吐瀉物の匂いと共に   作:山田木耳

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祝!ぼっち・ざ・ろっく!アニメ2期制作決定!(お祝い激遅)

アニメ2期始まる前にはこの小説も完結してるだろうと思っていたので焦っています。投稿頻度遅いのに読んでくださる皆さんには感謝しかありません。


26.『夏の終わりは貴女と共に・前編』

 

 今日は夏休み最終日である。

 俺はベッド代わりのソファから起き上がり、身体を伸ばす。時刻は9時半。朝としては少し遅めの時間だ。

 

 もう暫くはこの時間に起きれないと思うと気分が憂鬱になる。それに加えて……舎弟のような態度を崩さないクラスメイト達の相手をしなければならないと思うとさらに気分が沈んでくる。

 

 疲れることは確定なので疲れを少しでも改善する為に、眠りの質を良くする『何か』をした方が良いかもしれない。

 

 寝ようと思えばどこでも寝れるが……ソファの上で質の良い眠りが取れてるのかと聞かれれば頭に疑問符が浮かぶし、そろそろベッドが恋しくなってくる頃合でもある。

 

 今は廣井さんが居ないので寝室(元俺の部屋)のベッドはフリーではある。でも、だからといって流石に女性が寝た後のベッドを使うことは抵抗があるので結局廣井さんが家に居ようが居まいがソファで寝ている。

 

 なんとか睡眠の質を上昇させたいが……今考えても仕方ないのでとりあえず朝食を用意する。

 

 先日、伊地知による生活環境改善指導されてから少しだけ食事に気を使うようになった。日々の朝食が栄養ゼリーのみだったところに新しく栄養バーを追加したのだ。

 

 これは極めて大きな前進だと思い、その事を嬉々として伊地知に報告したら……何故か凄い微妙な顔された。

 

 伊地知は『栄養ゼリー以外にも食べるようになったのならこれは成長……? それともあんまり変わってない……?』と悩んでる様子だったが、間違いなく俺は成長してるので指導役を務めた彼女には是非胸を張って欲しい。

 

 隣で聞いてた山田は『いいね、健治。しっかり成長してる。その調子で逐一食事の写真を虹夏に送ると喜ばれるよ……プフフッ』と言っていた。まさにその通りだと思うので定期的に食事の写真を送ることにしよう。山田が何故か笑ってるのが気になったが。

 

 朝食を口にしている間に寝ぼけていた思考が少し回り始める。今日のやるべき事をひとつずつ頭に浮かべていく。明日の登校に向けての準備、部屋の掃除、洗濯……そして……。

 

「星歌さんにも話しとかないとな……」

 

 星歌さんにはまだ俺の家の事情を話せてない。伊地知や山田には話したのに星歌さんには話してないというのは不公平だろう。

 

 なので今日はSTARRYに行って直接、星歌さんと話をするつもりである。その為に、まずは店に伺っても良いかどうか確認の電話をする。

 

「あ、もしもし。星歌さん」

 

『もしもし。どうかしたか? 健治』

 

「今からSTARRYに行こうと思ってまして……大丈夫ですかね?」

 

『来ても良いけど()()()()()()も虹夏達もいないぞ。全員で出かけてるからな』

 

 どうやら結束バンドの面々は出掛けているらしい。

 

 何故、結束バンドでまとめて一括りにせず、後藤さんをわざわざ分けて強調したのか少し疑問に思ったが……特に深い意味は無いだろうと思い直し、思考の外へ追いやる。

 

「どこかに行ったんですか?」

 

『それがだな……』

 

 詳しく聞いてみるとどうやら江ノ島に行ってるらしい。なるほど……今日は夏休み最終日。夏の終わりに皆で思い出を作ろうということだろう。

 

「夏休み最終日に皆で遊びに行く……良いですね。まさに『結束』バンドの名前に相応しいじゃないですか」

 

 遊びに行くことで親睦を深めて、改めてバンドメンバーの結束を深める……というバンドとしての真面目な建前以外にも、高校生である彼女らが青春を謳歌する……実に良い事だろう。俺がそう思っていると星歌さんは複雑そうな声で答える。

 

『いや……夏休み中、誰もぼっちちゃんと遊んでなかったらしくて今その埋め合わせをしてるらしい……』

 

「本当に『結束』してるんですか……? あのバンド……」

 

『私が聞きたいよ』

 

 部外者ながら早くも彼女達のバンド活動が心配になってくる。全員と親友になれとは言わないが……せめてもう少し交友を深めていた方が良いと思うのだが。

 

「まぁ……結束バンドのことはひとまず良いです。用があるのは結束バンドの面々では無く星歌さんなので」

 

 俺の言葉に『……私に?』と零した星歌さんは少しだけ間を置いてから言葉を続ける。

 

『……ちなみにだけど、お前の家族の話なら既に虹夏から聞いたぞ』

 

「え」

 

 星歌さんからの言葉に思わず俺の口から声が漏れ出す。電話越しの星歌さんから『やれやれ』といった呆れている雰囲気を感じる。

 

『……やっぱりそれについて話そうしてたな? 虹夏達には話したんだろうなと思って私も聞いたんだよ』

 

「………………………………い、いや、別にそんなことないですよ? 純粋に話したくなったというか……」

 

『そうか、嬉しいこと言ってくれるな。ところで、近くに鏡とかあるか? 私の予想だと健治の目が四方八方に泳ぎまくってるはずなんだが』

 

「ははは……そんなわけ……あれ? 本当だ……何故……?」

 

 ちょうど近くに置いてあった手鏡を試しに覗いてみると星歌さんの言った通りの目の動きをしている俺が映り、思わず驚愕と困惑で表情を変える。

 

 それに対して電話越しの星歌さんから『あぁ、やっぱりなぁ』みたいな雰囲気が漏れだす。

 

「コホン……流石ですね。星歌さん、フィクションに出てくる名探偵とかになれるんじゃないですか?」

 

「健治が異常に分かりやすいだけだ」

 

 俺の賞賛を素直に受け取ってくれない。星歌さんはまるで『こんなので褒められてもな……』みたいな雰囲気を漂わせてる。謙遜しなくて良いのに……と言いたいが、まぁ、多分星歌さんの推理力が優れていたのでは無く、俺側に問題があるのだろう。極めて不本意だが。

 

 というか、分かりやすいと言われるのはこれで何度目だろう。俺に嘘はとことん向いないのだろうか。

 

 俺がそう思っていると星歌さんは声のトーンを小さくして続ける。

 

……最初は言い出してこないなら安易に触れない方が良いと思ってたんだが……まぁ、ちょっと心変わりしてな

 

 小さくてよく聞こえなかったので聞き返そうとしたが……俺が聞き返す前に星歌さんが言葉を続ける。

 

『とにかく、お前は直接話すのが筋だと思ってるんだろうけど別にそんなの気にしなくて良いんだよ。どうせ、言う度にしんどくなってるんだろ』

 

「……え」

 

 図星をつかれ、俺は内心驚愕する。

 確かに、俺が両親について話す度にある程度の覚悟と緊張があったのは事実だ。だが、まさか……まだその話を直接してない星歌さんに察知されてしまうとは。

 

 伊地知が星歌さんに俺の様子を伝えたのだろうか? 伊地知も気づいていたのだろうか。それとも気づいたのは星歌さんだけなのだろうか。考えても答えは出ない。俺が思考してる間に星歌さんが口を開く。

 

『じゃ、話は終わりだな? 大人しく夏休み最後の思い出でも作ってろ。じゃあな』

 

「あっ、ちょっと待ってください……! もしもし……?」

 

 星歌さんはこちらの静止を聞かずに一方的に電話を切ってしまった。色々聞きたいこともあったがこうなってしまっては仕方ない。多分このまま折り返し電話してもすぐに電話を切られるだろう。

 

(……気を使われてしまった)

 

 俺が気疲れするのを察して既に手を打ってくれていた。昔からずっと、あの人には気にかけてもらってばかりだ。今度なにかお礼をしよう。

 

 だが、STARRYに行くという用事が途端に消失したことで手持ち無沙汰になってしまった。やろうと思っていた明日の準備や掃除だって大した量では無いからすぐに終わってしまうだろう。

 

「……時間が余るな」

 

 これからどうしよう。という言葉が真っ先に俺の頭に浮かぶ。

 

 星歌さんは夏休み最終日の時間を使いすぎないように配慮して会話を早急に切り上げてくれたのだと思う。その配慮を汲むならば夏休み最後の思い出を作りに行くべきなのかもしれないが……あいにく、何をすれば良いか全く思い浮かばない。急に予定をたてても中途半端になってしまいそうなので無理に予定を作らずのんびり過ごしても良いと思うが……。

 

 俺が頭を悩ませていると、後ろから酷く聞き慣れた声が響く。

 

「やっほ〜〜〜〜〜健治く〜〜ん、電話終わった〜?」

 

「……廣井さん、いつの間に?」

 

 俺の後ろにはいつの間にか廣井さんが立っていた。玄関の鍵はかけていた筈だが……と思ったが廣井さんの指を中心に回る鍵束が答えだった。

 

 彼女に渡している我が家の合鍵で入ってきたのだろう。

 

「さっきから来てたけどお話中だったから待ってたんだよ〜」

 

 意外だ。酔ってる廣井さんにそんな気配り出来たのか……と思ったが彼女のことだし単に酒飲んでホワホワしてたら電話が終わってただけかもしれない。

 

 俺がそう思っていると廣井さんが口を開く。

 

「ところで誰と話してたの〜〜?」

 

「星歌さんですよ」

 

 そう言った途端、廣井さんは心底残念そうな顔をする。

 

「え〜〜!? そうだったの〜〜? それなら私も話せば良かった〜〜なんで教えてくれないの〜〜!」

 

「無茶言わないでくださいよ。廣井さんが来てることなんて気づきませんでしたし」

 

「じゃ〜〜せめて何言ってたか教えて〜〜!」

 

「別に大したことじゃないですけど……」

 

 俺はそう言って星歌さんとの会話を掻い摘んで話していく。その中でも一際、廣井さんの興味を引いたのは『夏休み最後の思い出』のことだった。

 

「夏休みの思い出か〜〜良いね〜〜青春だねぇ……って、あれ? 健治くん? なんで私の手を抑えるの? お酒飲めないんだけど……?」

 

「いや、なんとなく……」

 

 適当に誤魔化したが実際は幸せスパイラルを事前阻止する為である。廣井さんは『青春』の話題に反応してお酒(幸せ)をキメ始めるので健康の為にも事前に抑えておいた方が良い。

 

「まぁ、それは一旦置いといて。夏休み最後の思い出と言われてもどうすれば良いと思います? なんか思い出作りに最適なスポットとか知りませんか?」

 

 俺がそう聞くと廣井さんは少し考えてから答える。

 

「う〜〜ん、それならさ……行く?」

 

「どこへですか? 居酒屋とかは無理ですよ? 他に夏といえば……海ですか? それとも祭りとかですか?」

 

 廣井さんに海は……全然イメージが湧かないな。美人だから水着になれば声掛けられそうだが、仮に海に来てもずっとパラソルの下で酒飲みながら縮こまってそうだ。

 

 一方、祭りは……酒が飲めそうだし海よりはイメージ出来る。ただ金欠な筈なのでそんなに盛大に豪遊とはいかないだろう。持ち前の明るさでお酒を奢ってもらったりはしそうだが。

 

 俺がそんな風に考えていると廣井さんが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、私の家。行く?」

 

「…………………………それはまた、いくらなんでも唐突すぎませんか?」

 

 それはあまりにも唐突すぎて。

 なんとか口から絞り出された俺の声は、蝉の鳴き声どころか蚊の羽音にすらかき消されそうになるくらい小さいのだった。

 

 □□□□□□□□□

 

 月明かりは雲に遮られている。点々と連なる街灯のみが進行方向を照らしてくれていた。

 

 廣井さんが『家に来るか?』という旨の発言をしてから数時間が経ち、時刻はすっかり夜になっていた。何故こんな時間になったのかというと『外を歩くなら日が昇ってない時間の方が良い』と廣井さんに言われたからだ。

 

 ごもっともだとは思う。今の時期に長時間日の当たる所で活動してるとする熱中症のリスクがある。

 

 だが、夜に向かうということは当然ながら帰りも遅くなるということ。あまりにも遅くなりすぎたら帰宅途中でお巡りさんから職質とかされたりしないだろうか……そう俺が思っていると。

 

『う〜〜ん? 帰宅途中の職質が怖いなら私の家に泊まれば良いんじゃない? 明日から新学期なら制服も持ってきてさ』

 

 さも当然のように廣井さんは言った。つまり、今日は廣井さん宅にお泊まりである。廣井さん家にはシャワーがないとの事だったので事前に我が家で浴びてきた。そして、明日は朝起きたら制服を着てそのまま廣井さんの家から学校へと向かうのだ。

 

 ──心の中の山田が『それって朝帰りって言うんじゃ』と言って気がしたが頭を振って無視する。

 

 確かに、これが俺のような一般的かつ常識的で、どこにでもいる平均的男子高校生ならば年上の女性の家に上がることにドキマギするべきなのかもしれない。だが相手はあの廣井さんである。

 

 男子高校生がドギマギするような女性の部屋……具体的には清潔感があって、良い匂いがして、可愛らしい……そんな部屋に廣井さんが住んでるとは到底思えない。

 

 酒瓶や酒パックが大量に転がっていて清潔感皆無で、酒の匂いに混じってたまに嘔吐物の匂いがして、可愛らしいとはお世辞にも言えないような部屋に決まっている。

 

 それに廣井さんならどう転んだって『そういうこと』にはならないだろう。仮になりかけたとしても、金と酒と嘔吐で全てを台無しにするのが廣井さんなのだ。

 

 ……まぁ、それでも全く緊張しないのか? と聞かれれば決してそうでは無いのだが。

 

「健治くん、なんか失礼なこと考えてない?」

 

「まさか。そんなことより買いすぎじゃないですか?」

 

 俺は廣井さんの疑いの視線から目を逸らしながら己の手に下げられたレジ袋を見る。そこには『オセロピザ』で頼んだピザと大量の飲み物(勿論酒もある)が入った袋があった。ちなみに背中には制服の入ったリュックも背負っている。

 

「いいのいいの、折角の飲み会なんだし。食べきれなかったら明日の朝食べれば良いし」

 

 廣井さんがあっけらかんと笑う。確かにその通りだが、普段ゼリー飲料で済ませてるような人間に朝からピザを食べれるだろうかという疑問はあるが。

 

 とにかく、廣井さんはこのピザと共に飲み会をしようとしているのだ。無論、自分が酒飲みたい……というのはあるだろうが俺に夏休みの思い出を作ろうとしてくれてるのだろう。

 

 その気持ちは嬉しい。非常に心が暖かくなる。

 だが、疑問が残る。何故、俺の家では無くわざわざ廣井さんの家で開催するのかということだ。

 

 これは『思い出作りの為にお泊まり会をする』みたいな単純な話ではない気がする。失礼かもしれないが廣井さんがそんな可愛らしいことを思いつくとは思えない。

 

 廣井さんは決して悪い人ではないし、寧ろ良い人だ。良い人ではあるのは間違いないんだが……如何せん、手放しで良い人と言うのは躊躇してしまうのだ。

 

「もうそろそろ着くよ〜〜」

 

「……はい」

 

 考え事をしていたせいで返事が弱くなってしまい、廣井さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「って、健治くーん? さっきからテンション低くないー? もしかして熱中症? お酒(水分)摂る?」

 

「……摂りませんよ。というか廣井さんも水分補給なら酒じゃなくて水にしてください。持ってきたので」

 

 というか、確かお酒って水分補給に全く向いていなかった気がするのだが……この人はちゃんとこの夏、酒以外で水分摂ってたのだろうか? 誰かが見ていないとそのうちどこかでくたばっていそうだ。仮に誰かが見ていても飲みすぎでくたばっていそうではあるからあんまり変わらないかもしれないが。

 

 そんな俺の心配などいざ知らず、廣井さんは俺の顔を覗き込んでくる。

 

「大丈夫? 具合悪くなったら言ってね? さっきから体温冷たいし……顔真っ赤だし……」

 

「廣井さん……気持ちは有難いんですけど……。それは俺じゃないです、ポストです」

 

 本当にこの人に道案内を任せるのは大丈夫なのだろうか。なんやかんや毎回目的地に着いてはいるがやはり心配になる。だが、お陰で少しだけ緊張は和らいだ。代わりに不安が渦巻いたのでプラマイゼロな気もするが。

 

 しかも今は絶賛真夜中。 迷った挙句、お巡りさんに遭遇して二人揃って職質でもされたら目も当てられない。

 

 ──酔っ払ってる大人と高校生が夜中に二人で歩いている……。傍から見たら凄い怪しい光景なのでは無いだろうか。

 

「……もし廣井さんが警察に捕まりそうになってもちゃんと証言するので安心してくださいね」

 

「なんで急に私が捕まるって話になってるの?? 私、なにもしてないけど??」

 

 廣井さんは心外だ。と言わんばかりに胸を張り、パック酒を飲み始める。その自信はどこから来るんだ……と思いながら俺は言葉を続ける。

 

「いや、だって……傍から見たら絵面怪しくないですか?」

 

 傍から見たら未成年に酔っぱらいが絡んでる構図だ。怪しまれるのもやむ無しだと思うが……俺がそう思っていると廣井さんは笑いながら答える。

 

「大丈夫だって〜〜! もしもの時は人生の相談に乗ってる大人のフリしてやり過ごすからさ〜〜〜!」

 

「人生の相談に乗る大人のフリ……?」

 

 随分と具体的なシチュエーションを練ってるようだ。思わず、自分の口で繰り返した。

 

「気になるので一旦やって見せて貰っても良いですか?」

 

「いいよ〜〜! コホン……どしたの? 話聞こうか? うんうん、それは辛いね。お酒飲む? てか、ロインやってる? とりあえず私の家すぐ近くだから、行こっか?」

 

「アウトにアウトを重ねないでください。職質だけじゃ済まなくなりますよ」

 

 傍から見たら完全に未成年を連れ込む悪い大人である。

 

 廣井さんは『詳しい話は家で聞くから〜とりあえず家行かん? 笑』みたいな雰囲気を出してるがこんなことをお巡りさんの目の前でやったら逆に『詳しい話は署で聞くので……』と言われる未来が目に浮かぶ。保釈金の相場を今から調べといた方が良いかもしれない。

 

 俺の言葉に廣井さんは口を尖らせて抗議する。

 

「え〜〜? そんなに悪いかな〜〜? それなら、もし私が警察に職質されたら健治くんはどう証言するの〜〜?」

 

「そうですねぇ……コホン。お巡りさん違うんです、確かに怪しく見えるかもしれませんけどこの人は悪い人じゃないんです。ただ昼間から酒飲んでいて、学生から借りたお金を返さなくて、たまに俺の家に泊まってるだけで」

 

「あっ絶対駄目。なにがあっても絶対証言しないでね。沈黙の自由って素敵な制度なんだなって今気づいたよ」

 

「なんでですか」

 

 そんなに駄目だっただろうか。ただ素直に言っただけなのに。そういえば、少し前に後藤さんと会話した時も似たようなことがあった気がする。下手に廣井さんを擁護しようとすると逆に貶めることになりそうだ。実にままならない。

 

 そんな風にやり取りしていると不意に廣井さんが『あ、着いたよ〜』と言葉をこぼす。話してるとあっという間に目的地に着いてしまう。お陰で気持ちの準備が全く出来ていない。

 

(遂にか……)

 

 いざ目の前に来ると途端に緊張が増してくるが……立ち止まっている訳にもいかないので意を決する。

 

「……あれが、ですか」

 

 そうして俺は緊張と不安を胸に抱きながらその建物を見上げるのだった。

 





健治くんは酔っ払いの大人が未成年を連れ歩いてる絵面を心配してましたが、健治くんは実年齢より大人びて見られるので未成年には見られません。杞憂です。

あと、健治くんは大人びて見られる理由は立ち振る舞いや身長、色気や雰囲気よるもので別に老け顔というわけではないです。
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