初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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地底旅行読みたいなあと思いながらまだ読み終わってないものが多くて手が出せない。積み本が増えていく。


リスペクト

 風が吹いていた。俯き歯を食いしばって涙を堪える僕は、吹雪さんも、コナミくんのことも見ることはできないでいた。

 

「ふぅー、驚いたよ。翔くんが強くなっていることはわかっていたけれど、こんなにも強くなっていたなんてね」

 

 コナミくんが何か言っているのが聞こえる。でも、その言葉は僕には届いていなかった。

 情けなかった。情けなくて悲しくて、吐き出しそうになる自分の心を堰き止めるのに一杯一杯だったから。

 

(勝てなかった。勝たなきゃいけないデュエルで、僕は負けてしまったんだ!)

 

 自然、両腕の拳に力がこもって血が出るんじゃないかと思うほどに握りしめていた。

 

「僕は……ッ! コナミくん………デュエル、ありがとうございました」

「あっ、翔くん!」

 

 僕はまだ話そうとしていた様子のコナミくんと成り行きを静かに見守っていた吹雪さんを目に入れることなく頭を下げて2人に背を向けて走り去った。

 これ以上、この場所にいることが辛かったからだった。僕は端から流れ出る涙を拭いながら走り続けた──。

 

 

 

 

 去っていく翔くんの後ろ姿を見ながら僕は一息ついていた。翔くんのいない森の中には僕とデュエルを見物していた吹雪さんがいる。

 デュエルで疲労した身体をほぐすように腕を伸ばし大きく息を吐いた。

 

「コナミくん、いいデュエルだったよ。翔くんが負けたのは残念だったけどね」

「はは、彼にも言いましたけど、正直翔くんがあそこまでやれるようになっているとは思いませんでした。侮っていたつもりはないんですけどね」

 

 嘘ではない。デュエル内容は一方的なものであったかもしれないが、昔の彼なら2ターンとかからず終わっていただろうと思えば随分な進歩だ。

 肩をすくめて反省する様子を見せる僕に吹雪さんも同意するように相槌を打った。

 

「それはボクも同じ感想を抱いているよ。普段の彼はどこか頼らないところがあるけれど、流石は亮の弟だけあるのかな。土壇場の覚悟を決めた時の強さは本物だ」

「はい。うかうかしてると追い抜かれるかもしれませんね。僕も吹雪さんも」

 

 一年の頃の翔くんは自信も成長する意欲も少ない、どうしてアカデミアに入学を選んだのか疑問に感じていた。

 でも、十代くんの影響だろう。2年に進級して、ラーイエローに上がって、兄である丸藤さんを追いかける覚悟を決めた彼は僕の知る彼よりもずっと強かった。

 きっと彼はこれからどんどん強くなるだろう。いつか兄すら超えるかもしれない。気持ちのあり方一つでここまで変われるのだから。

 

「追い抜かれるか。否定はしないけど、ボクもなのかい?」

「あれ、おかしなこと言いましたか?」

「いや、彼の成長ぶりをみているとあながちあり得ないとも言えないね。ま、そう簡単に追い抜かせはしないがね」

「ええ、今日の悔しさをバネに強くなると思いますけど、僕も負けるつもりはないですね」

 

 おどけたように笑う僕と吹雪さん。お互いにわかっていた。彼の可能性を、芽吹き始め花はこれからどんどん大きくなることを。

 

「さて、いいものも見れたし、ボクも学園に戻るかな。翔くんのことは心配だけど、まあ今の彼なら大丈夫だろう」

 

 僕に背を向け学園の方向へ歩き出そうとする吹雪さんに僕ははて、と不思議に思った。

 

「あれ、丸藤さんの件はもういいんですか? ぼくとしては吹雪さんともデュエルすると思ってたんですが」

「はーっはっはっ! いやいやまさか、翔くんに任せた以上ここでボクが出張るのはカッコ悪いと言うものだよ。ボクは大人しく帰るさ」

 

 翔くんの次は吹雪さん。そう思っていた僕は何だか肩透かしを味わったようで気が抜けた返事をしていた。

 残念、その気持ちが心を撫でるが吹雪さんにその気がないのなら仕方ない。僕はちょっとだけ不満が入った息を吐いていた。

 

「あっ、丸藤さんのことですけど……」

「いいさ、皆まで言わなくても、君がわざわざデュエルを挟んだんだ。亮は闇に囚われてなんてない。そうだろう?」

「……お見通しでしたか」

「まあ、それならそれで、亮の心境に何があったのかは気にはなるが。まあ、危険な目に合ってないならいいさ。バーイ、コナミくん!」

「バーイ……」

 

 後ろ手に手を挙げて爽やかな笑みのままに去っていく吹雪さんに僕も手を挙げてぎこちない動きで手を振り返した。

 その姿が完全になくなり、木々に囲まれた環境で1人になると、少しだけバツが悪くなったように頬を掻いて後悔した。

 

「素直に教えてあげた方がよかったかなあ。でも、デュエルしたかったし、あとでメールでも送っておくかな」

 

 丸藤さんが闇に囚われているなんて、一体どうしてそんな発想に至ったのか。

 吹雪さんも一緒にいたからかな。

 

「ま、イメージチェンジにも程がある変化だからなあ。心配するのは当然か」

 

 清廉にして潔白。白がよく似合う姿から反転。荒々しく暴力的な黒が似合うダークな姿にチェンジした今の丸藤さん。

 戦術も姿も様変わりしたら何があったのかと誰もが心配するだろう。

 

 只管に勝利を求める姿勢を批判する人も多いだろうけど、僕としては歓迎したいところだ。

 誰しもが勝利を目標に戦うのだから、本心に素直になることはきっと間違ってはいない。

 

「ただ、家族や友達にくらい連絡してあげたらいいのに。ストイックなのは変わらないというか。人の根はそうそう変わらないってことかな」

 

 勝利を求めるようになったことで他の全てを捨てるように連絡を絶った先輩の姿を思い出す。

 空を見上げ、今もどこかでデュエルをしているのだろうかと思いながら僕もまた、PDAを取り出しながら寮への道を歩き出すのだった。

 

 

 

 

 カーテンの閉じた灯りもついてない部屋で翔は枕に顔を押し付けて涙で濡らしていた。

 閉じたカーテンの端から差し込む日差しだけが、薄暗い部屋に小さな明かりを灯していた。

 

 しばらく不貞腐れたようにベッドに寝転んでいると、横に置いていたPDAからピロピロとメールが届く音が響く。

 赤くなった目でそれを見るが、何をする気も起きない自分は内容も、誰から送られてきたものかも見る気が起きなかった。

 今は、こうして横たわっていたかった。それが情けない自分を慰めてくれる唯一の方法だと感じていた。

 

 そうして枕に顔を埋めているのにも飽きてくると、体を仰向けにして天井を見上げた。

 暗がりの中に見える黒く染まっているようにさえ見える真っ白の天井はまるで今の兄のようであった。

 本来の美しく、穢れも過ちもない完璧な白を、恐ろしい闇が覆い尽くしているような、そんなふうに見えた。

 

(お兄さんは今どうしてるんすかね。吹雪さんの言う通り、闇に囚われて苦しんでいるのかもしれないっす)

 

 わかっている。これはあくまで予測で確たる証拠は何もない。しかし、もしを考えると、心配で心配で、こうして横になり何もできないでいる自分が恥ずかしかった。

 

 顔を横に向ける。戸棚には所狭しと敷き詰められた雑誌が入っている。億劫な体を動かしその雑誌を手にとり中身を見ると、そこには件の兄について書かれていた。

 

『アカデミアを主席で卒業した丸藤亮。カイザーという異名と共にプロリーグに参戦した彼の活躍は目覚ましく、その名に相応しい実力と精神性を備えた完璧なデュエリストだ!』

 

 そこに載っているのは以前の兄、見上げ続けてきた憧れ。でも今は──。

 

『他を圧倒する攻撃性と勝利への執着心が彼を地獄の帝王へと変えた!! より研ぎ澄まされた強さを殺意に変えた帝王はプロリーグでどこまで突き進めるのか!?』

 

 リスペクトの精神なんてどこにもない。あるのは『勝利』、その2文字を貪欲に求める姿のみだ。

 

「今のお兄さんをリスペクトなんて………」

 

 最後まで出ることのない言葉は、僕の中に宿るリスペクトへの憧れがもたらしているものなのかもしれない。

 自分の信じる在り方と違う。思想の違いというだけで排斥し、リスペクトの対象から外すのは間違っている。

 

 いつだって、相手の本質を見極め、理解する。そうしてデュエルを通して相互理解に努めるのかリスペクトすると言うことだと僕は思っている。

 それはきっと、まとハズレでもないはずだ。ずっとお兄さんを見てきた僕なのだから、きっとそうなのだ。

 

 だから、テレビで見ているだけの今の兄をリスペクトできないなんて口にすべきではない。

 それは対面で、デュエルしたうえで、ようやく無理なら無理と言っていいことなのだから。

 

「どうしたら……お兄さんに会えるんだろう」

 

 本を開きながら考える。何も思いつかない、そんな僕の目に先ほどからメールのランプが光っているPDAが入る。

 

「そう言えば、メールが来てたんすよね。誰からだろ……」

 

 気乗りしない動作でPDAを手に取った。先ほどは無視したメールを見ようとしたのは僕なりの現実逃避だったのかもしれない。

 ともかく、見ないと言うのは相手に悪い。僕は送られてきた内容に目を通した。

 

『翔くん、デュエルの結果は結果だから。経緯を話してあげることはできないけれど、これだけは教えておくよ。

 丸藤さんの本質は何も変わってなんかいない。もちろん闇になんか囚われてなんかいない。ただあの人は目を背けていたものに向き合うようにしただけなんだ。

 だから、心配は不要だよ。君は君の信じるリスペクトを貫くといい。きっと丸藤さんもそう言ってくれると思う。言葉にはしないだろうけどね!』

 

 っと、このような内容が画面には表示されていた。

 お兄さんは闇になんか囚われていない。その言葉にずっと押し寄せていた不安が一気に流されたように安堵し、肩から力が抜けた。

 

 この内容についてコナミくんが嘘をついているとは思えない。そんな悪辣な性格を彼はしていない。

 だから本当にお兄さんの変化に闇は関わっていなかったんだろう。

 それならそうと教えてくれればいいものを。

 わずかな不満が心に積もる。

 

「デュエルができるきっかけができて丁度いいとでも思ったんすかね。ちょっと恨むっす」

 

 しかし闇が関わっていないなら何でお兄さんはあんなふうに変わってしまったんだろうか。

 まるでリスペクトを捨てたような在り方。僕は知らない。想像すらできなかった。

 お兄さんは生涯、その在り方が変わることはないと無意識にずっと思っていたから。

 

「今のお兄さんに会う方法はない。どうしてリスペクトを辞めたのかも……なら……」

 

 僕が継ぐよ。その言葉はあえて口にはしなかった。

 軽くなった足取りでドアを開けて外へ出た。薄暗い部屋を出た先には太陽が燦々と照りつける世界が眼前に広がっていた。

 

「今は無理でも、いつかお兄さんに会ってデュエルする。その時、今のお兄さんさえもリスペクトして見せるっす」

 

 できるかどうかではなく、必ずすると言う誓いを胸に僕はデッキを胸に当てた。

 

 お兄さんが目を背けていたものが何かはわからない。もしかしたらリスペクトと言う精神が負担になっていたのかもしれない。

 それが何にせよ、今のお兄さんに向き合える自分にならないと答えは出ないだろう。

 

「僕は……僕がカイザーになるっす!」

 

 兄が捨てたものを継いで、リスペクトデュエルをしてみせる!

 1人、遠い異国にいる兄を思いながら、僕は誓う。どれだけ険しく遠い道のりでも必ず登り切って見せることを、僕は強く誓うのだった。

 

 




翔くんカイザーになる宣言! 描写はなかったと思うけど、翔君は最終的にカイザーになれたのかなあ?
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