気がつけば、僕とヨハンくんはそこにいた。「The big SATURN」の破壊と共に生じた厖大な光の流星は僕とヨハンくんをたちまちに飲み込んで夜月の下のスタジアムから見知らぬ洞穴まで移動させていた。
その洞穴は周囲が土気色で満たされていた。天上には大きな穴が空いており、そこから差し込む月明かりがかろうじてそこが洞穴であることを教えてくれている。
洞穴の広さは相当なもので大型トラックが5台入っても余裕がありそうであった。
「すっげーッ! なんだここは!! SUTARNの力によるものなのか!?」
「うん、たぶんそう………だと思う。どんな力によるものかはわからないけど」
僕は楽しそうに周囲を見て回っているヨハンくんに答えた。プラネットモンスターはそれぞれ現実世界に影響を及ぼせるような特有の力を持っていることを。
Neputuneが天候を操作できるように、MARSが空間を超えれるように、SATURNもまた、爆発の際になにがしかの力を使って僕とヨハン君をここに連れてきたのだろう。何が目的なのかはわからないけれど。
「へーそんな力があるんだな。スゲーなプラネットモンスター。じゃあ、ここはSATURNが連れてきたってことか。どんな力なんだろうな~」
僕の説明に軽く流す様にヨハン君は変わらず洞穴を見ていた。僕はその突然の事態に対して驚きながらも慌てていたない様子を見ながらヨハン君の反応に疑問が生じていた。
「意外と、冷静なんだねヨハン君。プラネットモンスターがそういう力を持っていることを知っている僕ならともかく、普通もっと慌てるものだと思うんだけど」
「え? 何言ってんだよコナミ。SATURNをこれまで持ってたのは俺だぜ。あいつが悪意で俺たちをここに連れてきたわけじゃないってわかるさ」
「──」
そうか、ヨハンくんはSATURNを信じてくれているのか。SATURNがここに連れてきたのはきっと意味があり、決して僕たちを害そうとしてしたわけじゃないと。
僕はその信頼に嬉しくなり口辺に笑みを作り彼の横に立った。
「ありがとうヨハンくん」
「ん? 何がだ…………?」
「なんとなくね。感謝したくなったんだ。SATURNを信じてくれていることに」
「カードを信じるのは当然だろ。SATURNが俺たちをここに連れてきたのは何か訳あってのことだぜ」
僕はそれに首肯で答えて、改めて周囲を見渡した。周囲は薄暗い岩肌に囲まれている。意味があってのことだろうけど、何かがここにあるようにはとても見えなかった。
『ヨハン、ここには私たちに通じるナニカの存在を感じる』
「なにか………サファイア・ペガサス、それはもしかしたら…………!」
『ああ、そうかもしれない。もしかしたらここには私たちが探していた………あのカードが眠っているのかもしれないな』
周囲を探っていると、ヨハンくんが隣に現れたサファイア・ペガサスと何事かを話していることに気が付いた。
「何かを感じるのかい?」
僕はそれが気になり、彼らに話しかけた。
「ああコナミ、実はさ、俺のデッキにはエースがいないんだ」
「…………ええっ!?」
僕は一瞬、彼が何を言っているのかわからず呆然として、次いでのけぞりながら驚愕した。
「いやーこれまではSATURNがお前と出会うまではってことで仮のエースとして偶に戦ってくれてたんだけど、やっぱりあくまで仮だからなー。エースって呼ぶわけにはいかないんだ」
「じゃ、じゃあヨハンくん、君のデッキは完成していないってことなのかい!?」
それは驚くべき事実であった。確かに彼はSATURNが出てくるまで終始低レベルの宝玉獣を使っていたけれど、まさかエースが不在だとは思わなかった。
というか、エース不在であそこまで戦えるとは、ヨハン君はすごい。流石、精霊を家族と呼ぶほどに深い絆を結んだデュエリストだ。
「ああ、俺のデッキの宝玉獣は7枚。ある大会のあとペガサス会長から譲り受けて、それ以上はこの世に存在しないんだが、会長が言うには実はそれ以外にも1体、世界のどこかに宝玉獣の神ーレインボー・ドラゴンってカードが眠っているらしいんだ。俺はずっとそいつを探しているのさ」
「はえー。そんなカードがこの世界のどこかに」
世界に一枚だけのカード、ヨハン君は僕に負けず劣らずのすごいカードを持っているんだなあ。しかもペガサス会長から直々にもらえるとは、正直羨ましい。
いつか大きな大会とかに出たら僕も会えたりなんてしないだろうか。デュエルモンスターズの創造主。機会があるならぜひあってみたい人だ。
「あれ、宝玉の神はともかくとして、宝玉獣ってもしかして1枚づつしか存在しないの?」
「うん? ああ、俺のデッキに入っているモンスターはSATURNを除けばこいつらだけだぜ。あとはレインボー・ドラゴンが入ればそれで完成だ」
「噓でしょっ!? 7枚だけで戦ってたの!?」
今度こそ僕は尋常ではない驚きをした。普通余程ピーキーなコンセプトのデッキでもなければモンスターカードは20枚近く入っているのが普通なのに、彼のデッキには宝玉獣以外入れていないと言う。
それも、世界に一枚づつしか存在しないため、ピン刺し、デッキを40枚と仮定すると33枚、いやSATURNを入れれば32枚か。ともかく、30超もの魔法・罠で埋めていると言うことだ。
「よ、よくそれで戦えるね」
「こいつらは家族だからな! 手札が事故るってことはないぜ!!」
「す、すごい…………!」
僕は親指を突き上げて笑いながらまるで困ったことはないと言う彼に感嘆した。
僕に同じことができるだろうか…………わからない。たった7枚のカードを信じて戦う。少なくとも、自発的にしようとは思わないな。
だからこそ、それをしているヨハンくんはすごい。すごいデュエリストだと思う。いや本当に…………。
「ま、まあ宝玉獣の話はいいや。ところで、話は戻るけど、ここに君が探しているレインボー・ドラゴンがいるってこと?」
「ああ、もしかしたらだけどな」
『私の感じているこの気配。微かだが、確かに感じる。これはきっと私たちが求めていたモノだ』
ヨハンくんとサファイア・ペガサスが感じている気配を元に周囲を探索してみる。……が、一向にそれらしきものは見つからなかった。
見渡す限り一帯の岩壁。触れても岩壁のザラザラとした感触が返ってくるだけ。ざらつく岸壁は触れるとボロボロと溢れるが、その先には何もなかった。近づいても何も変化はない。見える範囲にはそれらしきところはなかった。
「うーん、わからないねこれ。どこから気配を感じるとかある?」
『いや、残念だがそこまでは。すまないヨハン』
「いーってサファイア・ペガサス。これまではどこにいるのかのヒントすら得られなかったんだ。感謝してるくらいさ」
首を下げて消沈するサファイア・ペガサスにヨハンくんが腕を振って感謝していた。
「──なんだ!?」
そうして僕たち一同、どうしたものかと頭を悩ませていると、周囲一帯が絵の具をぶちまけたようにマーブル模様を描きながら発光し始めた。
それは非現実的な現象であり、自然発生したモノではないと僕たちはすぐにわかった。
「ヨハンくん!」
「ああ、離れるなよコナミ。何が起こるかわからないからな!」
それが起こった瞬間からすぐに僕たちは背中合わせに構えた。尋常ではない様子にこれから何が起こるか予測もつかない。僕たちは息を呑んで見守った。
しかし、結論から言うと、僕たちの警戒は杞憂に終わり、そう酷いことにはならなかった。
マーブル模様に発光していた景色はやがて全ての岩壁を、空を、大地までもを塗りつぶして覆った。その先にあったのは目眩のするような光景であった。
岸壁などの凹凸のあるモノは全てがなくなり、あるのは平面にどこまでも続く天と地の鏡写しのマーブル世界だった。
その中心、天と地の狭間に位置する中心にSATURNはいた。背中に二つの噴射口がつき、全身が丸くできた金属体のその姿はどこか遥か彼方の未知なる世界を求める人の叡智を想起させる。
丸い体の周囲の光の輪はSATURNの名の通り土星を意識した物だろう。彼はめぐるめく変化に警戒を解かない僕たちを見ていた。
「SATURN、これは君がやっているのか?」
僕は喉を鳴らした。その非現実で目が痛くなる光景からできるだけ意識を逸らすため、目の前で佇むSATURNにのみ視線を固定した。
返事はすぐに返ってきた。ただ、それは思っていたような形ではなかった。
『ピガ…ピガピガゴ……』(その通り、私が君たちにこの光景を見せている)
それはコンピューターがするような電子音による返答だった。音声として聴覚に訴えてくる音は創作でよくあるような言語が確立しているものではなかったが、それに重なるように翻訳された音声が流れてきて僕たちに伝えたい内容が届いていた。
『ピ……ピピガ…………』(私の力は未知なる存在を見せること、ヨハン、マスターの元へと連れてきてくれたお礼だ。君が望み、必要とする存在の在処を教えた)
「じゃあやっぱりあそこにはレインボー・ドラゴンがいるってことか! ~~~ッ! やったぜみんな! とうとう念願のレインボー・ドラゴンが見つかった!! サンキューSATURN!!」
身を震わせて喜ぶヨハンくんに彼の宝玉獣たちも一斉に現れて声を上げて喜んでいた。その中でも、リーダー各のサファイア・ペガサスが前に出てきてSATURNに声をかけた。
『すまないSATURN。私たちが探すレインボー・ドラゴンの居場所を教えてくれたこと感謝する。しかしそんな君にこんなことを言うのは心苦しいのだが、もう少し詳しい場所はわからないだろうか。いずこかの大きな洞窟に存在していると言うことはわかるのだが、それがどこの洞窟なのかを…………』
『ピピ、ガガガ…………』(それはできない。サファイア・ペガサス、君の言う通り、私が見せた光景だけでは探すのに苦労するだろう。だがそれはレインボー・ドラゴンの意思によるものだ。彼のモンスターがこれ以上を教えることを拒んだのだ。私はその意思を尊重する)
返答はすぐだった。レインボー・ドラゴンの居場所をもっと詳しく知ることはできないと、そう言われたサファイア・ペガサスは少しばかり落胆したような反応を見せたが、ヨハン君は違った。
彼は首を落とすサファイア・ペガサスの頭を撫でるような仕草をして後ろで見守る宝玉獣たちを見た。
「きっとこれはレインボー・ドラゴンの試練だ。SATURNのおかげでヒントを知れたが、その先は自分たちで探してみろってな。俺はそう受け取ったぜ!」
「うん、きっとレインボー・ドラゴンもヨハンくんが見つけてくれることを願っている。大丈夫、君たちならすぐに見つけられるよ」
力強く宝玉獣たちに言うヨハンくんに僕も同意した。これほど精霊を愛しているヨハンくんのことをレインボー・ドラゴンが拒んでいるとは思えない。だとするなら、彼自身が見つけてくれる日を心待ちにしてくれているに違いないんだ。
宝玉獣たちはヨハンくんに頷き、自分たちで探そうと意気揚々と答えた。
『ピーピガガ…………』(この世界はもうじき閉じる。最後に、ヨハン・アンデルセン。君に感謝を)
「俺の方こそ、お前と出会えて、俺の力になってくれて感謝するぜ! コナミとのデュエルで今度は敵として戦おうぜ!!」
ヨハンくんの感謝の言葉を機にマーブル模様を描いていた世界が波打ち始めた。それは徐々に色を失くしていき、やがてSATURNの存在もその未知なる世界とやらの光景も消え馳せて行った。
「ここは………戻ってきたんだね」
「みたいだな。おっ、藤次郎さんがこっちに近づいてくるぜ」
見ると、観客席から降りてきた藤次郎さんがこちらに小さく手を振りながら歩いてきているのが見えた。
空は夜、雲の切れ端から月が覗いているのが見える。デュエルを始める時に輝いていたスポットライトはその電光を穏やかにさせており、眩いほどの力は発していなかった。
「いやーよかったよ二人とも、おかげでいい映像を撮ることができた」
「映像ですか?」
「ああ、宝玉に選ばれたヨハンくんと星に選ばれたコナミ君のデュエル。撮らない理由がないからね、これをアップすればいい話題になる」
どうやら、藤次郎さんは初めから映像として残すつもりだったらしい。それをネットにアップして会社の益にするようだ。ちゃっかりしていると言うかしっかりしていると言うか、チャンスを無駄にしない姿勢は見習うところがあるなあ。
「ヨハンくんはいいの? 今のデュエル、世界中の人に見られることになるけど」
「ああ、問題ないぜ。ここまでの旅費とかを工面してくれる代わりに、元から撮ることは知らされていたしな」
「えっ、そうなの!?」
僕は藤次郎さんを見た。彼は当然と言わんばかりに頷いていた。どうやらお互いに了承済みだったようだ。なら、僕がこれ以上言うことはない。
僕は改めてヨハンくんを見て、いつの間にやら僕の手に収まっているSATURNを見た。
「ヨハンくん、今日は君に会えてよかった。SATURNとも出会えたし、本当にありがとう」
「俺の方こそ、お前と会えて、デユエルができて楽しかったぜ。レインボー・ドラゴンのこともあるし、サンキューコナミ!」
向き合った僕たちは握手をして微笑んだ。僕も、そして彼も今日と言う日が素晴らしい一日であり、嬉しいことが沢山あった。
それ故の感謝の握手であった。
「さあ、今日はもう遅い。今日のところはもう帰ろう。ヨハンくんも明日まではこの町に滞在するわけだしな」
「「はい!!」」
僕たちは声を揃えて藤次郎さんに返事をした。そして、共に並んでホテルへの道を進むのだった。今日あった出来事を話しながら──。
脳内イメージの表現化が難しすぎる。