初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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頭が痛い。


女として、デュエリストとして

 オベリスクブルー女子寮でももえ先輩に連れてこられた寮内に特別に作られたとらしいデュエル場。そこで行われたあたしと先輩のデュエルはアタシの惨敗と言う形で終了した。

 それは特別、デュエルと言うものに対して固執していないアタシにも少しばかりは存在していたらしいデュエリストとしてのプライドを傷つけていた。

 

 ももえ先輩はつまらないデュエルだったとでもいいたげに無表情にデュエルディスクを外して最初にディスクを渡してきた2年の別の先輩に返していた。

 それが無性に腹立たしく、しかし負けた手前何を言うこともできずに見守るしかできずにいた。

 

 そんなアタシを見かねてか、それとも哀れんでか、先輩はよどみない足取りで私に近づいてきた。そして、抑揚のない冷たい声で言った。

 

「弱いですわねあなた。よくそれでデュエルアカデミアに合格したものと思いましたわ」

「──ッ!」

 

 その言葉を聞いた途端、アタシの頭はカッとなり、掴み掛かりそうになった。しかし、流石にそれはまずいと寸前で思い直して、なんとか堪えた。この時にアタシの顔はきっと屈辱といらだちに濡れてすごく歪んでいただろう。

 

「………別に……弱くてもいいじゃないですか。別に強くなきゃこの学園にいられないわけでもなし。それに知ってるんですよ。アカデミアの女子は皆弱いってこと、アタシを負かした先輩だって、アカデミア全体で見れば大したことないんじゃないですか?」

 

 アタシは少々、不貞腐れたようにそっぽを向きながら挑発するように言った。言っちゃマズイと頭ではわかっていたけれど、止めることはできなかった。

 それに、間違ったことを言っているとも思っていなかった。そのためか明言するのはまずいかと思っていながらすらすらと言葉に出ていた。

 

 アカデミアのオベリスクブルー女子のレベルは低い。これは公然の秘密というか、入学する前からネットで調べていた時に知ったことで、アカデミアの女子は成績がどんなに酷くても男子と違って贅沢な暮らしが許されている。

 

 それ故かどうかは定かではないが、男子と比べて目に見えて全体の成績が低いらしい。

 低いと言っても筆記や体育と言った一般科目ではない。このアカデミアで最も重要視されるデュエルの実技が低いと言う意味だ。

 

 それはデュエリストとしてプライドを持つような女性からしたら屈辱的な評価なのかも知れなかったが、アタシのような贅沢な、貴族のような暮らしが目的の一部になっている生徒からすればありがたい話であった。

 デュエルなんて二の次三の次で、最低限留年や退学を言い渡されない成績を維持すれば良いのだから、こんなに上手い話はないだろう。

 

 そう言った──殆ど事実に近いとアタシは見ている──事情から鑑みても、今アタシを弱いと見下している先輩も、実はアカデミア全体から見れば大したことはないのではと内心思っていた。

 

 アタシが弱い、それは認めるし、同輩である道長とデュエルしても碌に勝てた試しもない。だから、実力云々でそう見られても仕方ないと受け入れる。だが、だからと言ってアタシに勝ったこの先輩が強いとは限らないのだ。

 

 多少煽られたから冷静さを欠いていたのは認めるが、撤回するつもりはなかった。

 

 ももえ先輩は入学して間もない新入生であるアタシが明らかに舐めているとしか言いようのない言葉に対して少しの間黙して、やがてスーッと目を細めながら落ち着いた様子で口を開いた。

 

「春香さん、あなたのその言葉、殊更否定するつもりはありませんわ。ええ、このアカデミアにおいて女子の実力は男子に比べて劣っている。それは厳然たる事実ですから。そして、あなたの見立て通り、アタシも全体から見れば大した実力は持ち合わせてはおりません。バーンデッキというあまり好意的に見られないデッキを使って尚、どんなに甘く見積もってもせいぜいが上の下、それ以上はないでしょう」

「──」

 

 アタシは目を見開いて驚いていた。まさか、苛立ちからきた嫌味に近い言葉に対して素直にそうだと認めるとは思わなかったからだ。

 

「そして、女子は成績が低くても良い暮らしが許される。それも事実ですわ。理由はいくつか考えられますが、やはり犯罪に対する予防と言うのが1番でしょう。結果的にあなたのような成績不良でもよしと考える甘えた精神の女生徒が増えたとしても、女性の身の安全には代えられない。そんなところでしょう」

「なら、やっぱり無理に頑張る必要もないでしょ。頑張らなくても贅沢ができるんだから」

 

 そうだ。弱いのがこの学園の全員の共通の認識であるのならなおのこと無理に頑張る必要もない。

 ほどほどに頑張っている振りをして、落第しない程度に維持をして、たった3年間しか味わえないであろうこの寮での暮らしを満喫する。

 それの何が悪いと言うのか。

 

「……春香さん、弱くてもこの寮で暮らせるのなら構わない。その気持ちがわからないとは言いませんわ。私も同じような思いを抱いたことはありますから。しかし、この学園では毎年の如く必ず1年生の中から自主退学を申し出る者がいます。それは男女問わず、必ずです」

「自主退学……男女問わずですか?」

「はい、男女問わず、比率で言うなら女性の方がずっと多いでしょう。それだけでなく落第の憂き目に会う女生徒もよく見かけますわ」

 

 それは俄には信じ難いことだった。先輩も同じ思いを抱いことがあることではない。この学園で毎年必ず退学者が出ると言うことがだ。それが成績で寮が決まるような過酷な競争を強いられる男子ならいざ知らず、どんなに成績が悪くても安穏とした寮で暮らせる女子の方が多いと言うのが信じられなかった。

 

「この学園にやってくる女性は良くも悪くも、楽観的な考えで入学してきます。学園のパンフレットでも女子は例外なくオベリスクブルーに入寮すると示されているからでしょう。明日香さんのようにデュエリストとして、真摯にデュエルに向き合っている人ならともかく、そうでない方はオベリスクブルーの安楽な生活に慣れていくごとに堕落の一途を辿っていきます。その結果、成績は落ち続け、デュエルには勝てず、入学当初は抱いていたであろう夢や目標を見失い辞めていく。私はそのような人を何人も見ましたわ」

 

 ももえ先輩は堕落した人を知っているのか沈痛そうな瞳をしながら言葉を続けた。

 

「辞める理由は成績の話だけではありません。この学園は外界に比べて圧倒的に隔絶された場所にあります。都会に慣れた人がこの隔絶された島の生活に慣れるのは厳しいところもあるのでしょう」

「それはまあ、わかりますね。ショッピングの一つもまともにできそうにないですもんね。この島……」

 

 あるのは学園を取り囲む自然豊かな土地と日用品を取り扱う小さなお店。それからカードを売っている売店のみ。華やかなお洋服や化粧品といったものはほとんど売っていない。

 必要なら取り寄せるしかなく、それにも運送する関係上必要以上にお金がかかる。

 だからアタシも予め装飾品などお気に入りのものは特に厳選して持ってきているのだ。今つけている両耳のピアスもその一つ。

 

「春香さん、私たちは強くあらねばなりません。デュエリストとして、何より女として舐められないために。そうでなければ、このオベリスクブルーに入寮しているのが学園に甘やかされているためだと永遠に見られ続けることになります。あなたはそれでもよろしくて?」

 

 まるで試すように、アタシと言う人間を確かめるように強い口調で説いてきたももえ先輩に答える前にアタシは周囲を見た。

 周囲で項垂れている恐らく新入生であろう女子が壁際に座っている。アタシたちを見守るようにこちらを見つめている先輩方がいる。

 

 ももえ先輩はこのデュエル場を矯正部屋だと言っていた。その言葉の意味から察するに、アタシのような半端な意思を持つ堕落しそうな生徒を見かけたらここに放り込んで叩き直す。

 そう言う意図を持って作られたのではないだろうか。それでも、ももえ先輩を見る限り、落第していく人はいなくなってはいないようだが……。

 

 アタシは別にデュエリストとして強くありたいとは思ってはいない。デュエルはあくまで女を磨くための手段としてしか捉えていないアタシにとって、デュエリストとして舐められると言うのは別にそこまで何することではない。なんなら、舐めてくれることで油断してくれるならその方がいいくらいだ。

 しかし、女として舐められると言うのはいただけなかった。

 それだけは許せないことだった。

 

「ももえ先輩、アタシにとってデュエルは手段です。女を磨くための手段。より素晴らしい女性になるための道具。この学園を選んだのも、女として憧れている愛理先輩に学んで理想に近づくためです。デュエリストとしてどうこうというのは、あまり興味がないです」

 

 強い口調で返したその言葉にももえ先輩は少しばかりの落胆がこもる目でアタシを見つめていた。しかしそれは次いで出た内容によって覆った。

 

「ももえ先輩、アタシの目標は誰もが振り向くような理想の女になることです。目標として見ている愛理先輩だって敵わないぐらい魅力的で美しい女性になる。そのためならいくらだって努力しますし、諦めるつもりはありません。この寮がどれほど魅力に満ち溢れていても、そこに胡座を描いて堕落と退廃に濡れるつもりはないです! そんなアタシをアタシは許せない!」

 

 アタシはこれでもかと強い意志を込めて言い切った。アタシの理想、アタシの夢。それは、贅沢な暮らしなんかで揺らぐ程度の浅い思いからきたものではないと、先輩に伝えるために。

 

 その思いがどこまで伝わったかはわからない。けれど、ももえ先輩はこれまでとは違う柔和な笑みを浮かべて、アタシを見ていた。

 

「このデュエルアカデミアに入学しておきながら、デュエルが二の次三の次と言うのはどうかと思いますけれど、それがあなたの目指す夢なら、それは貴女にとってより良い選択なのでしょうね。春香さん、貴女のその願いが揺らぐことがないことを祈っておきますわ。もし、悩むことがあれば、いつでも先輩として相談になりますからね」

 

 そういうと、穏やかな笑みを浮かべた先輩はアタシに背を向けて、友人であろうか、こちらの動向を見ているオレンジの髪色をした2年生の元へと歩き始めた。そして一度だけこちら振り返り言った。

 

「それから、愛理さんですけど、今はあなた方新入生のための歓迎パーティーの食事の準備の手伝いをしていると思いますわ。パーティーが始まってからでも良いと思いますけど、早く会いたいようでしたら食堂に行けば会えると思いますわ」

「──はい! ありがとうございます!!」

 

 アタシはももえ先輩の言葉を聞くとさっさと背を向けてこのデュエル場の出口へと向かった。

 いきなりこんな場所に連れてこられたことや、説教じみたことを言われたこと。デュエルに惨敗したことなど気に入らないことはあったが、細かいことを気にしないことも恐らくいい女の条件だ。

 そう自分に言い聞かせて、アタシは愛理先輩がいるであろう食堂はと足を急がせたのだった。

 

 

 

 

「お疲れ様ももえ。上手くやれたんじゃない?」

「そうだとよいのですけれね。ジュンコさん、私、本当に疲れましたわ」

 

 新入生である春香さんとのデュエルと問答が終わった私──浜口ももえは壁際でずっとこちらを見ていた友人のジュンコさんの元へと歩いていました。彼女は生来の強気で快活な笑みでグッと親指を立ててこちらに向けていました。

 私はそんな彼女とは正反対に誰が見ても疲れていると言うのが見て取れる雰囲気で彼女のそばに座り込みました。

 

「新入生への警鐘と激励。必要なこととわかってはいましたけれど、実際やってみると難しいものですわね。あれでよかったのかしら」

 

 私は頬に手のひらを当ててため息を吐きながら呟いた。その瞬間、慣れないことをするためにずっと気を張っていたためでしょうか、ドッと疲れが体全体を襲いましたわ。

 

「いいんじゃない。少なくともあたしよりかは上手くやれてたわよ。あたしなんてやりすぎて泣かしちゃって3年生のフォローが必要になっちゃったくらいだし」

「貴方は少し乱暴すぎますもの。それでは教育の前に無用に怖がらせてしまいますわ」

「やさしーく諭すなんてあたしには向いてないわね。こうガツンと叱りつける形の方がやりやすいわ」

 

 それで新入生を泣かせては元も子もないでしょうにと思いましたが、私は苦笑するに留めました。何を言ってもこの雑な……いえ、勝ち気な性分は変わらないでしょうから。

 

「私ももう2年。先輩と呼ばれるようになったからにはやるべきことをやりませんとね。将来のためにも、この経験は無駄にはなりませんわ」

「まったくね。あたしもアンタも目指す先は一緒。お互いこれを糧に頑張りましょうか」

「ええ、卒業後の進路のためにも、ですわね」

 

 私とジュンコさんの夢、デュエルキッズスクールの講師になる。それは子供たちにデュエルを教え導く講師になること。

 だから、この経験は決して無駄にはならない……と願いたい。

 

「まあ、何はともあれ一応あたしたちのやることは終わったわけだし、愛理や明日香さんが手伝ってるパーティーの準備に加わりに行きましょう!」

「そうですわね。愛理さんや明日香さんに任せっぱなしと言うのも悪いですし、いきましょうか」

 

 ジュンコさんが歩き出し、私もそれを追うようにパーティー会場へと歩き始めた。

 春香さん、デュエルは二の次だと言った彼女が果たしてこの学園でやっていけるのかどうか、それはわかりませんけれど、上手くいってくれるといいですわ。

 まあ、迷うようなことがあれば先輩として可能な限り力になりますけれど。

 

 私は先輩風を吹きそうな自分に少しだけ可笑しくなり笑った。急に笑った私を訝しみこちらを見るジュンコさんになんでもありませんわと言って、二人並んで新入生の歓迎会の会場へと足を進ませるのでした。

 

 




新入生組の話は終わり、次は2期にもなったので翔メインの話をそろそろ書こうかと思います。
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