吐瀉物の匂いと共に   作:山田木耳

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いつも評価、感想、お気に入り登録等々ありがとうございます。誤字報告も感謝です。

前話の投稿後に急にUA数が上がって驚いていたのですが、どうやら二次創作の日刊ランキングに載っていたようです。これもいつも読んでくださる皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。

最近リアルがまた忙しくなっているので次の投稿は7月中になりそうです。気長に待っていただけると幸いです。



20.『秘密の協定』

 

 照りつける太陽、汗ばむ身体……今日から秀華高校は夏休みである。そうは言っても俺のすることはそんなに変わらない。

 

 いつも通りバイト先と家を往復、オフの日はSICK HACKのライブを見に行く生活だ。しかし、しばらくクラスメイトと顔を合わせなくて良いと思うと少し気分が楽になる。

 

 RAINを確認すると通知が『999+』と表示されていて開くのが億劫になる。こんなに多いと全部確認しきれなくて大事な連絡を見逃しそうだ。

 

 これを見ていると、喜多さんと学校で話した時に早めに切り上げて立ち去ったのは本当に正しい判断だったと実感する。この連絡先の中に舎弟のような言動をとってくる1年生が増えたらさらに収拾がつかなくなっていただろう。

 

 まだ1年生は喜多さんと後藤さんしか連絡先を登録していないのでこのまま連絡先が渡らないように死守しようと俺は心に誓うのだった。

 

 普段の長期休みは学校で疲労したメンタルを回復させるだけの期間だったが今年は……山田や伊地知達が居る。彼女達と遊びに行くのも良いだろう。それに廣井さんともどこかに遊びに行きたい。

 

 もっとも、山田達に関しては結束バンドとしての練習もあるだろうし邪魔しない程度になるだろうが。廣井さんの場合は……暇なのか忙しいのかよく分からない人だから後で聞いてみるとしよう。

 

 伊地知達と言えば、この前の質問攻めは凄かった。伊地知は心配そうに、山田は面白そうに、星歌さんは疑いながら。三者三様で次から次へと質問されていくのは中々辛かった。

 

 そして、押しに弱い俺が質問攻めされ続けて黙り続けていられる筈が無く……抵抗はしたが結局、俺が廣井さんに金を貸したり家にあげることを強く拒絶してなかったことがバレてしまった。

 

 その後は、星歌さんによる『悪い大人に騙されない為の教育』が開始され、長い間拘束されてしまった。そのせいで昨日は帰るのが随分遅くなってしまった。

 

 俺としては、別に廣井さんのことを『悪い大人』とは思ってない。ただ『だらしない大人』なだけである。それに『騙されてる』とも思っていない。ただ『金を返さない』だけである。

 

……最近は廣井さんが言わなくても俺が払う時もあるのだが、それを伊地知達に言うとまた『貢いでる』って言われそうなので黙っている。

 

 それにしても、このまま廣井さんと星歌さん達に確執が生まれてしまうのは避けたい。しかも俺を理由に。

 

 やはり一度、廣井さんを星歌さん達の前になんとか連れて行って、全部話した方が良いかもしれない。俺も強く拒絶しなかったという非があるので俺も追加で説教を食らうと思うが背に腹はかえられない。

 

 あと、色々ドタバタしていたせいで伊地知達に『俺が黙って引っ越した』経緯をまだ説明出来ていない。その会話を始めるにしても、このままでは廣井さんの存在が話の腰を折りまくる可能性が高いので早急にこの問題に一区切りを付けたいところである。

 

「それにしても良い天気だなぁ」

 

 太陽が俺の身体を照りつけてくるが、煩わしさは感じない。青い空、白い雲、心地の良い風が夏の暑さを爽やかなものに変えてくれているのだ。

 

 セミの鳴き声も例年ほどうるさいものでは無く、落ち着いている。

 

 今日みたいな日は素麺でもすすって心地好く休日を過ごすのが一番。そう考えてスーパーへ向かっていると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、汚ろろろろろろろろっ!!」

 

 爽やかな夏の日を台無しにする嗚咽が曲がり角の向こうから聞こえてきた。ドロっとしたものが落ちて、そして跳ねる音が耳に届く。それと同時に鼻の下を吐瀉物の匂いが通り過ぎる。

 

「………………今日はもう帰ろうかなぁ」

 

 軽快だった足取りは鉛が付けられたように急激に重くなり、爽やかだった夏の空気は吐瀉物(いつもの)の匂いを纏い始める。セミの鳴き声が控えめだったことで嘔吐音がダイレクトに耳に届いて最悪の気分だ。

 

 ここで帰っても誰からも文句は言われないだろうが……声からしてどうせあの人なので放っておくのも罪悪感が湧く。

 

 ため息を一つだけ吐いた後、意を決して俺は曲がり角の先へ歩を進める。

 

「うわぁ。昼間から何やってるんですが廣井さん」

 

 そこに居たのはやはり廣井さんであった。エチケット袋が無かったのか、それとも間に合わなかったのかコンビニのレジ袋に吐瀉物を吐き出しており、下の方が膨らんでいた。

 

 レジ袋から透けて見える吐瀉物を極力見ないようにしながら廣井さんの元に近づく。吐瀉物を思う存分吐き出していた彼女もこちらに気づいたようでゆっくりと顔を上げる。

 

「おえ? あっ……健治くぅん……良いところに……ちょっと水持ってない?」

 

「どうぞ。そのレジ袋持っときますよ」

 

 廣井さんと過ごす内に常に常備するようになってしまった鞄から水の入ったペットボトルを取り出して彼女に手渡す。廣井さんから受け取ったレジ袋の中身を見ないようにしながら上の部分を結んで零れないようにする。

 

 俺がそうしていると廣井さんは勢いよく水を飲む。

 

「んっん……ぷは〜〜! ありがとう! 大分楽になったよ〜〜!」

 

 出すもの出してスッキリしたのか廣井さんの顔は明るい。こうして見ると彼女の容姿は非常に整っており、街を歩けば芸能スカウトの声を掛けられても不思議では無いほどだ。

 

 夜でも昼でも関係なく常に酔っ払っていて、定期的に吐瀉物を撒き散らすのが足を引っ張りすぎているが。

 

 そんなことを考えていると廣井さんが不思議そうな顔をする。

 

「それにしても健治くんがこんな時間にいるなんて……さては学校中退……!? まさか私の介抱の為に……!?」

 

「違いますよ」

 

 廣井さんの介抱の為に高校中退は流石に入れ込みすぎだろう。俺が介抱の為なら高校を中退すると思っているのだろうかこの人は。

 

「夏休みですよ。夏休み」

 

「夏休みか〜! いいよねぇ……海、バーベキュー、肝試し……」

 

「そうですね。それはそうと幸せスパイラルしようとしないでください」

 

 廣井さんの手を掴んでパック酒にストローを指すのを止める。普通に会話していても何の脈絡も無く、いきなり幸せスパイラルを発動しようとするのを辞めて欲しい。

 

 当の彼女は『うぅ……真夏の海……陽キャの集まるビーチ……青春のキラキラ……』等と呟いてる。

 

 そんな廣井さんの様子に呆れながら……俺は彼女に会ったら聞こうと思っていたことを思い出す。

 

「そういえば、打ち上げの後に星歌さん達に会いました?」

 

「……うっ」

 

 廣井さんは露骨に目を逸らす。なんとなく分かっていたことだが、やはり会っていないようだ。

 

「……そうですか。俺は会いましたよ」

 

「そっかぁ……先輩どんな感じだった? 怒ってた?」

 

「……ノーコメントで」

 

「答え言ってるようなもんだよぉ……健治くん分かりやすいんだから」

 

 気を使って言わなかったのだがどうやら表情に出ていたらしい。廣井さんが頭を抱えてしまった。散々言われているが、俺ってそんなに表情に出やすいのだろうか。

 

「なんかすみません……。俺達がそういう関係では無いとは分かってくれてそうですが、お金貸してることは誤魔化しきれませんでした」

 

 打ち上げ終わりの時に口が滑って言ってしまったから隠し通すのは非常に困難でだったのだ。大人しく話すこと話して説教を受けた方が良いと思う。

 

「実際、廣井さんにはもう少しマトモな生活して欲しいので甘んじて説教を受け入れて欲しいんですけど」

 

「そ、そんな健治くん! 私を見捨てるの!?」

 

 廣井さんはそう言うと俺の腰をがしりと掴んでくる。通行人が怪訝そうな目でこちらを見てきたので廣井さんを剥がそうとするが、逃がすまいとがっちり掴みかかってきてので剥がせない。

 

 正確には俺と廣井さんでは体格差がありすぎるので力を入れたらすぐに剥がせそうだが……あまり痛いことはしたくないので言葉で落ち着かせて離れてもらう作戦に出る。

 

「人聞きの悪いこと言わないでください。俺はただ星歌さんに廣井さんがこってり絞られて酒を飲みすぎず、お金は借りず、真面目に生活するようになって欲しいだけですから」

 

「それを見捨てるって言うんだよ!?」

 

「そうですか……? 生活習慣も改善されて良いと思うんですけど」

 

「私にとってはお酒を飲むことが適切な生活習慣なんだよ〜〜!」

 

 酷い生活習慣だ。適度な酒は全然問題ないと思うが、彼女の場合四六時中酔っていてシラフの時間が存在するのか怪しい。

 

「と、というか! 私達、実はすれ違いが起きてたんだよ!!」

 

「すれ違い……? 何のことですか?」

 

 少し落ち着いてきたのか廣井さんの手が緩まってきた。

 

「私! 健治くんのことを成人済みの大学生だと思ってんたんだよ!!」

 

「……え?」

 

 結構長い間過ごしてたのに、それは流石に無理がないか……? と思ったが言われてみれば、確かに廣井さんに俺の年齢を言ったことは無い。

 

 それに彼女の前で秀華高校の制服に袖を通した事も一度もない。

 

 思えば、バンドメンバーの不祥事に対応する為にお詫びの品を用意しようとするあの真面目な岩下さんが成人済み(廣井さん)未成年()に養われることなど認める筈が無い。

 

 恐らく、廣井さんに俺が『成人済み』であると言われていたから彼女もそう勘違いしていたんじゃないだろうか。

 

「……そう言われてみれば確かに俺の事を成人済みだと思ってたみたいですね」

 

「でしょ!でしょ!分かってくれた!?」

 

 少し安心したのか廣井さんの手が俺の腰から完全に離れる。

 

 正直、そんなに高校生に見えないだろうかと思ったが……俺は他者から実際の年齢より大人びて見えるそうなので廣井さんもそうだったのだろうと、自分の中で納得させる。

 

「でもそういうことなら……成人済みだと思ってたと正直に話せば少しは説教が軽くなるんじゃないですか?」

 

 いわゆる『違う!俺は知らなかったんだ!』というやつである。説教の有無は変わらずとも、情状酌量の余地があると星歌さんが感じてくれるかもしれない。

 

「俺も一緒に行くので後で説教受けに行きましょう」

 

 廣井さんの言葉だけだと説教逃れの為にでっち上げた嘘のように星歌さんに捉えらてしまうかもしれないので、俺もついていって一緒に証言した方が良いだろう。

 

「ちなみに聞きたいんだけど説教無しってプランは……?」

 

「それは諦めてください。未成年から金を借りたり、頻繁に家に来たりしてる事が星歌さん達にバレちゃったので」

 

 星歌さん達にバレたのは俺が口を滑らしたのが原因だが、廣井さんは金を借りてる側なので強くは言い返せず、頭を抱えて唸り始めた。

 

「ううう……誘ってきたのは健治くんなのに……未成年か成人済みかでこうも変わるだなんて……」

 

「語弊を生む言い方しないでくれませんか??」

 

 確かに一番最初に『俺の家で休みますか?』と誘ったのは俺の方だが、廣井さんも了承したのだからお互いの間に『同意』があって………………駄目だ。どう言っても語弊が生まれそうな気がする。この話は辞めにしよう。

 

「というか別に説教を受けに行くだけなんですから、そんなに怖がらなくても。俺も証言しますし」

 

「いーや! 健治くんは分かってない! 怒った先輩の怖さを! それに説教されたらもう健治くんの家に気軽に行けなくなっちゃうし……」

 

 そう言う廣井さんは明らかにしょんぼりした顔になってしまった。純粋に俺と一緒に居る時間が減ることを悲しんでくれているのか、介抱してくれる相手が居なくなるのを悲しんでいるのか……前者だったら嬉しいが廣井さんの場合、自信を持って前者と判断することが出来ないのが悲しいところである。

 

 確かに、星歌さんは怒ったら怖い。説教されたら普通は気軽に来れなくなってしまうかもしれない。だけど……。

 

「……別にそんなことは無いでしょう」

 

「え?」

 

「……ですから、星歌さんに内緒で来ちゃえばいいんですよ。俺の家に」

 

 バレたら星歌さんにこっぴどく怒られるかもしれないが……それでも……俺は、あの家に一人で居るのはもう寂しくなってしまったのだ。正直に言えば、星歌さんに怒られたことなど酒で忘れて何食わない顔で来て欲しい。

 

 それに、お金を返してもらうタイミングが無くなってしまうし。

 

「前に言ってたじゃないですか廣井さん。俺達、親友(ベストフレンド)なんでしょう? それなら、遊びに来ることくらいおかしな事じゃないですよ……って、廣井さん?」

 

「…………」

 

 俺は廣井さんが目をぱちくりさせて固まっていることに気づいた。どうしたのだろうか。廣井さんからしたら星歌さんに内緒で来るのは流石にNGだったのだろうか。

 

 ……思えば、これは完全に俺のワガママだ。

 廣井さんは星歌さんの説教を怖がっているのに、俺は『説教無視して家来てください』と宣ったのだ。

 

 迷惑に思ったかもしれない。酷いと思ったかもしれない。バレたらどうするんだと思ったかもしれない。これでは……これでは……。

 

 

 

 

 ────『悪い子』にならないでね。ずっと、ずぅぅと『良い子』で居てね、健治。私を失望させないでね。

 

 

 

 

 ……嫌なものを思い出した。記憶の奥底に追放した筈の過去の思い出(トラウマ)が掘り返されそうになるのを無視しながら言葉を絞り出す。

 

「えっと……流石に駄目ですかね……? すみません変なこと言って……」

 

 平静を取り繕いながら、俺がそう言って、先程の発言を撤回しようとしたその時……。

 

「ふふっ」

 

 廣井さんが小さく漏らした笑った。俺が困惑していると、彼女は言葉を続ける。

 

「……バイトサボってライブに行ったり、先輩に内緒で来ちゃえば良いって言ったり……」

 

 そう言う廣井さんの表情は、とても嬉しそうで。なんでそんなに嬉しそうな顔をするのか俺にはよく分からなかった。

 

「健治くんって、どんどん『ロック』になってくね〜〜!」

 

「え、そう、ですかね……?」

 

 これがロック……なのだろうか? むしろこれは……。

 

「その言い方だと俺は『悪い』方に進んでるんじゃ……」

 

「いや、むしろ良い!! 良い子! 良い子だよ健治くん! 褒めてあげよ〜う! よ〜〜〜しよしよし!」

 

 廣井さんはそう言うと、俺の頭を撫でようとして……届かないことに気づき、何度か手を迷わせながら……俺の腹を撫で回し始める。

 

 よりによって、そこを撫でると決めたのか。くすぐったいから早めに辞めて欲しい。

 

 それにしても……。

 

「……良い子、ですか」

 

 ────同じ単語でも廣井さんか『あの人』が喋るかで全然印象が違う。なんだか、少しだけ気分が楽になった。

 

「えっと、オッケーってことですか?」

 

「うん。いいよ、皆には内緒だね!」

 

 廣井さんはあっけらかんと笑いながら言う。想像以上にあっさりとしていて困惑し、思わず言葉が漏れる。

 

「でも、俺が言うのもなんですけど……良いんですか? 星歌さんに内緒だなんて」

 

「いーの! いーの! 細かいことは気にしな〜い!」

 

 そう言いながら廣井さんは新しいパック酒にストローを刺し始める。この人、星歌さんに怒られるのが怖くなった時は幸せスパイラルを使う気だ。

 

 あんまりそういう飲み方はしないで欲しいと思ったが……廣井さんがOKを出してくれたことに喜んでいる自分は確かにいるので強くは言えない。

 

「……まぁ、いざ怒られるってなった時は一緒に怒られましょう」

 

「お! いいねぇ! それなら……」

 

 螺旋を描く瞳が俺を真っ直ぐ見据える。

 

「──これって共犯ってことになるのかな?」

 

 そう言われると……なんだか、いけないことをしてるみたいだ。実際、未成年が一人で住む家に成人済みが頻繁に訪れるのはあまり良くないのだろうが。

 

 ──それなのに少しだけ胸が踊っているのは何故だろう。

 

 俺のそんな考えを知ってか知らずか、廣井さんはニヤニヤした表情で言葉を紡ぐ。

 

「というか、健治くんってそんなに私に会いたいのか〜! このこの〜可愛いやつめ〜〜!」

 

「うっ……」

 

 痛いところを突かれた。ついでに腰にも軽く物理的に小突かれてる。顔が熱くなっていくのを感じ、咄嗟に誤魔化そうと口を開く。

 

「いや、俺は廣井さんが残念そうな表情したから言っただけで……」

 

「え〜〜私、そんな顔したかな〜酔ってるから覚えてないな〜〜」

 

「このタイミングで酔いを理由に持ち出すのは卑怯じゃないですか??」

 

 俺はさらに言い返そうとしたが……手にまだ廣井さんが吐いた吐瀉物入りのレジ袋があったことを思い出す。いつまでもこれを持ったまま会話する訳にも行かないだろう。

 

「……コホン。まぁ、いいです。話しすぎましたね……俺はこの吐瀉物を捨てに一旦家に戻りますけど廣井さんはどうします?」

 

「あ、なら私も一緒に着いてってあげるよ〜〜。ほら、嬉しい? 嬉しい? 仕方ないな〜〜! 今日はずっと一緒に居てあげようか〜〜?」

 

 廣井さんがそう言いながら俺の顔を覗き込んでくる。廣井さんめ、完全に面白がっている。顔が赤くなっているのを顔を逸らしてバレないようにしながら俺は言葉を紡ぐ。

 

「…………家に帰ってコレ捨てた後は、また外に出て買い物にでも行こうかと思ってたんですけど、勿論ついてきてくれますよね?」

 

 俺がそう言うと先程までノリノリだった廣井さんの動きが固まる。

 

「え、い、いや〜〜私もうクーラーの効いた部屋でゆっくりしたいんだけど……」

 

「今日は一緒に居てくれるんでしたっけ」

 

「あ、あ〜〜! ちょ、ちょっと酔ってるからわかんないかもな〜〜」

 

 こちらから視線をそらそうとする廣井さんの顔を今度は俺が覗き込む。

 

「廣井さん」

 

「うっうっ…………嵌められた!!」

 

 しばらく抵抗するように目を逸らし続けていた廣井さんだったが、遂に観念したようだ。別に嵌めたわけでないが、散々からかわれたので少しくらい仕返ししても良いだろう。

 

「ふふっ。それじゃ、行きましょうか」

 

 俺はお昼に氷水でキンキンに冷やした素麺を一緒に食べるのを楽しみにしながら家へ向かうのだった。

 





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