ゼーリエに転生したが、教え子たちが可愛すぎる   作:mazuton

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3 もう一人の自分との邂逅

 私は、膨大な時間を捧げたことによって、現存する魔法のほぼすべてを修めた。しかし、すべての魔法を完璧に使いこなせるわけではなく、得意不得意があった。

 

 魔法はイメージできるかで決まる。これは魔法を習ううえで最初に学ぶ基礎の基礎だ。

それでは、防御を極めた魔法と、攻撃を極めた魔法がぶつかったときにどうなるか。そもそもが極めたというのはどういう状態かをイメージできているかが問題なのだが、結論として、術者が魔法のイメージを具現化する精度によって結果は変わる。

 

 魔法での戦いはイメージの具現化の押し付け合いだ。この攻撃は防御を打ち破れる、というイメージが明確であれば、相手の防御の高さに関係なく防御は打ち破れる。そこに物理法則や常識は関係がない。自明であること、常識を否定することが可能なのが魔法だ。

 

 ある魔法において、イメージを具体的にすればするほど、その魔法の精度は高くなるが、逆にイメージは固定化される。つまり、この魔法はこういうものである、という常識を自分の中でつくる。しかし、それはその魔法と相反するイメージの魔法を使うときに弊害となる。すべての魔法を使えるようになる、というのは矛盾しているのだ。仮に、使うことは出来るようになったとしても、それらの魔法のイメージは非常に弱いものとなる。

 

 それでは、どうすれば多数の魔法を習得・行使するうえでの問題を解決できるかを考えたときに、疑似的な人格を作り複数の常識を持てるようにすればいいんじゃないかと私は考えた。

 もう一人の自分とでも言えばいいのか。知識や経験は共有されている。しかし、嗜好や常識の異なる別人格。私はそもそもが別世界から来た異質な存在、と自分を捉えている。それが自分の世界における立ち位置を浮いた状態にして、地に足がついていないイメージを自分に与えていた。

 そういった些細な居心地の悪さの改善を含めて、ある程度の時間をかけて、自分の人格を増やす魔法を開発することにした。この世界に最初からエルフとして生まれていた、今の自分とはまた違う人格。

 

(それをイメージして出来上がったのが私というわけか)

 

 そうだよ、もう一人の自分。やればできるものだね。

 

(弟子たちの前とは違い随分、口調が軽いな)

 

 師匠と弟子の関係だからね。弟子の前では多少の権威付けに固く話しているよ。本来の私はもう少しラフな口調で話したいんだ。君相手なら、何も困ることはないだろうし、君という存在との差別化を図ろうという意図もある。これで、いろいろな魔法をより使いこなせるようになるかな。

 

(ふん、そんなことをするよりも、才のない孤児に魔法の教育をするという自己満足でしかなく、魔法の価値を下げる行為を先にやめた方がいいと思うぞ)

 

 それは出来ない。弟子たちは可愛いし、私の生きがいの一つだからね。

 

(擬人格である私に何ができるわけでもない。好きにしたらいいが)

 

 場合によってはこの体のコントロールを君に預けることも考えているよ。閉じこもっているだけでは息苦しいこともあるだろうし。

 

(……馬鹿かお前は。そのまま、体を乗っ取られるということは考えないのか)

 

 そのときはそのときかな。それに君はそんなことをしないさ。人格が違おうとも、我々は同じ存在だからね。

 

(……そうか)

 

 体が一つである以上、表で名乗る名前は一つだ。私がこの体になったとき、着ていた服にタグ付けされていた名前を君が名乗るといい。ゼーリエ、それが君の名だ。

 

(お前はその名を名乗らないのか)

 

 必要があれば名乗ってはいたけど、私にはどうもこの体自体が借り物のような感覚が抜けなくてね。弟子たちにも基本は師匠としか呼ばせていなかった。…それだと君が私を呼ぶとき困るか。

 

(困らんが)

 

 困ってよ。んー。思いつかないから逆から読んで、『エリーゼ』でいいよ。君だけが呼んでいい名前だ。

 

(センスがないし、適当にもほどがある)

 

 そう言わないでほしい。私がもといた世界では、神の約束を意味する由緒正しい名だ。即興のわりに悪くないだろう。神を信じていない癖に、という突っ込みはなしでお願い。

 

(ちっ)

 

 前もって突っ込みを防止されたからかゼーリエの舌打ちが聞こえてくる。随分と露悪的にふるまう自分だ。考え方も行動も違うからこそ、あらゆる魔法を覚えるうえでの手助けになるだろう。

 

 

 

 

 

 ゼーリエは、魔法は才能ある者だけが学び、高みを目指すべきものだと考えている。私はどちらかといえばフランメ寄りで、誰でも魔法に触れる機会は得られてよいものだと考えている。

 しかし、ゼーリエは私の弟子に対する態度が甘すぎると代われといってきて、たまに表にでるようになった。魔法を教えるときは厳しくも手厚く丁寧で、私が教えるより上手い。というか、魔法のクオリティも私より高い場合が多い。ひょっとして私はいらない子かもしれない。

 表に出る割合に関して、基本は私が主人格を担いゼーリエが気分によって表に出るようにした。流石に自由自在に入れ替えると情緒不安定に見えて、周りが混乱すると思うので許可制、ということに。

 

(おい、エリーゼ。なぜフランメを放置しておく。奴の才能はまだまだこんなものではない。もっと高みにいけるはずだ)

 

 フランメが出て行って活躍し始めてから、ゼーリエがちょくちょくフランメのことを話題に出す。確かに、彼女は才能の塊であった。魔法習得にだけ集中すれば私たちを超える魔法使いになる可能性もある。しかし、彼女は自分の意志で、魔法の高みを目指すこととは別の目的のために動いている。仮に私がフランメを連れ戻したところで、良い結果にはならないだろう。

 ゼーリエも、それをわかっていて言っている。要は拗ねているのだ。なんだかんだいいながら結局、ゼーリエも弟子大好きだな。

 

(うるさい。才能あるものを放置するのは、本人も周りも愚かだと考えているだけだ。もう知らん)

 

 本格的に拗ねて、思考共有が切られて声が聞こえなくなる。魔法が得意で、賢しげで勤勉で子供っぽい。もう一人の自分ながらなかなかに可愛い。ゼーリエとの会話はかなり新鮮だ。弟子たちとの触れ合いとはまた違った、対等で話せる友を持ったような感覚。

 端から見れば一人遊びと言われても仕方ないのだが、彼女も間違いなくこの世界に生きるエルフである。

 

 最終的には彼女に体を明け渡すことになるかもしれない。

無理やり、自分自身への名づけをしてみたりしたが、どうにもこの世界から浮いている感覚が取り除くことができない。今のところは問題になっていないが、どこかで致命的なずれを生じさせる予感がする。

 現在のゼーリエとの魔法の実力差もそういうところからきているのだろう。別に、人生を捨てたいと考えているわけでもない。単純に、この長い期間でも小さな違和感を解消できていないというだけ。今後、改善する可能性だって十分にある。

 

 魔法に関してはかなりのレベルにまで到達したと自負している。だが、精神的な面に関しては、エルフの感情に疎い気質もあるがあまり鍛えられていない。

 いつかは確実に起こる弟子たちとの別れのとき、理解できても悲しむことができないかもしれない。それでは魔族とあまり変わらないのでは。そんな恐怖を一瞬私に与える。

ゼーリエであればもう少し達観しているというか、すんなり受け入れられるだろうか。長い時間を生きて、魔法を極めたとしても、悩むことは人間のときと左程変わらないという事実に少し笑えて来る。

 そのあたりに関しては、フランメの方がよっぽど強いだろう。あの子は多くのものを魔族に奪われ、時間もない中で生き急ぐように数多くのものを切り捨てる判断をした。それは、否応にも彼女の精神性を高めた。時間に追われていない私たちエルフでは到達できないかもしれない領域まで。今後、彼女が繋いだ意志が人類の時代と魔法の発展を加速させるだろう。

 

 まったく、生意気な一番弟子だ。

 

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