それいけ! 魔虚羅くん 作:まこーら
年始早々大変な事になっていますが、暇つぶしとして今後も楽しんでいただけたら幸いです。
「ここが最後の種目、『長距離走』の計測場所だ」
「おおーっ!」
「デケェーー!」
眼前の巨大な施設に生徒らは感嘆の表情を見せる。
相澤に連れられ魔虚羅たちが訪れたのは先ほどまでいた広大なグラウンドとは少し離れた所にある競技場だった。
「時間は有限、さっさと入ろうか」
相澤の指示に魔虚羅たちは頷くと入場ゲートをくぐり中へと入っていく。
雄英の敷地内にあるとは思えない程に大きなそのドームの中には人工芝で整備されたサッカーコート、その周囲をタータン仕様のコースが囲っている。
トラックは8レーン完備一周400m、加えて観客席まで用意されており外部の国立競技場等と比較しても遜色ない。そのレベルの設備が魔虚羅らの前にはあった。
「中も立派やねぇ」
「夏休みとか長期休暇中は実際に大会とかで使われてるらしいぜ」
「君たち! 無駄話はしないで早くスタート位置につきたまえ!」
「へーい」
飯田の言葉に生徒らは渋々頷き、トラックの中へと足を踏み入れていく。
「ぼ、僕たちも並ぼうか」
「ああ、そうだな」
「おい」
緑谷と共に魔虚羅もスタート位置に並ぶ流れに乗ろうとしたところを呼び止められる。
振り返った先には轟の姿があった。
「轟くん?」
「魔虚羅……だったか」
「そうだが。何か用か」
「用って程じゃない、ただ一言言いたかったんだ。コネや親父の差し金で入学した訳じゃなら……
その実力、見せてくれよ」
魔虚羅の真横で轟は言葉を残すと、魔虚羅らより先にスタートラインに立つ。
その様を緑谷は呆然として、魔虚羅はただ見つめていた。
「さ、俺らもスタートに着こう。先生や飯田に何言われるかわからないし」
「う、うん」
呆然とする緑谷の肩を叩き魔虚羅と緑谷は轟に続いてスタートラインに立った。
雲とドームの屋根の隙間から差し込む日がスタート地点を明るく照らす。
A組全員がスタート地点に付く。後は皆その脚でスタートするのみ……なのは個性抜きの長距離走の場合だ。
「この勝負……私が頂きますわ!」
「いいや、俺だ!」
「俺が一番に決まってるだろうが!」
例の如く生徒らは口々に言いながらも準備を進めていく。
八百万は個性『創造』で2輪バイクを生成し搭乗、飯田は個性『エンジン』・爆豪は個性『爆破』の調整を進める。
その他のメンツもそうだ。緑谷と魔虚羅を除き少しでも個性を有効活用しようと試行錯誤を行い、各々が個性のエンジンをふかしていた。
「緑谷は準備しなくていいのか?」
「いっ、いや僕は準備しなくていいというか出来ないというか……そう言う魔虚羅君はいいの!?」
「俺も似たようなもんさ。したくても出来ないんだ」
「そ、そっか……お互いに頑張ろうね!」
「ああ」
「お前ら準備出来たか。出来たなら始めるぞ」
緑谷の言葉に魔虚羅が頷くと同時に相澤が測定兼スターター役のロボットの設置を完了する。
見た目は緑色の角ばったロボットで、試験に用いられたロボットを1m程度の小型サイズにしたもののようだ。
武器等携えていた腕には代わりに合図を出す為のスタートガンが備え付けられている。
「距離は2000m……つまりトラックを5周だ。周回数を間違えるなよ」
「他に何か気にすべきことは?」
「意図的な妨害は禁止ってことだけわかってればいい。さ、はじめるぞ」
相澤はトラックから出るとロボットの背に周り、カチカチと操作を始める。
10秒と経たない内にロボットの起動音と共にロボットのモノアイが赤く点灯した。
スタートの準備は万全、先ほどまでの談笑の空気は消え去り空気が張り詰める。
「これが最終種目だ。死ぬ気で気張れ」
『イチニツイテ』
「……」
『ヨーイ……ドン!』
「「「「ッ!!」」」」
スタートを示す撃鉄の音と同時に魔虚羅たちは一斉に走り出す。
長距離走と言えど最短距離、効率よく走る為には好位置を取ることは不可欠。全力で最も内側のレーンを、そのレーンの前を狙い駆けていく。
「貰えるんだったら……前は貰う!」
圧倒的体躯を持って魔虚羅は横並びの集団を抜け出し、先頭へと向かう。
肉体単独を見れば魔虚羅は五輪アスリート並み、クラスでも余裕の1位のフィジカルの持ち主だ。
齢15のものとは到底思えないその圧倒的ストライドと筋力は魔虚羅の身体を強く前へと押し出した。
けれどこれは通常の体力テストではない。
フィジカル以上に重要な要素が存在する。
「お先失礼しますわ!」
「悪いが先は譲らないぞ!」
圧倒的体躯で抜きんでたと思われた魔虚羅の横をバイクに跨った八百万、足そのものがエンジンである飯田が猛スピードで駆け抜けていく。
疲れからか一瞬で周回遅れにはならなかったものの、魔虚羅らと飯田たちの間にはスタート直後にして100m以上の差が生まれた。
「俺ンこと忘れてンじゃねェぞ!」
「……」
抜きんでた2人を追うように爆豪は爆破で、轟は氷結でスノーボードかのように地を滑っていく。以上4名が抜きんでた所で横並びだった集団もインレーンに収まりほぼほぼ1列の状態になる。
移動に長けた個性の者を除き、フィジカルで勝負する集団の中では先頭の位置についた。
100m、200mと距離は進んでいく。
状況は膠着状態、皆一定のペースを保ちながら走っている。
(流石に早いな……移動系の個性は便利そうで羨ましい)
一定のペースで走りながら魔虚羅は次のカーブの方へ目を見やる。
圧倒的歩幅故に後続との差は少しづつ広がっていくものの、轟ら先頭集団との差は広がらずも縮まらない。
先頭はほぼ同率で小競り合いをしているのか後続には目もくれない。
一方で魔虚羅の後ろを走る者らは現状先頭集団に加え、魔虚羅を追いかける形になっている。
最終種目である以上余力を残す必要もない。
どんなに些細な形でも個性を使用し、まずは自分を抜いてくる……そう魔虚羅は考えついていた。
「はぇぇよぉ!」
「少しでも……ッ食らいつかなきゃ!」
(それでも走るペースは変えないけど)
後続のボルテージが上がるのを背で感じながらも、まだ本気を出すべきではないと魔虚羅は自身に言い聞かせる。
焦りは禁物。個性が些細な力にしかならない側だからこそ魔虚羅は走るペースを一定にすることに徹し走り続けた。
先頭集団はそのまま、後続が魔虚羅に追いついたり置いてかれたりするも順位は変動せず。
動きがあったのはレース中盤、800mを越えたあたりだった。
「はぁはぁ……」
「流石に飛ばし過ぎたかも……」
テスト内とはいえ日常には無い自由に個性を使える空間。
それ故全体の走るペースは通常のものと大きく異なり、体力の消耗も激しい。
加えてテスト終盤ということもあり、身体への疲労蓄積も相まって想定しなかった体力の減りに集団から1人、また1人と脱落していく。
集団の先頭争いを続ける轟・八百万・飯田・爆豪の面々もペースを落とす気配は無いものの、表情には疲労が滲んでいた。
「いい加減諦めたらどうだァ? お前ら」
「諦めるとか無いだろう! これはテストだぞ!」
「負ける通りの無い勝負、降りるわけがありませんわ」
プライドからのぶつかり合いか、はたまた辛さを紛らわす為か。
ゴールに向かい駆けながらも爆豪らは(9割9分爆豪主導で)小言をぶつけていく。
「……」
轟はその会話に参加することなく、黙々と進んでいく。
ゴールまで後半分、上位入賞はほぼ確実。それでも轟の胸中には謎の違和感があった。
轟はほぼ横並びで走る飯田・爆豪・八百万に目を向けるもさしたる変化は無い。やや爆豪のスピードに陰りが見えるといったところだろう。
(ならこの違和感は……)
もしやと感じた轟が後ろに目を向けたその時、
ガコンッ
ガコンッ
魔虚羅の方陣は2度、回転した。
「ッ!?」
突然のことに轟の身体が一瞬こわばるも、特段変化は無い。魔虚羅が急に1位に躍り出たりしたわけでもない。
轟が魔虚羅に目を向ける。
魔虚羅の表情に疲労の気配は無く、その走りの動きはより俊敏に力強さを増しているように轟には見えた。
(それでも先頭集団と魔虚羅とでは速度に差がある。追いつかれるようなことはないだろ)
魔虚羅との速度差は明白、距離も数メートル空いている。
思考は先頭集団の方に向けるべきだと考え、轟は魔虚羅を思考の外に追いやる。
魔虚羅は敵になり得ない。800m地点を越えた所で轟はそれ以上の思考を止めた。
900m地点。
疲れが顕著になったか轟らを追う後続集団は更に減少。一人また一人とペースを落としていく中、魔虚羅は変わらず走り続ける。
1000m地点。
轟らトップにも若干の差が出始める。後続はもはや集団と呼べる程固まって走ってはいないが、魔虚羅だけは不動の走りを見せる。
そしてゴールまで残り400m、迎えた1600m地点にて
「追いついたぜ轟」
魔虚羅は轟の背後1mまで迫っていた。
移動に長けた術を持つ飯田・八百万は集団を抜けてトップへ、爆撃の連打に耐えかねた爆豪は後退した。
現状3位に位置している轟の後ろ、4位の位置に魔虚羅は迫っていた。
(何てスピード出してやがる!? もうスパートかけてんのか!?)
魔虚羅の速度変化を前に轟も氷結のギアを上げ、更に速度を加速させる。
1500mの中盤というスパートをかけるにはあまりにも早い。競技人でない彼らにとってスパートというのは最後にかけるものという認識に相違ないだろう。
事実魔虚羅がかけているのはスパートではない。
潤善たるスピード、持久走における魔虚羅従来のスピードだ。
ただ2つほど、適応による微細な変化が魔虚羅にはあった。
1つは「最適呼吸の成立」だ。
先ほどまで魔虚羅の前には轟・爆豪・八百万・飯田の4人が先駆けて走っていたが、飯田のエンジン・八百万のバイク・爆豪の爆破による煙が舞い、轟が残した氷道からは氷の礫のようなものが飛び散っていた。
後続の者からすれば深く吸い込めば咳き込むその状況。魔虚羅はあえて積極的に吸い込むことで適応、煙など異物を除外する呼吸器官を肩に生み出し、劣悪な空気環境に苦しむ後続集団を抜け出すことに成功した。
もう1つは「疲労物質への抵抗」だ。
従来人間の身体は激しい運動を行うと「乳酸」が生じるようになっている。乳酸の蓄積により、筋肉の運動は大きく制限されることになるがこれは個性の使用有無に関わらず誰しもが経験する症状だ。
勿論魔虚羅も例外ではない。個性に頼らない自前の肉体での走行である以上、筋肉への負荷・乳酸の蓄積は轟ら以上。
されどその高負荷が却って魔虚羅に味方する。
高負荷が適応を加速させ、魔虚羅の身体を乳酸の生成しずらい肉体へと変化させた。
以上この2点への適応により魔虚羅の肉体はこの環境で走りやすいものへと変化、適応の副次的効果により疲労も多少回復した。
今、魔虚羅は誰よりもフレッシュな肉体を持ち環境に適応したランナーと化した。
魔虚羅は一歩、また一歩と轟との距離を埋めていく。
「悪いがここで抜かさせてもらう」
「ッ!」
魔虚羅の肩が轟に並ばんとするそのタイミングで轟は更に氷結のスピードを速め、魔虚羅との距離を1m、2mと引き離していく。
だがそこまで管理されていた個性使用のペースを乱したことが大きな仇となった。
「ッ!?」
轟の手足は震え、寒さによる痛みが走る。氷結を短いスパンで多用したことで、身体機能は大幅に低下。
轟と魔虚羅との距離は瞬時に開いたもののその速度はガタ落ちした。
「……動きが鈍い、ドジったか」
轟の個性『半冷半燃』は強力かつ相互補完が可能な個性。冷えた身体を温め熱した身体を冷やすことで、理論上体力尽きるまで氷と炎を放射し続けることが出来る。
当然使用者である轟もそれは理解しており、身体を震わせながら空いた片手を燃やし身体に当てる。
けれどそれは『半冷半燃』の双方を使用する経験を十分に蓄え、使用した場合の話。
半身を氷で覆い『燃やす』個性の使用を避けてきた轟には、痛みが生じる程に冷え切った身体を十分に活動できる状態に出来る程の技量はない。
轟のスピードダウンは例えるなら原付からママチャリへのパワーダウンと同程度。
一般の高校生で、長距離走終盤にそれと同等のスピードを出せる者はそういないし移動系個性持ちを除けばほぼいない。
魔虚羅以外は。
「貰った!」
「チッ!」
ここしかないと判断した魔虚羅は一気にスパートをかける。
適応により長距離走を終盤まで走ったとは思えない程フレッシュな肉体は力強くトラックを踏みつけ、身体を前へ前へと進めていく。
その推進力・パワーは重機関車の如く。
直線に入ったタイミング、残り300mとなった所で魔虚羅は遂に轟を抜き去った。
「このまま……ッ!」
「行かせるかよッ!!」
魔虚羅は尚推進力を増し直線を駆けていく。その後ろを轟が追おうと氷結の速度を速めるも凍てついた身体には酷な話、魔虚羅の背は遠くなるばかり。
魔虚羅は全速力でコーナーを入り抜け、体感10秒程の超人的加速で直線を駆けていく。
轟も当然後続集団もその勢いを止めることは叶わず、既にゴールした飯田・八百万の後のゴールを飾り無事3位という上位入賞を果たした。
「はぁ……はぁ……っ」
後続の邪魔にならないよう魔虚羅はトラックの外側に足を運ぶ。
いくら適応したとは言え400mもの区間でスパートをかけた以上疲労は免れない。
荒げた呼吸を少しづつ、深呼吸で平常に戻していく。
「ふーっ」
「……」
呼吸がある程度落ち着き魔虚羅がゴールを見やるとゴールし終えた轟と目が合う。
無言で轟は魔虚羅の方へ向かってくると思いきや、魔虚羅の目の前で軽く頭を下げた。
「悪かったな。偉そうに実力を見せろ……なんて言って」
「別に良いさ。そういう絡みには慣れてる」
「そうか……次は絶対勝つ。どんな勝負であっても、俺の目的の為に」
それだけ言い残す轟は魔虚羅の下を去っていく。
その後除籍処分は合理的虚偽と相澤から告げられ、除籍は結果0人。こうして個性把握テストは幕を終えた。
高評価くれた方ありがとうございます。
低評価くれた方つまらなくてごめんなさい。0とか初めて貰ったんですけど、せめて理由を感想とかで教えてくれたら嬉しいです。今後の糧に出来るので。
低評価=モチベダイレクトアタックなので