「今回はツキがありませんでしたね」
「ああ、全くだ」
今学期最後の授業を終えて、俺は机を囲む見知った顔に適当に相槌を打った。見知った顔、といっても仕事上の付き合いとか、上っ面のみとか、そんなレベルのもの。あいも変わらず、この世界でも俺は友達付き合いというのが至極苦手のようだ。姉ほどではないが、黙っていてもどうにかなる程度のカリスマは不幸中の幸いと言ったところだろうか。ふわあと小さく欠伸して、トントンとプリントの束を整えてからリュックサックに放り込む。
「では失礼致します」
「はい、良い夏休みを。桐藤さん」
コントローラーを向こうに投げ渡すと、スルスルと人の隙間を縫って教室を出ていく身体。そこにいる人間全てが自らの思考の範囲内で動くだろうという傲慢さ、そしてあらゆる動きは想定しているという自信が表れた全く迷いのない動作。10秒もしないうちに放課後の生徒の群れを抜けると、腕時計を一瞥する。
何時の約束でしたっけ。
一時だな。だが、どうせいつも通り30分前には着いてるだろう、アイツは。
ですね、急ぎましょうか。
ああ、だが最低限の安全は守れよ。
もちろんです。
そして強く踏み込み、ギアを変えたように加速していく身体。安全の意味を今一度確認するべきだろうか。溜息を吐きたかった。
「お待たせ致しました、ハナコ」
「いえ、私も到着したばかりですので」
そう言った彼女の手に握られているのは2つのグラス。中には7割ほどの水が湛えられています。彼女の顔を見る限りでは、2、3分と言ったところでしょうか。私はペコっと頭を下げました。
「シーフードスパゲティを2つ」
「かしこまりました」
場所はトリニティ総合学園から徒歩5分のカフェテリア。川沿いで僅かに湿った風が肩にもつかない髪を揺らします。呼び出したのは3日前、ハナコからでした。運ばれてきたスパゲティをフォークに絡めながら彼女は口を開きます。
「何とか上手く行ったようで何よりです」
「保健室なんて十何年ぶりでしたが。そちらこそ、露出癖に付き合うつもりはありませんよ」
「相変わらずつれませんね、カノンちゃん」
少し頬を膨らませて大ぶりなエビを口に運ぶハナコ。それで、肝心な話ですけど、と私は切り出した。
「「補習授業部」のメンバーが確定しました」
「……聞かせていただいても?」
「もちろん」
そう言って、私は1つのファイルを差し出しました。中に閉じられたのは5人の生徒名簿。ハナコはそれを手に取ると、パラパラとめくり始めました。
「阿慈谷ヒフミ……白洲アズサ……下江コハル……この3人が?」
「はい。今学期の落第生です」
「……ですが、にわかに信じられませんね。この中にナギサさんの疑う「トリニティの裏切り者」がいるとは」
本音で言えば10をつけてってほしいです