事件は突然に起きるものだ。その日、心愛はチーポよりも先に帰宅しており、マジアアズールのフィギュア鑑賞を楽しんでいた。
「んー、やっぱりアズールさんって素敵だな。マジアサルファとして一緒に戦っている薫子が羨ましい…」
「ただいまっチ!」
「チーポ、お帰……りろこん!」ブスッ
「りろこんっ!?」
「…」ギュッ
謎の幼女に抱かれたまま家へと入ってきたチーポの両目に心愛は指を突き刺した。
ーーー
「あー、ようやく視界が戻ってきたっチ…」
「…で、その娘は誰?」
「彼女の名前は『
「…」じー
「エノルミータ!?こんな小さい子供が!?」
「…?」かくん
「こ、こんにちは…私は篠原心愛。よろしくね。」
「…」こく
「喋らないのね。プリキ◯アは見たことある?」
「…」ふるふる
「じゃあ…1話から見てみようか。」ピッ
「…」こく
言葉を発さないこりすに心愛はそのリアクションを見て判断する。そして、テレビをつけて…こりすの抱いているチーポを取ろうとする。しかし…
「…!」ギュッ
「…マジか。」
腕に力を入れて、チーポを離すことはなかった。
「そういう年頃だっチ。テレビに夢中になるだろうし…話はこのまま聞くっチよ。」
「まずは1つ目、どうしてこの娘がエノルミータだと分かったの?」
「あの黒猫と直接やり取りをするところを見たからだっチ。それでエノルミータ用の変身アイテムも持っているから…いつ変身しても可笑しくないっチよ。」
「おい!何で家に連れてきたのよ!」
「マジアベーゼを恐れてる心愛へのリハビリっチ。それに…こりす、アレを出して貰えるっチか?」
「…」すっ
「え"!?」
こりすが取り出しものに心愛から野太い声が溢れる。それは薫子が『トランチアー』へ変身するのに使用したブレスレットだったのだ。
「まさか…」
「彼女は『トランチアー』にもなれる素質の持ち主っチ。」
「…ちょっと待って。それって…二重スパイじゃ…」
「この娘にその自覚は無いっチけどね。それにほら…」
「…」キラキラ
テレビに向けて目を輝かすこりすに心愛とチーポの口元が緩む。
「彼女はまだ幼い…良くも悪くも純粋っチ。まぁ、色々と経験していけばいいっチ。」
「…悪い大人たちに利用されてるようにしか見えないのだけど?」
「耳が痛いこというっチな…実際にそうだけど。」
「…ん!」クイクイッ
こりすが突然に心愛の袖を引っ張る。
「え?どうしたの?」
「…」じー
「あー、別のことがしたいみたいっチか。仕方ない…お絵かきでもするっチよ。」
「何で目を見ただけで伝えていることが分かるのよ…」
チーポはこりすから離れ、画用紙とクレヨンを持ってきてこりすと一緒に遊びだす。
「とても30過ぎの男とは思えないわね…」
「コラッ!こりすの夢を壊すようなこと言うなっチ。これもボクの仕事だっチ!」
「…ん♪」かきかき
「それで心愛、他にボクに聞きたいことは無いっチか?」
「何か、もう、まとめて聞けた感じがするけど…彼女とトレスマジアの3人が戦うことはあるの?あったとしたら…私、戦いにくいんだけど?」
「まぁ、その時は結界に入れられるだろうけど…すぐに疲れて変身が解けるだろうから…それまで粘れっチ。」
「雑だな、おい!…あ!こりすちゃん、キ◯アスカイ描いてるの?良かったら描きたいところでアニメ一時停止するけど?」
「ー!!」こくっこくっ!
「チャンネルどうぞ。」
「…」ピッ
『無限に広がる○い空!キ◯アスカイ!』
「…」ピッ
「おっ!初変身ところで止めるって…分かってるじゃない。ドンドン描いていって!」
「ん…」こく
「今週から新しいのが始まるってのに…前作の1話を今から見せるとか残酷っチよ。」
「そういうこと言わないの!さて、私は宿題でもするか…」
そして、数分の時間が経つ。こりすは画用紙に描いた絵を心愛へと見せた。
「んっ!」どやっ
「おー!上手だよ、こりすちゃん!」パチパチパチ
「ボクも出来たっチ。紙芝居っチ!」
「紙芝居?何それ?」
「…知らないっチか?まぁ、最近はほぼ見ないらしいし……ジェネレーションギャップっチね。絵本の読み聞かせで…昔あった娯楽くらいに考えてもらえばいいっチよ。こりす、ボクが読んであげるっチ。」
「…」こく
頷くと同時に、こりすはチーポを抱きかかえた。
「…あの、こりす。これだけと画用紙が捲れないっチ…はぁ、心愛、代わりに捲ってっチ。」
「…」ギュッ
「分かったわよ。」
チーポによる紙芝居が始まった。
ーーー
『ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃がどんぶらこと流れてきました。』
「桃太郎じゃん!?」
『おばあさんが家に桃を持って帰るとおじいさんが、『これはなんて大きな桃だぁ!』と言い、自身へ桃を引き寄せ、膨らみに手をかけると凶悪なソレを中心部分にずぶりと突き入れました。』
「表現が卑猥!普通に絵の通りに包丁で切ったでいいでしょ!」
『すると、なんということでしょう!桃からはそこそこの青年が出てきました。』
「赤ん坊じゃないんかい!」
『おじいさんとおばあさんは桃から産まれたその青年に『桃汁べたべた男』と名付けました。』
「いきなり失礼だな!」
『しかし、あまりに奇抜な名前は今後の生活に悪影響を与えると考え直し…やっぱり無難に『ももたろう』にしました。』
「無難とか言うなよ!!」
『産まれた青年のももたろうは言いました。『鬼ヶ島に鬼退治に行くのできびダンゴを作ってください。』』
『おじいさんは言いました。『なぜ桃から産まれて鬼退治に行くのか?ストーリーの流れが唐突すぎて説明不足です。伏線をはっておくなどして読者が置いてけぼりにならない工夫をお願いします。』』
『おばあさんも言いました。『視点が最初は老夫婦だったものが途中からももたろうになっています。主人公が誰かというのをしっかり見せるよう意識して原稿を書きましょう。』』
「天下の昔ばなしにケチをつけるとは何様だよ!!」
『ももたろうが家を飛びだし歩いていると犬がやってきました。『こんにちはだイヌ。そのきびダンゴをくれたら一緒に鬼退治にいってあげましょうイヌ。』』
「語尾は『ワン』でいいだろ!」
『犬は今までにないキャラづけをしようと必死でちょっとテンパり気味でした。『いやぁ、だって犬関連で『ワン』ってのはありがちでしょ?ドン○ラザーズのイヌ○ラザーの変身の掛け声が『よっ!ワンだふる!』だし、次の『わんだふるプリキ○ア!』に関してはタイトルそのものについてるしさ。そこにある萌えは何度も使われて薄まったものになってしまっていて…』』
「うわー!突っ込まなきゃいけないの理解できてる自分がいるのが何かいやー!!」
『ももたろうが犬のヲタ談義に付き合わせていると猿とキジがやってきて仲間になりました。ももたろうたちは舟で鬼ヶ島へと向かいます。しかし、舟は泥舟でした。』
「おい!話が混ざってるぞ!」
『4人は海の中へと沈んでいきました。それを海の底から見ていた人魚姫が『大変!陸の人間が溺れているわ!』と助けてくれました。『君はいったい?』、『私は人魚姫。人の半身と魚の半身を併せ持つ魚人間よ。』』
「嫌な表現だな!」
『ももたろうたちは首輪に繋がれた亀に乗り、とりあえず竜宮城へ連れていかれました。竜宮城には美しい乙姫さまがいました。『いらっしゃい、陸の方々。』』
「だから混ざってるって!」
『鯛やヒラメの舞い踊りを適当に見て、ももたろうたちは陸へと帰りました。そこでは随分な時間が経っており、辺りは鬼たちが跋扈する世紀末ワールドでした。』
「急展開だなぁ、おい!」
『『おのれ…鬼の奴らめ。やってくれるわ…』、『この美しい地上を荒らす奴らは許さない…いくぜ、野郎ども!』。地上は乙姫と人魚姫に乗っ取られましたとさ。めでたしめでたし。』
「どんな、めでたしめでたし!?」
ーーー
チーポの語りに心愛がツッコミをいれながらも何とか紙芝居が終わる。
「ふぅー、我ながら傑作っチね。」
「どこが!?色んな童話を混ぜた闇鍋だろうが!!」
「今の小学生にはこれくらいした方がウケがいいっチよ!ねぇ、こりす?」
「Zzz…」コク…コク…
そこにはチーポを抱きつつも眠っているこりすがいた。
「寝るくらいつまらなかったみたいだけど?」
「…感想は今度聞くっチ。さて…」
ポンッ
チーポが人型へと姿を変わり、こりすを背負う。
「ー!」ぱちっ
「そろそろ、家に送ってくるっチ。」
「起きたみたいだけど…というか、その姿で大丈夫なの?」
「大丈夫っチ。光のパワーでこりすの親には説明済みだっチ。」
「洗脳済みの間違いじゃ…」
「…」すっ
「こりすちゃん?くれるの?」
「ん…」こく
「ありがとう…また、一緒にプリキ○ア見ようね。」
「…ん。」
「じゃあ…時空転移!」
こりすはチーポに背負われ、2人はそのまま一瞬で姿を消した。
「ちょっと待て!?何今の…って世界止めれるくらいだから今さらか。それは後で聞くとして…この絵は…よし!」
心愛はこりすから貰ったキ◯アスカイの絵を額へと入れて、机に飾り、今日のこりすとの出来事を振り返る。
「プリキ○アみて、チーポの変な童話を聞かされただけじゃん。…今度会う時は何かオモチャでも用意しておこうかな。」