吐瀉物の匂いと共に   作:山田木耳

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いつも評価、感想、お気に入り登録ありがとうございます!
今回少し長めです。

※少し暗い話です苦手な方はご注意ください


24.『過去は悪夢と共に・後編』

 いつからか分からないが……いつの間にか舎弟のような話し方をする人達が増えていった。クラスメイト達は俺の机を拭いたり、俺の荷物を持とうとしたり、トイレに行くと俺がハンカチを出す前に己のハンカチを差し出してきたり……とにかく関わろうとしてくる。

 

 それはどれも頼んでもないのにやろうとしてきており、俺の意思を若干無視するようなその言動が少し苦手だった。お願いすれば辞めてくれるので当時は『少し苦手』以上の不快感はなかったのだが……。

 

 ある日、俺の水着が盗まれた。

 

 今では不本意なことに慣れてしまったが、人から自分の物を盗まれる……それも水着を選んで盗んだということに当時の俺には酷い不快感と嫌悪感、そして恐怖があり、俺は震える声で母に相談していた。

 

「…………お母さん、実は学校で……僕の水着を盗まれたんです」

 

 俺がそう言うと母は一瞬驚いた表情をした後、言葉を紡いだ。

 

「あら……どうして盗まれたの? なにか心当たりはある?」

 

 母にそう言われ、当時の俺は子供なりに思考を整理して答え始めた。

 

 現時点で詳細な理由は分からないということ。だが、最近男女問わず舎弟のような受け答えする人が増えているということ、何故か自分の世話をしたがることなどを話した。

 

 それを聞いてる母は時々相槌を打ちながら、静かに俺の目を見て聞いていた。聞き終わった母は顎に手を当てて少し考えて……俺に問いかける。

 

「確認なんだけど、健治は誰かに嫌われている……とかの心当たりはある?」

 

「いえ、ありません……」

 

「そう……」

 

 俺の返答に母は頷いてから、言葉を続ける。

 

「……なら何の問題も無いわね♪」

 

「………………………………え?」

 

 俺は最初、母が何言っているのか分からなかった。この人は何で問題が無いだなんて言えるのだろうか。

 

 実の息子が、不快感で震えながら相談しているというのに。

 

「だって、それだけ人気ってことでしょ?」

 

 だが、きょとんとしながらそう言う母を見て……俺は母のその性質を思い知らされたのだった。即ち『極限の承認欲求』を。

 

 俺が呆気に取られてる間にも母は言葉を続けていく。

 

「お母さんびっくりしちゃったわ〜、いじめられてるのかと思ったんだもの。でも、そんなこと無くて安心したわ! 健治は深刻に考えすぎなのよ!」

 

 恐らく、母の言葉事態に嘘は無いんだろう。事実、先程は本当に心配している表情だったと思う。

 

 だが、その心配は『俺が水着を盗まれて辛い思いをしている』ことに対する心配では無く『俺がクラスの人気者じゃ無くなった』ことへの心配だった。

 

 俺がクラスの人気者では無くなれば、母の自慢の材料が減ってしまう。それを母は危惧したのだ。

 

 そして今、その表情は安堵しているものに変わった。

 まるで、もう母の中では解決したかのように。

 

「で、でも! 僕は本当に嫌で……!」

 

 俺がそう主張しても、母は聞いてくれなかった。それどころか『寧ろ、同情を買えてさらに人気になっちゃうかもね?』と上機嫌だった。

 

「健治は人気者なんだからあんまり嫌がっちゃ駄目よ? あんまり嫌な顔をしていると人気者じゃ無くなっちゃうわ。やんわり拒否しながら、優しい顔をしておくの。そうすればきっと、ずぅっと人気者のままよ♪ 分かった? 健治?」

 

 母は曇り無い眼でそう言ってくる。

 

 俺はこれまで、母の厳しい教育の根底に『他人への自慢の材料にしたい』という思惑があっても、それでも『俺の為になれば良い』という思いが少しはあると思っていた。

 

 だが、違った。

 

 母は人に好かれる為なら何だって良いんだ。この人は最初から『俺の為』などとは考えていない。例え、実の息子が嫌だと言ってもこの人には全く関係がないんだ。

 

「………………分かりました。お母さん」

 

 俺は母にそう答えるしか出来なかった。これ以上、この話を続けても時間の無駄であると悟ったからだ。

 

 その時、俺の顔に浮かんでいた表情が失望だったのか、絶望だったのかは分からない。一つ確かな事は、もう二度と母に悩みを相談しなくなったということだけだ。

 

 それ以降、俺は今まで以上に母の言う通りに勉強に励んでいった。時が進むにつれて、母に屈服し、従順になっていくのを感じる。母との会話が疲労に感じるようになり、母との会話を出来るだけ早く終わらせる為に、母の言うことを何でも聞くようになっていった。

 

 それでも一縷の希望に掛けて、勉強を続ける。成績が良くなれば、少しは母が俺の話を聞く気になってくれるかもしれない。当時の俺はそう考えていたのだ。

 

 ──今思えば、全く根拠の無い話だ。寧ろ、これで成績が良くなったら母は『私の教育は間違ってなかった』と確信していたことだろう。

 

 だけど当時の俺にはそんな事は分からず、勉強を続けていった。学校では性別問わずに舎弟のような口調のクラスメイトが増えていき、定期的に俺の物を盗まれたり、毛髪入りのチョコを渡してきたり、さらには俺が噛み終えて捨てたガムをゴミ箱を漁って取る者まで出た。

 

 それでも母の言いつけ通り、苦笑と当たり障りの無い言葉で誤魔化していった。すると当然『ここまでやっても許される』と思ったクラスメイト達の行いはどんどんエスカレートしていく。

 

 学校ではクラスメイト、家では勉強の毎日。

 疲労を感じない日など無かった。

 

 そんな俺にとって伊地知と山田と遊ぶ時間がどれほど大切で、かけがえの無いものだったのかはきっと誰にも分からないだろう。両親は勿論、伊地知と山田自身にさえも。

 

 しかし、そうやって辛い毎日を伊地知達と遊ぶ事で癒していた矢先……父が仕事を辞めた。

 

 理由は分からない。そもそも父がどんな仕事をしていたのかも俺は知らない。母に聞いても適当に誤魔化されていた。

 

 父が仕事を辞めてから母はだんだんと暗くなっていった。

 

 今までのように貯金に余裕のある生活が出来なくなっていったからだ。それでも、その見栄のせいで普段使っている物の値段を下げることは決してしなかった。

 

 だが時間が経つうちにやはり隠しきれなくなっていく。母は巧妙に隠していたが、それでも以前との違和感を持つ人は出てきた。

 

 母は現在のお金の無い自分を知られることを恐れていた。

 別に誰かに言われた訳じゃなくても、母の頭の中には友人達にそう思われてるんじゃないかという疑惑がよぎり続けていたことだろう。そして、それは母にとって到底耐えられないことである。

 

 今まで、ただ自慢する相手であったクラスメイトの保護者達が、必死に見栄を繕わなければならない相手になっていた。それは母にとってかなりの疲労を感じさせることであった。

 

 働き手が居なくなったことでどんどん無くなっていく貯金、取り繕いきれなくなってきた見栄、周りからの視線、自身のプライドに見合っていない現在の立ち位置────遂に、耐えきれなくなった母は父を連れて逃げ出した。

 

 自分を知る人物が誰も居ない場所へと。今までの関係性をリセットして、新天地でまた新しくスタートしようと。

 

 そこからまた自身の思う通りに笑える場所を創りだそうと。自分の価値を正しく理解し、評価し、尊重する人達が周りに溢れた場所を今度こそ創りだそうと。

 

 ──遠坂健治という、一人息子を置き去りにして。

 

 子供を育てるのにもお金がかかるものだ。ましてや、母にとって他の保護者の視線は既に『愉悦』に浸る為のものではなく『恐怖』を感じるものになっていた。

 

 母はこれからの見栄を守る為に俺を切り捨てたのだ。母の意向に沿うように努力していた俺よりも、仕事を辞めた父を母は選んだのだ。

 

 コンティニューに余計なデータ(子供)は要らない。

 要らなくなったアクセサリーは捨てられ、見向きもされないのだ。彼女の宝石箱に遠坂健治を仕舞うスペースはもう、無い。

 

 

 

 

 場面は変わって────東北の叔父の家。

 

 その日は両親が二人揃って『子供には聞かせられない大事な話がある。時間がかかるから健治を泊まらせて欲しい』と叔父の家に俺を預けていた。

 

 叔父は今後の仕事について話し合うのだろうと、深くは聞かずに俺を預かった。叔父は俺を不安にさせないように、お菓子や漫画、ゲーム等を用意して夜通し遊びに付き合ってくれた。

 

 そうして夜が明け、迎えに来ると約束した時間に……俺の両親はやってこなかった。

 

「……何で電話に出ない!? 何かあったのかよ」

 

 叔父が俺を不安にさせないように少し離れたところで電話をかけること八回……俺の両親は一向に出る気配が無かった。

 

 既に迎えに来ると言われていた時刻を三時間以上オーバーしており、叔父の頭には警察に追放した方が良いのではと考え始めたところだった。

 

「そうだ……大家だっ!」

 

 俺の両親が借りていた家の大家と叔父は連絡先を交換していた。大家なら家に帰ってきているかくらいは分かるだろうという考えである。

 

「あーもしもし。久しぶりです。ちょっと聞きたいことがあって……」

 

 叔父は挨拶も早々に手短に要件を言った。これで家に居るかどうかくらいは確認してくれるだろう。話し合いに夢中になりすぎて電話に気づいてないのなら大家に直接要件を言ってもらおうと思っていた。

 

 だが、そうはならなかった。

 

「は……? いま、なんて……既に引っ越した? 何を言って……?」

 

『ですから、貴方の言う遠坂さんなら少し前に契約解除しましたよ。なんでも別の場所に引っ越すとか』

 

 大家が何を言ってるのか叔父には分からなかった。何故、実の息子がここに居るのに両親が引越しするのか。

 

「は、はぁ……わ、分かりました。ありがとうございます、失礼します……」

 

 叔父は混乱しながらも、なんとか言葉を捻り出して電話を切る。その間も叔父は思考を回し続けていた。

 

(引っ越す……? 子供に聞かせられない話をするって…………いや、まさか……!)

 

 その時、叔父は理解した。

『子供に聞かせられない話』などただの方便であると。最初から実の息子を置き去りにしていくつもりだったということを。

 

「きな臭いとは思っていた。思っていたさ………………だけどよぉ……」

 

 以前から子供に対して教育が厳しすぎるように思っていた。しかし、それは家庭の教育方針。自身が口に出すことでは無いと思っていた。だが、ここに来てそれが間違いだったことに気付かされた。

 

「ここまで、ここまで腐ってやがったのかぁ……!?」

 

 叔父の下唇からは血が出ていた。怒りのあまり血が出ることなどお構い無しに下唇を噛み締めていたからだ。

 

「……叔父さん?」

 

「……! け、健治……」

 

「どうしたんですか? 大丈夫ですか? 血……でてますよ?」

 

 叔父は辛そうな顔をしながら俺の事を見下ろしている。

 

(……心配させてしまった。そして、俺はこれから更にこの顔を曇らせることになる)

 

 ──それでも言わなければならない。

 叔父はそう思い、血を拭った後に、膝を折って俺の視線に合わせる。そして俺の肩を掴んで話し始める。

 

「……お前は賢いから、誤魔化してもそのうち分かってしまうと思う。だから正直に言うぞ健治」

 

 

 

 

 

 ……俺はこの時の感情を良く覚えている。

 

 ──違う、違うんだ叔父さん。俺はそういうことを言って欲しかったんじゃないんだ。周囲の大人達は俺の事を大人びてるっていうけど本当はそんなんじゃないんだ。

 

 母の見栄のためにそういう風に教育されたから、敬語で話して、物腰が柔らかくて、大人びてる風に見えてるだけで……実際はまだ子供なんだ。

 

 その時の俺は例え嘘でも、安心出来る言葉が欲しかったんだ。残酷な真実よりも、優しい嘘が欲しかったんだ……。

 

 そんな事は知らない叔父は、口を開く。

 

「お前のお父さんとお母さんはどこかに行ってしまった。警察にも相談するが……ひょっとしたら見つからないかもしれない」

 

 返答は無い。あまりにも唐突な事で呆気にとられているのだろう。叔父はそう思っていた。

 

「…………それじゃあ、もう、山田にも、伊地知にも会えないの?」

 

「……ッ」

 

 ──叔父は健治の最初の言葉は『お母さんや、お父さんにはもう会えないの?』と聞いてくるのかと思っていた。そう言われても良いように慰めの言葉を頭に思い浮かべていた。

 

 だが、実際に彼が口にした言葉は違った。

 

(……この話を聞いて真っ先に浮かんでくるのが両親の名で無く……友の名、なのか)

 

 健治にとっての両親が、どのような存在か。断片的だが、叔父には分かった気がした。叔父は力強く健治を見据える。

 

「……いや、いや! そんな事は無い! いつか絶対、俺はお前を下北沢に戻してやる! だから、だから……!」

 

 その後の言葉が紡がれる前に俺の意識は夢から現実へと浮上していく。

 

 母の言う通りに過ごした日々だった。母が不快に思えば、伊地知と山田から離されてしまうかもしれないと恐れていたから。だから俺はずっと母の教育に我慢しながら過ごしていた。

 

 でも、母は俺の事など見ていなかった。自慢の息子(アクセサリー)で輝く自分自身と、他者からの羨望の視線しか見てなかったんだ。

 

 勉強も、学校生活も我慢して過ごす毎日だった。辛くても伊地知達や山田と遊べればそれで良かった。だけど、全て無駄だった。

 

 

 

 

 ──結局、俺はひとりぼっちになってしまった。

 

 ■■■■■■■■■■

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 荒い息を吐き出し、背中は汗でびっしょり濡れている。いつの間にか俺の思考は夢の世界から現実へと戻ってきていた。

 

(夢、か……。それもあの人の夢)

 

 ──母親の夢。

 見るのは久しぶりだった。記憶の片隅に追いやっていた筈だった。

 

「……折り合いは付けてる、筈なんだけどなぁ」

 

 過去というものは忘れかけた頃に再び邂逅し、余計な記憶を突き付けてくるものだ。楽しかった記憶は嫌な記憶に上書きされ、侵食されるというのに。

 

 両親が夜逃げした後の俺は、叔父さんに正式に引き取られることになった。叔父さんは出来るだけ俺の事を励まそうとしてくれていた。

 

 だけど、叔父さんは多忙だったからいつまでも俺に構うことが出来なくて、結果的に両親と暮らしてた時よりも一人の時間が増えた。

 

 東北では舎弟のような喋り方をする者は現れど、友人などは出来なかった。

 

 ──端的に言って、孤独だったのだ。

 

(……そういえば、夢の中で叔父さんが『下北沢に戻してやる』って言っていたな)

 

 当時はあまりにも色々ありすぎたせいで良く聞いておらず、今この瞬間まで忘れていたが、確かに子供の頃そう言われた記憶がある。

 

 ひょっとして今回、下北沢に引っ越したのは叔父さんの仕事の都合なんかでは無く、俺を下北沢に戻す為だったのだろうか? 

 

(……いや、流石に偶然か)

 

 叔父さんも生活がかかっている。約束があったとはいえ私生活を放り出して下北沢に引っ越すとは思えない。本当に仕事の都合だったのだろう。

 

 そもそも、叔父さんはどんな仕事をしているのだろうか。聞いてもいつも微妙にはぐらかされるので知らない。

 

『仕事の都合で下北沢に行く』と言っていたが、いざ下北沢に家を借りても偶に来るくらいでほとんど俺だけで住んでいる。叔父さんが普段何処で寝泊まりしているのか分からない。

 

「ん……?」

 

 何故だろう。変な感触がする。

 何か柔らかいものが自分の身体に触れていて、さらに腹回りが濡れている。今の俺の身体は汗でびっしょりなので、濡れていること事態は別におかしな事では無いが、それにしたって腹回りが重点的に濡れている。

 

 寝ている間に何か零したりしたのか? と思い、恐る恐る腹の方を見てみると……見覚えのある人物が居た。

 

「……すーすー」

 

「ひ、廣井さん……?」

 

 そこに居たのは廣井さんだった。寝息をたてながら俺の腹に顔を乗せて寝ている。それだけ見ると非常に可愛らしく、微笑ましい光景だが、腹回りが妙に濡れているせいで素直に可愛らしいと思えない。

 

 遂に俺の腹に吐瀉物をぶちまけたのかと思い、別の汗が垂れそうになるが……嗅ぎ慣れた吐瀉物の匂いがしないことに気づく。

 

 それに安心するのと同時に吐瀉物の匂いを嗅ぎ慣れているという事実に涙を流しそうになるが……俺が心配するような事態にはなって無いので良しとしよう。本当に、切実に。

 

 改めて観察すると腹が濡れている原因は廣井さんの涎だったようだ。涎も思う所が無い訳ではないが、吐瀉物よりは全然マシである。

 

 それにしたって何故廣井さんは俺の腹の上で涎を垂らしながら寝ているのだろう。

 

 廣井さんは寝室のベッドを、俺はリビングのソファでいつも寝ている。だが今の廣井さんはソファで眠っていた俺の腹に顔を乗せ、床に座りながら寝ているのだ。

 

 一体どうしてこんな体勢で寝てるんだ……と思っていると、廣井さんが俺の手を握っていることに気づく。

 

「ひょっとして……、俺がうなされてたから手を握ってくれてたんですか?」

 

 俺の問いに寝ている廣井さんは答えてくれない。だけど、そうとしか考えられない。

 

 トイレか何かで起きた廣井さんが俺がうなされてる事に気づき、手を握ってくれていたのでは無いだろうか。俺が少しでも楽になるように。寄り添えるように。

 

 ……俺が起きる前に手を握りながら寝てしまうところは廣井さんらしくて思わず笑ってしまうが、それでもその気遣いに心が暖かくなった。

 

「ありがとうございます。廣井さん……」

 

 俺は静かに礼を言う。廣井さんは起きない、ぐっすり眠っている。また改めて廣井さんが起きてる時に礼を言うべきだろう。

 

 その時は酒で記憶を失ってないと良いのだが。

 

「本当に、本当に……廣井さんには助けられてばかりですね……」

 

 一人で過ごすことが多くなっていた俺の孤独を埋めてくれた。趣味の無かった俺にロックを教えてくれた。俺の我儘を聞いて星歌さんに内緒で家に来てくれることになった。

 

 そして今回……悪夢を見ている俺に寄り添ってくれている。

 

 上げればキリがないくらい、彼女には助けられてばかりだ。

 

 廣井さんからすれば『酔っ払いの世話をしてくれる人』くらいにしか最初は思っていなかったかもしれないが、それでも貴方が居てくれたから今の俺が居る。

 

「……俺は廣井さんに、何か少しでも返せてるんでしょうか?」

 

 彼女に助けられたことに比べたら、俺が吐瀉物の処理(やっていること)が酷く小さなことに感じてしまう

 

 …………いや、今考えることでは無い。それよりも、ここでいつまでも廣井さんを寝かせていると風邪をひいてしまうかもしれない。

 

 俺は彼女を抱っこして、寝室のベッドに連れて行って寝かせる。涎が口元に残ってることに気づき、ハンカチで拭き取る。

 

「……おやすみなさい。廣井さん」

 

 俺はそれだけ言うとリビングの方へと戻る。軽くタオルで汗を拭いて、濡れた服を着替えてソファに寝転がる。

 俺が再び眠った時、今度は悪夢を見ること無く朝を迎えたのだった。

 




過去話は長くなりすぎて前編・中編1・中編2・中編3・後編とかになりそうだったので色々削りました。描写しきれなかったところや遠坂ファミリーが多くて分かりにくかったこともあるかもしれないので後書きに簡単な補足を。

 

 

 

※ちょっとメタいかもしれません。苦手な方は注意を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『遠坂健治』
結構本当に色々苦労してます。過去話は彼の予想が混じっていますが、予想はほぼ正解してます。

母の教育は今でも彼の根っこに刻まれており、彼がタメ口に若干抵抗があるのはそういう理由です。また、孤独だった頃の反動で無意識ですが廣井きくりに依存気味です。

本当は東北での生活やエスカレートしていくクラスメイト達の様子も描きたかったのですが尺の都合で描写しないことになりました。もしかしたらどこかで健治くんの回想として描写するかもしれません。

一応彼の過去については割と最初の方から色々匂わせしてたのですが覚えていますでしょうか?


『遠坂叔父』
遠坂父の弟にあたる人物です。
両親の代わりに健治の面倒を見てくれた人物で健治もとても感謝しています。ただ、多忙だったこともあって健治の孤独を気づくことは出来なかったようです。

 
『遠坂父』
尺の都合でほぼすべての描写をカットされてしまった可哀想な人。読んでくださった方の中には彼について描かれてる描写を見逃した人もいるかもしれない。

描写しきれなかった彼の人柄について補足すると、遠坂母の教育が間違ってるとは思っていたが、だからといってそれを指摘して『そんなに言うなら貴方が教育してよ』と言われるのを恐れて何も言わなった人物です。


『遠坂母』
過去話のほぼ全てに彼女が出てきますがこれでも削った方です。本当はもっと長セリフを言わせる予定でした。
 
健治くんの人格形成に良くも悪くも多大な影響を与えており、健治くんのトラウマです。でも彼女に悪気は無いです。

『リアルにギリ居そうな人物』を目標に作成しました。


以上です。読んでくれてありがとうございます!
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