言えません!」

 

 

急に出された魔虚羅用の特別ルールに生徒らから不満の声が上がる。

上がって同然の不満の声。けれど相澤は表情を変えず、彼らの声を静止した。

 

 

「魔虚羅にお前らと違う条件を課す理由は主に2つ。1つはそもそも最初からやるような時間が無いこと。もう1つは……」

 

「もう1つは……?」

 

「仮にこのテストに魔虚羅が最初から参加していたとしても最下位(ドベ)は無い。絶対に上位には食い込む実力がコイツにはある」

 

 

相澤の2つ目の理由を聞きクラスはざわつく。

 

1つ目の理由は理解出来る、だが2つ目の理由はなんだ。

このクラスにいるもの全員が倍率300倍もの試験を乗り越えた者。そこまで言い切る程の、特別扱いをする程実力差はない筈だ……と。

 

 

「とはいえ、不満の声もわからんでもない。魔虚羅」

 

 

納得のいかない生徒たちを見て相澤は魔虚羅にボールを手渡した。

 

 

「試しに投げてみろ。評価には入れないから気楽にな」

 

「……わかりました」

 

 

これ以上意見すると自身にとって何か不都合な条件を課されるかもしれない。

雄英に1日でも長く滞在することを目標とする魔虚羅は面倒を避けるため、いわれた通りボールを持ち投球サークルの中へ入った。

 

 

「……ふぅ」

 

 

魔虚羅は深呼吸すると片足を大きく振り上げ、視線を彼方に向ける。

子どもの胴程ある隆起した腿と脹脛の筋肉が支える魔虚羅のその姿勢はさながらギリシャ彫刻。

 

その姿勢から一拍開けた後、振り上げた足を四股踏みの如く地面に叩きつける。

砂埃を周囲に散らしその勢い・威力を乗せたままボールを持つ右腕を大きく、空へと振りかぶった。

 

 

 

ブゥンッ‼

 

 

 

振動を鈍い音として残し、ボールは空を切り高く遠くへ飛んでいく。

数秒経った後、豆粒程度にしか見えないボールは段々と高度を落とし地面に落ちた。

 

 

「メッチャ飛んだだろアレ!」

「何処まで行ったんだ……」

 

 

先ほどまでの批判はどこへやら生徒らの視線が相澤の持つ記録端末へと向けられる。

程なくして記録完了音を鳴らした端末を相澤は生徒らの方へ向けた。

 

 

「『450m⁉』」

 

「ってことは……クラス6位じゃねぇか! やるなアンタ!」

 

「どうも」

 

「最初顔怖ッて思ってたけど凄いなアイツ! なぁ轟!」

 

「……言う程か?」

 

 

轟と呼ばれた少年の一言で魔虚羅の投擲に沸き立った雰囲気がシンと静まる。

 

記録としては確かに凄い。けれどこの投擲以前に600m、700m、1000m、引いては無限というイカれた記録を彼らは目にしまっている以上特殊条件を課す程の記録には生徒らには思えなかった。

 

 

「お前の個性は……恐らく異形型か。能力の詳細はわからないがその肉体からして肉体強化に重きを置いている個性だろう」

 

「……だとしたら?」

 

「肉体強化型で今の記録だとすれば、記録差が大きい緑谷や飯田には遠く及ばない。先生が特別扱いする程じゃない。なら……」

 

 

轟は睨みつけるかの如く鋭い目線を魔虚羅に向ける。

裏の繫がりを疑う轟の目を相澤は言葉に発することはなく、首を横に振って否定した。

 

 

「安心しろ轟。次の種目『長距離走』でわかるさ。魔虚羅がどの程度のヤツなのか……お前の推測と俺の判断の是非がな」

 

 

そう轟に言葉を返すと相澤はクラスの面々を連れて、次の種目の計測場所へと向かっていく。

魔虚羅と轟は一瞬だけお互いを見た後他の面々と同じく歩き出したのだった。

 

 

向かうは最終種目『長距離走』






テストに参加するかの投票が結構半々だったんで書いたけどまぁムズイ。面白いという自信も正直無いです。つまらなかったら申し訳ない。
一応次話で個性把握テストの完結まで書くつもりですが、反響悪ければこの話も吹き飛ばして次に進めます。
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