初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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たまーに聞きたくなる「弥助やないかい」。


信念を超えるもの

 リング場を大きく揺らし俺を囲んでいた檻さえもが破壊されるほどの衝撃がその攻撃によって生じた。

 

 俺──丸藤亮は激しく息をかき乱しながら全身を包み込む高揚感に身を任せていた。物心ついて初めて、自らの衝動に身を任せる快感。長年、自らを押し込めていた鎖から解き放たれたような解放感。

 

 そして、取り返しのつかないことをしたというわずかながら感じる慚愧の念。

 俺は歓喜と後悔が入り混じった凄惨な笑みを顔に浮かべていた。

 

「──ふぅー……俺の勝ちだ」

 

 口から大きな吐息と共に出たのは勝利したという余韻だった。キメラテック・オーバードラゴンによる攻撃。その命を奪いかねない衝撃によって倒れ伏す相手への心配事は一言でさえ出なかった。

 

 ただ、それは瞬間までであり、恍惚とした笑みが浮かんでいたのは倒れ伏した対戦相手の仮面がコトリと外れるまでの間だった。

 

「──なっ、コナミ!?」

 

 俺はすぐに駆け寄って身体を起こした。その見覚えのある顔は間違いなくアカデミアの後輩であるコナミのそれであった。

 短い黒髪に細身の身体、そして、肌身離さずつけている宝石の如く輝く蒼いクリスタルのネックレス。見間違えることはない。この顔は、ネックレスをした後輩はコナミだ!!

 

「なぜ、お前がここに…………」

「どきなさいッ!!」

 

 倒れたコナミを抱えた俺を後ろからやってきた男が強引に振り払ってコナミの体を抱えて立ち上がった。

 

「あなたは──!!」

「今はそんなことはどうでもいいッ!! 彼を医療室へ連れて行く!!」

「あっ!」

 

 コナミを抱えた男は複数人のスーツを着た人たちと共にどこかへと連絡を急ぎながら駆け足で走り去っていった。俺はそれを呆然と見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 時は移り、そこはある大病院の一室であった。ベットに横たわるコナミはひどく疲労し、ケガもしていたものの、命そのものには別条はなくしばらく休んでいれば回復するだろうとの話だった。

 医者が言うには驚異的な回復力と耐久力らしく、俺のキメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃で死んでいないのは奇跡だと言っていたそうだ。

 

 俺はベットで眠るコナミの横で項垂れた様に椅子に座り、彼をアメリカへと連れてきた藤次郎さんと名乗る水無月愛理の父親からいきさつについての話を聞いていた。

 

「──そうですか。コナミはプロ試験を受けるためにあなたの誘いの元、アメリカへと渡ってきたのですね」

「そうだ。それだけではなく、私にヨハンという少年が彼が持つあるプラネットモンスターをコナミ君に渡したいとの連絡があってね。渡りに船ということもあり、彼をアメリカまで連れてきたと言うことだよ」

 

 藤次郎さんはすーすーと眠るコナミを見ながら答えてくれた。

 

「ヨハン………プラネットモンスター………。なるほど、なぜ試験のためにアメリカにと思ってましたがそれなら納得です。コナミがアメリカまで来ていた事情は分かりました。しかし、それならなぜ俺と地下デュエルをしていたのです。仮面までつけて…………」

「それは、今の君なら理解できると思うがね。言わないとわからないかい?」

「…………俺のため、ですか」

「…………」

 

 沈黙は雄弁なまでに俺に語っていた。リスペクトデュエルに固執し、敗北を重ね続けていた俺を心配しての行動であったと。

 俺は鎮痛な思いを抱き、顔を伏せた。後輩に心配をかけさせ、あまつさえ命まで脅かしてしまうとは。

 

 その上、知らなかったとはいえ、勝利した愉悦に身を任せてしまうとは。俺は俺が恥ずかしい。

 穴があったら入りたいという言葉をこの身で体感する時が来るとは思わなかった。

 

「……コナミが目を覚ましたら、謝罪をしなければ」

「それと感謝の言葉も言っておくといい。彼は謝罪よりもそちらの方が喜ぶだろう」

 

 俺は無言で頷いた。そして、藤次郎さんという男はは何者なのだろうと疑問に思った。俺は伏せた顔を傾けて彼の横顔を盗み見た。

 

 水無月愛理の父親、それはいい。彼女の親だけあり整った男性らしい容姿をしている。髪色は黒と愛理とは違うが、彼女は母親似なのかもしれない。

 

 それはともかく、重要なのは何故あの場にコナミを対戦相手として連れて来れたのかだ。この人とコナミが知り合いなのは愛理と恋人関係であると考えれば自然なことだが、あの非合法な地下デュエルに介入できるとはどういうことなのか。

 

 水無月財閥の社長。それだけでねじ込めるモノなのか? わからない。俺にはこの人がわからなかった。ましてや大事な娘の恋人を本人に頼まれたからと言って死にかねないデュエルをさせるとは……。どうにも信用し難い相手だ。

 

 思えば、プロモーターを名乗った猿山という男、あの男もおかしなやつではあった。

 スポンサー契約を打ち切られどん底に落ちかけている俺に対して話を持ちかけた。ここまではいい。だが、その後デュエルが終わった後だ。傷ついたコナミが去った後、残された俺に奴はこう言った。

 

『カイザー丸藤亮。いや地下生まれ変わったあなたはヘルカイザー亮と名乗るのがよろしい。私の役目はここまで、あと好きにするがいい』

『なに? それはどういうことだ!』

『私は頼まれたことをしただけということです。ヘルカイザー、彼らに感謝することですね。もう会うことはないでしょう。では、さようなら』

 

 猿山はデュエルを見届けるとさっさと何処かへと去っていってしまった。プロモーターと言うからには、スランプから立ち直った俺に張り付き金稼ぎをするものとばかり思っていたのにだ。

 

 だが実際には何をするでもなく去った。俺1人を残して……。それに頼まれたという言葉。

 

──誰に? 何故?

 

 この状況からして決まっている。この俺の横でコナミを心配気に見ている人だ。それ以外考えられない。俺の中の不信は募るばかりだった。

 

「何故、あなたは何者なのですか」

「水無月藤次郎。君の後輩の水無月愛理の父親で水無月財閥の社長。そういうことが聞きたいわけではないのだろうね」

「はい。あの猿山という男、奴もあなたの差金なのでしょう。裏社会とも言えるあの世界になぜあなたが干渉できたのかそれを教えていただきたい。そして、あなたはコナミをどうしたいのかをッ!」

 

 俺は鋭い目つきで目の前の男を射抜いた。コナミを連れてきてくれたことで俺は一線を超えることができた。デュエリストとして更なる高みに登れるだろう。パーフェクトの先へ……。

 

 だが、たとえその恩人とも言える人であったとしても、コナミを利用し害するつもりなら、愛理の父親であろうと関係はない。俺の全てでこの男をコナミから手を引かせる。その覚悟が俺にはある!

 

「そう怖い顔つきで見ないでほしいね。だが、品行方正な君がそういう顔をできるようになったということはコナミ君の作戦は成功したということだ。喜ばしいことだよ」

「話をはぐらかさないで頂きたい。俺の質問に答えてもらう。あなたの目的はなんだ!」

 

 さらに威圧を込めた眼差しが俺の目には宿っていた。ともすれば眼差しだけで人を殺せるのではないか。そう思えるほどだった。

 その俺の殺意にもひるむことなく、そのような意志を向けられることに慣れているとでもいうように彼は淀むことなく答えた。

 

「そうだな、まず前提として第一に私はコナミくんをどうこうしようと言う意思はない。誓ってもいい。愛娘である愛理の恋人で、将来的には家族になるかもしれない相手だ。故あって彼には多大な恩もある。そのような相手に利用とか打算的な感情で付き合ったりなどしないよ」

「………」

 

 俺は返事を返さなかった。以前その険しい眼差しは彼を見つめたまま。疑いの目が変わることはない。

 親しい間柄であろうと、死地へと誘う可能性は0ではない。ましてや裏社会と関わりのある相手なら尚のこと。自らのためにそうする可能性は0ではない。彼への疑いはいささかも晴れることはない。

 

「第二に、目的についてだが、私と彼は個人的な関係を除けば将来的にスポンサーという立ち位置に収まるだろう。彼がプロとして羽ばたいた時、それを全面的にバックアップする予定だ」

「スポンサー……それは彼も了承済みなのですか」

「勿論だ。彼が目覚めてから確認をとってくれても構わないよ。嘘ではないからね」

 

 なるほど、スポンサー。社長として、将来性のあるコナミとあらかじめ契約してあるということか。

 

 コナミとしても悪くない契約相手だろう。愛理と結婚まで漕ぎつければ、家族関係になり、余程のことがなければ安心して信用できる相手だ。

 

 そして、会社側としてもコナミがプロとして大成すれば相応の利益を手にすることができる。コナミの才覚ならそれも夢ではない。

 お互いにいい契約相手、そう見るに問題はないように感じる。

 

「さて、第三にこれが1番聞きたいことだろうが、私と彼らとの関係についてだ」

「!」

 

 俺は居住まいを正して思考を戻した。

 

「簡潔に言おう。そうなった過程を君に伝えることに意味はないからね。私はかつてあの場所のチャンピオンだった。裏から足を洗うまで、それなりの期間私は裏社会のデュエリストとしてトップを張り続けていた。その時のツテであの猿山を君によこした」

「チャンピオンだっただと!?」

「これは決して表に出回ることのない情報だ。ごく一部を除いて私の正体を知る者もいない。スキャンダルにもなりうる情報だ。これを伝えるのは君を信じるコナミ君の信頼あってのことだ。これが全てだが、まだ不満かね」

 

 彼を射抜く視線は驚愕へと変貌していた。水無月財閥の社長がかつて裏社会のチャンピオンだった。それは確かに表には出せない情報だ。

 そして、それを俺に伝えると言うことが何を意味するか。それを理解できない程愚鈍ではない。それは彼の出せる最大限の誠意だ。

 

「いえ、とりあえずは十分です。今はあなたを信じることにします」

「ふっ、今はか。まあこちらとしても殊更君と仲良くしたいわけではない。それでいいさ。私の疑念が晴れたところで、君はこれからどうするつもりだい?」

「無論、プロとして返り咲くつもりです。コナミへの礼、それは俺がプロとして活躍することでしょうから」

 

 ただ口で感謝するだけなら簡単だが、今目の前ですやすやと眠るコナミへの礼はプロの世界で最大の力をもって戦うことだろう。恐らくそれがこいつが望むことのはず──。

 

「一人でかい?」

「俺にスポンサーはいない。だが、必ず返り咲く。そしてこの手に勝利を掴むッ!!」

 

 そうだ、スポンサーなどいなくても構わない。俺は勝利が欲しい。リスペクトという理念も信念も捨てた。俺はただ、勝利が欲しい!!!

 

「そんな君に良い提案がある。聞いていくかい?」

「──?」

 

 含み笑いを浮かべた悪人のような表情──裏社会で活動していた時はこのような顔をしていたのか──をしている藤次郎さんが俺にある提案をしてきた。

 俺はそれに少し考え、答えた──。

 

 

 

 

──ウォオオオオオオオオ!!!

 

 会場を歓声が響き渡らせていた。喝采を浴びているのはただ一人、試合場に佇み勝利の笑みを浮かべているカイザー亮改め、ヘルカイザー亮であった。

 

 試合を見ていた解説者は言う。圧殺であると。以前までの誇りとリスペクトの精神から清廉さと高潔さを感じさせる彼とは一転、圧倒的なまでの力による圧殺。

 純粋なまでに勝利を求める今の彼の姿はさながらプロレスでいうヒールのような、悪役としての強さが宿っていると。

 

 黒いコートに身を包み、凄惨な笑みを浮かべて倒れ伏した相手を見つめる。それはまさしく、地獄から蘇った帝王の姿であった。

 

 勝利の余韻に浸りながら、亮は振り返る。藤次郎とのやりとりのことを──。

 

『あなたがスポンサーに?』

『そう、今日までの君には期待は持てなかったが、今の勝利に飢えた君なら期待が持てる。ただ才能に満ちている普通のプロならコナミくんで間に合っているからね。君にはその逆を行ってもらうことになる』

『逆とは?』

『君にはこれまでのイメージを払拭してヒールとして活動してもらい、数年後にはコナミ君は星を宿したHEROとしてプロの世界で活動してもらう。君とコナミくん、うちの2枚看板として活躍する。どうだい?』

『…………俺は勝利が得られるのなら構いません。スポンサーが誰であろうと、あなたであろうと構わない』

『なら、契約成立だね。正式な書面は明日用意しよう。よろしく、ヘルカイザーくん』

『…………ああ』

 

 水無月藤次郎、俺は奴から差し伸べられた手を取った。それはコナミと奴の信頼からくる関係とは違う。打算と計算が混じった契約だ。

 だが、そんなことはどうでもいい。俺は勝利さえ、勝利さえ得られればそれでいい。

 そのためにヒールだのなんだのと必要ならするまでだ。俺は鳴り止まぬ歓声の声を背に通路出口へと足を向けた。

 

 栄光の光が注ぐフィールドとは違い、僅かな白色電球のライトに照らされる通路。その先にコナミは立っていた。

 

「お疲れ様です丸藤さん。見事な勝利でしたね」

「コナミ、お前まだいたのか。今日帰るはずじゃなかったか?」

「いやー最後に見ておきたくて。藤次郎さんに無理言って時間を伸ばしてもらったんです」

 

 そう笑って言うコナミの姿をざっとみるが特に後遺症などは見られなかった。医者から聞いていたが、無事、回復したようだ。

 

「そうか」

 

 俺はそっけなく答える。しかし、内心ではほっとしていた。問題ないと聞いていたが、実際にどこまでのダメージがあり、快調するかはわからなかったからだ。

 

「コナミ、卒業式での借り。お前がプロの世界に入ってきたら返してやる。その時まで腕を磨いておけ」

「はい! その時は全力で倒します!」

「フッ」

 

 お前には恩もあれば、感謝もしている。だが、勝負にそんな感情が入り込む余地はない。プロの世界、そこで戦う時は完全なる勝利で俺の糧となれ!

 

「丸藤さん、以前までのリスペクトもかっこよかったですけど、今の方が生き生きとしてて、いいですね!」

「フッ、そうか」

 

 無表情を貫いていた俺の顔に僅かながら笑みが浮かぶ。俺は、コナミと共に通路の先へと歩みを進める。

 次の勝利のために、次の次の勝利のために──!

 

「俺は、リスペクトを超える!」

 

 かつてないほどの充実感。全能感が満たす心の赴くままに俺は次のデュエルを目指すのだった──。

 

 




カイザーはやっぱりヘルカイザーになってこそって部分があるんですよねえ。
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