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前回の後書きに追記しましたが書き溜めていた分が終了したので投稿頻度が落ちると思います。
クリスマスライブが終わり、年越しが終了して新学期となり、俺は晴れて秀華高校の二年生となった。
クリスマスライブ以降、時々廣井さんのことが『カッコよく』見える瞬間があるが、すぐに酔っぱらい言動で台無しにしてくれるので安定した心で接することが出来ている。
そういえば、打ち上げの迎えに言った時に岩下さんやイライザさんと連絡先を交換したのだが、岩下さんからは定期的に『もう一回ライブに来てくれ。今度は廣井に打ち上げさせないから』と言われ、イライザさんからは俺がコスプレに興味が出ることを期待してか定期的にコスプレイヤーの動画が送られてくる。
実を言うと廣井さんや岩下さんには内緒にしているが、定期的に『SICK HACK』のライブに変装して行ってるのだ。
これは『ライブを見ると廣井さんがかっこよく見えてしまう』『しかしライブには行きたい』という俺の葛藤が合わさった結果、変装してライブを見て廣井さん達に話しかれられないままライブハウスを立ち去るというやり方になった為である。
この作戦のお陰で廣井さんや岩下さんにバレてる様子は無い。だが、受付で頻繁に顔を合わせる銀さんや一度物販で顔を合わせてしまったイライザさんには変装してライブに来てることがバレており、お願いして二人には黙っててもらっている。
銀さんは二つ返事で了承してくれたが最初イライザさんは不思議そうだった。
『ふたり共、健治くんが来てるって知ったら喜ぶとおもうのにナー。どうして隠すノ?』
『廣井さんのファンにならないようにですよ。ライブ見終わった後だと廣井さんのことが『かっこよく』見えちゃうんです。これ以上、ライブ終わりに話しかけられでもしたらファンになっちゃうんですよ』
『……? 変装しててもこんなに来てくれてるならもうファンなんじゃないノ……? よく分かんないけど二人には内緒にしとくネ!』
イライザさんはそう言って最終的には了承してくれた。しかし、了承してくれてからコスプレ関係の動画や話題を振られる頻度が高くなってしまったので早々に恩を返す必要がありそうだ。早急に、コスプレ以外で。
過去のことを思い出しながら制服に袖を通す。久しぶりに着る制服はどこか懐かしいような似合っていないような不思議な感覚に陥る。
そろそろ出ようかと思った時に、昨日家に押しかけてきてまだ寝室から出てきていない人が居ることを思い出す。出る前に声だけかけていこうと思い、寝室のドアをノックする。
「廣井さん起きてますかー? 俺もう学校いきますねー」
しばらく待ってみたが返事は無い。昨日も夜遅くに訪ねてきて、『
俺の家の事を公衆便所かなにかと勘違いしてないか不安だが、とりあえず朝はゆっくり休ませとこう。テーブルに簡単な朝食は用意してあるので起きたら食べるようにと置き手紙を置いて家を出る。
舎弟のような話し方をしてくるクラスメイトを避けつつ、通学路を進んでいく。新入生に舎弟のような話し方をするクラスメイト達と歩いてるところを目撃されたら、絶対に怖がられて近づかれなくなってしまう。
クラスメイトが舎弟のような喋り方をし始めた時から俺は早々にクラスメイト達に見切りをつけ、新入生と友達になろうと考えていた。
出来れば男子とも女子とも友達になりたい。新たな出会いに胸を膨らませながら校門をくぐる。
新学期ということで、おろしたての制服に身を包んだ新入生が次々と校門をくぐっていく。
高校生活が楽しみ半分不安半分といった顔をしている初々しい新入生達を生暖かい目で見渡してると……そこにおろしたての制服に身を包んでいない人物が一人だけいた。
「ん……!?」
学校指定じゃないピンクのジャージに身を包み、複数のリストバンドを腕に付け、大量の缶バッチが付けられたトートバッグとギターケースを担いでいる。
新入生としては、中々に『ロック』な格好をした子だ。
「……高校デビューか?」
暗かった自分を変えたくて高校入学を機に印象をガラリと変えてくるというやつだが……彼女の高校デビューは方向性が間違っている気がする。身につけている物からなんとなく、ロックバンドが好きな子だと分かるが高校で着てくる服では無い。
(いや……、俺が音楽について知らないだけで意外と最近のロックバンド好きはこういう格好するものなのかもしれない)
実際、俺の知っているロックバンド関係者である廣井さんは普段下駄で過ごしていたり、冬でもキャミワンピースで過ごしてたりと中々個性的な格好をしている。
こうして考えると、彼女の非学校指定ジャージ登校というのも個性と言えなくも無い。
彼女もまた、俺と同じで新学期というタイミングで友人を作ろうと励む、いわば同志のような存在なのだろう。
俺は名も知らぬピンクジャージの少女に心の中で合掌して、高校デビューの武運を祈った。
教室に着くと既に何人かクラスメイトが出席している。適当に挨拶を返しながら自分の机を探していると一人の女子生徒が俺の机の前で何かをやっている。
俺が怪訝そうな顔で見ていると、視線に気づいたのか振り返って話しかけてくる。
「遠坂さん! おはようございまっす! あ、机拭いときました!」
「……ああ、うん。おはよう、ありがとうね。でも、ただのクラスメイトだし別に机拭かなくていいよ」
彼女は開口一番に俺の机を拭いたと報告してきた。別に朝一番に机を拭くことは悪いことじゃないがこれは果たしてクラスメイトの適切な距離感だろうか? ちなみに彼女と同じクラスになったのは今年が初めてだし俺は彼女の名前だって知らない。
彼女は俺のげんなりとした表情に気づくことなく、嬉しそうに言葉を続ける。
「遠慮しなくていいんですよ! ところで、私今日シャーペン忘れてしまって……今日だけで良いので貸してくれませんか?」
「ああ……ごめん。俺も今日シャーペン忘れて……」
「なら私の貸します!」
「忘れたんじゃなかったの?」
「……あっ、しまった」
俺は固まる彼女を無視して、荷物を机に置いて教室を出る。
今年も毛髪入りチョコレートを渡してくるような行動力を持つ人達の相手をしなくちゃいけないと思うと早速憂鬱になる。
俺が教室を出た途端、後ろから荷物を漁る音が聞こえてきてたことで俺は一瞬足を止め……ため息を吐いてから新入生と友達になる為にまた歩を進めたのだった。
余談だが、放課後にリストバンドを全て外して、缶バッジ側が見えないようにトートバッグを持ったピンクジャージの少女を目撃してしまった。
どうやら駄目だったようだ。
ちなみに、俺の方は上級生から既に噂が流れていたようで俺が今日話しかけてみた新入生は舎弟のような喋り方をする人達が2割、番長だと思って怖がってる人達が8割くらいだった。
どうやら俺の方も駄目だったようだ。
▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫
「疲れた……」
帰宅した俺は制服をクローゼットにしまった後にため息を吐きながらソファに腰掛ける。
結局、新入生から友達を作るという作戦は上手くいかなかった。まだ初日なのでこれから挽回できるとも言えるが最初の印象は大事だ。
この様子だと友達を作るなんて無理なのかもしれない……いや、一人だけ凄いグイグイ来る子が居た。俺の事を怖がりもせず、舎弟言葉も使わずに話しかけてくれた赤い髪の可憐な新入生が一人だけ居たのを思い出した。
名前を聞きそびれてしまったが、明るすぎる子だったのでよく印象に残っている……明るすぎてまぶしかった。まるで彼女の背後に後光が差し込んでいるかのようで目が眩みそうだった。今度から話す時はサングラスを持参しようか迷うほどに。
俺がそう思っていると突然、寝室の扉が開かれる。
「う〜〜ん? 健治くんどうかした? 疲れたの?」
「……!? 廣井さん居たんですか?」
「居たよー! 昨日の夜から! おかえりー!」
てっきりもう帰ったものだと思っていたが俺が学校に行ってる間ずっと家に居たらしい。その顔は晴れやかでスッキリしており、とても昨日夜押しかけてきて嘔吐だけして寝た人だとは思えない……いや、嘔吐したから顔が晴れやかなのだろうか?
「た、ただいま……です?」
廣井さんには真冬に電気代の払えなくなったアパートに帰ろうとしたのを見かねて、合鍵を渡している。だから家に帰ったら自分以外に人が居るのは何度かあるのだが……それでも慣れないものである。
俺のそんな心情は露知らず、廣井さんは俺に体重を預けるようにしてソファに腰掛ける。
「……そういえば廣井さん。前になにかあったら相談してくれって言ってたじゃないですか。今しても良いですか?」
「あれ〜〜そんなこと言ったっけかな〜〜」
「そうですか。確かに気の所為だったかもしれません。忘れてください」
「ちょ、嘘嘘! 珍しく頼ってくれるのが嬉しくてふざけちゃっただけ! ごめん!」
別に怒ってない。酔いがもう少しマシになったタイミングでもう一回話そうと仕切り直しただけだったのだが、勘違いさせたようだ。まぁ、覚えてくれたなら手間が省けて助かる。
「……じゃあ、相談するんですけど友達ってどうやったら作れますか?」
「酒飲んで酔っ払った勢いで仲良くなる!」
「うわぁ。参考にならないなぁ」
高校生相手にするアドバイスじゃない。酒飲んでコミュニケーション取る高校生なんてその時点で引かれて距離を取られるだろう。
「もっと、こう……シラフの時に使えるテクニックは無いんですか?」
「うーん私って学生時代、陰キャだったからなぁ」
「え、そうなんですか?」
意外だ。普段の廣井さんからは想像出来ない。非常に気になる話だったが、あまり深堀されたく無さそうだったのでこれ以上は聞かないでおこう。
「あ、前言ってた小学校の頃の友達は?」
「山田と伊地知ですか? あの二人は……もう俺のこと友達なんて思ってくれてないですよ。既に忘れてるかも」
俺がいなくなった時、山田も伊地知も悲しんだかもしれない。でも二人は凄い良い奴だったから、自然と周りに人が集まって、そのうち俺の事など忘れてしまうだろう。
三年なんて、人を忘れるには十分すぎる時間だ。
「そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなことありますよ……そう考えると、いま俺が友達って言えるのって廣井さんだけかもしれませんね」
「……え」
廣井さんが固まる。
「……あれ、友達じゃなかったですか? てっきりもう友達かと。すみません調子乗りました」
「いや、いやいやいや! 友達! いやそれどころかマブ!
廣井さんは慌てながら立ち上がって、俺と肩を組み始める。普段は身長差がありすぎて肩を組むことが出来ないが俺がソファに座ってることで肩を組める位置になっている。
「えへへ。そっかぁ健治くんも私のこと友達って思っててくれたんだ。良かったぁ私の片思いじゃなくて」
廣井さんに気を使わせてしまったかと思ったが、表情から見て本心から喜んでくれてそうで安堵する。廣井さんはしばらく嬉しそうにしていたが、何かを思い出したかのようにハッとして言葉を紡ぐ。
「でも、やっぱり小学校の友達探してみた方が良いと思うよ! 健治くんはその友達のこと嫌い?」
「いや……好きですよ。でも、俺の事忘れてるかもしれませんし、別れの挨拶もせずに去ってしまったのできっと怒ってますよ」
結局のところ、俺は怖いのだ。
再開した彼女達がどんな反応をするのか。別れの挨拶も無しに引っ越してしまった俺の事を怒っているのではないか。怒ってなくても既に忘れてしまっているのでないか。
それならいっそ会わない方がお互いの為なんじゃないだろうか。
俺は子供の頃からどうしようもなく臆病だった。体だけデカくてビビりなのをよく山田にからかわれて、伊地知が庇ってくれたのを覚えている。
廣井さんが黙って俺を見ている。時々、彼女の瞳に全てを見透かされてるかのような錯覚を覚える。
「じゃあさ、もしまた友達に戻れるなら会いたい?」
俺はその質問に対する回答を口に出そうとして止める。
本音を言えば、また友達になりたい。だが、別れを言わず去った俺が彼女達と再び友達になるなんておこがましいのでは無いか。
どう答えようか迷っていたが、俺の感情を読み取ることは廣井さんにはこの沈黙で十分だったらしい。
「友達に戻りたいんだね。なら、会ってみなよ。会う前から不安になって会わないより一度会ってみてしっかり話をした方が絶対に良いよ」
廣井さんの螺旋状の瞳と目が合う。確実に酒に酔ってる筈なのに何故かその顔には理性のようなものを感じた。
「それで『もう友達に戻るのは無理』って言われたとしても胸のつかえは取れると思う。もし傷ついたら私が慰めてあげる。だから安心して玉砕覚悟で頑張ろー!」
「玉砕って……ははは」
思わず苦笑が漏れる。だが、確かに彼女の言ってることは理にかなっている。不安になるくらいならいっそ会ってしまった方がどう転んでも後々悩み続ける必要が無くなる。
俺がもし山田や伊地知と出会いそうになった時、勇気を出して話しかけにいけるかどうかはまだ分からない。だが、勇気を出して話しかける事を前向きに検討した方が良いだろう。
「……ならお言葉に甘えますかね。俺が泣いて帰った時に寝てないでくださいよ?」
「まかせてよ! さてと……相談がひと段落した後はお酒を飲んで不安を忘れるのが一番! 飲むぞ──!」
廣井さんはそう言って俺にパック酒を押し付けてくる。たまに彼女は俺が未成年であることを忘れてるんじゃないかって思う。
俺はいつの間にか『どうやったら友達が出来るか』という相談が『小学校の友達と会うべきかどうか』という相談に変わってしまっていたことに気づく。
しかし、どちらにせよいつか相談することだったと思い直す。彼女から『友達を作る』という上では有益なアドバイスを貰えそうには無いし、とりあえず『廣井さん』という友達が居るのだからそれで良しとしよう。
いつもなら俺の頬に酒を押し付けてくる彼女を軽く宥めて寝させるところだが、今日は相談に付き合ってくれたという『恩』もある。酒を飲みはしないが、今日だけは彼女の晩酌に付き合うとしよう。
俺は適当なおつまみを作って、彼女の杯に酒を注ぐのだった。
「お゙ッ! ゔろろろろろろろっっっっ!!!!」
久しぶりの大物だ。
今日も吐瀉物の匂いと共に眠ることになりそうである。