桐藤カノンは二重人格である。   作:あるふぁせんとーり

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先生

「はあ、二度目だけど全然慣れませんね……」

 

 放課後になり、帰宅する生徒や部活動に精を出す生徒で賑わうトリニティ総合学園。その一角に彼女は立っていた。幼い少女にさえ見える彼女は白いパーカーと同じく色の抜けたような肩程度の髪を揺らめかせ、カツンカツンとキトゥンヒールのパンプスを鳴らして校内の廊下をウロウロと練り歩く。彼女をトリニティに招いた張本人であるティーパーティーの桐藤ナギサから渡されているはずの十数ページに渡るトリニティの案内図は「別に良いですよね、どうせ分かりませんし」という感覚派の彼女の一存によって放り捨てられ、風の強い日でもあったから今頃はどこか遠くの空を舞っていることだろう。

 

「っていうかこの広いトリニティでどう探──」

 

 そう言いかけたところで、彼女の頭に或る笑顔が浮かぶ。それなりに長いブロンドのツインテールに、大きく優しそうな垂れ目に自信なさげでありながらも優しい笑顔。トリニティ総合学園所属の2年生、阿慈谷ヒフミ。少し前、アビドス高校を巡る事件の中で偶然知り合った彼女について「確か2-Bとか言ってましたっけ」と彼女は思い出し、続けて地図を捨てたことを僅かに後悔する。

 「総当たりと洒落込みましょうか」、と一歩を踏み出そうとしたところで、彼女の背に生徒が声をかける。

 

「あ、あなた新入生?!良かったら私達の機械研究会入らない?!」

「ありがたいお誘いですが、ちょっとお断りしておきます。私、シャーレの「先生」ですから」

 

 そう言って、彼女は適当に目星をつけて駆け足で去っていった。

 


 

「聞きましたか?今シャーレの先生がトリニティを訪れているそうです」

「シャーレの先生……ああ、あの」

 

 俺は思い出したようにポンと軽く手を叩いた。ティーパーティーの人脈などに頼らずとも最近は多く噂が流れてくる。数ヶ月前に突然現れ、連邦生徒会が新たに作った超法規的機関「S.C.H.A.L.E」の顧問に就任すると崩壊寸前であったアビドス高校やミレニアムのゲーム開発部を立て直し、その他も多くの学園を巡っては問題をバッサバッサと快刀乱麻を断つが如く解決していくという、余りに唐突な「メアリー・スー」のような存在。いや、実際ドラマチックか否かとか細部や詳細は確認していないから語弊があるかもしれないが、話を聞く限りではそういう感想を覚えた。

 

「そういえば、ティーパーティーの方で流れていた噂なのですが、「補習授業部」に顧問を招くという噂があったそうです。姉様(フィリウス)の方から伺いました」

「状況から考えると十中八九その話でしょう。しかし……なるほど、連邦生徒会、シャーレが絡まってくるとなると()()()もかなり信憑性を帯びてきましたね」

「はい、何としても姉様を止めなければ」

 

 俺とハナコは目を合わせ、そして頷く。小さな窓から吹き込む夏らしい生温い風が露出した肌を気味悪く撫でる。俺は溜息を吐いた。

 

「……で、私達は何で牢屋(こんなところ)で話してるんだ?」

「ふふっ、まだ理解できないんですかカノンちゃん♡私達の露出癖(ヒミツ)がバレちゃったんですよ♡」

「何が「私達の露出癖(ヒミツ)」だ、私をそこに括るな」

「しかし、実際私もカノンちゃんもこうして仲良く水着一枚で牢屋に入れられてしまった訳で……ふふっ、露出プレイと羞恥プレイと監禁プレイがセットなんてとってもお得ですね♡カノンちゃんも代わってからお顔が真っ赤ですし♡」

 

 そう言ってハナコは「ふふっ♡」と柔らかく、その豊満な身体のラインを目覚ましく晒すスクール水着を纏ったままに微笑んでいる。俺は視線を下に落とした。ハナコほどでは無いにしろ十分に大きいと言えるであろう胸が足元を隠し、細長い四肢を有する身体が手持ち無沙汰に揺れている。

 これだけなら風呂の際にも散々見た光景だが、正義実現委員会の生徒達の目があると話が違う。自分でも顔に熱が溜まっていくのが分かった。

 

「大体お前が無理矢理私を連れ出すからだろう?!「スク水を着てほしい」なんて切り出し方から怪しいとは思っていたが……!」

「なら断ればよかったんですよ?まあ、カノンちゃんは優しい良い子ですからね♡」

「何が「優しい良い子」だ!「付いて来てくれなかったら……辞めちゃうかもしれませんね♡」なんて脅しをかましたのはお前だろうが!!」

「だって一人じゃつまらないじゃないですか♡」

 

 人生初の収監は、おおよそ不健全であった。




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