お久しぶりです。リアルが多忙になっており、中々話を書けなないでいました。大変申し訳ありません。投稿頻度が低くてもいつも読んで下さる皆さんには感謝しかありません。これからもよろしくお願いします。
※今回の話は少し暗いです。ご注意ください
結束バンドの子達と健治くんの様子を横目で眺めながら、私……廣井きくりはカウンター席に座る。
健治くんの表情は明るい。それもそうか。また会いたいと言っていた友人達と話しているんだ。それに、彼なら喜多ちゃんやぼっちちゃんとも仲良くできると思う。
(良かったねぇ健治くん)
心の底からそう思う。
初めて会った時とは比べ物にならないほど表情が柔らかくなっていた。それに、結束バンドの皆と話してるその姿は本当に楽しそうである。
彼は少しずつ変わっているのだ。
生活必需品以外無かった殺風景な部屋に
ぼっちちゃんは彼のことを少し怖がっているみたいだけど、健治くんとの相性自体は私はそこまで悪くないと思っている。お互いに遠慮が無くなっていけば良い関係性を築けるんじゃないかな。
喜多ちゃんの押しの強さに初めは戸惑いそうだが健治くんならきっと大丈夫だろう。お互いにボケとツッコミをするいいコンビになりそうだ。
(コンビ名は『来たけん』とか良いんじゃないかな)
二人が漫才師としてテレビに出てる光景を想像して……いや、想像してどうするんだろう。お酒は嫌なことを忘れさせてくれるけどシラフでは考えつかないような思考に陥らせる。
これから大事な話をしないといけないのに……と思いつつも、私の酒を飲む手は止まらない。止めるという思考すら無い。これが廣井きくりという一人のベーシストの性だからだ。
私がそう思っていると先輩がジト目で此方を見ながら話しかけてくる。
「なんだお前。さっきから健治のことジロジロ見て」
「いやいや〜ジロジロ見てなんかないですって」
嘘です、めっちゃジロジロ見てました。
素直に言うとまた関節技決めてきそうなので嘘を吐きました……とは流石に言えず、誤魔化すために言葉を絞り出す。
「ただ……感慨深いな〜〜〜〜って」
「お前はアイツの親かよ」
先輩が呆れながら私を見つめてくる。親か……そう、親と言えば先輩に聞いておきたかったことがある。
結束バンドの子達と健治くんの様子を遠目で眺めながら、私……廣井きくりは先輩の隣に座って話しかける。
「ところで……先輩に聞きたいことがあったんですけど」
「……なんだ? 急に改まって」
私が声のボリュームを絞ったことで、先輩はこの話があの子達に聞かれたくない内容であることを察してくれたようだ。私は兼ねてから疑問だったことを先輩に訊ねる。
「健治くんの親ってどんな人ですか?」
「……お前まさか本気で狙って」
「いやいや、違いますって! それとは別にちょっと気になっててぇ……!」
再び始まりかけた関節技に恐れながら私がそう言うと、先輩は少しだけ考える素振りを見せてから口を開く。
「私だって別に詳しい訳じゃないが…………普通の親だよ。怒ってるところは見た事ないし、話も上手いしで評判は良かったかな」
「……そうなんですかぁ」
間があったなぁ……。多分、先輩は何か嘘を吐いている。先輩はそれを誤魔化すように此方を睨みながら言葉を紡ぐ。
「なんだその微妙な反応。なにか思うことでもあるのか?」
先輩にそう言われて、話すか少し迷ったが……結局話すことにした。事情は説明しといた方が良いだろうし。
「……いや〜〜私って健治くんの家に入り浸ってたじゃないですか〜〜〜〜」
「お前ぇ……! また絞められたいのか??」
先輩が私の方に身体を乗り出してくるが……その間にPAさんが手を入れる。
「抑えてください店長さん。廣井さんもあまり煽らないでください」
PAさんが先輩を宥めてくれる。た、助かった……。
折角、説教を乗り越えて人の形を保っているのに最後の最後で台無しにしたくは無い。
ただ、先輩が本気を出したらPAさんなんて風に吹かれた枯葉のように物理的に飛んでいってしまうのでさっさと本題に入った方が良さそうである。
私は内心、先輩にビビりながらも口を開く。
「でも、どんな時間に行っても彼の両親に会ったことが無いんですよねぇ」
「……なに?」
私の言葉を聞いた先輩とPAさんの表情は揃って訝しむものへと変わった。
「高校で一人暮らしってのも無くは無いですけどちょっと気になってて」
「……偶然、廣井さんが来る時に健治くんの両親が居ないだけじゃないんですか?」
PAさんがそう口にする。
確かに家に行った時はたまたま彼の両親が居ないタイミングだったということもあるかもしれない。だが……私達の場合その『偶然』が無いのだ。
「あははは〜〜! 私を舐めちゃいけませんよPAさ〜〜ん! 朝昼晩ランダムに週4ペースで家行ってるんですから〜〜!!」
「このぉ……!」
「ステイ!! ステイだ!!」
身を乗り出してきたPAさんを先輩が宥めてくれる。
先輩が怒るなら分かるけど、なんでPAさんが怒ってるんだろう……? と思ったけど、それよりも先輩が関節技を繰り出す選択をする前に話を続けるべきだ。
私の今の話で私達の間に『偶然』なんて無いことが分かってくれたことだろう。
私はかなりの高頻度で健治くんの家に行ってるので、両親が居るならどこかのタイミングで誰かしらに会ってる筈なのだ。
今更だが、この家に急に押しかけても健治くん以外は誰も居なかったのも、彼を成人済みの大学生と誤認していた要因だと思う。
それで、一人暮らしの成人済み大学生と勝手に脳内補完されたんだ。私は悪く、悪く…………無いとは言いきれないけど健治くんが説明してくれなかったのもあるから私だけの責任では無い筈だ。うん。
「まぁともかく……私はなにか事情があるんだろうな〜とは思ってるんですけど何か知りませ〜ん?」
先輩は私の問いかけに少し考える素振りを見せてから答える。
「悪いが、私は知らないな」
今度は本当に知らなそうだ。やっぱり、これは直接本人から聞かないと分からないことなんだろう。私がそう思っていると先輩とPAさんが微妙な表情をしながら言葉を零す。
「というか、なぁ……?」
「はい……」
どうかしたのだろうか。と思っていると、先輩が口を開く。
「いや、
「私の事なんだと思ってるんですか??」
「どの口が言ってんだよ」
私ってそんなに駄目人間に見られてたの……? と思っているとジト目の先輩が言葉を続ける。
「……本人が言い出してこないんだし、こっちからはあんまり触れない方が良いだろ。別に深い事情があると決まった訳じゃないし」
「まぁ、そうですよねぇ……」
先輩の言ってることは正しいと思う。健治くんにとって触れて欲しく無いことかもしれないし、気にしていないことかもしれない。
どちらか分からない以上は、此方から過度に触れるのは避けるべきだろう。酔っぱって、ちゃらんぽらんになったこの頭でもそれは理解している。
「……でも、それだけで本当に良いのかなぁ……って思う時もあって」
「……」
「先輩知ってます? 健治くんって字をめっちゃ雑に書くんですよ」
「……今の健治はそうなのか? 子供の頃は大人びた綺麗な字だったが……」
星歌さんは少し驚いたような表情で私に問いかけてくる。
「いや、綺麗な字も書けるんですよ。ただそれは他人も見る物にだけで……自分しか見ないところではめっちゃ雑に書くんです」
私はそう言いながら、彼の書いたカレンダーの文字や私に書いた置き手紙の文字を思い出していた。辛うじて他者にも読めるような酷く雑な字のことを。
「他にも料理が出来るのに自炊しないかと思えば私が来た時は毎回料理を作ってくれたり、私が来るタイミングで部屋を綺麗にしていたり」
彼は多分、面倒臭がり屋なんだろう。普段のワーカーホリックでテキパキ吐瀉物処理していく彼からは想像出来ないが、楽に出来ることは極限まで楽にやりたい人なんだと思う。
彼がそうしないのは他人の為なのだ。他人が自らの行動次第で利益を得る場合はそうなるように動き、不利益を被る場合はそれを防ぐように動こうとするのだ。
それは極限まで他人を第一にした生活だ。
「多分健治くん、他人に対して気を使いすぎだと思うんですよ〜〜そんなの続けてたら息が詰まっちゃうと思うんですよね〜〜」
彼は他者への面倒見は良いのに、自分に対してはどこか興味が薄いのだ。一体どんな子供時代を送ればああやって成長するのだろう。それを知るにはきっと彼の両親とその過去について知る必要がある。
「……随分と気にかけてるんですね」
PAさんが静かに呟く。
「そうですかね〜? いや〜〜なんとなく放っておけなくてっ!」
そう。私は彼が放っておけない。
彼のあまりにも不器用な在り方に気づいた者として放っておけない。
「……お前の言いたいことは分かったよ。私も気にかけておく」
私は先輩に礼を言った後に腕を枕にしてカウンターで寛ぐ。それと同時に、酔っ払ってちゃらんぽらんになっている思考を思回転させる。
先輩は『本人が言い出してこないんだからこっちから触れない方が良いだろ』と言った。確かに、その通りだと思う。
でも、それでも私は彼に直接聞いてみるべきだと思う。
だって、相手は健治くんである。
誰に対しても気を使って生きている彼が自分から自身の事情を話すとは思えない。
きっと『相手に気を使わせてしまうから』と考えて言わないに決まっている。
それだったら、例えノンデリと言われても、これだから酔っ払いはと言われても、私は聞くべきだろう。
思考が纏まったことに満足した私はパック酒を飲み、思考がどんどんぼやけていくのを感じつつ、彼の帰宅時間まで待っているのだった。
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STARRYからの家までの帰り道。
俺……遠坂健治は廣井さんと共に帰路に付いていた。廣井さんを家まで送っていくと言った時は伊地知に怪訝そうな視線、山田からは好奇の視線を向けられたが『この酔っ払いを一人で返すのは危ない』と説得すると『あぁ……うん。それは、そうだね……』みたいな感じに納得してくれた。
酔っ払いもたまには役に立つみたいだ。
「……ということなので廣井さん。伊地知達が近いうちに家に来ることになったので俺の家にある酒を片付けてください」
「え〜〜」
「え──じゃないですよ」
明らかに面倒くさがっている。気持ちは分からなくも無いが、かと言って面倒くさがって放置して良いものでもないだろう。
俺と廣井さんは皆の前でもう家にあげないし、あがらないと約束している。実際は内緒で家に来てもらう気満々であるが、それを知られる訳にはいかない。
酒をいつまでも処分してないままだと、ふとした時に見られてバレる可能性がある。伊地知達が他人の家の冷蔵庫を勝手に開けて物色するとは思えないが念の為、酒類は片付けておいた方が安心だろう。
「常温保存でも良いなら適当な場所に隠しときますが」
「うっ……」
どうやら常温保存は嫌らしい。酒を飲んだ事が無いから分からないが、やはり冷えてる方が美味しいんだろうか?
「……新しくちっちゃい冷蔵庫とか買うつもりない? 便利だと思うけどなー」
「ないですよ。家にある冷蔵庫で十分です」
「だよねぇ……」
廣井さんがしょんぼりしている。まるで親にお菓子をねだったが買って貰えなかった子供のようだ。実際は、未成年に冷蔵庫をねだったが買って貰えなかった酔っ払いなのだが。
しかしながら、伊地知達が家に来る度に酒を片付けるのは普通に手間である。
それに、俺が星歌さん達に内緒で家に来てしまえば良いと言った手前、廣井さんには危ない橋を渡ってもらってる。ここで希望くらいは叶えた方が良いのかもしれない。
「まぁ、冷蔵庫については後で考えます……そういえば、星歌さん達と何を話してたんですか?」
「……あ〜」
俺が伊地知達と話してる時に大人組が真剣な表情で会話していたので気になって聞いてみたのだが……廣井さんの反応に少し違和感を覚える。
「ちょっと、それは、男の子には言いづらいって言うか……」
「え、あっ、す、すみません……!」
俺は反射的に頭を下げていた。
しまった。デリカシーの無い発言だっただろうか。子供や異性が居ない状況でしか話せないこともあるだろう。
「……ふ、ふははははは! 冗談冗談!」
俺の様子を見て笑う廣井さん……一瞬、何がなにやら分からなくなってしまったが、どうやら別に男子に言いづらい内容では無かったらしい。
「勘弁してくださいよ……言いたくないならそう言ってください。肝が冷えました……」
「いや〜別に言いたくない訳じゃないんだけどちょっとからかいたくなったというかね」
思いつきで何かやるのは今に始まったことでは無いが、こっちとしては心臓に悪いからやめて欲しいものである。特に今回のような異性が触れづらいような内容は。
「そんなことより、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「急ですね。何ですか?」
言いたくないわけじゃないと言いつつも、話を変えたのは本心では聞かれたくないと思っているからなのか、彼女が酔っ払ってるせいで前後の会話を忘れてしまったからなのか判断がつかなかった。
とりあえず、俺は彼女の質問に耳を傾けて……。
「健治くんの親ってどんな人?」
「………………どんな、とは?」
思わず、質問を質問で返してしまった。
「いや〜いっつも健治君の家に行ってるのに全然会わないから気になっちゃって」
「そう、ですか。ええっと……」
いつかは聞かれると思っていた。
廣井さんはよく俺の家で泊まっている。高校生の俺が全然両親と過ごしてないのは珍しいと感じる事だろう。
それに、廣井さんは勘が鋭い。あの螺旋を描く瞳に見透かされるような気分になったのは一度や二度じゃない。むしろ聞かれるのが遅すぎたくらいだろう。
きっと、聞いて良いものなのか分からなかったのだと思う。
開きかけた口を……閉じる。
言ってしまって良いのだろうか迷いが生じたのだ。
今まで廣井さんに俺の両親について話した事は無い。人に言えば気を使わせてしまうことなので態々言う必要が無いと思っていたからだ。
「なんて言えば良いんですかね……」
だが、俺は伊地知達に別れの挨拶も無く居なくなった事情を話すと約束した。その中には俺の両親のことも含まれている。
伊地知達には話して、廣井さんにだけ話さないのは不誠実では無いだろうか。
それに、ここで下手に言うのを躊躇っていたら、より廣井さんが気を遣わせることになってしまうかもしれない。それならば、素直に言ってしまった方が良い筈だ。
俺は覚悟を決めて、廣井さんを見つめる。
できるだけ、気を遣われないように。なんとも無さそうな顔をしなから。
「率直に言うと……両親は俺を置いて夜逃げしまして」
「…………あ〜、そ〜なんだ〜」
「どこに行ったのか分からないですし、俺を置いてった理由も想像するしかないです」
本当は後者なら何となく分かっている。
両親達から直接言われたわけではないが、叔父さんの会話や両親の性格からなんとなく想像出来るし、おそらく俺の予想は当たっている。
「ごめんね。こんなこと聞いちゃって」
「気にしないで下さい。もう、心の整理がついてることなので」
そう、心の整理はついている。もう随分昔の話なんだから。人はいつまでも、過去を思い出してその場に蹲るワケにはいかないんだ。
「そっかぁ…………よぉし!! こんな時は飲んでパッーと忘れちゃお!!」
「飲みませんよ。俺が高校生って知ってますよね??」
ため息を吐きながら俺はそう呟いた。俺が高校生であるという誤解が解ければ、酒を勧めなくなると思っていたがそれは間違いらしい。こんな大人にはなりたくないものである。
しかしながら、俺が暗い話をした時に一緒に暗くなるのでは無く、酔っ払って半分程度聞いて笑い飛ばしてくれる廣井さんの在り方に助かっているのも事実である。
「ひとまず俺の家に帰りましょう。今日のうちにでも片付けれる物は片付けておきましょう」
俺はそう言って家に帰る為に歩を進めるのだった。
──この時、遠坂健治は廣井きくりが足を止めて自身の背中をじっと見ていたことに気づかなかった。その瞳は少し悲しげで彼の背中を見つめ続けている。
「……やっぱり分かりやすいね、健治くん」
その呟きは誰の耳にも届かず、下北沢に吹く風と共に消えていく。
いつもの彼なら自分を置いていくペースで歩いたりしない。今の表情を見られたくないから足早に進んでいるのだ。それを彼女は理解していた。
しかし、それを指摘するのはまだ早い。
「……ちょっとー! 置いてかないでー!」
そして、風が吹いた後に居たのはただの陽気な酔っぱらいだった。
彼女は先を歩く彼に置いていかれないように早足に進み始めた。
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誤字報告もいつもありがとうございます。