「私のターン、ドロー」
森林奥深く、レッド寮の帰りに私の前に現れた不審な斎王と名乗る男は、どこからか生み出した机の上に置いたデッキから静かにカードを引いた。
「私は手札からアルカナフォースⅣーTHE EMPERORを攻撃表示で召喚」
「アルカナフォース?」
聞き慣れないモンスター名に私は疑問の声を上げた。
「このモンスターが召喚された時、運命の羅針盤が回り、正位置、逆位置が決まる。その結果によりこのモンスターの効果は変わります。さあ、羅針盤を止めてください」
どうやっているのか、デュエルディスクでもないのに机の上に置かれたアルカナフォースというモンスターがソリッドビジョンとして召喚された。そしてそのモンスターの頭上に正位置、逆位置が描かれた羅針盤が現れ、ゆっくりと時計回りに回り始めていた。
(初めて見るモンスター、アルカナフォース。羅針盤、つまりルーレットで効果が変わるなんて珍しいと言うか…扱いづらいモンスターを使うのね。それも占い師としての側面を意識しての選択かしら)
「ストップよ」
私はあまり考えずにルーレットを止めた。考えたところで、どちらの効果も知らない以上、止まった方の効果に対応するしかないとわかったから。
私の静止の言葉と共に針は正位置に止まった。その針は天使の画が描かれた場所で停止していた。
「THE EMPERORの正位置の効果。このモンスターが存在する限り、アルカナフォースと名のつくモンスターの攻撃力は500ポイントアップします」
「同系統のモンスター全てのステータスアップ効果…………ちなみに逆位置の効果も教えてもらえないかしら」
「構いませんよ。このモンスターの逆位置の効果は正位置とは逆、アルカナフォースと名のつくモンスターすべての攻撃力を500ポイントダウンさせます」
「そう、ありがとう」
素直に教えてくれたことに内心で驚きながら礼を言った。
正位置なら攻撃力アップ、逆位置ならダウン。つまり、まだ断定はできないけれど、正位置ならプレイヤーにとって良い効果を、逆位置なら悪い効果を。つまりそう言ったモンスター群というわけね。
「さて、正位置の効果により、EMPERORの攻撃力は500ポイントアップします」
《アルカナフォースⅣーTHE EMPEROR》 攻撃力1900 守備力1400
「私はカードを2枚伏せてターンエンド。さあ、あなたのターンです、水無月愛理さん」
「ええ、ご丁寧にどうも。私のターン、ドロー!」
「この瞬間、ラッキー・チャンスを発動しておきます。私がコイントスを行うモンスターの効果の発動時、同時にコイントスの表裏を当て、当たればカードを1枚ドローします」
「コイントス…………そう、アルカナフォースのモンスターの共通効果はコイントス扱いになるのね」
「ええ、正位置・逆位置は私の趣味です」
「そう………なのね」
斎王さんのデッキはギャンブルデッキ。運に左右される珍しいタイプだけどなくはない。リスクも大きいけれど嵌れば爆発的なリターンを得られる。自分の運に自信のある人やギャンブルが好きな人がよく使うタイプのデッキ。
だけど、斎王さんは話している感じギャンブラーといった類の人ではない。その人特有の危機を楽しむ危険な気配が感じないのだ。
どちらかというと落ち着いた身のこなしで安全な道を歩もうとする人の雰囲気を感じる。
そんな人がこのような安定感に欠けるデッキを使うとしたら、それは占い師としての側面を信頼しているからと見るべき。表が出ようが裏が出ようが、或いは敗けたとしても、この人にとっては予定調和に終わるのかもしれない。
私の予想が正しければだけど。
「私は手札からマンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚! その効果により、デッキから儀式魔法 イリュージョンの儀式を手札に加える! そして発動! 手札の儀式の供物を生贄にサクリファイスを攻撃表示で召喚!!」
《マンジュ・ゴッド》 攻撃力1400 守備力0
《サクリファイス》 攻撃力0 守備力0
私の場に体中に数え入れない程の手をもったモンスターと顔に当たるであろう部分が大きな目玉となっている不気味な印象を受けるモンスターが召喚された。
「さらに召喚されたサクリファイスの効果発動! 相手モンスターをこのモンスターの装備カード扱いとして装備する。私はあなたのアルカナフォースⅣーTHE EMPERORを選択!」
「ほう」
感心したように見る斎王さんを置いて、サクリファイスの胸元の穴が開き、そこからTHE EMPERORを狙って吸引する風を生み出した。
大きな胸元の穴に収まったEMPERORはサクリファイスの力となり、いざと言う時のための盾となる。これで、斎王さんを守るモンスターはいなくなった。
《サクリファイス》 攻撃力1400 守備力1400
「EMPERORの効果が無効になっている。あなたの装備カードになったからですか?」
「ええ、サクリファイスが装備したカードの攻撃力・守備力は元々のステータスを吸収します。基本的にそのモンスターの効果は適応されません。バトル! 私はサクリファイスとマンジュ・ゴッドの2体であなたにダイレクトアタック!!」
サクリファイスが黒い稲光する球体を放つ、マンジュ・ゴッドが反対に白いエネルギーが溜まった球体を斎王に放った。
2枚も伏せられたリバースカード。その残り1枚を警戒したが、斎王さんは伏せていたリバースカードを発動することなく、無言でその攻撃を通した。
《斎王》 残 LP 1200
呻き声一つ上げることなく、二体のモンスターの攻撃は通った。閉じられた瞳の中で何を考えているかわからないが、ピクリとも反応しない彼は不気味さを私に与えていた。
「私はカードを伏せて、これでターンエンドです」
「では私のターン、ドロー」
デュエルは初ターンから私の有利で経過している。とはいえ油断はできないし、正直このまま押していって簡単に終わってしまっていいのかという疑問もある。
あまりにも簡単に勝ってしまったらこのデュエルの目的である運命を知ることができないかもしれない。その考えが脳裏をよぎるため、1ターン目こそ全力で倒しに行ったが、2ターン目も同じように攻撃していってもいいものかと思ってしまうのだ。
まあ、そんな心配も斎王さんのこのターンの行動次第ではあるのだけど。
「私は手札からアルカナフォースⅦーTHE CHARIOTを攻撃表示で召喚」
《アルカナフォースⅦーTHE CHARIOT》 攻撃力1700 守備力1700
「新たなアルカナフォースモンスター! ということはまた…………」
「ええ、再び正位置・逆位置を選ぶ。そしてこの瞬間ラッキー・チャンスの効果も同時に発動いたします。私は裏、つまり逆位置を選択します」
「逆位置を選択するの!?」
「ふふ、さあ、ルーレットを止めるといいでしょう」
斎王さんの場に召喚された新たなアルカナフォースCHARIOT。1ターン目に召喚されたEMPERORにCHARIOT、その上斎王さんが占い師で正位置・逆位置に拘っていると言うことを考えるとモンスター名に共通していることはタロット占い。
なら、モンスターの効果もその占いカードの意味になぞらえている可能性が高い。
どうでもいいけど、このデュエル、出てくるモンスター全ての姿が不気味と受け取られるモンスターばかりね。本当にどうでもいいことなんだけど。
それはそうと、CHARIOTと言えば戦車、でよかったはず。確か占いだとそういう意味だ。ならその効果も攻撃的な効果の可能性がある。昔遊んだ時のことを思い出しながら考える。
でも、斎王さんは逆位置を選んだ。それはそうなると踏んでのこと?
だとしたらその意図は…………?
回り続ける羅針盤の針を見ながら眉を寄せた。
「どういたしました。さあ、止めてください」
「くっ、考えていても埒が明かないわね。ストップよ!」
「………静止したのは逆位置。その効果はこのモンスターのコントロールを相手に移す!」
ルーレットの停止が逆位置になったことでCHARIOTが私の場に移ってきた。しかし、私の顔は浮かなかった。
斎王さんは予めラッキー・チャンスで逆位置を宣言していた。それはこうなることを予見していたから?
でも、それなら召喚しなければいいこと。不利になるとわかっていながら召喚する必要など、ありはしないのだから。
「ふふふ、残念ながら逆位置になってしまったことで私のCHARIOTはあなたの僕となってしまいました。しかし、幸運も運んでくれる。私はラッキー・チャンスの効果により、カードを1枚ドローします」
カードを引いた顔に変化はない。変わらず、余裕のある表情を浮かべている。あまりにも不気味な行動だ。その意図がまるで読めない。
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」
「私のターン、ドロー!」
盤面は誰がどう見ても私の圧倒的優位だ。このまま無警戒に攻撃して勝ててしまうのではないかとさえ思う。
でも、私にはそれで勝てるとは思えなかった。まるで目の前の人物の手のひらで遊ばれているような、そんな不気味な感覚があった。
「なら、私は黒曜岩竜を守備表示で召喚! このモンスターがいる限り、私の場の闇属性モンスターを対象とした魔法・罠は無効になる!」
《黒曜岩竜》 攻撃力800 守備力2100
黒曜石の体を持つ小さなドラゴン。これで、サクリファイスを守る。アルカナフォースモンスターは光属性みたいだから黒曜岩竜の効果の恩恵は受けれないけれど、マンジュ・ゴッド、サクリファイス、そしてCHARIOTの3体のモンスターの攻撃の内、どれが通っても私が勝てる。
勝てる………けど、攻撃しても大丈夫だろうか。
どうにも嫌な予感がぬぐえない。それが追い詰められている斎王さんの余裕に起因していることはわかる。でも、やはりこの状況で攻撃せずに見送ることもできない。
私は目をつぶり暫し逡巡した。
「私は、手札から二重召喚を発動! このターン、もう一度通常召喚を行える!」
「ほう、この上さらにモンスターを……」
「私はいま召喚した黒曜岩竜とマンジュ・ゴットをリリース! 手札から混沌の黒魔術師を攻撃表示で召喚! その効果により墓地から二重召喚を手札に戻す!」
《混沌の黒魔術師》 攻撃力2800 守備力2600
黒曜岩竜での守りを捨てる行為。でも、あのリバースカードが何であれ、この不安を吹き飛ばすために私の手札にいた最強のモンスターである混沌の黒魔術師に頼りたい。
このカードがいれば、多少の無理は押し通せる!
「私の最大攻撃で終わらせるわ! サクリファイス、CHARIOT、混沌の黒魔術師であなたにダイレクトアタック!!」
私の場の総てのモンスターが斎王さんに迫る。心に過ぎる不安を振り払い見守る私の目にモンスターの光線が、鞭のように伸びた腕が、杖から放たれる黒い稲妻が変わらぬ微笑を浮かべる斎王さんを倒さんとしていた。
その瞬間までは確かに私の目には勝利の風景が見えていた。彼を守る虹色に反射する光を見るまでは──。
「なっ、なに…この光はっ!?」
「私はこの瞬間、聖なるバリアーミラーフォースを発動します。説明するまでもないでしょうが、あなたの攻撃表示モンスター全ての破壊します!」
「そんなっ、ミラーフォースを伏せていたの!?」
あと一歩でデュエルを終わらせるはずだった攻撃は斎王さんを護る鏡のように煌めくバリアから反射された閃光によって反射されモンスターたちを貫いた。
夜闇を切り裂く聖なる光が収まった時、私の場にいたカードの全ては存在を無くし、悲惨な様相を示していた。
「ぐっ、何にかあるとは思っていたけれど、ミラーフォースを伏せていたからなのね」
致命的なミスだった。異様なまでの斎王さんの余裕に焦り、選択を誤ってしまった。
無理に混沌の黒魔術師を召喚せず黒曜岩竜を守備で置いておけば、ガラ空きにならずには済んだのに……!
私はつまらないミスに歯を噛み締めた。
「今のミラーフォース、前のターンで引いてから伏せましたよね。ラッキーチャンスで引いたんですか?」
「ええ、その通りです。ふふ、運命がこうなることを示していました。逆位置を恐れることはないと、あなたは自ら自滅の道を辿ると出ていました。私はそれに従ったまでです……ふふふ」
落ち着くためにか、ふと思った疑問に対面している斎王さんは淀みなく答えた。
この状況になることはわかっていたと。
「運命…運命ね。占い師としての力か。恐ろしいわね、でも、まだ私が負けたわけじゃない。まだ可能性は残っているわ。私はこれでターンエンド!」
微かな希望、ライフが万全であり次のドローの可能性に賭けて私はターンを終えた。
斎王さんの言葉を信じるなら運命はすでに決まっていると言いたいのでしょうけれど、デュエルは最後までわからぬもの。運命もまた同じ、その時が来るまではわからない。
私はまだ諦めない!
「では私のターン……いえ、ここで一つ宣言してあげましょう。私がこれから引くカードはモンスターカード、アルカナフォースIーTHE MAGICIANを引くでしょう」
「なっ、まだ引いてないカードを当てれるというの!?」
「ふふふ、運命が囁いているのですよ。これから引くカードも、このデュエルの先も、あなたの未来も。ドロー!」
今までにない力強い引きをした斎王さんの場に彼の宣言通りのモンスターが召喚された。
「私は手札から今ドローしましたアルカナフォースIーTHE MAGICIANを攻撃表示で召喚いたします」
《アルカナフォースIーTHE MAGICIAN》 攻撃力1100 守備力1100
「そしてその効果により羅針盤が回る。さあ、止めてください。ストップの宣言をっ!」
「ゔっ…」
気圧されていた。この流れに、それを読んでいたと言う斎王さんの気迫に私は足を無意識に下げていた。
そして回り続ける羅針盤を見ながら、うまく回らなくなっていた口でストップの声を上げた。
「ス、ストップよ!」
「ふふ、予言しましょう。この羅針盤は正位置で止まる!」
「なんですって!?」
ありえない。そんなことは不可能だと思いながら羅針盤見つめる私の額には汗が流れていた。
そしてゆっくりと逆位置に進んでいた針はその運命を拒むように正位置まで歩みを進めた。
「そんな、ありえない!」
「いいえ、これが運命なのです。すべては始まる前から決まっていた。私はラッキーチャンスの効果で一枚ドロー。そしてTHE MAGICIANの正位置の効果も発動! 効果は魔法カードが発動した時このモンスターの攻撃力は倍になる!!」
ありえない、針が止まる前にどちらに止まるかを知ることなど誰にもできるはずがない。
しかしことここに来て私の中には確信の芽が育ちきっていた。
斎王さんには未来を知る力がある。それもかなり高い精度で、一つのデュエルの始まりから終わりまでを知ることができるほどの!
「私は手札からフィールド魔法、光の結界を発動。その効果は今、意味を為しませんが、これによりTHE MAGICIANの効果が発動し攻撃力が倍になる!」
《アルカナフォースIーTHE MAGICIAN》 攻撃力2200 守備力2200
光の結界は森の木々に囲まれ暗さを増した夜闇を切り裂いて、この場所だけを明るく照らしていた。あまりの眩しさに一瞬立ち眩みを起こしてしまいそうになる。
それと同時にMAGICIAN、魔法使いの意味を持つモンスターは自身の効果で攻撃力を上げていた。
「バトル! 私はTHE MAGICIANであなたにダイレクトアタック!」
「きゃあああ!!」
《愛理》 残 LP 1800
フィールドを包む静謐さを感じさせる光の中でTHE MAGICIANの攻撃が私を貫いた。
その攻撃は不思議なことに痛みは感じないのに、心の芯に響くような、私の心に直接働きかけるような衝撃を与えていた。
「私はこれでターンエンド。次があなたのラストターンです」
「ぐっ、私のターン、ドロー!」
この先の展開も見えているのか、私が引くカードを知っているからなのか、勝利の笑みを浮かべながら斎王さんは私の目を射抜いていた。
その目に言いようのない恐れを感じ、このまま逃げてしまいたい気持ちが湧き出たが、デュエリストとしてのプライドがそれを許すことはなくデッキからカードを引いた。
彼の言葉通りなら、私の最後のドローカードを……。
「……………私は、カードを一枚伏せてターンエンドです」
「ふふふふふ、私のターンドロー。さあ、発動するといい。今伏せたあなたのカードを!!」
もはやカードを見る必要もないのか、ドローしたカードを見ることなく、私にカードの発動を促していた。
それは明確なまでの余裕であり、私の伏せたカードを見もせずに知っているという証明でもあった。
私に、それに抗う道はなかった。もはやこのカードの発動なしに勝ちはありえないからだ。
私は知らず知らず、敗北への道を直走っていた──。
「わ、私はリバースカード 運命の分かれ道を発動! お互いにコイントスを行い、表が出れば2000ポイント回復。裏が出れば2000ポイントダメージを受ける!」
それは、かつて斎王さんに貰ったカードだった。私のより良い運命を導くカードとして、彼に渡されたカードであった。
明らかなギャンブルカード。堅実な手を好む私には似つかわしくないカードだったが、何故かデッキから抜く気にはならなかったカード。
或いは、あの時からこの瞬間は決まっていたのかもしれない。
希望のカードを発動した私の顔は暗かった──。
「そう、あなたはそれを発動するしかない。例えその結果が決まっていたとしても! そして私は当然、表を引く!」
フィールドの中央から弾かれた2枚のコインは鋭く回転しながら地面へと落下。
その結果を私たちの前に示していた。
「ふヒヒヒヒ! 私は表、ライフを2000回復。しかしあなたは裏、さあ、洗礼の時は来た! 光の中に堕ちなさい、水無月愛理!!」
そのカードを発動した時から押し隠していたのか冷静で柔和な感情を出していた斎王さんはその顔に嗜虐的な笑みと甲高い笑い声を出しながらコインの結果を、運命の道行を私に伝えていた。
それは私の敗北と、それ以上の始まりを祝福しているようだと、私は光に覆われていく目を細めながら感じていた。
運命の分かれ道。そのカード名通り、道を間違えた私はカードから発せられた強烈な光に呑まれ瞳を閉じ、閉じた目でも遮れない光に包まれてデュエルの敗北を悟ったのだった──。
《愛理》 残 LP 0
当時のアルカナフォースでデュエル組み立てるの難しくない?