「ふぅー、俺のターン、ドロー!」
目を瞑り、己とデッキに向き合うように精神を整えるために大きく呼吸をする。そして残り僅かになったデッキからカードを滑らせて引いた。
このターンを生き残れたことに幸運を感じながら何とかこのターンで起死回生のカードを。そう思いながら引いたカードは俺の望むカードではなかった──。
「………俺はサイバー・ウロボロスを守備表示で召喚。ターンエンドだ」
《サイバー・ウロボロス》 攻撃力100 守備力600
気落ち、落胆、様々な負の感情が沸き上がる中、エド戦以来、期待に応えられなくなった俺にずっと向けられてきた周囲からの嘲笑の視線から目を逸らすようにこれから来るであろう衝撃に身を固くして備えた。
「防戦一方だな。俺のターン、ドロー! この瞬間、アルティメット・インセクト LV5とLV1はは進化する。アルティメット・インセクト LV7とLV3を特殊召喚!!
さらに、アルティメット・インセクトLV3が特殊召喚されたことで地獄の暴走召喚を発動! デッキから1500以下の攻撃力を持つ同名モンスターを可能な限り特殊召喚できる。俺はデッキからアルティメット・インセクトLV3を2体召喚!!」
《アルティメット・インセクト LV3》 攻撃力1400 守備力900 ×3
《アルティメット・インセクト LV7》 攻撃力2600 守備力1200
奴の場に毒々しい体表をした巨大な芋虫と銀の鎧を脱ぎ払い成虫へと進化した巨大な蛾のような、様々な種類の昆虫の長所を織り交ぜて出来上がったようなモンスターが飛翔した。
「地獄の暴走召喚はお前のモンスターも召喚できる。さあ、ウロボロスを召喚しな」
「俺は墓地とデッキからサイバー・ウロボロスを2体召喚…………」
《サイバー・ウロボロス》 攻撃力0 守備力0 ×3
俺の場に召喚されたウロボロスの攻守が下がっている。進化したアルティメット・インセクトの効果によるものか。
今、奴の場のアルティメット・インセクトの効果が発動しているのはLV7とLV3の内の1体のみ。減少されるのは合計で1000ポイント。
サイバー・エンド、サイバー・エンドさえ召喚できればこんなデュエルとっくに…………。そう思うが、一向にまとまらないデッキではどうしようもない。このターンを凌ぎ、生き残るしかないのだ。
「俺はアルティメット・インセクト LV3でお前のウロボロスをすべて攻撃! さらに、アルティメット・インセクトLV7でダイレクトアタックだ!!」
「──ッ!!」
「死出の旅を楽しみなァッ!!」
「──ぐぁあああああ!!?」
《丸藤》 残 LP 1400
蛹へと進化する前の芋虫であるLV3がウロボロスを怒涛の勢いでその巨体で押しつぶし破壊する。そして、その背後から成体であるLV7が激しく鱗粉を飛ばしながら俺のライフを削ってきた。
そのライフダメージはこれまでの比ではなく。ライフが減った際に発生した衝撃は肉を貫き臓腑を歪めるようだった。
それは気を抜けば意識を失い、本当に死にかねない程の痛みであった。
「俺はターンエンドだ。さあ、まだ足掻くことはできるかあ!!?」
「う゛っ………お、俺のターン、ドロー…………。はぁ、はぁ、俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「とうとう壁も召喚しないか。それとも諦めて死を受け入れたか? 俺のターン、ドロー!」
アルティメット・インセクトの怒涛の攻撃に意識を失いそうになりながらもなんとか踏みとどまり、俺のターンの行動を終えた。
今は耐えるんだ。チャンスが来るその時まで…………。周囲からの蔑称も嘲笑も気にするな。俺は俺のデュエルをすればいい!!
「この瞬間、アルティメット・インセクト LV3の2体はLV5へと進化する!! 1体は墓地へいるため進化できないが、他2体は別!! 俺が進化させるのは当然、地獄の暴走召喚で召喚した2体だ!!」
「くっ………!」
《アルティメット・インセクト LV5》 攻撃力2300 守備力900 ×2
これで奴の場にはアルティメット・インセクトが4体。その内の3体は上級モンスターであり、そうでなくとも全員が俺のモンスターのステータスを下げる効果を持ったことになる。
つまり、どれほど強力なモンスターを召喚しても、攻撃力が2000ポイントも減ると言うこと。
絶体絶命、いくら耐え凌いでも勝ち目など生まれない。そんな思考がよぎってくる。
──この状況では、仮にサイバー・エンド・ドラゴンを召喚できたとして、俺が勝つ可能性など…………!!
「さらにダメ押しだ。俺は墓地の昆虫族を2体除外することでデビルドーザーを特殊召喚する!!」
《デビルドーザー》 攻撃力2800 守備力2600
アルティメット・インセクトの隣に巨大な桃色のムカデが召喚される。この追い詰めた状況で必要とは思えない召喚。
俺を精神的に追い詰めるために召喚したとしか思えない行動。背後から「終わりましたね」という声が、周囲からは俺の敗北と死が楽しみだと言うようなくすくすとした笑い声が聞こえてくる。
「それでも、諦めることはできん! 俺はリバースカード リミット・リバースを発動! 墓地にいる攻撃力1000以下のモンスターを特殊召喚する。俺は墓地からサイバー・ヴァリーを特殊召喚!!」
《サイバー・ヴァリー》 攻撃力0 守備力0
「攻撃力0の雑魚を攻撃表示で召喚して何になると言うのだ。壁にもならん! バトルだ! アルティメット・インセクト LV7でとどめだ!!」
「いや、まだ終わらんっ! サイバー・ヴァリーの効果発動! このモンスターを除外することでバトルフェイズを終了させ、カードを1枚ドローする!!」
このターンを凌げたことに安堵しながらカードを引く。いまだにサイバー・エンドを召喚できるカードは来ない。
サイバー・ドラゴン、俺はどうすればいいッッッ!!
「ならカードを2枚伏せて、これでターンエンドだ。いつまで耐えれるか。苦しみが長引くだけだがなあ。はははははっ!!」
苦しみが長引くだけ──そうだ、奴の言う通り、俺のライフは残り1400。場にも手札にも起死回生のカードはなく、サイバー・エンド・ドラゴンを召喚する術もない。
その上相手の場にはモンスターが5体もいる。もはや、どうしようもないほどに追い詰められた状況だ。
ここから勝つことなど、とてもではないが…………。
俺の視界がぼやけ、生き残ろうとする闘志さえ消え果ようとしていた──。
「いい表情ですねえ、絶望し、悲嘆にくれる顔は実に絵になる」
「──ッ!?」
「落ちるところまで落ちた人間がデュエルにしがみつきたいなら、このような役回りしか与えられないのですよ」
暗い未来へと突き進んでいる自分の背後から猿山の言葉が届いた。その声色には人の苦しみを楽しむ俺の知らない人の醜さが写っていた。
「バカな。俺はこんなデュエルをしてまでしがみつきたいわけではない! ここから出せ!!」
「くくく、出たいなら勝てばいいじゃないですか。勝ちさえすれば、いくらでも出してあげますよ」
「そうだぜカイザーさんよー。勝てばいいんだよ勝てば。御託並べてねえで、勝つための策を考えてみろ、皆そうしてるだろ? そんなこともできなくなったのか? なあ、負け犬」
「──ぐぅ!! バカなっ、この状況でどう勝てとッ!!!」
敗北を悟る俺を嘲るように猿山が、対戦相手の仮面の男が話す。勝てばいいのだと…………。
だが、俺の場にモンスターはいない。しかも、相手の場にはDNA改造手術と虫除けバリア。その上こちらのモンスターの攻撃力を2000も下げるアルティメット・インセクトが並んでいる。
残りデッキ枚数も少ない。これでどうしろというのか。
「なあカイザーさんよー、デュエルってのは勝つためにするものなんだぜ? 誰も彼もがそれを目指して戦う。自分がこれなら勝てると信じるデッキを作ってな。しかし才能が、運が届かず敗北するときもある。そんなときは自分の信条さえ捨てて勝利のみを求める必要だってあるんだぜ?」
「──何が言いたい!!」
まるで諭すように俺に話しかけてくる対戦相手の男に俺は怒気を混ぜた言葉で返した。俺を嘲りなぶってくる男が何を言うかとッ!!
「いやーなに、お前のデュエルには勝とうって気迫がねえなあと思ってな。お前、本当に勝とうとしてデュエルしてんのか?」
「なんだと?」
「勝たなきゃ生き残れねえってのに、お行儀よくデュエルしてんじゃねえって言ってんだよ。才能のねえ奴が生きていたいなら、ご立派な思想なんざ捨てちまえって話だ!」
両手を大きく広げて語る男の言葉に一瞬、俺は思考が止まった。それは俺の考えにもつかない内容だった。
ご立派な思想…………俺のリスペクトデュエルのことか。それとも、俺のエースであり信じる最強のモンスターであるサイバー・エンド・ドラゴンを諦めろとでも言いたいのか。
「バカな…………そんなこと………できるわけが…………」
「なら、あなたは死にますね。ご立派な思想とやらを抱えて…………」
「ぐぅ…………!!」
俺の嘆きに反応するように、猿山が背後から話しかけてくる。敗ければ死ぬ…………それはもうすぐそこまで来ている?
俺の信じるリスペクトデュエル。それが俺のデュエル。サイバー・エンドと共に貫いてきた信念!
だが、そのために死ぬと言うのか?
「ふざけるな。このターンで、ケリをつけてやる!! 俺のターン、ドロー!!」
俺は勝つ、勝って生き残る!!
「俺は強欲な壺を発動し、2枚ドロー! そしてサイクロンを発動! 俺はお前の場の虫除けバリアーを破壊!!」
「ふん、無駄無駄。今更破壊したところで──」
「さらにッ! サイバネティック・フュージョン・サポートを発動! ライフを半分払うことで融合素材を墓地からも選択することができる!! 俺はパワー・ボンドを発動し、墓地にいるサイバー・ドラゴン3体を除外! サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!!!」
《丸藤》 残 LP 700
《サイバー・エンド・ドラゴン》 攻撃力6000 守備力2800
ようやく、ようやく召喚することに成功したサイバー・エンド・ドラゴン。こいつでこのデュエルにケリをつける!!
奴のアルティメット・インセクトにより攻撃力こそ下がっているが、問題はない。一撃で消し飛ばせばいい!!
「ははは! ようやく出してきたか、だが少し遅かったなあ!! 俺はリバースカード ヘル・ポリマーを発動! 俺の場のデビルドーザーを生贄に、お前のサイバー・エンド・ドラゴンは俺のモノになる!!」
「なにィッッ!!?」
「そして、俺のモンスターとなったことで攻撃力が下がったサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は戻る。ありがとよ!! 最強のドラゴンをプレゼントしてくれてよぉ!!!」
「──ッッッ!!」
《サイバー・エンド・ドラゴン》 攻撃力8000 守備力2800
血走った目で奴の場に行ったサイバー・エンド・ドラゴンを見る。ようやく、ようやく召喚できたサイバー・エンド・ドラゴン、それを見るとはらわたが煮えくり返りそうになる。握りしめた拳が震え、痛いほどだ。
──うまくいかないデュエルも、今になって召喚されるサイバー・エンドにも憎しみに近い感情が湧き出てくる。こんな気持ちは初めてだ。いや、これに近い感情を以前、俺は味わったことがある。
(…………そうだ、エド・フェニックス戦のときも似た感情を抱いた。俺のサイバー・ドラゴンをもてあそばれた時だ。この状況はあの時と同じ、相手にもてあそばれ、敗北が近くなっているときの感情!!)
「………いやだ」
「ん? なんだって?」
「いやだ、俺は、敗けたくないぃいいいいいいいいいい!!!」
──喉が張り裂けそうになるほどの心からの叫び声をあげ、敵意が籠った視線を仮面の男に、そしてサイバー・エンド・ドラゴンに向けた。
「どんな形でもいい。俺は勝ちたい、貴様を倒して!!」
「へへ、そりゃあ無理だろうよ。カードに見放されたお前ごときに何ができる!」
「わかったんだ。今やっと、俺はエド戦以来誤魔化し続けてきた。俺の信じるリスペクトデュエル。それさえできれば勝ち負けなど関係ないと。だが違う、俺は飢えている、乾いている、勝利に!!」
「──!!」
信じ難いほどの怒気が籠った言葉が漏れ出てくる。これが望みであったことを全身で伝わってくる!!
そうだ、俺は勝ちたかったんだ。リスペクトデュエルという聞こえのよいデュエルで満足しようとして、自分を誤魔化し続けていた。
これでいいのだと、だが、そうではなかった!!
「お前の懐にある勝利を奪い取ってでも、俺はァッ!!」
「ぬ………ぐ……!」
「リバースカードオープン!! リビングデッドの呼び声を発動!! 墓地からプロト・サイバー・ドラゴンを召喚!!!」
「そんな雑魚をいまさら召喚したところで!」
《プロト・サイバー・ドラゴン》 攻撃力0 守備力0
俺の場に召喚されたプロト・サイバー・ドラゴン。アルティメット・インセクトの前では攻撃力0の壁にすらないらないカード。
だが、こいつこそが、俺の勝利への道を切り開く!!
「そして手札からオーバーロード・フュージョンを発動! 手札と場、そして墓地から決められた機械族の融合モンスターを任意の数だけ除外。闇属性の機械族融合モンスターを融合召喚する!!」
「闇属性だと!? サイバー・ドラゴンの融合召喚先は光属性だけのはず。お前のデッキにそんなカードは…………!!」
サイバー・ドラゴンの融合先にはサイバー・エンド、ツイン以外にも存在している。あまりにも攻撃的で、リスペクトの精神から通常使用を禁じられているドラゴンが!!
俺は生き残るため、勝つために、こいつを使う!!
「俺はサイバー・ドラゴンとなっている場のプロト・サイバー・ドラゴンと墓地にいる14体の機械族を融合。キメラテック・オーバー・ドラゴンを融合召喚!!!」
《キメラテック・オーバー・ドラゴン》 攻撃力10000 守備力10000
俺の怒りの声を伴い召喚されたそのドラゴンは5つの首を持つ、伝説上の生き物である八岐大蛇にも似た形状を持つ、黒い機械竜であった。
サイバー・エンドやツインとは色合いからして違う。銀色の美しき竜ではなく、暴力的な色を持ち合わせたドラゴンである。
「キメラテック・オーバー・ドラゴン………攻撃力10000!!? なんだそのモンスターは!?」
「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は素材とした機械族融合モンスター1体につき800ポイントアップする。お前のアルティメット・インセクトの効果で2000ポイント下がっているが、この攻撃力があれば、関係ない!!」
奴のライフは3800、虫除けバリアーもなくなった今、一撃で消し飛ばしてやる!!
「キメラテック・オーバー・ドラゴンでアルティメット・インセクト LV7を攻撃!! エヴォリューション・レザルト・バースト!!」
「ふっ、だが甘ぁい!! 俺は最後のリバースカード ドレイン・シールドを発動!! その攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスターの攻撃力分のライフを回復する!!」
《仮面の男》 残 LP 13800
奴のアルティメット・インセクトを守るように、藍色の膜が現れて奴のモンスターを守った。その膜はキメラテックの攻撃を吸収するようにライフへと変換し、早々見ることはないライフへと変貌させていた。
「ハハハハハ!! せっかく召喚した超大型モンスターも、これでは無意味だな! そして、お前はこのターンのエンドフェイズにパワー・ボンドのコストダメージを受けて、ジ・エンドだ!!」
勝ち誇り笑う相手に俺も冷笑する。最後のリバースカードを使ったことで、奴の守りは消えたと!!
「くくく、だが、これでお前を守るカードは存在しなくなった」
「んー? 可笑しなことを言う。俺の場にはまだ5体のモンスターがいる。キメラテック・オーバー・ドラゴンには驚かされたが、攻撃を終えた以上、お前にもうできることはない。お前の敗北と死は決定したと言うことだ」
首を傾げる男に、俺は酷薄な笑みを見せる。攻撃できる回数は1体のモンスターにつき1回。それはルールで決められている。
だが、キメラテック・オーバー・ドラゴンだけはそのルールに縛られることはない!!
「それはどうかな。言っただろう、このターンでケリをつけると。俺は、勝ぁつ!!!」
「バカな、できるわけがない!!」
「そうだ、そんなことは不可能だ!!」
背後の猿山が、仮面の男が俺の勝利宣言に反論する。だが、そんな不可能を可能にする力がキメラテック・オーバー・ドラゴンにはあることを俺だけは知っていた。
「キメラテック・オーバー・ドラゴンは素材としたモンスターの数だけ、相手モンスターに攻撃することができる!! 俺はお前の5体のモンスターに再び攻撃する!!」
「ナニィ!!?」
「エヴォリューション・レザルト・バースト──5連打ァッ!!!」
キメラテック・オーバー・ドラゴンの5つの首から膨大な熱線が吐き出される。それは奴の場に存在したサイバー・エンド・ドラゴンも含めた全てのモンスターを一撃で消し飛ばし、その余波で俺を取り囲んでいた金属の檻さえも吹き飛ばすほどの衝撃をもたらした。
「ぐあぁああああああ!!!?」
《仮面の男》 残 LP 0
吹き飛び、その膨大なダメージに体の底から叫び声をあげる男に──デュエルに勝利したことを確信した俺の顔には生涯で浮かべたこともない凄惨な笑みが浮かんでいた──。
地下デュエル回は何回も見直すぐらい好き。5連打ァを変えたくはなかった。