その攻撃が終わった瞬間、デュエル場は奇妙なほどにしばしの間静寂が支配していた。観客席にいた誰1人として、言葉を発することはなく、茫然と死んだように静まり返っていたのだ。
「そこまでナノーネ! 勝者、コナミ&遊城十代ペアなノーネ!!!」
そして、その静けさに反するように、クロノス先生が発した言葉を機にまるで大きく揺れ動かしたかと思えるほどの反響を伴って観客席から膨大な歓声と拍手が上がった。
「信じられないノーネ。ありえないノーネ。これはきっと夢なノーネ。あの丸藤亮と天上院吹雪ーのタッグが負けるーなんて。悪夢なのーネ」
歓声が鳴り響く中、クロノス教諭は悪い夢を見たと言いたげに目尻を下げていた。
「驚いたわ、まさか兄さんと亮がタッグを組んでいたのに十代たちに負けるなんて………」
「俺も正直驚いている。コナミと十代なら或いは、そう考えてはいたが、まさか本当に勝ってしまうとはな。大した奴らだよ全く」
観客席からそのデュエルの一部始終を見守っていた天上院明日香はその結末に信じがたいものを見たと口に手をやって目をこれでもかと見開いていた。
そしてその隣で親友であるコナミのデュエルを見ていた三沢大地もまた、驚愕を露わにしながらも、嬉しそうに笑っていた。
「お兄さんが……負けた。あのお兄さんが……ふぅー、アニキはやっぱりすごいや。それにコナミくんも、あの2人に勝っちゃうなんて……グスッ」
「くそっ、なんてことだ。まさかカイザーと吹雪さんが負けるとは。信じがたい、酷い結末だ」
「何言ってるのよ万丈目ちゃん。コナミちゃんと十代ちゃんが勝ったのよ! きっと誰も……いいえ、ほとんどの生徒がこんな結末は予想してなかったに違いないわ! すごいわよコナミちゃん、十代ちゃーん!!!」
丸藤亮の弟である翔は兄の敗北とアニキと慕う十代が勝利したことにどこか複雑な感情を向けながら涙ぐんでいた。それを見て翔を慰める堂本は、不満を隠そうともしない万丈目に怒りながら、コナミと十代の勝利を称えていた。
そのように、会場の至る所でそれぞれがそれぞれの反応をしながら、勝者を称え、敗者の健闘を称えていた。
数多くいる会場内の人間の中で唯一と言っていい愛する人の勝利を信じていた愛理だけは、言葉を発することなく、感極まった喜びから静かに涙を流してコナミと十代の2人を心の中で祝福していた。
(おめでとうコナミくん、十代くん。丸藤さんと吹雪さんへのリベンジを果たせてまた夢に一歩近づけたね)
そのように各々が観客席からデュエル場を見下ろし感想を抱いている中、そのデュエル場の中心では主役であった4人が集まって話していた。
「お前たち、いいデュエルだった。俺のパーフェクトを超える連携、見事だった」
「いやーまったくだよ。まさかボクと亮のタッグで負けるなんてねー。大した後輩だよ。先輩として頼もしくてたまらないね、亮」
「ああ、俺たちが去った後にお前たちがいるのなら安心だ。卒業後の学園は頼んだぞ」
タッグデュエルとは言え、敗北した丸藤さんと吹雪さんはどこかスッキリしたような、清々しさを顔に浮かべながら僕と十代くんに話していた。
「安心していいぜカイザー。俺とコナミがいるんだ。あんたたちがいなくても学園のことは俺たちが立派にやってみせるぜ!」
「ああ、学園のことは任せたぞ在校生」
「おう、任せとけっ、卒業生!!」
固い握手を交わしながら頼もしく笑う十代くんに丸藤さんも安心したように微笑んでいた。
そして、僕と吹雪さんもまた、そんな2人を見て学園の未来は安泰だなと思い、卒業生に向けた今日の模範デュエルの大成功を確信したのだった。
「ところで吹雪さん、吹雪さんは卒業後プロとして活動されるのですか?」
「ん? ボクかい。いやーそれはどうだろうなあ。特に決めてないけど、どうしてだいコナミくん」
「いえ、特別他意はないのですが、僕は将来プロになる予定なので、同じプロへの道をゆく丸藤さんとはデュエルする機会は沢山ありそうですけど、吹雪さんとは今回が最後になるのかなと思ったものでして」
丸藤さんの進路はもう決まっている。なんでも大手のスポンサーの元、プロリーグへの挑戦が決まっているとのことだ。
プロへの道なら僕の進路と合致している。遅かれ早かれ、何度でもデュエル出来るだろう。
だけど吹雪さんは違う。吹雪さんは三年生だけど、長いこと行方不明だったからか明日香さん曰く、進路先がまだ決まってないらしいのだ。
卒業後、吹雪さんがどういった道を選ぶのかはわからないし、吹雪さんならどんな道を歩んだとしてもきっとアイドルばりの人気者であちこちから引っ張りだこになることは疑いようのないことだけれど、叶うならプロの道を歩んでほしいとも思っている。
吹雪さんは強い。丸藤さんと並ぶ天才と言われるだけのことはある実力を持っている。そんな才能に満ち溢れている人が、他になりたいものがあるというわけでもないのにプロにならないというのは勿体無いと思ってしまうのだ。
余計なお節介でしかないと自覚しているが、聞かずにはいられなかった。
無論、吹雪さんなら他にも天職が……なんなら歌って踊れる、デュエルも強い。そんなアイドルという道でもトップを狙える逸材だと思うから、その道をいくというのなら、それはそれで祝福したいとは思うけれどね。
「それで、どうなんですか。吹雪さんは卒業して、これからどんな道をいくか決めてるんでしょうか」
「いやーそれがまだ決めかねていてねー。なんせ僕は可能性に満ちた男だからね。どんな進路を目指したものか。なんなら明日香と共にアイドルユニットを組むという選択も──」
僕と吹雪さんが卒業後の進路について話していると、観客席に向かって卒業模範デュエルの終了の挨拶を述べていたクロノス先生が近づいてきて吹雪さんの言葉を遮るように話しかけてきた。
「あなたは何を言ってるノーネ。吹雪ーは卒業できないノーネ。だから、進路云々はまだ先の話なノーネ」
「「「「えっ???」」」」
まるで当たり前のことのように隣から投げかけられた言葉。その内容にその場にいた吹雪さん自身も含めた全員が驚きの表情をクロノス先生に向けていた。
「そもそも吹雪ィーは出席日数が圧倒的に足りないノーネ。そんな状態で卒業なんて出来るわけがないノーネ。だから、今年は留年して来年しっかり授業を受けて卒業するノーネ!」
「なっ、そ、それは本当なのか吹雪!!」
「あっ、そういえばそうだったよ亮。いや〜ボクとしたことがすっかり忘れてたよ、ハハハ!!」
「ハハハってお前……」
吹雪さんが留年する。そのあまりに予想外の事実に丸藤さんですら大きく口を開けて驚いていた。そして呆れたように額に手を当てて首を振った。
「ま、まあよかったじゃないですか。進路も何も決まってないのに卒業じゃなくて。僕は1年生はラーイエローで終わりですけど、2年生に上がったら早いとこブルーに上がってみせますので、そのときはよろしくお願いしますね、吹雪先輩」
「コナミも何を言っとるノーネ。ユーは来年からオシリスレッドに降格なノーネ。イエローに継続はできないノーネ」
「ヘアッ!!???」
僕が当然のように2年時もラーイエローに残り続けられると能天気に考えていた頭に冷や水をぶっかけるが如く鋭い忠言が横から飛んできた。
「う、嘘だ。嘘だドン!! 嘘だと言ってよバーニィ!!!」
「バーニィって誰なノーネ。私はこんなことで嘘はいわないノーネ。コナミィは病み上がりとはいえ期末試験の実技ではミスが目立ったノーネ。その上筆記はボロボロ。オシリスレッドに降格なのは当然の結果なノーネ」
「嘘だぁあああ!!??」
僕は先生からの無慈悲な宣告に四肢を地面につけて吠えるしかなかった。それ以外にこの絶望という名の情動を吐き出す術がなかった。
「ひどい落ち込みようだな。そこまでのことだろうか」
「うーむ、オシリスレッドは中々ユニークな寮だからね。ブルーを目指してた彼にとっては厳しい結果なのだろうさ」
「俺は嬉しいぜコナミ。一緒の寮ならいつでもデュエルができるからな! オシリスレッドはいいところだぜえ、きっとお前も気に入るさ!」
「僕はブルーに入りたかったんだよー!!」
十代くんがこれ以上ないほどに嬉しそうにしながら僕の肩を叩いて、僕のオシリスレッド入りを祝福していた。
僕の嘆きの声は絶えることなく、歓声が続くデュエル場全体に響き渡り続けるのだった。
薄暗く、ボンヤリと光る水晶玉がその空間の中心に浮いていた。大きな、大樹と呼ぶのも不足なほどの巨大な木の幹の中心にその空間はあった。
そこは大樹の中心にぽっかりと空いた空洞のような場所であった。
「暗いですね。灯はつけないのですか?」
「今は、この暗さがちょうど良いのだ。私にとってはな」
そこには2人の男がいた。黒と白で別れていたが、お互いに体全体を覆うローブを身に纏っているために、その中身は闇に覆われて見えずにいた。
木で作られた木製の巨大な椅子にどっしりと座る男の身長は3mにも届く大男であり、平均的な成人男性ほどの身長をしているもう1人からすれば見上げなければ顔を伺えない大男は巨人もかくやといったサイズであった。
「それにしても驚きましたよ。あの勇者ですが、僅か1年足らずであの惑星のカードたちを4枚も集めたそうじゃないですか。うち1枚はあなたが送り込んだものではありますがね」
「ああ、嬉しい誤算だ。この分なら数年もあれば集まるだろう。我らの望みも、そう時間はかからんかもしれんな」
椅子の手すりに肘を置く大男は擦れた老人の声に喜びの色を混ぜて話していた。それに応える男も頷き、水晶を見つめた。
「しかし、なぜこんなに早く集まったのです。惑星のカードたちが動き始めるにしても、彼が大人になってからだと思ってましたよ。大切な主である彼が未熟な子供である内は試練を課すとは思えませんでしたから」
「…………恐らく、考えられる理由は3つある。一つは私がジ・アースのカードを放ったこと。あれを起点に集まろうとしているのだ。或いは、呼んでいるのかもしれんな。我らの主人はここにいるとでもな」
「ふむ、だとしても些か性急に過ぎると思いますがね。そこのところはどうなのです」
男の質問に、暫しの間大男は黙して口を開かなかった。そして、水晶へと指をかざしてそこに蒼く美しい球体の惑星を投影して見せた。彼が写した惑星、それは地球そのものであった。
「これは…………?」
「彼の世界だ。じきに光か………或いは闇に沈む世界。恐らく、彼らも焦っているのだろう。もはやこの流れは止められぬ、どちらに転ぶにせよ、滅びは必至。なら、せめて彼だけでも………とな」
「なるほど、そして我らも………と言うことですね」
意味深に問う男に大男は言葉を返さず、神妙な感情を乗せながら地球を見つめ続けていた。
「それで、最後はどういった理由があるのです。あるのでしょう、3つ目の理由が………」
「………彼の傍には強い闇を持つ者がいる。強い、とても強い宿命を背負う少年だ。深い闇と世界を背に戦う宿命を持つな。少年自身か、或いは少年を求める者か。そのどちらかの影響だ」
「ふむ、その少年、我々の邪魔になりませんかね。それほどの宿命を背負う少年、彼の味方ならいずれは我らとも………」
「それは問題ない。私の予測では、勇者の元に残りの惑星のカードが集まるころには彼は彼で、我々どころではなくなっているだろうからな」
大男がそこまで話すと、水晶に投影していた地球を消して、ギシリと音を立てながら椅子の背に寄りかかった。
「まっ、問題ないならそれでよいのです。私も無駄な労力をする必要がなくなるのでね」
「うむ、それで、お前はここに何をしに来たのだ。例の調査を頼んでいたはずだが?」
「ええ、調べたところ、やはり奴は勇者の元から消えていましたよ。恐らく、時期やタイミングから見ても、金星にでも消されたのではないですかね。彼らにとっても勇者にへばりついていた奴は目障りだったでしょうからね、あのトカゲは………。ああそうだ、勇者の元から搔っ攫って来たので一応渡しますよ。これが証拠です」
男はカードを1枚、大男に投げ渡した。そこにはガガギゴの名と絵柄が書かれていたが、精霊の力は宿ってはいなかった。それはもはや、ただのカードでしかなかった。
「そうか。面倒を頼んで悪かったな。これで、邪魔者は消えた。あとは時を待つだけだ」
「時を待つ、ですか。それは構いませんが、光の連中は放置でよいので? 回収する前に滅んではあなたの計画も元も子もありませんよ」
「問題はない。最悪は私が直接出向く。それにそう言った時のためにあの娘たちを送り込んだのだ。闇の方はともかく、光の方ならどうとでもできる」
男はその大男の言葉を聞くと、背を向けて光が差し込む出口の方へと歩き始めた。用件は終わったと言うことなのだろう。その歩みに迷いはなかった。
「帰るのか。頼みを聞いてもらった礼に、美味い茶でも淹れようかと思ったのだがな」
「お構いなく、私は私でやりたいことがありますので。………ああ、ところで、差し出がましいかもしれませんが、あのエリアとかいう少女。些か以上に勇者に情を抱きすぎている様子でしたが」
「よい、そのために幼少の時分に送り込んだのだ。それにあの娘は所詮は保険。万が一という事態のためのな」
男が出口の前で立ち止まり横顔のみ見せて問うた言葉に大男もまた感情のこもらない言葉で答えていた。
「ふっ、そうですか。まあ、あなたのやり方に口は出しませんよ。ただ、やり過ぎると飼い犬に手を噛まれますよ。それでは、またいずれ、大賢者様」
「ああ、また、お前の力が必要な時は頼むだろう。アレイスター、感謝する」
ペコリと、軽く頭を下げてアレイスターと呼ばれた男は大樹から去っていった。アレイスターが去り、1人となった大賢者は暗闇の中で、目を閉じて意識を閉ざした。
今はただ、星が集う時を待つ。それまでは、ただ、待ち続けるのみであった──。
大賢者が眠り閉ざす中、アカデミアの学園では──。
「くっそーっ!!! 来年こそはブルーに上がってやるーっ!!!」
「ふふ、それじゃあ勉強、頑張ろうねコナミ君!」
「よっしゃーっ! 行こうぜコナミ!! 2年に上がっても、デュエルだーッ!!」
少年たちが未来への希望に満ち溢れた願いを胸に学園を去り行くものに託されたものを背に歩いていくのだった。
1期を何とか書ききることができました。自分で言うのもなんですがめっちゃ頑張った。よく書けたと自分で褒めてあげたい気分です。
次回は2期ですが、流石に疲れたので暫く休みます。暫く、割と長くなるかもしれません。モチベが回復するまでは。
再開した時も、もしよければ読んで下さい。ここまで読んでくれてありがとうございました!!!