トリニティ総合学園、入学式。
「……以上。新入生挨拶を終わります」
壇上にて諳んじた、記憶に印字された数千文字。一仕事終え、俺はカタンカタンと音を立てて階段を降りる。その姿は齢十五のうら若き乙女としては余りに威風堂々。事実上は既に三十も回っているから当然だが。
「ねえ、あの子結構カッコよくない?イケメンっていうか……」
「うん、フィリウスのナギサ様の妹らしいよ」
「ってことは……桐藤?!家柄も成績も見た目も完璧とか……」
「でもなんか変な噂も……」
「あ、私も聞いたことある……」
密やかな出席者らの会話が鳴る空間。広大なアリーナに並んだ座席の最前列、中央通路を挟んで左側に座り、俺は少しため息を吐いた。
ひとまずお疲れ様でした。入学早々大仕事でしたね。
志が志だ、昔からこういうのは慣れている。元来物怖じする人間でもないからな。……ところで、値踏みがやけに喧しく聞こえるが。
当然です。新年度というのはトリニティ総合学園の勢力図を大きく書き換える好機ですから。ましてや私達は現在フィリウスの跡目と目されている桐藤ナギサの妹ですので。
……メインディッシュ、という訳か。身内贔屓のナギサのことだ、それなりに吹いていることは想像に難くないな。
はい、さながらオークションの目玉商品です。そして……。
少女は通路を挟んだ隣の彼女に目をやった。鮮やかなパステルピンクを肩下程度に伸ばした彼女は目を瞑って次のプログラムを待っていた。
彼女もまた同じかと思われます。
だろうな。
トリニティ総合学園は合格通知と共に入学試験の席次が同時に知らされる。大して難易度の高い試験ではないし、仮にも頂点へ手が届いた俺と同等までスペックが引き上げられた私の二人がかり。当然の如く記されていたのは一位の文字。これで今年度の首席合格者……のはずなのだが。配られた入学式の座席、前に行けば行くほど、そして中央に近ければ近いほどその順位は高くなるその中で「桐藤カノン」の席は中央通路挟んで左。……つまりは二番目だ。ということは俺と同率だったやつが一人いるということになり、それが中央通路挟んで右に座する彼女ということになる。
……そんなに気になるのですか?
ああ。考えれば考えるほど俄然興味が湧いてくる。
では今すぐ話しかけてみては?善は急げとも言いますし。
馬鹿言え、悪目立ちするに決まっているだろ。桐藤の名を下げることにもなりかねん。そうすればナギサにも迷惑がかかる。
面倒ですね、貴族社会というのは。
全くだな。
俺は姉の教えの通りに背筋だけ伸ばしながら、もう少し時間が経つのを待った。
「浦和ハナコだな、今少し時間いいか?」
「え?」
入学式、そして初めてのホームルームを終えて放課後。唐突に彼女は話しかけてきました。桐藤カノン、現フィリウス派閥秘書長桐藤ナギサの妹でありおそらくこの学年で最も注目されている新入生だと思います。そんな彼女が何故放課後を告げるチャイムと共に私の席に姿を現したのか。問いかけると「いや、単純に気になっただけだ」と笑い、そして私の手を引きました。
「私の奢りだ。何か好みとかあるか?」
こちらの歩行速度に合わせながら、前を行く彼女。彼女には、「桐藤カノン」に関して、入学の少し前からある噂が流れていた。それは……。
「ああ、まだこちらからは言ってなかったな。私は桐藤カノン。それと……」
そして僅か一瞬。明らかに変わった纏う空気。その噂は目の前で証明されました。
「私も桐藤カノン、と申します」
「桐藤カノンは二重人格である」と。
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