「あ、危なかった。危うく敗けるところだった」
「くっそー! 引き分けかよー!!」
十代くんの新たなエースモンスターであるネオス。見たことも聞いたこともない新たなE・HEROを扱う彼とのデュエルは追い込まれた僕の決戦融合により引き分けに終わった。
僕たちは各々、デュエル内容への感想を抱いていたが、とりあえずは礼儀としてお互いに握手をして健闘を称え合うことにした。
「驚いたよ。宇宙からきたHEROとはね。僕のプラネットモンスターも大概だけど、世界にはまだまだ未知のカードに満ち溢れているね」
「へへ、俺もこいつらと出会った時は驚いたもんだぜ。なにせ子供の頃にカードを作るために宇宙へと飛ばした紙が本当にカードに変わって俺の元へと帰ってきたんだからよ」
「へー子供の頃に宇宙へと……」
え、なんで?
そんな言葉が喉元まで迫り上がってきたが、まあそんなこともあるだろうと1人納得した。
宇宙が1枚のカードから生まれることもあるのだ。宇宙に飛ばした紙がカードになるなんて朝飯前。惑星がカードを作ることも、カードを作るために宇宙へと飛ばすこともあるさ。
『そう、そうして私たちは生まれた。宇宙の平和を守り、君と共に戦うために』
「──アクア・ドルフィン!!」
僕がカードの生まれ方は千差万別で漠然ととんでもないなあと納得していると十代くんの隣にブーツを履いた人型のイルカである彼の新たな仲間の1人、N・アクア・ドルフィンが半透明な精霊の姿で出現していた。
『初めましてコナミ。僕はドルフィーナ星からきたネオスペーシアンの1人、アクア・ドルフィンだ。デュエル中は挨拶ができないからね。いい機会だからこの場で君と話しがしたくて出てきたんだ』
「うん、僕はコナミ。よろしくアクア・ドルフィン」
非常に爽やかな声をしているイルカである彼に少し面食らいながらも落ち着いて僕は挨拶を返した。
すると、僕がアクア・ドルフィンのことが見えているのに気づいて十代くんが驚いていた。
「コナミ、お前精霊が見えるようになったのか!?」
「うん、アメリカでウィンと会ってね。ほら、前に話してたクリスタルの力のお陰でさ。見えるところまできたんだ」
僕は胸元からクリスタルを取り出して彼に見せた。その青いクリスタルの内部によく見ないとわからないが青・赤・茶・緑の小さな光が舞っていた。
「へーよかったなあコナミ。これでいつでも精霊が見えるな!」
「ようやくだよ。声だけしか感じ取れないというのは全く感じれないよりもある意味で寂しいからね」
ハハハと声をあげて笑い。僕たちは精霊が見えるもの同士になれたことを喜んだ。
そこに、そろそろいいかなと十代君の隣にいたアクア・ドルフィンが声を出した。
『コナミ、こうして僕が出てきたのは宇宙からの脅威に対抗するために君の力も借りたいと思ってのことなんだ。一つ僕たちの話を聞いてはもらえないかい?』
「宇宙からの脅威?」
「アクア・ドルフィン、コナミにも俺と同じような正しい闇の力があるのか?」
『それを話すためにも、時間が欲しいんだ。ちょっと長くなるかもしれないから、あそこで待たせている2人には申し訳ないけど帰ってもらえるよう頼んでくれないかな』
アクア・ドルフィンがみる方向、寮の階段に座り僕たちを見ている愛理ちゃんと翔くんがいる。
なるほど、確かに帰ってもらったほうがいいだろう。話が長くなるというのなら尚更だ。精霊が見える愛理ちゃんはともかく翔くんは退屈してしまうだろうし、愛理ちゃんも今日はテンションが天元突破しているのか様子がおかしい。
万が一僕が襲ってしまうなんてことになる前に、悪いが今日は帰ってもらうのがいいだろう。明日になれば、多分元通りになるはずだ。
「わかった。アクア・ドルフィン、2人には帰ってもらえるよう頼むことにするよ」
「そうだな。んじゃコナミ、言いに行くか」
「うん、行こうか十代くん」
*
ここは十代くんの部屋。翔くんも隼人くんともいなくなったために1人部屋となり、彼の個室とかした部屋に僕と彼はいた。
アクア・ドルフィンとの会話の後、愛理ちゃんと翔くんは帰ってくれた。無論というべきか、愛理ちゃんはごねた。
ごねた……が、なんとか説得して帰ってもらった。疲れているとか、デートを約束するとか、色々なことを言った気がするがいまいち覚えていない。とにかく、帰ってくれたということだけが真実であり、残った全ての事実だった。
『うん、これで落ち着いて君と話ができる。改めてこんにちはコナミ。アクア・ドルフィン、数あるネオスペーシアンの内の1人だ』
「よろしく、アクア・ドルフィン」
アクア・ドルフィンは2度目の挨拶をした。それは話の仕切り直しをするための行為で、円滑に話を進めるためだったんだと思う。なんか礼儀正しい上に賢そうな精霊だし、声からしてそれっぽい雰囲気も感じるから、きっとそうだろう。
「それで僕に話って? 宇宙からの危機がどうとかって話だったと思うけど」
『ああ、まず予め聞いておきたいんだけど、君は破滅の光と正しい闇の波動という二つの勢力について聞き覚えはあるかい?』
僕は首を傾げて反応した。それだけで理解してくれたようだ。アクア・ドルフィンはうんうんと頷いて最初だから話さないといけないなと言った。
十代くんはすでに聞いている話だからか、自分のデッキと睨めっこをしていた。
『宇宙では今2つの勢力が相争っている。一つは僕たち正しい闇の力の波動を受け取った勢力。ネオスや僕たちネオスペーシアンたちだ。僕たちは命を育む優しい闇の力を生む宇宙の平和を守るために戦っている』
「はい! 闇なのに正しいとか悪いとかあるの? よく闇は悪とか聞くけど」
アクア・ドルフィンの話に疑問が生じた僕は手を挙げた。
それに彼は一つ頷きながら指を立てて生徒に教える教師のように答えた。
『それは偏見が生み出した歪んだ見方だね。闇は恐ろしいもの、真実を覆い隠す悪いもの。そんな考えが闇を悪い方向性のものだと認知させてしまっているんだ。
本来、闇は命を運んでくれる優しい力を持っているんだ。総ての始まりは闇から生まれたようにね。
だが、どうにも君たち人間は光は正義、闇は悪。そのような括りで物事を見ようとするところがある。創作の影響か、闇への恐怖心が生み出してしまった考えか。ともかく、闇は決して恐れるべきものではないとだけ認識してくれるといい』
「うーん、わかった。つまり偏見は持つなってことだね」
『うん、それでいい』
満足そうに頷いたアクア・ドルフィン。僕は考える。
宇宙は正しい闇の波動とやらを持っている。さらには宇宙は一枚のカードから生まれた。VINUSが教えてくれたことだ。
なんていうか、スケールの大きい話だからどこまでが真実だとか、信じるべきなのかとか、そういうのを判断する測りすら持ち得ない僕にはただ言われたことを鵜呑みにするしかない。
それでも一つだけ確実に言えることがあるとすれば、僕に味方するプラネットたちや十代くんの力となったネオスペーシアンたち、彼らのことを信じること。
それだけは揺るぎないこととして心の芯に置くべきだ。
『さて、次にだが、そんな僕らが戦っている勢力がある。それが──』
「破滅の光って奴らだね。うん、名前からして物騒だ。まさしく敵ってわかる言葉づらだね」
まず一言目に破滅なんて単語が来る時点でまともな連中とは思えない。誰が名づけたのか、その破滅の光のものたちが自分たちで名乗ったのか、それによって色々と見方が変わりそうだ。
『名前が物騒だから敵と言う見方も偏見を生むからよしたほうがいいんだけど、今回は本当に敵だからいいか。
さて、次は破滅の光についてだ。彼らがどこからやってきたのか、何故そんなことをするのか、僕たちも知らない。だが確かなことは、彼らはその名の通り破滅を望んでいるということだ。
優しい宇宙の闇とは逆に暴虐的な光を信仰している。彼ら曰く、世界を光に染め上げようとしているらしい』
「な、なるほど。よくわからない連中だね。破滅なんてどう考えても碌な結末は迎えないだろうにね」
うーん破滅。破滅かあ。さっぱりわからない。というより理解ができないし共感もできない。
明らかに常道から外れた連中だ。破滅なんて撒き散らしていったい何がしたいのやら。
『そう、よくわからない奴らなんだ。しかし、やろうとしていることは極めて迷惑なことだ。そして、信仰と言っても良い感情で動いているから説得も効かない。倒すしかないということさ』
「話はわかったよ。つまるところ、君たちはその破滅の光とやらと戦うために十代くんに協力を求めた。そして、僕にもその戦いに加わってほしい。そういうことだよね」
『そうだ。十代はとても強い力を持っている。僕たちの誕生に関わるほどに。そして、君もまたそうだ。惑星という強大なカードたち。その全てを統べることになる君にも宇宙の平和のために力を貸して欲しいんだ』
「もちろん協力させてもらうよ。宇宙の平和のためなんて僕だって無関係じゃいられないからね。それにそんな傍迷惑な存在、無視することはできないよ」
僕は当然のこととして立ち上がりながらアクア・ドルフィンの協力要請に答えた。宇宙の危機なんて聞いて無視できるほど僕は冷徹じゃあない。助けを求めているなら力を貸すのが人情ってもんだ。
ましてやプラネットモンスターたちのマスターとして、その惑星を守るのは主人の役目だろう。僕はぐっとこぶしを握り締めた。
『ありがとう。十代から聞いていた君ならそう言ってくれると思っていたよ』
「へへ、仲間だなコナミ」
「うん、破滅の光から宇宙を守る。僕たちで世界を守ろう!!」
「おう!!」
こちらに手のひらを向ける十代君に僕も手のひらで彼の手を叩いた。軽快な音が響いた。
宇宙、そして世界を守るというHEROの役目を背負うこととなった僕たちは意気込み激しく更なる強さを求めデュエルを開始するのだった。
*
太陽が沈み、月が天空から大地を遠望する頃、愛理はご機嫌であることを示すように誰はばかることなく鼻歌を歌いながら島を練り歩いていた。
目的があっての行動ではない。目覚めて短い彼女にとって愛する人が世界の全て。それ以外は総て些事である。
そのため、彼から今日はここまでと言われた時は大変腹が立ったし、不満が溢れて爆発しかねなかったが、我儘を言って嫌われたくもない。その程度の分別がつく程度には未成熟な彼女の精神でも考えることができた。
彼女にとって彼だけが大切な存在であるからだ。
故に、彼女を起こした斎王であっても、彼女を説得することはできても行動の選択そのものを制限することはできない。たとえそれが、彼にとって不利益を被りかねない行動であっても。
彼女はただ、心が求めるままに行動する。だから、そこに来たのは目的を決めての行動ではない。心の求めに従っただけであった。
「こんばんわー! 斎王ーいるんでしょ! 出てきなさい!!」
彼女は大声を上げて無断で船に乗り込みながらその中にいるであろう斎王を呼んだ。そして、宿主の許可をもらうことなく、ドアをこじ開けた。
「…………なんのようだ水無月愛理」
斎王は不機嫌さを隠すことなく、顔を顰めながら愛理を見ていた。その口調に普段の丁寧さはない。疲労していることと、愛理の奔放さに辟易していたためである。
そして無論、愛理はそんな斎王を気にかけることはない。斎王が自分に向ける感情にも、斎王の状態にもだ。
「ここにあるんでしょ。渡しなさい」
「主語を言え。何の話だ」
斎王は努めて怒りと苛立ちを表に出さないようにしていた。仮に出していても彼女は気にしない、どうでもいいとして処理されていただろうが、そこまではわからない斎王にはいつ暴発するともわからぬ爆弾を処理する気持ちで礼儀も知らぬ突然の来訪者に相対しなければならなかった。
「カードよ、カード。あるんでしょ。私のカードが…………!」
「…………さて、君のカードとは一体何の話ですか? ここにはあなたのカードなどありませんが」
少し考えて、言葉を丁寧にしながら愛理の質問に否と返した斎王に愛理は目を細めて船内を見渡した。そして斎王の静止を聞き入れることなく船内奥深くに入り込み、厳重に鍵を掛けられた金庫に目を付けた。
彼女は目を見開いて止めようとする斎王を無視してその金庫に手をかけた。
そして、素手でその金庫を強引に開こうとした。僅か、一瞬だけその頑丈さから抵抗した金庫であったが、愛理の人間を超えた力を受けて抵抗空しく金属の破壊音を盛大に船内に響かせながらその中身を彼女の前に晒した。
斎王は愛理の尋常ならざる力に驚いているのか、それとも教えていないはずのその存在の在処に気づいたことか、驚愕と言った顔を全面に浮かべて立ち尽くしていた。
「あるじゃない。これ、貰っていくわね」
「…………それは確かにあの少年に向けて君に預けようとしていたカードではある。しかしまだ──」
「じゃあね斎王。2枚あるし、1枚は三沢君にでもあげようかしら。私じゃ2枚も使いこなせないだろうし!!」
「水無月愛理!!」
愛理は金庫に大切に保管されていたと見えるカードを2枚取り出した。そして、ルンルンとご機嫌を体全体で表現しながら船から出ていった。カードを手にした愛理に斎王の声は届いていなかった。
*
「──なぜ水無月愛理があのカードの存在を認知しているのだ」
嵐のようにやってきた愛理が立ち去った船内で斎王は金属片がまき散らされ荒れ果てた金庫に目を向けて一人ごちていた。
ベットに腰かけ、項垂れるその姿に力はない。
強奪に近い方法で持って行かれたカード。その存在を水無月愛理に教えたことはない。あれは十代やコナミと言った敵対するであろう厄介な人物に向けた切り札であり、渡す予定でこそあれ、それを教えた覚えはなかった。
「…………まさか、彼女に呼びかけたとでも言うのか。カードが、いや、光が…………」
その問いに答える者はいない。質問は空しく船内に消えていくだけだった。
「はぁ────。まあいいでしょう。予定は狂いましたが、結果が同じなら文句は言いません。彼女の存在も、運命が導いた結果ということもあろう」
自分を納得させるための言葉、これまでにないほどの大きなため息を吐きながら眉間の皺を押さえて口に出した。
斎王はもう一度、ベットの上で金庫に目をやりため息を吐いた。そして不貞腐れるように布団を自らの体に覆わせて視界を閉じるのだった。
ケケケケケケ!!