吐瀉物の匂いと共に   作:山田木耳

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お久しぶりです。
リアルが忙しくて中々投稿出来ていませんでした。
すぐに投稿頻度アップは無理ですが徐々に投稿頻度多くしていきたいと思っていますので、もし良かったら読んでいただけると幸いです。





16.『部外者の席』

 伊地知からの関節技から解放された後に2人の『友情』を疑ったことについて俺は誠心誠意謝罪した。

 

 なんとか許して貰った俺は皆と連絡先を交換することになり、『結束バンド』の面々や伊地知のお姉さん、そして何故か初対面の女性……皆から『PAさん』と呼ばれている人とも連絡先を交換した。

 

 多分『PA』というのはなにかの役職の略称だとは思うのだが、音楽に詳しくないから全然分からない。ライブハウスはなんかノリノリなイメージがあるし『パーリーアンバサダー』とかだろうか。

 

 PAさんの助言を受けてサングラスを装着した後藤さんがノリノリに踊っているのが頭に浮かんで……いやいや流石にナイナイと想像を振り払う。

 

 俺がそういう風にしていると伊地知のお姉さんが話しかけてくる。

 

「どうする? 私達はこれからライブの打ち上げに行くつもりだったけど……せっかく再会したならもっと話したい事とかあるんじゃないか?」

 

「……そうですね」

 

 色々話したい事、話さなきゃ行けないことが山ほどある。でも、俺の身の上話を一から話して言ったら打ち上げ会場の予約時間に間に合わなくなってしまうだろう。

 

 ここは、後日必ず『突然引っ越すことになった事情』を説明すると約束し、ライブの関係者達は打ち上げ、俺と廣井さんは帰路につくべきだろう。

 

 ──それに俺の身の上話は初ライブを終えた後の者が聞くべきで無いような……。少々重い内容も含まれる。尚更、今話すべきでは無いだろう。

 

 俺の考えを伊地知と山田に伝えると二人は納得してくれたようで『今度は絶対伝えてね!』と念を押される。

 

 俺はその言葉に確かに頷いてからライブハウスの面々に別れの挨拶をして帰路につこうとしていると……廣井さんが声を上げる。

 

「じゃ! そろそろ打ち上げ行きますか〜」

 

「いやいや廣井さん。俺達は部外者ですから打ち上げ参加出来る訳無いでしょう。さっさと帰りますよ」

 

 廣井さんはどうやら打ち上げに参加するつもりだったらしい。

 部外者である俺と彼女が打ち上げに参加出来る訳が無いだろう……と思っていると廣井さんが言葉を続ける。

 

「いやいや健治くん。君は知らないかもしれないけどライブ終わりの打ち上げにファンが参加することは珍しいことじゃないよ」

 

「そう、なんですか……?」

 

 本当だろうか。アイドルのライブと違って、バンドのライブはそこらへん緩いのだろうか。それが本当だとしても高校生バンドのライブの打ち上げに酔っ払いが行くのはどうなのだろうか。

 

 そういえば聞いた話だと、今日『結束バンド』が公演したライブハウスは伊地知のお姉さんが店長をしているらしい……ひょっとしてこの人、最初から打ち上げに参加するつもりだったのか? 

 

 後藤さんを応援したいという気持ちは確かにあるだろうが、ライブ終わりの打ち上げも今日来た目的の一部にあっても廣井さんなら全然有り得る話だ。

 

 伊地知のお姉さんは既に諦めているようで溜息を吐いている。廣井さんがこうなったら例えどんな状態になっても酒の席に向かって行くだろう。

 

「それなら俺は家でやることがあるので先に帰りますよ。もし帰る時に迎えに来て欲しかったら連絡してくださいね」

 

「分かった〜ありがとうね〜〜〜」

 

 俺がそう言って皆に挨拶だけして帰路につこうとすると……伊地知のお姉さんが不思議そうな顔をして聞いてくる。

 

「迎え……? 健治、こいつのこと打ち上げ後に迎えに来るのか? なんで?」

 

「え? いや、いつものこ……ん゛ん!?」

 

 俺が『いつものことなので』と答えようとすると何故か大慌ての廣井さんの手よって口を勢いよく阻まれる。身長差があるので俺の襟元を掴まれて無理矢理口を下に持ってこられた上で口を阻んでいる。

 

は、はにふるんへすかひろいさん(な、なにするんですか廣井さん)……?」

 

 俺が抗議の声を上げると、廣井さんが目を逸らしながら弱々しく声を漏らす。

 

「あ、あはははは! い、いや〜〜危なかったね健治くん。えっと……その……そう! 蚊が! 蚊が健治くんのことを刺そうとしてたよ〜?」

 

ん、むごもごんご(そ、そうですか)……?」

 

 蚊なんて居ただろうか。全然気づかなかった。礼を言おうとするが廣井さんが何故かいつまでも俺の口から手を離してくれないせいで喋ることが出来ない。

 

 伊地知のお姉さんからの質問に廣井さんが代わりに答える。

 

「あーえっと、それは……そう! 健治くんって優しいから夜中一人で自宅に帰る私を心配してくれてるんですよ! ね〜〜〜? そうだよね〜〜健治く〜〜ん?」

 

 そう言いながら廣井さんは俺の顔を覗き込んでくる。表情が『首を縦に振ってくれ頼むから』と言っている様な気がする。

 

 自宅……確かに自宅だ。普段帰る事が多いのは廣井さんの自宅では無く俺の自宅だが。決して嘘は言っていない。嘘は言ってなくても首を縦に振るのは少々はばかれるが。

 

「……なんか隠してないかお前?」

 

 伊地知のお姉さんが疑いの視線を向ける。廣井さんがあからさまに顔を逸らす。

 

(今度は一体何をしたのだろうこの人は……)

 

 どうせろくな事では無い。多分自業自得なことだ。

 伊地知のお姉さんは、さらに問い詰めようと言葉を続けようとしたタイミングで……伊地知が声を漏らす。

 

「あ、そっか……健治くん打ち上げ来ないんだ。久しぶりだし、居なくなった事情は話せなくても他の事を色々話したいんだけどなぁ」

 

 声に反応して彼女の方を見ると明らかにしょんぼりした様子だ。俺だって色々話したいが……打ち上げは今日頑張った『結束バンド』を労う為のものだ。それに……。

 

 チラリと後藤さんの方を見る。

 

「うあっ、あっあっあ……」

 

 その姿は真っ白に燃え尽きかけており、今も喜多さんが手を繋いで引っ張ってあげないとまともに歩けなくなっている。打ち上げ会場に着く頃には完全に何もかも燃え尽きるのでは無いだろうか。

 

 彼女の演奏で俺は二人と再会しようと勇気を振り絞れたのだ。礼を伝えようと思っていたが今の彼女に俺が下手に話しかけるとトドメを刺してしまいそうだ。

 

 後藤さんは俺の事が苦手そうだし、部外者の俺が打ち上げに参加したら気が休まらないんじゃないか。やはり俺は参加するべきでは無いだろう……と思っていると喜多さんが突然声を上げた。

 

「私も遠坂先輩の話は気になります! 打ち上げ来てください!」

 

(うっ……!)

 

 眩しい。何故か頭の中に『キタ──ン』という謎の擬音……擬音? が聞こえてきた。眩しくて、純粋で、少し圧が強い。俺は押しに弱いのだ。

 

「そ、そこまで言うなら……」

 

 俺は喜多さんの圧に負けて俺は首を縦に振った。結局、打ち上げに行くことになってしまった。本当はやることがあるのだが……別に今日くらいはいいだろう。

 

 山田や伊地知は嬉しそうにしていたが後藤さんには悪いことをした。常に顔が真っ白なせいで今どういう感情になってるのか分からないが。

 

「……それに遠坂先輩がリョウ先輩の元カレなのかどうか確かめなきゃいけないし……」

 

 喜多さんは何かを話していたが、小声だったせいでよく聞こえなかった。先程まで明るかった喜多さんに黒い影が差した気がしたが……本当に一瞬だったので多分気のせいだったのだろう。

 

 ▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 俺と廣井さんは『STARRY』の面々と共に打ち上げ会場である居酒屋にやってきていた。後藤さんの心労を減らす為にも離れた位置に座ろうと思っていると先に座っていたPAさんが手招きしながら声を掛けてくる。

 

「あ、遠坂くん。良かったら隣どうぞ〜」

 

 そう言いながら隣に座るように促してくれる。

 俺が何処に座ろうか迷っていたのを感じ取ってくれたのかもしれない。この気遣い力、流石大人だ。

 

 後藤さんは結束バンドメンバーと纏まって座るだろうし、俺は大人組に混じって座るのがベターだろう。

 

 そう思って彼女の隣に座ろうとして……何故か横から伊地知のお姉さんに割り込まれて先に座られてしまった。

 

「えっ」

 

 PAさんが困惑の声を上げる。

 俺も困惑していると、伊地知のお姉さんが俺の方を振り返って話しかけてくる。

 

「健治、私の隣空いてるぞ」

 

 今ちょうど貴女の座った所に座ろうと思ってたんですけど……と思っているとPAさんが不満そうに店長を睨む。

 

「……ちょっと店長」

 

「うるせぇ。お前は怪しいんだよ。いいか健治……こいつに何かされたら絶対私に言うんだぞ! 私はお前の味方だからな!」

 

 伊地知のお姉さんがいきなりそんな事を言ってくる。急にどうしたのだろう。PAさんは初対面だからどういう人なのか知らないが結構やばい人なのだろうか。

 

 でも見た感じ全然そういう風には見えないが……? 

 

「は、はぁ……? 分かりました……?」

 

 よく分からなかったがとりあえずそう返事をした。PAさんは不満そうに伊地知のお姉さんに抗議し始める。

 

「あの店長、私がヤバい人みたいに言うの辞めてもらえませんか……? 人って第一印象が一番大切なんですけど」

 

「お前は信用ならないんだよ。改めて言っておくけど健治は『高・校・生』……だからな?」

 

「わ、分かってますって。でも別に仲良くなるくらいはいいじゃないですか〜」

 

 何故、俺が『高校生』であることを伊地知のお姉さんはあんなにも強調するのだろう? と思いつつも、気を取り直して今度こそ伊地知のお姉さんの隣に座ろうとして……。

 

「あ! 私は先輩のとっなり〜!」

 

 そう言いながら割り込んで来た廣井さんに座ろうとしていた席を取られてしまった。

 

「あっ、お前! そうか、お前も居たんだった……忘れてた……」

 

 伊地知のお姉さんが頭を抱え始める。一体どうしたのだろう。なんだかさっきから様子がおかしい。最初再会した時は全然変わってないと感じていたが、長い間会ってないうちに変わってしまったのだろうか。

 

 俺がそう思っていると今度は廣井さんが手招きし始める。

 

「健治くんも立ってないで座りなよ〜」

 

 座ろうとして何度も割り込まれたんですが……と思いつつも、これ以上待ってるとまた割り込まれそうなのでとりあえず廣井さんの隣に座る。

 

 俺が座ると伊地知のお姉さんは怖い顔をしながら、廣井さんに話しかけ始める。

 

「おい。廣井……分かってるだろうな? 健治に変なことすんじゃねぇぞ?」

 

「え? あ、い、いやだな〜誤解ですよ〜〜! しませんし、してませんって〜〜」

 

 そう言いながらゴマすりし始める廣井さん。現実で本当にあの手の動きする人を初めて見たし、出来れば見たくなかった。

 

 どうやら二人の間には結構な力関係があるようだ。

 

 音楽以外はちゃらんぽらんな廣井さんのことだし、学生時代から伊地知のお姉さんに迷惑をかけていたのが容易に想像出来る……と思ったが一つ疑問が浮かぶ。

 

 学生時代は当然だが飲酒はして無い筈だ。

 

 普段の酔っ払ってる廣井さんはちゃらんぽらんだが、よく考えたら俺は酔っていない彼女を見たことが無いから知らない。酔ってない時は案外真面目だったりするのだろうか。

 シラフの時の廣井さん……駄目だ、想像出来ない。

 

 

 廣井さんのことは何度も介抱していて、一緒に過ごす時間も増えているのに俺は意外と彼女について知らないことが多い。

 

 




祝!廣井きくりの深酒日記1巻発売!!(周回遅れ)
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