それいけ! 魔虚羅くん 作:まこーら
「はじめまして魔虚羅さん。八百万百と申します。これからよろしくお願いしますわ」
「ああ。こちらこそよろしく」
「色々とお話したいところではありますが今は授業中です。作戦の方を考えましょうか」
八百万の言葉に魔虚羅は頷く。
都会を模して作成され、演習などの用途で利用されている『グラウンドβ』。その中にある小さな廃ビル前にて魔虚羅と八百万は自己紹介を済ませ、作戦を練り始めた。
個性把握テストを終えて翌日。国語や英語などの座学はガイダンスで終える一方で、ヒーロー科にのみ設けられた科目である『ヒーロー学』は一時間目から戦闘訓練が行われた。
テストの時然り個性が自由に使える上、講義の担当はあの『オールマイト』ということで本人から事前説明を受ける際は大盛り上がりだった。
事実第一試合での『緑谷・麗日vs爆豪・飯田』は大白熱。友人の戦いということもあってか普段クールな魔虚羅もその熱気に当てられ、(そんな様子は見せないものの)ややボルテージが上がった状態で訓練の番を迎えていた。
「まずは訓練内容の確認をしましょう。本訓練はヒーロー陣営とヴィラン陣営に分かれ2対2で行う爆弾奪取・阻止を想定したモノ。場所は3階建ての廃ビル内の何処かにヴィラン側が爆弾を隠し、ヒーロー側……つまりこちらが探し出し確保する。ここまでよろしいでしょうか」
「……」
「あの、聞いてらっしゃいます?」
「あ、ああ。内容は理解してる……多分」
「歯切れが悪いですわね。何か気になることがあるなら仰ってください」
「そんな大した事じゃないけど……服装、どうにかならなかったのかなって。肌出すぎじゃないか?」
「……えっ」
魔虚羅の言葉に八百万は口をポカンとさせ、頬をやや赤らめる。
今回の訓練では各々が申請した
そんな八百万の服装はノースリーブの赤いジャケットに短パンという言葉だけ受けとれば普通の服装に聞こえるモノ。
けれど赤いジャケットの下には一切の生地は無く、胸元は広くはだけている。短パンも際どい所まで生地を削られたものになっていた。
教育上とか、放送コードとかマズイ理由はいくらでも挙げられそうな服装である。
八百万は空いた間を誤魔化すかのように咳ばらいをする。
「……個性の都合上、肌の露出は多い方が良いのです。そう言う魔虚羅さんだってその、上半身裸じゃないですか」
「そう言われると弱いな。俺も個性の都合上服は着れないんだよ」
八百万の言葉に魔虚羅は頭をポリポリと掻く。
八百万の指摘通り、魔虚羅のコスチュームは上半身裸体に下半身は黒の道着ズボンという簡素なスタイルだった。
ムキムキな半身も相まって「夜道に出会った際の危険度」はどうあがいても魔虚羅に軍配が上がるような様相だった。
「魔虚羅さんもですか? 魔虚羅さんの個性は肌に関係あるものなのでしょうか」
「『部分的にそう』って所だ。正確には服を”着れない”っていうより、服を”すぐ駄目にしちゃうから”っていう理由だけど」
「成程。よろしければ個性の詳細を教えていただきたいのですが如何でしょうか」
「……詳細を?」
個性の詳細。
その言葉に魔虚羅は眉をピクリと動かす。
(そういった言葉をかけてきたのは碌な奴らじゃなかったが……)
嫌な過去を思い出し拳をギュッと握りながらも、八百万の顔を見る。
奴らと同じようなら要求は突っぱねて訓練に望もう、と。
けれどその目は貶めようとか利用しようとか思っているようなものでは到底ない。
純粋で真剣な想いの籠った目だった。
「ただの訓練ではありますが無駄にはしたくないのです。勝ちが全てとは思いませんが、その時に出来ること全てを尽くさないと得られないものが少しでもあるなら……全てを尽くしたいんです。後悔しない為にも」
「……俺には耳の痛い言葉だな」
「? 何か仰りましたか?」
「いや、何でもない。個性のことは教えるさ、俺だってこの訓練に全力でいきたいしな」
話しても問題無いと考えた魔虚羅は端的に自身の個性のことについて説明し始める。
ただしそれはあくまで簡潔。訓練まで時間が限られていることもあり。あらゆる事象に適応するという必要最低限の情報だ。
実際には魔虚羅の『適応』の機能方法はオートマとマニュアルの2種類に分けられる
前者、オートマは意図せずして適応する場合だ。
肌寒く感じる程度の気温・風に対して等日中の些細な事象は自動的に適応していく。
後者、マニュアルは意識的に適応する場合だ。
自動車のエンジンをかける為キーを回すように意識的に個性を発動、眼前の事象に対し時間経過・接触を持って適応していく。
脳及び肉体への負荷限度から事象への適応有効期間は24時間。
戦闘に比べれば些細と言える日常生活の場面を除き意識的な個性の発動。
これが『適応』の基本である。
「……ってところだな。後は細かい条件とかあるけど、今はこれで十分だと思う」
「『適応』……とんでもない個性ですわね。相澤先生と同等、いやそれ以上もありえるかも……」
「先生の個性は知らないがそこまで便利なものでもないさ。定期的に頭の上の方陣はガコンガコンするし」
魔虚羅は自分で言いながら苦笑しつつ、ため息を零す。
意図せず回る為、一人でも楽しめる筈の映画等も楽しめないのが魔虚羅の尽きない悩みである。
「ふふっ」
そんな風に肩を落とす魔虚羅を見て八百万は笑みを零した。
「どうした?」
「いえ、本人を前に言うのもなんですが……思ったより話しやすい方だと思いまして。人は見た目に寄らないとはこのことかしら」
「……本当に本人の前で言うのはアレだな。人によってはトラウマえぐるぞ、それ」
「ご、ごめんなさい! 決して不快な気持ちにさせたかったわけではないんです! ただ魔虚羅さんがその、思っていた以上に明るい方で……」
「わかってるさ。アンタは
「……馬鹿にされてます私?」
八百万は頬を御餅のように膨らませて魔虚羅を睨む。
魔虚羅はそんな八百万を「どうどう」と治めると、作戦会議を続ける。
「お相手は切島さん、瀬呂さん。パワーと搦め手のコンビなのは少々厄介ですわね」
「どっちが来ようと対応はそう変わらないさ。個性の都合上、基本的に俺が盾になった方が良いだろう」
「同様の理由で私は後方支援……ですわね?」
「そういうことだ。俺らの強みは『後出しで有利に成り得る』ことだ。時間は掛かるだろうが焦りは禁物だ」
「ええ、わかってますわ」
魔虚羅の言葉に八百万が頷くと同時に訓練開始の合図を告げるチャイムがグラウンド内に響き渡る。
その音を拾った2人は目を合わすと廃ビルの扉のノブに手を掛け、ゆっくりと手前側に引っ張った。
初めて室内の様子が目に入る。
「……ヴィラン側の勝利条件には
「ここまでやるとは思いませんでしたわね」
2人の眼前、扉の向こう側を見て言葉を零す。
廊下であるのか、部屋であるのかも現状認識できない。それ程に腕の太さ程あろう極太のテープが何十・何百・何千と張り巡らされている。
獲物が掛かるのを待つ蜘蛛の巣が魔虚羅たちの到来を迎えた。
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いつの間にかお気に入りも1000件を超えているし。多分もう赤ゲージには届くことはないでしょうが、ぼちぼち頑張って行こうと思います。