桐藤カノンは二重人格である。   作:あるふぁせんとーり

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彼女

「仰る通り、私は二重人格です」

 

 僅かな躊躇い、そして明確な隠匿の意思はあらずとも、そうであると周りにはっきりと悟られぬように共に演じてきた私への謝罪と共に私は口を開きました。

 

「……DIDではないんですね。珍しい」

「はい。産まれながら……先天性とでもいえば良いのでしょうか。最初から二人いて、増えることも減ることもなくここまで」

「なるほど」

 

 そう返してティーカップに口をつける彼女。その周りではあまり理解の出来ていないような顔でヒフミ、アズサ、コハルが見守っています。ハナコは教室の片隅でカーテンを巻いていました。

 彼女の言葉で「先生」が聡明な方であるのは分かりました。二重人格という噂が多少流れることはあれど、そんなことを真っ先に確認したのはハナコだけでしたので。けれど、そんな噂が最後に流れたのも耳にした限りでは昨年の冬休み前だった筈。私は少し気になって口を開きました。

 

「お尋ねしたいのですが、さっき──」

「ああ、あれに関しては怖がらせちゃったみたいでごめんなさい。カノンちゃんを知りたかっただけ、悪い癖です」

「いえ、そっちではなく。何処で「桐藤カノンが二重人格である」と?」

「なるほど。ちょっと待ってて下さい、すぐ出しますから」

 

 彼女は椅子に掛けたバッグをガサガサと漁りました。「えーっと、何処だっけな……」なんて呟きながら数十秒。その顔に僅かな苛立ちのような赤が浮かんできて、ようやく一台のスマートフォンが取り出されました。

 

「なんです?これ」

「モモッター……じゃないか、モモックスです。知らないんですか?」

「最低限のエゴサ程度でしか使いません。SNSとか百害あって一利無しでしょう」

「まあ確かに碌なもんじゃありませんけど……っと、ありました。これです」

 

 画面上部の検索欄には「トリニティ 二重人格」の文字。そして下に幾つか並ぶ、名前の横に錠前のついたプライヴェイトアカウント、つまりは「鍵垢」と呼ばれるアカウントによる投稿。見ると、確かに「トリニティの新入生挨拶してた娘、ちょっと前に二重人格みたいな噂無かった?」やら「トリニティの桐藤ナギサの妹、噂によると二重人格らしい……実在するんだそういうの……」など両手で数えられる程度の範囲の、投稿日時一年程前の投稿が並んでいました。なるほど、確かに鍵垢なら……。

 

「……何故先生は鍵垢を?」

「あ、生徒のフリして鍵垢界隈みたいなのやってるからです。これ結構面白いんですよね、先生目線じゃ聞けない話一杯聞けるんで」

「……聞かなかったフリしておきます」

 

 はあ、とため息を吐き、私はもう一度、スマホを置いて紅茶を啜る彼女の顔を見ました。表面上に幼さのテクスチュアを貼り付けただけで、その中身の奥に明確に感じられる成熟、そして個人として持つ圧倒的な、天賦の才とさえ言えるであろう魔性。それが、私から私の応答を引き摺り出したと言っても過言ではないように思えました。なるほど、確かにこれは現在進行系でキヴォトスを駆け巡っている噂に違わぬ、少女的なヴェールを纏っただけの怪物……いえ、「先生」、なのでしょうか。

 

「先生。……名前、聞かせてくれませんか?」

籠野(かごの)文目(あやめ)……ま、「先生」でいいですけど」




二重人格ってこんな便利じゃないよね
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