「先行はあなたに差し上げますわ」
「それなら遠慮なく、アタシのターン、ドロー!」
女子寮で始まったももえ先輩とのデュエル。意味が分からないけれど、受けないと言う選択が獲れない以上、デュエルを受けるしかない。
先輩の実力はわからないけれど、アタシもこの学園に受かったのだから、勝ち目はあるはず。とりあえず、やれるだけやるとしましょう。それで、満足してくれるはず。まあ、それはそれとしてむかつくから倒しちゃうつもりだけど!
「アタシはツクシーを守備表示で召喚! そして永続魔法 世界樹を発動してターンエンド!」
《ツクシー》 攻撃力400 守備力500
アタシの場に小さな植物のつくしに葉っぱの手足が生えて首にリボンを巻いたモンスターが召喚された。
序盤はこのモンスターでとりあえずこれで身を守ってもらおう。いきなり上級モンスターを出せるような手札ではない。それにももえ先輩がこのツクシを破壊してくれれば世界樹にカウンターが乗る。初めのターンにしては上々でしょう。
アタシはツクシを破壊すべく攻撃してくれないかなあと思いながらももえ先輩を見た。
「私のターン、ドロー! 私はモンスターを裏側守備表示で召喚。カードを2枚伏せて、さらに永続魔法 黒蛇病を発動!」
「黒蛇病?」
アタシはももえ先輩が発動した黒蛇病というカードを見て疑問の声を上げた。そのカードは見覚えはあったが効果を憶えていなかったのだ。たしか、お互いを対象としたバーンダメージを蓄積していくといった効果だった気がするけど…………。
「このカードは私のターンが来るたびにお互いに200ポイントのダメージを与え、さらに次のターンにはそのダメージが400,さらに次は800と言った具合にダメージ量が増えていくカードですわ。ですので次の私のターンが来れば200ポイントのダメージを私たちは受けます」
「バーンカードですか。随分と陰湿なカードを使用してきましたね先輩、友達に嫌われませんか?」
「才能に乏しいものが、この学園で相応に戦っていくためには綺麗ごとではやっていけませんわ。大切な友人はおりますし、このデッキを使う程度で断ち切られる程度の友情ならいりませんもの。私はこれでターンエンドですわ」
すました顔であたしの質問に答える先輩の言葉に淀みはなかった。本当にそう思っているのだろう。このデッキを使うことでいなくなる程度の友達などいらないと。
なんだか気に入らない。そんな仄暗い感情がアタシを微かに襲った。
「それじゃあアタシのターン、ドロー!」
アタシはデッキからカードを引いて少し考えた。先輩の場には守備モンスターが一体。ツクシを無防備に召喚しておけば攻撃してくれると思っていたのだけど、当てが外れたわね。
それに黒蛇病を発動してくるあたり、先輩のデッキはバーンカードに傾倒している可能性がある。その場合、いくら罠を張っても攻撃してこない可能性もある。
ダメージ量は微々たるものだが、積み重なればまずい。でも逆に攻撃してこないと考えればガンガン攻めていけると言うことでもある。アタシは今後の方針を決めてほくそ笑んだ。
「アタシは手札からボタニカル・ライオを攻撃表示で召喚! このモンスターの攻撃力は自分の他の植物族モンスター1体につき300ポイントアップします!」
《ボタニカル・ライオ》 攻撃力1900 守備力2000
巨大な赤いバラのような花が咲き誇っている中心から顔を突き出した犬。そう言った風体をしたモンスターはツクシーから養分を貰うように攻撃力を上げていた。
「さらにボタニカル・ライオに覚醒を装備! 装備モンスターの攻撃力を400ポイントアップ! バトルです! アタシはボタニカル・ライオで裏側守備モンスターを攻撃!」
自身の効果に覚醒の装備魔法も加わることで並の上級モンスタークラスの攻撃力に上昇したボタニカル・ライオが先輩の裏側モンスターを攻撃せんと頭から飛び掛かった。
その口に並んだ鋭い歯による攻撃は先輩のモンスターを破壊する。そのはずだった。
「私はこの瞬間、リバースカード 和睦の使者を発動! このターン私が受けるダメージは0になり、モンスターも破壊されません」
「和睦の使者で守った!?」
「さらにこの攻撃により、伏せられていたデス・コアラの効果が発動いたしますわ! あなたの手札の枚数分、400ポイントのダメージを与えます!」
「はっ! アタシの手札は3枚、1200ポイントのダメージ!?」
先輩の伏せていた和睦の使者により、ボタニカル・ライオの攻撃は寸前でバリアに阻まれてモンスターには届かなかった。そして、お返しとばかりに表になった巨大なコアラそのもののモンスターであるデス・コアラによる効果ダメージが返ってきた。
「キャァアアア!!」
《春香》 残 LP 2800
「ぐっ、デス・コアラを伏せていたなんて、ほんっとうに意地の悪いデッキですね!」
負け惜しみにしか聞こえない言葉を吐いて、アタシはやけくそ気味にカードを伏せてターンを終了した。
「あなたがターンを終える瞬間、キャトルミューティレーションを私は発動いたしますわ。自分の場の獣族、つまりデス・コアラを手札に戻し、手札から同じレベルの獣族モンスターを召喚いたします。私はデス・ウォンバットを攻撃表示で召喚!!」
《デス・ウォンバット》 攻撃力1600 守備力300
アタシがターンを終えると同時に先輩が伏せていたもう一枚のカードを発動させていた。それにより、デス・コアラはいなくなり、代わりにこれまた巨大なウォンバットそのもののモンスターが召喚された。
アタシはデス・コアラが手札に戻ったことに顔を顰めた。手札に戻したのは確実にもう一度効果を使うため。なら、次攻撃するときは無駄に手札を消耗しておかなければならない。
「私のターンですわね、ドロー! この瞬間、黒蛇病の効果が発動いたしますわ。まず1ターン目のため、お互いに200ポイントのダメージが与えられますわ!」
「う゛ッ、気持ち悪い!!」
黒蛇病の効果が発動したことで、いつの間にかアタシの太ももに絡みつくように1匹の黒い蛇が巻き付いていた。その蛇はアタシの足に嚙みついて、ダメージを与えてきた。
アタシは噛みつかれたことよりも、うねうねとした爬虫類が断りもなく地肌に纏わりついていることに生理的嫌悪を抱いて気持ち悪くなった。
《春香》 残 LP 2600
《ももえ》 残 LP 4000
「えっ、どうして先輩はダメージを受けていないんですか!?」
「デス・ウォンバットの効果ですわ。このモンスターがいる限り、私は効果ダメージを受けません」
「なんて陰湿なデッキ! 性格が悪い!!」
アタシは思わず口走り、目元をゆがませた。それがカード同士のコンボと理解して尚、性格の悪さを感じずにはいられなかった。
「自分はダメージを負わず、相手にだけダメージを与える。何度も言いますが、やることが陰湿です」
「それがこのデッキの特徴ですから。それに戦いとは自分の長所を押し付けて相手には何もさせない。それが勝利への近道ですわ」
「くっ」
まるで悪びれた様子のない、アタシの言葉にも当然と先輩は答えた。その様子に、言葉で優位に立つことはできそうにないと思った。
「私はモンスターをセット。さらにマジック・ガードナーを発動! このカードにより黒蛇病にカウンターを1枚乗せます。黒蛇病が破壊される場合、カウンターを取り除いて破壊を防げますわ。さらにカードを1枚伏せてターンエンドいたしますわ」
「また守りを固めるだけ、じわじわとダメージを与えていく戦略ですか。アタシのターン、ドロー!」
今先輩が伏せたモンスターは十中八九デス・コアラ。で、ある以上あのカードを攻撃する場合はダメージを最小に抑えるために手札を全て消費しておかないといけない。
そして、それ以上に優先すべきはデス・ウォンバット。あのモンスターがいる限り、黒蛇病の効果ダメージがアタシだけに入ってしまう。黒蛇病の破壊が困難である現在、ボタニカル・ライオで破壊してダメージを与えるのが優先!!
「アタシはツクシーをリリースして妖精王オベロンを守備表示で召喚! このモンスターが守備表示の時、アタシの植物族モンスターの攻撃力・守備力は500ポイントアップ!」
「ボタニカル・ライオの攻撃力をさらに上げるためですわね。狙いはデス・ウォンバットでしょうか?」
《妖精王オベロン》 攻撃力2700 守備力2000
「これでボタニカル・ライオの攻撃力は2800! 一気にダメージが与えられる!! バトル、アタシはボタニカル・ライオでデス・ウォンバットを攻撃!!」
「この瞬間、私はリバースカード グラビティ・バインドー超重力の網ーを発動いたしますわ!!」
「グラビティ・バインド!?」
アタシが攻撃宣言し、ボタニカル・ライオが駆け出した途端、その足を絡めとるようにフィールドに格子状の光の線が張り巡らされた。それは超重力を放ち、ボタニカル・ライオを強制的に地面に平伏せさせた。
「このカードが発動している限り、フィールドのレベル4以上のモンスターは攻撃を行えませんわ」
「くぅ、また面倒なカードが………!!」
これじゃあ、いくらボタニカル・ライオの攻撃力を上げても意味がない。私は募る苛立ちを押さえるように息を肺の中へと目一杯吸って自分を落ち着けた。
「アタシは永続魔法 増草剤を発動。効果は墓地の植物族モンスターを特殊召喚できる」
「でも、あなたは精霊王オベロンを召喚している。そのカードを発動するには通常召喚を行えないデメリットがある。ですから………」
「ええ、わかっていますよ。アタシは効果を使用せず、このままターンエンドです」
増草剤は次の先輩のターンに発動されるかもしれないデス・コアラのバーンダメージを少しでも軽減するためだ。その効果に期待してのものではない。
「では私のターン、ドロー! この瞬間、黒蛇病の効果が発動いたしますわ。あなたに400ポイントのダメージ!」
「くぅううう!!」
《春香》 残 LP 2200
黒蛇病の2ターン目により、すでにアタシの太ももに噛みついている蛇に追加されるように2匹目の蛇が空いているもう片方の軸足に絡みついて噛みついた。
相変わらず気持ち悪いが、太ももよりはマシだった。ダメージ云々ではなく、心情的に。そして変わらず、先輩の足元には蛇は出現しているが、デス・ウォンバットが追い払っているため先輩の足には噛みついていなかった。
「私は伏せていたデス・コアラを表に、そのリバース効果により、春香さんに400ポイントのダメージですわ!」
「きゃっ!」
《春香》 残 LP 1800
表側攻撃表示となり、裏側のカードの背表紙から出てきた大きなコアラがアタシの残り手札の1枚を見て淡い光を放つ球を投げつけてきた。それに対し、苦い顔をしながらアタシは考えていた。
これで、残りライフは1800。黒蛇病の持続バーンを考えれば、残り2ターンがアタシの命、黒蛇病の排除はもう諦める。時間がない以上、何としてもボタニカル・ライオの攻撃を通す。それしかない!!
「私はさらにモンスターを伏せてターンエンドですわ」
「アタシのターン、ドロー!」
今先輩が伏せたモンスター、あれが何かはわからない。どうせ、また性格の悪いバーン効果を持ったモンスターだろう。なら、今すべきは…………。
「アタシは墓地のツクシーを除外して薔薇の刻印を発動! 先輩のモンスターのコントロールを得る!」
「私のモンスターを!!」
「アタシはデス・ウォンバットのコントロールを貰います! そして、デス・ウォンバットをリリースして2体目の妖精王オベロンを守備表示で召喚! これにより、ボタニカル・ライオの攻撃力はさらにアップ!!」
《ポタニカル・ライオ》 攻撃力3600 守備力3000
《妖精王オベロン》 攻撃力3200 守備力2500 ×2
「攻撃力が3000を超えたモンスターが3体。ですけど、グラビティ・バインドがある以上、攻撃はできない。無意味ですわ」
「ええ、それでももうデス・ウォンバットはいない。先輩も無傷ではいられません。アタシはこれでターンエンドです」
アタシの場のモンスターの布陣は極めて強力なラインに到達している。でも、いくらモンスターの
攻撃力を上げても攻撃ができなければ無意味。
次のターンで何とかして先輩のグラビティ・バインドを処理、そして可能ならば黒蛇病も、それができないならば引き分けに持ち込む。何としても!!
「私のターン、ドロー! この瞬間、黒蛇病の効果が発動いたしますわ。お互いに800ポイントのダメージ! ぐっ!!」
「うぅううう!!!」
《ももえ》 残 LP 3200
《春香》 残 LP 1000
3匹目の黒蛇が絡みついた。それによって次の先輩のターンが来たら終わる致死量圏内に到達したことを意味する。
でも、これまでと違うのは先輩の場にはデス・ウォンバットがいなくなったため先輩自身もダメージを受けている。アタシは苦悶する先輩を見て、いい気味だと内心でほくそ笑んでいた。
「まず、私は伏せていた水晶の占い師をオープン。そのリバース効果により、デッキからカードを2枚めくり、そのうちの一枚を手札に加えますわ」
先輩が引いたカードは上から光の護封剣、魔法の筒。先輩は2枚目の魔法の筒を選び、手札に加えた。
「さらに強欲な壺を発動しカードを2枚ドロー…………私はカードを1枚伏せて、これでターンエンドですわ。春香さん、あなたのラストターンです」
「ええ、そうかもしれませんね。このターンで、勝負を決めます! アタシのターン、ドロー!」
水晶の占い師に強欲な壺でドローを加速しながらしたことはカードを1枚伏せただけ。そしてそれは間違いなく魔法の筒のはず。なら、強欲な壺で引いたカードはあまりいいカードではなかったみたいね。
アタシはデッキから引いたカードを喜色を浮かべて喜んだ。それはいいカードを引けなかった先輩とは違い、この追い詰められた状況に、逆転の一石を投じることのできる唯一のカードだったからだった。
「アタシは手札から深緑の魔弓使いを攻撃表示で召喚!!」
「深緑の魔弓使い………! 魔法・罠を破壊できるカード、この際に引いてくるとはやりますわね」
《深緑の魔弓使い》 攻撃力900 守備力1400
そう、この樹木から作られた弓矢を両手に持つ青年こそがこの煮詰まった状況を打開するすべを持つカードだった。このモンスターは自分の植物族モンスターをリリースすることで魔法・罠を破壊することができる。
先輩の場には1度だけ破壊を免れる耐性を持つ黒蛇病と永続罠のグラビティ・バインド、そして水晶の占い師で持ってきた魔法の筒がある。そのすべてを破壊するには4体の生贄が必要。
だけど全部を破壊しなくていい。攻撃に邪魔なグラビティ・バインドと魔法の筒。あの二枚さえ破壊すればポタニカル・ライオとオベロンの攻撃で先輩のライフを削れきれる。
魔法の筒とグラビティ・バインドがあるからでしょうけれど、油断したのかお誂え向きに水晶の占い師とデス・コアラが攻撃表示で無防備だ。これならやれる。勝てる!!
「アタシは深緑の魔弓使いの効果を発動! アタシは妖精王オベロンとこのカード自身をリリースすることで先輩のリバースカードを2枚破壊!!」
私の目論見通り、オベロンと自分自身を代償として、深緑の魔弓使いの青年はその弓矢につがえた木製の矢に力を込めて散り際の破壊の矢を2矢放った。
それはこれまで苦しめられた黒蛇病を無視し、先輩が守りのかなめとしておいていたグラビティ・バインドとカウンターするための魔法の筒を破壊したのだった。
「やった、これであたしの勝ち──!!」
「いいえ、私の勝ちですわ」
「えっ、なにを──!?」
勝利、目前までたどり着いていたはずのそれに冷水をかけるように先輩の冷たい声がアタシの耳に届いた。
そんな先輩の場を見ると、今しがた破壊したはずのカードが光っていた。そして先輩の場に光っているカード、それはアタシが想像していた魔法の筒のイラストは描かれていなかった。
そのカードにはキモイおっさんが機械を弄っているイラストだった。
「魔法の筒じゃ………ない!」
「魔法の筒を手札に加えたからと言ってそう断定するのは浅はかですわよ。私が伏せていたカードはコザッキーの自爆装置。このカードを破壊したプレイヤーに1000ポイントのダメージを与えますわ!!」
コザッキーの自爆装置、そのキモイイラストのカードが発する光がさらに強く発光した時、アタシの足元から巨大な爆発が起こり、アタシの残りライフ1000をジャストに削り取っていくのだった。
「キャァアアアアッ!!?」
《春香》 残 LP 0
小学生時代使われてたら間違いなくキレるデッキ代表ロックバーン。めっちゃ嫌ってました。