吐瀉物の匂いと共に   作:山田木耳

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25.『我が家に招待。されどホームパーティーに非ず』

 遂にこの日がやってきた。俺は駅前の広場にあるベンチに腰掛けながら伊地知と山田が来るのを待っていた。

 

 今日は彼女達を俺の家に招待する日だ。招待といっても別にホームパーティーをするわけではない。山田と伊地知に『別れの挨拶も無しに急に居なくなったこと』について事情を説明する為である。

 

 本当に……本当に遅くなってしまったがようやく言える。これで少しだけ肩の荷が降りるだろう。

 

 先日、あの頃の夢……即ち、『両親と暮らしてた時の夢』を見てしまったせいで少し陰鬱な気分だが、彼女達の前それを表情に出す訳には行かない。

 

 ただでさえ気を遣わせるであろう話題をこれから話さなきゃいけないのに、そんな時に暗い表情をしていれば二人に余計な心配をさせるのは目に見えている。そんな事態にさせるわけにはいかない。 

 

 俺がそう思いながら、駅前で待っていると……駅のホームから見知った二人がやってくるのが見えた。

 

 俺は深呼吸を一度だけしてから……弄っていたスマートフォンをポケットにしまい、立ち上がる。

 

「やぁ、おはよう。伊地知、山田」

 

 昨日の夢を思い出さないようにしながら俺は二人を出迎えるのだった。

 

 ■■■■■■■

 

「ここが俺の住んでる家。どうぞ入って。奥がリビングでそっちが御手洗だから」

 

 俺はそう言って扉を開けて二人をリビングに通す。

 

「お、お邪魔しま〜す……」

 

 伊地知は少し遠慮しながら入っていく。

 

 無理も無い。いくら仲良かったとはいえ、久しぶりに家に招いたのだ。遠慮しない方がおかしいだろう。

 

「ねぇ、この家は客人に菓子と飲み物も出せないの?」 

 

「ふてぶてし〜〜」

 

 山田は相変わらずで安心する。勿論完全に本気で言ってる訳では無く、山田なりの冗談半分あわよくば用意してて欲しい半分といったところだろう。 

 

 隣に居た伊地知は山田の後頭部を思いっきり引っぱたく。その様子に懐かしい気分になり、思わず頬が緩む。

 

「菓子ならテーブルに用意してるよ、飲み物も入れるから適当にリビングで寛いでて」

 

「流石、気が利くね」

 

 山田は後頭部を擦りながらそう言う。その様子を見ながら俺は氷の入ったグラスに麦茶を注いで持って行く。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうね健治くん」

 

「ん、ありがと」

 

 二人がグラスを受け取ったのを確認し、俺もソファに座ってグラスに口をつける。外の暑さでカラカラになっていた喉を一気に潤していく。

 

 これから長話をしなければならないのだから喉は潤していた方が良いだろう。

 

 さてと……どう話を切り出せば良いものか。最初は適当に雑談でもしようかとも思ったが……このまま無駄に時間を消費しても余計に話しづらくなるだけだろう。それならいっそのこと、さっさと言ってしまった方が気が楽だ。

 

 ……なんだか前にも似たようなことがあった気がするし、似たような結論に至ってた気がするが気にしないでおこう。これからもこの気持ちを、何度か味わうことになるかもしれないし。 

 

「それじゃあ、早速例の話をしようか」

 

 俺がそう言うと、二人の表情が若干強ばった。緊張するのも無理はないだろう。伊地知達は俺の唐突な引越しに『何か理由』があったと察していた。

 

 これから話すことが決して『なんだそんなことか』と笑い飛ばせるような内容では無いことくらい、二人には分かりきっているのだろう。俺はゆっくり、しかし言い間違えの無いように確実に、二人に俺の身の上を打ち明けていく。

 

 ──両親が夜逃げしたこと。俺は叔父の家に預けられ、置いていかれたこと。それにより、別れの挨拶が出来ずに離れ離れになってしまったことを順序だてて話していく。

 

 俺の話を二人とも静かに、真面目な表情で聞いてくれていた。俺が話し終えた後も暫くの間、二人とも黙ったままだった。

 

(……覚悟していたことだけど、やっぱりこうなってしまうか)

 

 出来るだけ暗い雰囲気にはしたくなかったが……この話をする以上は避けては通れないだろう。話は終わったんだ。明るい話題に切り替えて、この雰囲気を消し飛ばしてしまおう。 

 

 俺がそう思い、沈黙を破ろうとした時……。

 

「……やっぱり、健治くんのご両親が原因だったんだね」

 

 俺よりも先に先に沈黙を破ったのは伊地知だった。伊地知の方から先に話してくるとは思っていなかった。それに、伊地知は気になることを口にした。

 

「……やっぱり? 予想出来てたの?」

 

「うん。以前から健治くんとご両親が上手くいってなさそうに見えてたからさ」

 

 俺がチラリと山田の方を見ると……彼女は肯定するように首を縦に動かした。どうやら伊地知だけでは無く山田にもバレていたらしい。 

 

「…………うん、まぁそうだね。あんまり仲は良くないね」

 

 二人は特に俺と関わる時間が多かった。だから必然的に俺の母親とも顔を合わせるタイミングも多かったのだろう。そう言われてみると、伊地知達が俺と両親の関係性を察していたとしても不思議では無い。

 

 ただ、流石に伊地知達以外の当時のクラスメイトやその親達には気づかれてなかっただろう。俺の母がそんなヘマを何度もするハズが無い。

 

 母は『極限の承認欲求』を抱えていたが、『過度なマウント』はかえって人々から反感を集め敵を作ってしまうことになると理解していた。

 

 周りが全て自分の味方で褒められ続ける環境こそ母が求めることであり、敵を作るのは本意では無い。

 

 だからこそ『私そこそこ裕福で、けれど見せつけたりしなくて、それなりに身の丈にあった充実した生活してま〜〜す♪』と周りにアピールしたくて堪らない人なのだ。あの人は。 

 

 俺がそう考えていると山田が静かに口を開く。

 

「……聞いて良いか分からないんだけど、置いてかれた理由は分かるの?」

 

「いや……本当に、何も聞かされずに置いてかれたから……両親が俺を置いてった理由は分からないよ」

 

 本当は大体推測が出来てる。答え合わせしたワケじゃないが……俺の母(あの人)の人間性は手に取るように理解してる。恐らく、間違いではないだろう。

 

 今回の場合、正解じゃない方が良かったのかもしれないが。

 

 これが『本当は一緒に連れていきたかったけど色々あってやむを得ず』とか、『私達に付いてくるより、叔父の家に預けた方が幸せになれると考えた』みたいな……何か理由があってくれたら、俺のあの日の喪失感が少しは慰められたかもしれない。

 

 たが、そんな優しい『真実』なんて俺には用意されてないだろう。寧ろ、俺の想定よりも真実は残酷で、冷淡で、失意に満ちているものかもしれない。

 

 だからもうこれ以上、両親のことは知ろうとしなくて良いのだ。両親も俺のことを知ろうとしてこなかったのだから。

 

「……こういう話はここらへんでやめない? もっと明るい話をしようよ」

 

 場の雰囲気を切り替える為に俺は声のトーンを上げる。今日の一番の目的はは俺の身の上話ではあるが、それだけでは勿体ない。せっかく来たのだから『久しぶりに三人で遊ぶ』という目的を設定したっていいだろう。

 

 問題は我が家に娯楽に纏わるものが殆ど置いていないことなのだが……そこはまた後で考えよう。今の問題は二人がこのテンションのままだといつまで経っても遊ぶことなど出来ないことだ。伊地知や山田からこういう話はしづらいと思うので当事者である俺がやるべきだろう。

 

 俺が明るい話題を絞り出そうと思考を巡らしていると……。

 

「……いや、健治。まだ話してもらってないことがあるよ」

 

 横から山田が口を挟んできた。

 

「……え? いや、これで大体話したと思うけど……何か腑に落ちないことでもあった?」

 

 要所は省いているが大体の流れは全部話した筈だが……? と俺は言い忘れていることが無いか考えていると、山田は両手を横に向け、首を横に振りながら溜息を吐きつつ『はぁ、呆れた』みたいな雰囲気を醸し出し始める。 

 

 やる人がやればウザく感じるのだろうが、顔が良いせいでそれすら様になってしまっているのは中々ズルく感じる。山田に惑わされる喜多さんが不憫だ。どうか将来は山田では無く、もっとお金にしっかりしてる真面目な人を選んで欲しいものである。*1

 

 俺が心の中で喜多さんのことを哀れに思っていると、山田が言葉を紡ぐ。

 

「まったく、健治は抜けてるね。私達から離れた後に別の女拾って同棲してた話をまだ聞いてないよ」

 

「誤解を生む言い方はしないでくれないか??」

 

 何が言いたいのかと思ったが……つまり、山田の言いたいことは『廣井さんとの関係を話せ』ということだろう。暗い雰囲気だった伊地知の身体がピクリと反応したのが視界の端で捉えていた。

 

 ……暗い話題から話を逸らせたのは良かったが、この話題は話題で別の危険がある。主に俺の身体の関節が人間に許されてる可動域では無くなる方面で。話す内容は慎重に決めるべきだが……かといって長考すれば余計に怪しまれてしまう。

 

 俺は少し思考を巡らせる時間を作ってから、口を開く。

 

「……別に拾ってないし、同棲もしてないよ。それにこの話なら終わった筈だ。俺と廣井さんの関係にやましいところなんて一つも無いってね」

 

 伊地知が隣で静かに『でも廣井さんは健治くんの家に入り浸ってるし、健治くんは廣井さんに貢いでるんでじゃん』と目線で訴えてる気がしたが気づかないフリをする。

 

 山田が言葉を続けた。

 

「そこまでは知ってるよ。私が聞きたいのは『廣井さんと何処で出会って、どうして関わることになったのか』だよ」

 

 それを聞いて俺は心の中で首を傾げる。何か特別な出来事とか起きたりしたわけじゃないが……? と思いつつも俺は山田の質問に答える。

 

「……別に普通だよ。ただ酔っ払って道端に倒れてた廣井さんに何度か遭遇してるうちに自然と家に入れるようになったというか……」 

 

「実はね、健治。普通の人は酔っ払った見ず知らずの人を家に上げないんだよ」

 

「いや、それはそうなんだけどさぁ……」 

 

 何も特別なことは無いと思っていたがそう言われてしまうとぐうの音も出ない。実際、俺も何故廣井さんを家にあげたのかよく分かっていないのだ。何度か介抱したとはいえ、それでもほとんど赤の他人だったのに俺は彼女を家にあげた。

 

 道で酔っ払って吐瀉物をぶちまけてる女性色んな意味でをほっとけなかった……というのが一番ではあると思う。だが、別に家出少年少女の宿になりたいと思うほど節操無しでも無い。

 

 それなら何故、俺は廣井さんのことは家に上げたのだろうか。

 

 ……きっと考え続けても答えが出ることはないと思う。その時から無意識のうちに彼女の『何か』に惹かれていたのかもしれない。 

 

「健治くん〜??」

 

 それはそれとして伊地知が怖い顔で近づいてくる。うん。努力はしたけど無理そうだ。

 

「……お、落ち着いて伊地知。何を怒っているの? あんまり深く関わってない人を軽率に家に上げる浅はかさ?」

 

「よ〜〜く分かってるじゃ〜ん?」

 

 当たってた。だけどこの言い方は不味かった。火に油を一合くらい注いでる。

 

 彼女が俺に怒る時、大抵の場合は俺の事を心配して怒るので反論しにくいのだ。今回のだってそれだ。そこに善意と心配がある以上、何か反論したりするのは困難だ。まぁ、心配関係なしに完全に俺サイドに非があることも多いのだが。

 

 俺がそんなことを考えながら、これからやってくるであろう痛みに備えて身構えていると……伊地知がため息を吐きながら腕を下ろす。

 

「はぁ〜、そんな身構えないでよ。冗談だから。私だって無闇矢鱈に関節技とかしたいわけじゃないんだからね?」

 

「………………それは確かにそうだ、ね」

 

「なんか変な間無かった?」

 

 伊地知がジト目でこちらを見てくる。俺は誤魔化すように咳払いを1回だけしてから言葉を続ける。

 

「気の所為……いや、ごめん。気の所為じゃない。でも変な意味の間じゃなくて、今までの自分の言動を思い出す為の『間』だよ」

 

 今までの自分の言動を振り返ると制裁を受けるべくして受けてる。俺がちゃらんぽらんなせいで関節技の頻度が高くなってるが、本来の伊地知は気遣いの出来る心優しい少女なのだ。

 

「それなら良いけど……。というか、私だって廣井さんについて思う所が無い訳じゃないからね? でも、この前お姉ちゃんに説教と教育をくらったばかりだから流石の健治くんも懲りたでしょ?」

 

「それはもちろん。すごく反省してるよ」

 

 俺は爽やかな笑顔で伊地知の問いに答える。廣井さんがここに居れば『うさんくさ〜〜!』とか『白々しい〜〜!』とか言いながら笑ってきそうだ。

 

 実際、口ではこう言っているが説教の後も廣井さんは俺の家に通ってくれることになっている。

 

 俺は今、友人達に嘘を吐いてる。酷い罪悪感だ。それなのに『やっぱり正直に話そう』とは思わない。自分で決めたことだ。責任を負うのも当然自分自身だ。

 

 もしバレてしまったら……その時は大人しく『廣井さんが家に来ないと寂しい』と言ってしまった方が良いかもしれない。

 

 恥ずかしいが、それが隠しようのない事実なのだから。

 

 まぁ、実際そんな状況になったら羞恥に負けて言えないかもしれないが。自他ともに認める恥ずかしがり屋で全く情けない奴だ。

 

 少し気になるのは、いつもならすぐ嘘を見破られるのに今回は彼女達に見破られてる様子もないことだ。何故なのかよく分からなかったが……バレていないのに越したことはない。俺がそう考えていると山田が口を開く。

 

「ところで健治、まだ聞きたいことがあるんだけど……」

 

「良いけど……廣井さん関係で『何か』期待してても無駄だよ」

 

 山田のことだ。廣井さん関連で何か俺が言わないか期待してるのだろう。だが、廣井さん関連で他に話すことは無い。どんな質問でもしてくるが良い……と思っていると山田が口を開く。

 

「いや、健治って普段ご飯どうしてるの? さっき、山積みにされた栄養バーの箱見えたんだけど」

 

「…………………………………………自炊してるよぉ?」

 

 俺が発した声は、先程までの完璧な嘘が全て幻かなんかだったんじゃないかというくらい白々しく、そして裏返っていた。

 

 俺の声を聞いた瞬間、伊地知が俺の肩を掴んで詰め寄ってくる。

 

「絶対嘘! 絶対嘘だよね!? 何さっきの間!? 今のも変じゃない『間』なの!?」

 

「いや、嘘とか吐かないし、間なんてないし、根拠もないのに嘘って決めつけるの良くないって思うっていうかぁ……」

 

「それならこっち向いて話して健治くん!? なんか頑なに目合わないんだけど!!?」

 

 別に、全然自炊しない訳では無い。実際、廣井さんが来る時は廣井さん用を作るついでに自分の分を作るのだ。しかし、廣井さんが来ない時は作るのが面倒臭くなって栄養バーやゼリー飲料で済ませているのも事実である。

 

 ここを掘り下げれると確実に説教からの生活環境改善コースだ。なんとかしなければ。俺がこの状況を打開する為に思考を巡らせていると、山田が言葉を続ける。

 

「じゃあ、そんな健治にもう一個質問なんだけど……バイト週に何回、何個入れてる?」

 

「……………………………………………………………………まぁ、そういうのはプライバシーだから」

 

「け・ん・じ・く・ん!? こうなったら洗いざらい、ぜーんぶ白状してもらうからね!!」

 

 こうして俺は現状を洗いざらい吐き出され、伊地知指導の元で生活環境改善に取り組むことになるのだった。

 

*1
ぼっちちゃん『け、健治さんがそれ言うんですか……?』





健治くん人によって話し方が結構違うのでちょっと違和感あるかもですね。

幼少期健治くん
年上年下関係なくほぼ全員に敬語→山田&伊地知は上の名前にさん付け+タメ口

現在健治くん
年上(敬語)→同年代あるいは年下(上の名前にさん付け+タメ口)→山田&伊地知(上の名前呼び捨て+タメ口+山田と伊地知しか周りにいない場合さらに口調が固くなくなる)

伊地知星歌(下の名前にさん付け+敬語)
銀次郎(覚えてる人いないかもですが色々あって銀さん呼び)

みたいな感じだと思います。ちょっと間違ってるところあったら後で修正します。
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