「うぅ……ふぇ……」
「……やっと見つけました。ほら、姉様。間もなく日も沈みますし、ミカ様も待っています。帰りますよ」
「……か、カノン……?」
広いデパートの敷地の片隅、噴水の脇に座り込んでメソメソと弱々しく泣いていた幼い姉に声を掛ける。彼女は赤くなった目をこちらに向けるとまたワンワン泣き始めた。
どうしますか?
駄目だな、このままじゃ門限を破ることになる。背負えるか?
問題ありません。
余程一人が心細かったのか、目を腫らして泣きじゃくる姉を背負って少女は入り口の方へ歩いていく。そして入り口で待っていた幼馴染はこちらに気がついて手を振った。
「あーっ!ナギちゃん見つけたんだ!にしてもカノンちゃん力持ちだね!」
「はい、何とか。……力持ち、という訳ではありませんが」
ですが少し疲れました。代わってもらっても?
分かった。まあ門限には間に合いそうだ。ゆっくり帰るとしよう。
「それで、お目当てのものは手に入ったんだな?」
「わ、あっちのカノンちゃんだ!……うん!ほら、カノンちゃんにも!」
彼女は抱えた荷物から紙袋を取り出すと、俺に髪飾りを差し出した。
「……二つ?」
「うん!カノンちゃんは二人分!」
そう言って彼女は俺にしゃがむように促す。そして彼女が言う通りにすると、ミカは俺の髪の左右、後れ毛の辺りにそれを留める。それぞれホワイトダイヤモンドとブラックダイヤモンドがあしらわれた一対の髪留め。一般家庭出身の俺ですら高級品であると察するのは余りに容易であったが、人からのプレゼントの値段を推し量ろうとするなど無粋にも程があるだろう。何より今の俺の金銭感覚が正常なものだと言える自信がない。
俺はただ「似合うか?」と髪を指で弄りながら問いかける。「うん、もちろん!」と笑顔で答えるミカ。泣き疲れたナギサはスースーと寝息を立てて俺の背中で眠っていた。ミカは首にペンダントを掛けると近くの時計を見上げる。
「……あ、時間大丈夫かな?」
「そうだな、そろそろ鐘も鳴る。帰るぞ」
伸ばした俺の腕を彼女の小さい手が掴む。空が赤く焼ける中、俺達は帰路についた。
「桐藤カノン。それが私達の名前です」
威風堂々と目の前に示されるその答え。その「私達」という言葉に引っ掛かりを覚えて俺は問答を続ける。
「……もう一つ聞かせてくれ。俺もお前も等しく「桐藤カノン」とやらだということは理解した。とはいえ俺は俺でそれ以上でもそれ以下でもない。……なら、
「……なるほど。流石の慧眼ですね」
その返答とともに彼女は少し首を傾げる。数秒の間が空いて「なるほど」と呟き、そして彼女は答えた。
「私はあなたが存在しなかった場合の私の「青写真」、謂わば「桐藤カノン」のオリジナルとでも言いましょうか」
「つまり俺は「桐藤カノンである」と同時に「桐藤カノンにとっての異物である」という認識で差し支えないな?」
「いえ、そうとも限りません。何せ私も「私が桐藤カノンである」ということしか理解出来ていていませんので。私だけが「桐藤カノン」であることが正常なのか、二人揃って初めて「桐藤カノン」となり得るのか、それはこれから証明される問題ですから」
何処か心地良い響きの言葉。俺は僅かな空隙と共に思考を巡らせ、そして口を開く。
「悪くないな」
「でしょう?」
「ああ。道半ばに与えられた泣きの一回、もう一度大言壮語に挑むのも一興だ」
俺の言葉に満足気に笑い、そして彼女は「では開幕と参りましょうか」とパチンと軽く手を叩く。
世界の明かりが落ちた。
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