デュエルアカデミアで再会を果たし、ラーイエローの新1年生となった佐藤君の怒りと失望から始まった再会による約束のデュエル。それは最後には僕の新たなHEROによって僕が勝利する形で終わった。
「ふぅー。楽しかったよ佐藤……ああいや、道長くん」
僕は佐藤君を中学時代から呼び続けてきた苗字とは違い名前で呼んだ。
「はは、俺も久々に先輩とデュエルできて楽しかったです、やっぱり強いですね先輩は…………。それとようやく俺を名前で呼んでくれるんですね。中学の頃、ずーっと佐藤って呼ばれてて、よくある名前だから名字で呼んでくれないかなあって思ってたんですよ」
「いやあ佐藤って名前が呼びやすくてさ。改める機会もなかったから。それでまあいっかってね。しかし、本当に強くなったね道長くん。見違えたようだったよ」
「先輩が卒業してから、俺もアカデミアに入るために頑張らなきゃってことで勉強にデュエルにめちゃくちゃ頑張ったんですよ。おかげで先輩ともいい勝負ができました」
褒められたのがくすぐったいのか道長くんは頭を掻きながら照れくさそうに答えた。
頑張ったか……。そうだね、道長くんは随分と強くなっていた。仮面デッキの切り札であるデス・ガーディウスの召喚もスムーズに行えるようになっていたし、一つ一つのカードの扱いも上手くなっていた。
それは、デュエリストの実力もそうだし、何よりカードとの絆を感じることができた。
彼の言う通り、相当に頑張ってきたのだろうな。
僕はその成長ぶりにデュエルを教えていたこともあってかすごい喜びを感じていた。これなら、アカデミアでも十分にやっていけるだろうと思えた。
「それより、いい加減デュエルも終わったんだからその仮面外してもいいんじゃない。まだ怒ってるってわけじゃないでしょ?」
「えっ? あー忘れてました。つい付けたまんまにしちゃうんですよね」
そう言って仮面を外した道長くんの顔にはとても晴れやかな、スッキリした表情が浮かんでいた。
そこにデュエル前の怒りや失望といった感情はない。今のデュエルで払拭することができたのだろう。よかったよかった、これでまだ怒り冷めやらぬとなったらどうすればいいかわからないところだったよ。
「先輩、あのプラネットモンスターの動画でも思ったんですけど、やっぱりガガギゴは使わなくなったんですね。今のデュエルもメインではHEROを使ってましたし」
「あーあの動画観てくれたんだね」
「ええ、そりゃああれだけ話題になってれば見ますよ。まあ、話題にならなくても見てましたけど。それでガガギゴはどうしたんですか?」
「うーんガガギゴねー。まあ、色々あってね。扱わなくなったんだ、それで今はHEROとプラネットモンスターを主軸に戦っているよ。それ以外は概ね道長くんも知っての通りのカードたちが入ってるかな」
「へー、まあプラネットモンスターっていう激レアカードも手に入りましたしね。無理に拘ることもないでしょうしね」
僕は若干曖昧な笑みを浮かべて道長くんに答えた。彼も僕同様精霊の存在は見えない。だからガガギゴの精霊が宿っていたとか言っても信じてもらえないだろう。
ガガギゴは特別レアなカードと言うわけでもない、初心者用の構築済みデッキに入っているようなカードだ。プラネットモンスターとはレアリティやカードパワーなどの差からエースカードも変わっていても可笑しくはないよねとすんなりと彼は受け入れてくれた。
「でも、なんでこれだけ強いのに先輩オシリスレッドに降格になってるんですか? まさかこの学園って先輩より強い人がうじゃうじゃいるとかじゃあないですよね!? 先輩でもレッドに降格されるレベルだったらやっていける自信ないんですけど!!」
「い、いやそんな心配しなくても大丈夫だよ。デュエルの実力という意味なら自分で言うのもなんだけどこの学園でもトップクラスだと先生もみんなも認めてくれてるからさ。そんな僕から見ても道長くんは十分強い部類だから、自信持っていいよ、うん」
「はあ、それじゃあ益々なんで先輩はオシリスレッドなんです?」
訝し気に顔を傾げて問いかけてくる道長くんに僕は何と答えるべきか迷った。正直に成績不振のためと言えばよいのだろうが、それは些かかっこ悪く、そして恥ずかしいことだ。いや、事実だから誤魔化しても仕方ないんだけどさ、先輩としてそれを正直に告げるのは恥ずかしかったんだ。
「まあ、色々あったんだよ、色々とね。まあそれはともかく、改めて、入学おめでとう道長くん。アカデミアは楽しい学校だよ、僕が保証する。君の3年間はきっと思い出深い素晴らしい学園生活になるってね」
「はい、これから2年間、先輩が卒業するまでの間またよろしくお願いします!!」
結局、僕はなあなあに誤魔化して、道長くんに手を差し出して入学祝いの言葉を贈った。それは嘘じゃない。
三幻魔やらなんやらと僕の1年目はちと色々とごたついたが、この学園が楽しく一生の思い出となるであろう素晴らしい学園であることには違いはないのだ。
今年は流石にあんな騒動は起こらないだろうし、道長くんもきっと楽しい生活を送ることができるだろう。
僕が差し出した手を握って道長くんは嬉しそうに笑った。僕もそれに喜んで笑いかけ、彼が困ったその時は、先輩としての責務を果たそうと彼の力になってあげようと思った。
それから幾ばくか、僕と道長君はこれまであったことをお互いに話した。愛理ちゃんとのこと、三沢君のことなど。それは、1年間と言う空白の期間を埋める確認作業のようなもので、その話題の中心はどうしても1年間と言う期間を受験に費やされていた道長くんではなく、僕の話が大半であった。
道長くんも知っている愛理ちゃんたちのこと以外にも学園に入ってから万丈目君と言う新しいライバルと出会ったこと、僕と同じE・HEROを扱うとても強い、僕でも敗ける時がある十代君というオシリスレッドのライバルがいること。
三幻魔という伝説のカードを狙うセブンスターズから仲間たちと共に封印を守ろうとしたこと。話題には事欠かなかった。
その中でも、特に僕が十代君に敗けたことと、卒業模範タッグデュエルで全国大会で敗北を喫した丸藤さんとそれに並ぶ実力者の吹雪さんに十代君とタッグを組みながらも勝利したと言う話題が、もっとも彼を引き付けたようで、その内容は特に詳しく聞かれた。
僕は誇張することなく、それに可能な限り正確に答えた。タッグを組んで勝利したことは嬉しかった。そして十代君に敗けたこと、それは悔しくはあれど、決して恥ずべきことだとは僕には感じられなかったからだ。
僕は彼がどれほどデュエルを愛し、そしてカードに愛されているのかを伝えた。そして道長くんは言った「自分もその十代という先輩とデュエルがしてみたい」と、僕は喜んでそれに賛成し、そして彼もきっと喜んで受けてくれるだろうと確信した。
なぜなら十代君ほど、デュエルを愛している人を僕は知らなかったからだ。
「さて、ずっとこうして話をしているのも楽しいけれど、道長くんも新しい自分の寮に戻った方がいいんじゃないかな。通例なら、今日は新入生の歓迎パーティーだ。同じ新入生同士親交を深めることもできる。何よりご飯が死ぬほど豪華だ。参加しない手はないよ」
丘の向こうを見ると、太陽が沈み始めているのが見えた。長話をし過ぎたのか、空には気の早い星々が僅かながら点滅を繰り返している。それによりもう少しすると夜が来るだろうことが確認できた。
オシリスレッドのの歓迎会はわからないけれど、ラーイエローの歓迎会はとても豪華だった。美味しい料理も沢山出たし、こんな機会はめったにない以上、遅刻させるわけにはいかないだろう。
「ああ、それもそうですね。パーティーか、すごく楽しみだなあ。同い年で仮面が好きな人がいてくれるといいんだけど…………そうだ、今日はもう無理だと思いますが、春香とも後日会ってやってください。愛理先輩とはもう会っているとは思いますけど、コナミ先輩とも会いたがっていると思いますので」
「うーんそれはどうなんだろうなあ。春香ちゃん僕と会いたがってるかなあ。まあ、うん、愛理ちゃんとも会う予定があるし、後日オベリスクブルーへ行くよ。たぶん、その時会えるんじゃないかな」
「はい、それじゃあ先輩。また明日!」
「うん、道長くん、また明日だね」
そう言って道長くんはラーイエローへと延びる道を駆け抜けていった。その後姿は見る見るうちに小さくなっていき、やがては影すら見えなくなっていった。
僕は道長くんの横を抜けて歩いてくるのが見えた十代君たちに手を大きく振って駆け寄ってくる彼らと共にオシリスレッドへと足を延ばすのだった──。
*
黒い帳が降りた空の下で、白いヨットがアカデミアの波止場で波に揺れていた。そこからは夜闇の中で窓から漏れ出る明かりが内部から発せられており、その船内に人がいることを外から見る者に知らせていた。
「斎王、言われた通り、遊城十代とデュエルをしてきましたよ。本気じゃなくてもいいと言われていたので適当にやりましたけど、あれに何か意味があったのですか?」
船内の一室で身なりの良い白いスーツを着た銀髪の少年が電話で斎王と呼んだ人物と話していた。
『エド、彼はどうだった?』
電話口から聞こえた優し気な声に船内の少年──エド・フェニックスは机に置かれた、できたばかりの紅茶を啜りながら答えた。
「どうもなにも、大したことはない。そこらにいるデュエリストでしたよ。一般のデュエリストならともかく、プロの世界で戦っているボクからすれば、わざわざこんな辺境の島にまでやってきてまでデュエルする意味があったのか聞きたいくらいです」
少年は自分で淹れた紅茶の出来にわずかに顔を顰めながら答えた。悪くないが、もう少し時間を置くべきだったなと思いながら斎王の言いつけ通りした今日の出来事について内心で反芻していた。
エドは疑問であったのだ。少し前に最年少のプロデュエリストとして頭角を現し、順調にプロリーグを勝ち上がっている自分が、そのマネージャーとして信頼している斎王
それに加えて、何のつもりか、この学園に通えと新入生として籍を置くことになったのだから、その時は目を丸くするだけではなく、目を白黒させた。その行動の意図や意味が分からなかったからだ。
しかし、ボクがこうしてある目的のために身を立ててプロとしてやっていけているのは、マネージャーとして、友人として、ボクを幼いころから彼が支えてくれたからだ。
それ故、深くは聞かなかった。占い師でもある彼にしか見えない、なにがしかの運命が見えているのだろうからだった。
そして、今日、ボクは斎王の望み通り、興味もない遊城十代と戦ってきた。彼は隠してはいるが、僕と同じHERO使いとの話で、卒業デュエルでは最近噂のカイザーにも勝ったとの話だったから多少なりとも興味があったのだが、期待外れであった。
結果から言えばデュエルはボクの負けだ。しかしそれは腕試し程度に適当に店頭に並んでいたカード5枚入りのパックを8袋買って作り上げた雑なデッキを使ったからだった。
「あれならもう一人、最近噂になっているデュエリストと戦った方が有意義だったと思いますよ。彼も一応HERO使いだったでしょう、たしか………コナミとかいうやつでしたか」
ボクは脳裏に一度だけ見た2つの動画を思い出しながら言った。1つは星に選ばれたデュエリストという題名の動画。そしてもう一つは一般に公開されるわけではないが斎王がどこからか入手してきたカイザー、丸藤亮の卒業模範タッグデュエルの動画であった。
ボクとしては、今日戦った遊城十代とやらより、プラネットモンスターなる未知なるカードを扱うコナミの方がずっと興味があった。
タッグデュエルで十代はカイザーに勝っていたが、それはコナミとタッグを組んでいたからではないか。実際にはわからないが、今日戦った感想としては、そんな予測がボクの脳裏には立ち上っていたのだ。
そして、そんなボクの疑問に対して斎王は普段と何ら変わらぬ静かな、しかし迷いのない断言するような口調で答えた。
『ああ、彼はいいのだ。殊更、君の運命に影響を与えることはないだろうからね。君が個人的に興味があると言うのなら止めはしないが』
「………別に、あのプラネットモンスターというのに興味があるだけで、彼個人はどうでもいいです。それで、結局何のためにボクは戦わないといけなかったんですか」
『それはこの先にわかることだよエド。ただ一つ言えるのは、彼と君が出会うことで運命は大きく動き出すと言うこと、ただそれだけだ。いずれ、私もそちらへ行く。それまでは学生生活を楽しみたまえ』
そう言うと斎王は繋がっていた電話が切ってしまった。何か言おうとした僕が切れた形態の画面を見るとプーッ、プーッと通話切れの音が鳴るだけだった。ボクは思わず電話の画面を見てかけ直そうかと思ったが、それもすぐにやめた。
斎王にはボクには知りえない何がしかの考えがあるのはわかった。それをボクに教えてもらえないことに不満が募ったが、それをグッと堪えてボクは携帯を閉じた。
彼が何も教えようとしない以上、ボクはそれを知る必要はないと言うことだろうからだった。彼への深い信頼からくる行動だった。
「斎王……いいさ、君が何も言わないというのならそれでもいい。君の占いに従ってボクに不都合なことはなかった。しかし……」
そこで言葉を切ったボクは思った。最近の斎王はどうにも様子がおかしい。以前から時折りボクには理解の及ばない事柄を頼んでくることがあったが、今回のは輪をかけて意図が読めなかった。
「ボクの運命に大きく関わるか。斎王、君は何を考えているんだ」
ヨットの船内から出たエドは暗闇の中を点滅する星々を見上げた。
「星か……そうだな。機会があれば遊城十代のついでにあのプラネットモンスターとやらを見るのもいいかもしれないな。無聊の慰めくらいにはなるだろう」
近々カイザーと呼ばれ、プロリーグで快進撃を続けている丸藤亮とのデュエルも控えている。
それまではこの学園で退屈凌ぎに興じよう。カイザーを倒したその後は本当のHERO使いが誰であるかを示すために真のHEROを使ってあの遊城十代を倒すことになるだろう。
ボクはそう決めると、一度だけ白く輝く大きな月を一瞥し船内へと引き返していった。夜風が吹いて揺れ動く船は未だ定まらない未来を暗示しているかのようであった──。
書いといてなんだけどエドとコナミがデュエルするかはわかりません。