ゼーリエに転生したが、教え子たちが可愛すぎる 作:mazuton
「違う。そのやり方では魔法効率が悪すぎる」
「申し訳ありません」
ゼーリエは自分の魔法知識を弟子に余すことなく伝えていた。弟子は、戦争孤児からゼーリエの目に留まった者など、生まれや種族など問わず様々であった。
「何故、何度も間違う。こうだ。やり直し」
「は、はい」
ゼーリエの指導は厳しかった。何度も繰り返し間違いを指摘され、正しくできるまでやめることは許されない。正しい方法を体で覚えていない状態で、一人でいくら頭を使っても結論を間違うだけだ。
なので、とにかくまずは実践して出来るようにする。出来ないのであれば、とにかく出来るまで実践。出来るようになって初めて、なぜそれが正しいのか、これまで何が誤っていたのかを弟子に考えさせる。日本においては前時代的に感じる修行法。しかし、正しい方法を知っているゼーリエが傍にいることで、その修行は弟子たちの魔法習得効率を飛躍的に高めた。
魔法に関して、ゼーリエ(とエリーゼ)には才能がある。そして、その才能にプラスしてエルフの持つ膨大な時間を魔法習得に費やすことによって、現存するほぼ全ての魔法を習得するに至った。弟子に教える修行に関して、自分に出来ることは他の者にも出来る、などという再現性を無視した世迷言を主張しているわけではない。
単純に、何人もの弟子に教える中で、それが最も効果的であったから続けているだけだった。そもそも、魔法を直接伝達できるならそれが一番早い。魔法を授けると自分がその魔法を忘れてしまうので、多くの弟子に伝えられない。そのため仕方なく今の方法でごり押していた。
弟子たちには修行から逃げるという選択肢は用意されていなかった。耐えられずに逃げたとしても捕まえられ、さらに指導が厳しくなる。気絶したらたたき起こされ、けがをすれば治される。弟子たちには魔法を体得し、強くなるしかない環境がそこにあった。
その環境を作るために寝る間を惜しむほど時間をかけ、ゼーリエは真剣に一切の妥協なく弟子たちに魔法を伝えていた。人間の持つ時間は短い。後回しにしていてはすぐ死んでしまうのだ。力がなければ、強者に蹂躙されその時間はさらに短くなる。弟子たちからどう思われるかなどはどうでもよく、いかに早く、弟子が魔法を体得するかを考え実践していた。
当初、魔法を粗方極めてしまい、暇で寂しいので弟子をとって適当に魔法を教えて、たまに弟子を愛でていればそれでよかったエリーゼは、ゼーリエの本気度にやや引いていた。修行の時間にゼーリエから感じる圧がすごかったので任せてみたところ、才能がない、やる気が足りないなど文句を言いながらもとてつもない労力をかけながら弟子に修行をつける。
エリーゼは自分自身の魔法習得には全身全霊をかけてきたし、今後もそれを続けられると断言できるが、他人に教えるときは相手の基準に合わせて優しく教えたくなる。
それを甘いと断じたゼーリエは弟子に対しても自分と同じ基準を求めた。そんな熱量があるのであればと、修行は大体の時間をゼーリエに任せていた。
修行時に狂気に近い熱量で魔法を伝授され、恐怖と畏敬の念を感じる弟子たちであった。
「あまりにもキツすぎるよ。師匠は僕たちを殺す気なんだ」
「そんなこと言うな、ヴィセン。師匠は我々に魔法を通して生きる術を教えてくださっているんだ。師匠の下で学びたい人がこの世に腐るほどいるんだ。泣き言を言っているとそいつらに恨まれるぞ」
「カピエレはいいよな、魔法の才能があるから、そんなに失敗しなくてもどんどん覚えていくし」
「どうだろうな。早く魔法を覚えるに越したことはないが、変にこなれてしまって壁にぶち当たったときに対応出来ないかもしれない」
「それは悲観しすぎ。自慢にしか聞こえない」
ゼーリエの弟子であるヴィセンとカピエレ。二人ともゼーリエよりも背の小さい、少年と少女であった。ヴィセンは要領が悪く、何度も魔法を間違ってはゼーリエにしごかれていた。なんだかんだで修行にはついていっているが、ゼーリエの前で泣き言をいうと満面の笑顔で修行を追加してくるので、年の近いカピエレの前でだけひっそりと愚痴をこぼしていた。当然、ゼーリエにはバレている。
一方、カピエレは魔法の才能があり、ゼーリエのしごきに耐える根性を持ち魔法への探求心も非常に高く、ゼーリエもそのポテンシャルには一目置いていた。生真面目でゼーリエへの尊敬の念が強すぎて、本人の目の前では緊張でまともに話すことができないのが最近の悩みであった。
「そりゃあ、あんな修行に耐えられたら魔法覚えるよ。前なんて、時間の進みが遅い精神世界に飛ばされて、覚えるまで帰れない、だよ。体は無事でも心が耐えられるかはまた別なのに。エルフは人の感情に疎いっていうけど、納得だよ」
「そんなこといって、師匠に聞かれていたらどうするんだ。私は知らないよ。あっ」
「もうやけだ。聞かれていてもいいさ。思いつく限りの文句をいってやるんだ」
「ほう。それではぜひ聞かせてもらうか」
「えっ」
自分の背後にいたゼーリエに気づかず、日頃の鬱憤を吐き出していたヴィセンに対してカピエレが忠告しようとするも手遅れであった。
「どうやら、私のやり方に不満があるようだな。改善点を聞かせてもらうとしよう」
ゼーリエは、笑顔であった。その笑顔の意味を完全に理解しているヴィセンは絶望した。
「ど、どうかお許しを」
「許すもなにも、怒ってなどいない。ただ、私には見えていない修行の不備を感じている者がいるのであれば、それをくみ取るのが私の役目だ」
「ひぇー」
「あ、あの師匠。それくらいで許してやってはいただけないでしょうか。彼も悪気があったわけではないのです」
青ざめてプルプルと震え始めたヴィセンに見かねて、カピエレが勇気をだして助け舟を出す。ヴィセンも本気でゼーリエを毛嫌いしているわけでは当然なく、魔法の習得が上手くいかずにモヤモヤを抱えていたので、修行への悪口という形で発散していたのだ。
「まったく。もう知らん」
少しため息をつきながらそれだけをいって、ゼーリエは踵を返した。思ったよりもすんなり解放されそうだと思ってほっとしていたヴィセンの頭をカピエレが思い切りはたき、すたすたと歩くゼーリエを指さす。いざという時にはゼーリエ並みに怖い友人の様子をみて、ヴィセンも流石に空気をよんでゼーリエを追いかける。
「師匠、すいません。まだ、怒っていますか」
「だから、怒っていないといっただろう」
明らかに拗ねて怒っているように見えるゼーリエの様子に、普段よりも子供っぽく感じて、ゼーリエの年齢からかけ離れた華奢で若い姿も相まって可愛いなと思ってしまう。
「こら」
「いてっ」
気づくとゼーリエがヴィセンの方を向いて、こぶしでこつんとヴィセンの頭をたたいた。
「私はどうやら怒っていたようだ。後で謝っておくんだよ」
「は、はあ」
ゼーリエは目の前にいるのに、先ほどとは別人であるように錯覚する。ヴィセンはその感覚が前にもあったことを思い出す。
「私は可愛すぎて仕方ないんだ、君たちが」
修行の途中で、普段の厳しさが嘘だと思えるような優しい目で直球な発言をしたことがあった。そのあと、何事もなかったかのように、普段通りのゼーリエに戻って修行が再開された。フラッシュバックした記憶を感じながら、ヴィセンはふと以前から思っていた疑問をゼーリエに投げかける。
「師匠は、なぜ僕たちにこんな熱心に魔法を教えるんですか。得もないのに」
「さあ、なんでだろうか。私が聞きたいくらいだ」
ゼーリエはヴィセンの質問に答える。はぐらかしているようにも見えるが、本当に疑問に思っているようにも見える。ヴィセンはその違和感の答えがわからない。
「私にとって、無にも近い時間を生きる君たちがどこまでの領域に到達するのか、それを知りたいのかもしれないね」
ゼーリエはそれだけを伝えて、もうついてこなくていいと言い歩いていった。
ヴィセンにはよくわからなかった。普段の厳しいゼーリエと今の優しく、どこか寂し気なゼーリエ。どちらが本当の彼女なのか。彼女の下で魔法を覚えていけば、少しはわかることも増えるかもしれない。
ひとまずは、後で謝りに行こうと思うヴィセンであった。
弟子の名前はドイツ語からとってきています。