ゼーリエに転生したが、教え子たちが可愛すぎる   作:mazuton

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8 人間からみたゼーリエ

 エルフである私は人間の平均的な寿命である百年はとっくに生きており、その年月に反して自らの姿は少女を少し過ぎたかといった程度。見た目としては力も弱く、盗賊や人攫いから見ると格好の獲物であることは想像に難くない。そこらにいる魔族や人間に襲われて対処ができないほど弱くはないが、魔法は相性もある。すべての魔法を覚えることが誰にも負けない、とはならない。

 

 それに、この世界には封魔鉱という鉱石があり、その周囲で魔法を使用することができなくなる。魔法使いにとって、魔法を封じられるのは呼吸ができなくなるレベルの致命的なものであり、魔法を使用できなくなれば私は例に漏れずただのか弱い少女だ。普通は、パーティを組んで魔法が使えなくなる状況でも対応できるようにするが、私は旅をするときは基本ソロだ。魔法を使えるからと油断していると直ぐに死んでしまうだろう。この世界は思ったよりもシビアなのだ。

 

 そのため、フランメを弟子に取るずっと前に、魔法が使えない状況も想定し、いくつかの格闘技を習得しようと考え実践した。最初は体力もなくヘロヘロとなった。筋肉の付きもあまりよろしくなく肉体的には優れていない。そういったところは魔法のようにはいかないらしい。

 たまに、よくわからないくらい体が頑丈な戦士がいるので、魔法抜きでもこの世界にはファンタジー由来の不思議法則があるのだろう。

 それはともかく。魔法を使用しなければ私は筋骨隆々な男達だけでなく、少年程度の体格のものにも負けるだろう力しかつかなかった。どうやら、私には格闘技は向いていなさそうだとその方向はスパッと諦める。ならば、合気道のような力に頼らない護身術を身につけようとした。

 そのあたりで気づいたのだが。よくよく考えると、魔法が使えない状況に追い込まれた場合そもそも詰んでいるのでは?と。

 結局、封魔鉱を魔法で検出し(魔法が反応しないところにある)近寄らないようにすればよく、魔法で解決してしまうとわかってしまった。たまに変な遠回りをしてしまうのは悪い癖だな。

 

 ということで、護身術を覚える必要性が大分薄くなったが一応やることにした。護身術をまとめた書物があったので、それをみながら魔法に比べると片手間で練習した。身につけるのに百年以上かかったが、なんだかんだでそこらの人間に魔法なしで勝てる程度の技術は身につけた。

 あまり使用する機会がなかったので持て余していたが、人間の住む街で自分が与えられるものの一つとして魔法の他に護身術を教えたりした。人間には魔法はあまり身につかない者もいる。そういった者たちに、私には効かなかった方法で体を鍛えさせるとどんどんムキムキになっていったりする。それならばと戦士の道に進むことを勧めた。

 選民的な考え方は私にはないが、やはり適材適所はある。イメージが苦手なのに魔法を覚えようとし続けてあまり身にならないくらいなら、スパッとその道は諦めるというのも選択肢としてありだろう。

 

 そんな小遣い稼ぎに近いことを続けていた街に久しぶりに訪れることになった。風のうわさで、その街では女神の魔法が使用されていると聞いたのだ。私にも、まだ全て原理を理解できていない女神の魔法。わかることがあるなら、向かうしかあるまい。

 いつも通り一人で行こうとしたが、カピエレがついて来るといって聞かないので仕方なく了承した。修行から解放されると喜んでいたヴィセンには沢山宿題を与えておいた。未だにサボり癖はあるが、前に比べると大分筋がよくなった。奴もこれから伸びるだろう。

 

 

「ようこそいらっしゃいました。生ける伝説のお噂はかねがね伺っております」

 

 街に来るのも久しぶりなので、私のことはもう風化していると思っていたが、やはり世代が回るくらい置かないと難しいか。私が街につくなり、わざわざ領主が私のことを出迎えた。何らかの方法で私が来ることを把握したのだろう。噂の信憑性も少し増したか。

 領主に食事に招待されたが、あまり行きたくない。過去、似たような状況で、招待に乗ってみたことがある。その結果、

 

「女神の守護を賜った!」

 

などと吹聴されて騒がれ、崇め奉られその街に居づらくなったのだ。気軽に飯屋にもいけない。

 

「流石、師匠です。やはり、これくらいの出迎えがなくては」

 

 カピエレは、領主やその取り巻きが盲信するかのごとく私を讃える様子を見て、ふんすと頷いている。やめなさいとたしなめておく。まあ、変に敬われるのが良いことばかりでないことを知る機会か。

 

 領主に連れられて、彼の住む館へと案内される。そこで、現状私がどのようなことをして暮らしているかなど、私的な話題が多く挙げられる。本題に入りたい私は、ペラペラと私への質問を繰り返す領主の話を一旦遮る。

 

「領主殿。私は人間の礼儀に疎いところがあるため、失礼があったらすまない」

「女神様のお話を伺わせて頂いているのは此方です。そういった細かい点はお気になさらないでください」

「では、遠慮なく。噂で、この街では人々が女神の魔法を使用していると聞いたがそれは本当か」

「ええ、それは本当です。我々は、女神の魔法を使わせて頂いております」

 

 やはり、噂は本当だったらしい。

 

「それで、それはどのような魔法なのだろうか」

「何をおっしゃいます。我々の使う魔法は、貴女が我々に授けてくれたものではないですか」

「は?」

 

 領主は語る。私の(記憶と大きく違う)数々の英雄譚を。あるときは怪我で動けなくなった民を癒やした。あるときは、強力な魔族に襲われたときに鎧袖一触の強さで退けた。そして、数多の偉業の後、私は彼らに今後の困難を生き抜くための術として女神の魔法を授けたのだと。

 

「誰だそれは」

「師匠、流石です!」

 

 カピエレが流石BOTになってしまっているではないか。身に覚えがない。それに、私が街で教えたことのある魔法なんて、初級の攻撃魔法や生活を良くするのに役立つ程度のものだ。服の汚れを簡単に落とせる魔法だとか。確かに覚えるのは大変だったが、女神の魔法と噂されるものではない。

 

「勿論、女神様のお伝えいただいた魔法をそのまま使用するだけ、などという思考停止はしておりません。出力を上げられないかの研究を行い、女神様への信仰心を強く持つものが協力して行使することで魔法の威力を向上させました」

「それはなかなか、興味深いな」

 

 言ってしまえばただの思いこみではあるが、そういった迷信に近いものであろうと通ってしまい得るのが魔法だ。今回の場合、私への信仰というのがこの街の人々にとってイメージを固めるのに役立ち、魔法の威力が知らない者がみたら異常なほど高レベルのものに仕上がっていたのだろう。

 

「貴女様が訪れ街の危機を救ってくださり、女神の魔法を授けてくださったときに我々は気づいたのです。平和とはいともたやすく崩れるものであり、道は自らの手で切り開く必要があるのだと」

「その心構えは素晴らしいが……」

 

 なんとまあ単純な、という言葉を飲み込む。詐欺師に騙されないか心配になるが、感性豊かで前向きな捉え方で向上心も高く、個人的には非常に好ましい。

 

「女神様が来ていただき本当にたすかりました。あのときはちゃんと伝えられませんでしたが、本当にありがとうございました」

「あまり実感がないので申し訳ないくらいだが、受け取らないのは逆に失礼か。感謝は受け取っておこう。しかし、この街で使用している魔法は私の力ではなくあなた方が自ら高めたものだ。女神の魔法などと言わずとも」

「いいえ。我々にとっては間違いなく女神の魔法なのです」

「ああ、わかった。そんな気はしていたが折れなさそうだ。まったく。信仰するのは構わないが、進む先を誤らないことを願うよ」

「決して、私欲に使わず健全に街の長期繁栄に寄与するために使用し続けることをお誓いいたします」

 

 その後、領主の館から出るときに街の人々からの歓声を浴びながらの帰宅となった。ちょくちょく、異様にムキムキな奴もいたので、護身術や体を鍛えるのも伝わっているのかもしれない。本来の目的である女神の魔法に関する収穫はゼロ。噂の大本は自分だというなんともいえない結果となった。

 

「師匠のお力が、人々にこんなにも勇気を与えるものなのですね」

 

 カピエレが目をキラキラさせながらこちらをみてくる。カピエレからの変な期待を解消する機会も失ってしまった。まあ、どこかのタイミングでいいだろう。あの街の住人を見て、魔法の面白いところも再確認できた。

 今後あの街が繁栄を続けるかどうか、道を踏み外しあっさり滅びるのか。時間が証明してくれるだろう。……彼らには悪いが、忘れられていそうな時間が経つまではもう行かないでおこう。

 

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