ゼーリエに転生したが、教え子たちが可愛すぎる 作:mazuton
投稿再開します。第2クール見ないと。ゼーリエが出るのを楽しみにしつつ、執筆。
フランメの死から何日か経ち。
少し思い出に浸る時間をとって頭を整理していたが、弟子たちへの修行を再開する。やはり、自らにとっても魔法習得は習慣として体に刻み込まれている。やらないと違和感がある。
修行再開後、早速騒がしい声がする。
「師匠なんてもう知りません!」
弟子のひとり、ヴィセンが半泣きになりながら逃げていく。魔法の修行中、何度やってもうまくいかない状況。私としてもうまくいかない気持ちはよくわかる。才能があろうがなかろうが大半の時間はうまくいかない時間だ。一生、このままうまくいかないのでは、と疑心暗鬼になる。私個人としては、そこを超えたときの快感が素晴らしいと感じている。
ゼーリエは弟子たちにイメージと思考錯誤を幾度となく繰り返させる。教えるというよりは、自ら気づくことに重きを置く。しかし、あまりにもできないと感じたヴィセンは訳も分からずに、ついに逃走を試みる。
「逃げてなにか解決するのか?」
しかし、ゼーリエからは逃げられない。
ヴィセンは引きずられながら戻されいつも通りに修行で魔法を叩き込まれる。負荷が高く逃げてはいるものの、確実に本人の能力は向上している。カピエレなどは、どうしてヴィセンが逃げるのか理解できていない。やればやるほど上達できる環境なのだ。それを望んでいる者にとっては避ける理由はなかった。
当然、ヴィセンも分かっているのだ。師匠を信じてやっていれば、いつかは自分の目の前に現れている壁は乗り越えられるのだと。だが、単純にきつすぎて逃げたくなっているだけだ。
半泣きになりながら修行を続けるヴィセンから、ある日ふと尋ねられる。
「師匠の好きなものとか、嫌いなものってありますか」
(面倒だ。エリーゼ、任せる)
ゼーリエは弟子たちと個人的な内容について話すことをあまり好かない。そういったときにはゼーリエは内に閉じこもるので私が話すことになる。しかし、私としても困ってしまう。
「好きなものは魔法、嫌いなものは魔族かな」
「それは知っています。そういうのではなくてもっと生活しているなかでの。例えば、食べ物とか趣味で」
ヴィセンはもじもじとしながら探るように聞いてくる。私は今世は魔法習得に全集中した生活をしていたので、極端に知識や経験が偏っている自負がある。エルフとして生きている時間が長いのもあって、人間としての感覚もかなり薄れている。
「あの辺りに生えている木の実とか好きだぞ。苦くないし、腹も満たせる」
「それって、消去法的に食べているだけじゃないですか?好きとは違う気が」
「……正直、腹を満たせればさほど味は気にしていない」
妙な時間続く沈黙。その時間に耐えられないかのようにヴィセンが再度尋ねてくる。
「趣味とか」
「私が魔法習得とお前たちに教える以外にすることあったか」
「……師匠って、生きてて楽しいですか」
ヴィセンが白い目で見ながら失礼なことを言ってくる。ヴィセンは続けて言う。ゼーリエが世間一般から外れて過ぎている。魔法の師匠としては尊敬しているが、余りにも他のことへの執着が薄すぎるのだと。
「あぁ、あとお前は好きだぞ」
「なっ」
(そういう誤解を生む言い回しはやめろ)
ゼーリエが鬱陶しげに文句を言ってくる。内に閉じこもっている癖に注文を付けるなんて生意気だぞ。
誤解も何も、私は正直に話しただけだ。自分の思っていることはしっかり相手に伝えないといけない。思っているだけでは伝わらないことはある。それくらいは世間を知らない私でも知っている。恥ずかしくて伝えられないこともたくさんあるが、言える時くらいは伝えたい。
「そういうところ、ずるいです。僕だけじゃなくて弟子たちのことが、という意味なんですよね」
(やはり、今度からお前に任せるのはやめる)
ヴィセンは真っ赤になりながら顔を背けて、ゼーリエから戦力外通告を受ける。なんでだ。
そこから魔法の修行中もデレデレし始めて集中力を欠いていたヴィセンをゼーリエが徹底的にしぼり上げて涙目にさせていた。ヒイヒイ言っていて可哀そうだったので、ほどほどにしてあげてほしい。
「というか、前回誤魔化されましたが、師匠の好きなものを教えてください!」
(任せる)
ゼーリエ、結局私に任せるんかい。どんだけ自分のこと話したくないんだもう一人の私は。そして、ヴィセンはそんなに私のことを知りたいのか。自分自身に関してあまり気にしない性質なこともあり、魔法以外にリソースを割くのは珍しくうんうんと唸りながら考える。師匠が悩む様子をあまり見たことのない顔でこちらを見てくるヴィセン。
「ん~、そうだな。甘いものとか好きかな」
「え、そうなんですね。あまりそんなイメージなかったです」
「強いていえば、という感じだしな」
ヴィセンはふむふむとメモをとりながら私に質問をしていく。そして次の日。
「「「師匠、誕生日おめでとうございます」」」
弟子たちから誕生日祝いをされた。私の誕生日は不明だが、ひとまずこの世界に降り立った日を生まれた日ということにしていた。バースデーを祝うという概念を忘れるくらい年を取っていたが、祝われて悪い気はしなかった。表には恥ずかしくて出せないが正直、結構うれしい。
「これ、みんなで集めた果実と、作ったケーキです」
「ほう、どれどれ」
どこから材料を集めたのか、そこには不器用ながらも色とりどりの果実で飾り付けられたケーキがあった。スプーンですくって、一口。
「ど、どうですか」
「ああ、美味しいよ」
「もっと、美味しそうに食べながら言ってくださいよ」
「美味しいと言っているだろ」
「師匠は、感情の表現が乏しすぎです。言葉だけだと人には伝わりませんよ」
「そうなのか」
「そうなんです。満面の笑みで不味いといわれるのと、苦々しい顔で美味しいと言われるの、師匠が料理を作って食べてもらった相手に言われたら、どっちが嬉しいですか」
「どっちも嫌だが」
「そう。表現の仕方が良いだけでも駄目ですし、言葉だけでも伝わらないんです。とにかく、美味しいときは、笑顔で伝えましょう」
「そういうものか」
表情か。あまり気にしていなかった。言葉で伝わればいいと思っていた、というのも正確ではないな。感情の起伏が小さい体質であることを言い訳にわかりやすく伝える意識が低かったかもしれない。
「笑顔というのは、どうすれば出来るんだったか」
「え。そのレベルですか。魔法以外てんでポンコツなんですね。いつも怒るときには憎たらしいくらい笑うじゃないですか。あっ、やば」
馬鹿にされているオーラは伝わってきたので、こちらも怒りのオーラをしっかりと出すことにした。分かりやすいのは大事だ。弟子から学んだ。
「さて、誕生日も祝ってもらったことだ。お前達に感謝を伝えたいのだが、言葉だけでは足りないらしい。だから、私が教えられること全てを教える気で詰め込んでやろう」
「おい、ヴィセン。死んだら恨むぞ」
「師匠がそんなヘマするかよ」
「確かに」
「これからは極力、わかりやすく表現をしていくことにしよう。諸君らのおかげだ」
私はしっかり笑顔を作れているだろうか。弟子たちの様子を見るに、どうやらしっかり笑顔が伝わっているらしい。
なんだかんだ、魔法好きなところは引き継がれているので、大変ではあるが喜んで修行を受けるものが多い。少し、気分が高ぶったのもあってかその日はいつもよりも修行が少し過激であったが、それを受け入れて励む弟子たちであった。
「ああ、そうだ。祝ってくれてありがとう」
(くだらん)
弟子たちにしっかりとお礼を伝える。ゼーリエも悪態をついてはいるが、祝われたときに満更ではなかったのを私は知っている。私たちはお互いに嘘をつけないのだ。