初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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いいよねザナルカンド。


白の侵略

「うぁああああー!!?」

 

 学園のデュエル場で、敗北したデュエリストが叫び声を上げながら倒れていた。

 階下で行われるそれを見下ろす私の目に感情はない。どうでもいいという思いだけが瞳に宿っている。空虚な感情が心に散漫している、手摺りに頬杖をつきながら眺めていた。

 

「………光に忠誠を、光の結社の一員となり、斎王様のお力になります」

「うむ、これでお前も我らと同じ光の結社の1人となった。明日からはその証となる白い制服を見に纏い、生活するのだ」

「はい、万丈目さん……」

 

 デュエルに敗北した少年が、虚な瞳で自分を倒した万丈目くんに答えている。

 その心は今や斎王の力に洗脳され、彼のために戦う兵士となった。

 

 このところ、学園では万丈目くんや三沢くんといった実力者により次々と生徒が光の結社へと加入させられていた。

 今入ることになった少年もその1人、あの少年は今日この時から斎王の手駒となったのだ。

 それについて思うところはない。誰が光の結社に入り、誰がそれを邪魔しようとどうでもいいことだ。

 

「……退屈」

 

 その様子を見ながらポツリと呟く。両腕を組みながら満足そうに下の様子を見ていた三沢君が眉を上げて見てきた。

 

「ほう、愛理くんは暇か。俺は1人また1人と斎王様のお力になれる者が増えていくことに満足感を得るのだがな。コナミがいないのが原因か?」

「それもあるけど、私とあなたたちは目的が違うもの。斎王の勢力が増えようと、その計画が頓挫しようと興味ないわ」

 

 三沢君に私はつっけんどんな言い方で突き放すように話す。

 普段なら友人である彼にそんなことはしないのだが、今の私は少しばかり虫の居所が悪かった。

 

 今日はどうにも気がよくない日であったのか、お弁当作りがうまくいかなかったのだ。

 出来栄えで言えば普段の2割落ち、まあ最低限許していいラインと自分を慰められる程度の出来栄えだった。

 作り直すにも時間が足らず、そのまま愛しの彼に出すしかなかった。一応、いつものように美味しいと嬉しい感想はくれたのだけど、私からすればお世辞にしか聞こえず、そんなものを出してしまう自分の未熟が少しばかり恥ずかしかった。

 

 そんなことで、ということを隣の彼に話せば返ってくるかもしれない。所詮当事者ではない彼からすれば、そんなことと言える程度には些細なことなのだから。

 

「斎王様は何も言わないため俺も君のその姿勢には言うつもりはないが、他の者がいる場所では謹んでくれよ。厄介な感情をもたれかねん」

「……まあ、そうね。忠告は聞いておくわ。私も面倒ごとには巻き込まれたくないし」

「そうだな、その方がいい。ところで、君は何故ここにいるんだ。斎王様の仲間を増やすためでないとしたら何のために?」

 

 訝しげに彼は私を見てくる。月が闇夜を照らす時間、健康志向の乙女なら寮で眠っていても不思議ではない。

 そんな時間帯に普段はさしてデュエルにも斎王の計画にも興味を示さない私がここにいることが不思議なのだろう。

 私は手すりに肘を置いた姿勢でさも面倒そうに答えた。

 

「……デュエルのお勉強」

「勉強……君がか?」

「意外……?」

「まあ、そうだな。ああ、意外だ。うむ、なぜ、とは思うな」

 

 私の実力は特別高くはない。調子の良い時で明日香さんに勝てるというくらい。学園全体で見れば最上位層には届かないが、その一歩下くらいの評価だろう。

 しかし万丈目くんや他の人のデュエルを熱心に見て勉強するほど弱いわけでもないため、彼は意外に思ったのだろう。

 

「たぶん、もうすぐだと思うのよね」

「もうすぐ?」

「そ、もうすぐ。だからちょっと勉強しとこうかなあと思ったんだけど、あまり意味はなかったわね」

 

 やはり、高い実力者同士のデュエルでなければ見ていてもあまりためにはならない。

 私が見たかったのは弱者が強者を倒す、ないし反撃する場面であり、一方的な試合には興味はないのだ。

 そんな場面が見れるかもと僅かな可能性に期待を込めてここに来たが無駄足であった。

 

「どこへ行くんだ?」

 

 デュエル場の2階の手すりから手を離し、彼から背を向けた私に三沢君から声がかかる。その声には下でもうひとデュエル行わんとする万丈目たちを見ていかないのかと言外に込められていた。

 

「寮に帰るの。これ以上見ててもあまり勉強になら無さそうだし、夜更かしはよくないもの」

「そうか。あーそうだ。例のカード、もらったお礼を言えてなかったな。愛理くん、ありがとう。これで俺はコナミに勝てるよ」

「どうも。私には2枚も扱えないカードだからね。それで1番を目指してね三沢くん」

 

 にこやかにやる気に満ちた顔を見せる三沢君に、コナミくんを倒す望みは叶わないと思うけど、1番ならなれるかもねという意味を含んだ笑みを向けてデュエル場を後にした。

 

 

 

 

「そこっ! 線はもっとまっすぐムラのない塗り方をしろ!」

 

 太陽が燦燦と照らす中、男子オベリスクブルーの広場で万丈目君が白い制服を着た光の結社となった生徒に向けて声を張り上げて指示を出していた。

 彼の指示を受けた生徒はペンキと刷毛を片手に寮の屋根に登り、脚立に足をかけブルー寮の青い屋根や壁面を白く塗り固めるつもりらしい。

 

 それを少し離れた場所から見ながら制服だけに飽き足らず、よくやるものだと思う。

 

 通常はそんなことは許されないだろうが、すでにブルー寮の7割近くを白の結社に引き入れることに成功している彼らを止めれるものはいない。

 教師でさえ、見て見ぬ振りをしている。生徒の自主性を重んじると耳障りの良いことを言っていたが、本音はどうだか。

 

 クロノス先生やナポレオン教頭などは関わり合いになりたくないといった姿勢を誇示していて、その方が実際反発もされないため安全で懸命だ。

 今はもうこの学園で斎王を盟主とした光の結社を止めれる人はそうはいないだろう。

 

「万丈目くん! これは一体何をしているの!!」

 

 と、そのようなことをぼんやりとしながら考えていると、指示を出している万丈目くんに向かって近づいてきた人物がいた。

 目尻をあげて叱りつけるように声を荒げる人物は未だ光の結社に加入していないオベリスクブルー女子のクイーン、明日香さんだった。

 

「やあ天上院くん。今、この寮を真っ白に染め上げているところでね。シミひとつ存在しない美しい真っ白な寮へと、今に姿を変えていくところさ」

「何を勝手なことを! オベリスクブルーの象徴とする色は青よ。白ではないわ!」

 

 怒りを露わにしている彼女に対して万丈目くんはいたって冷静だ。余裕たっぷりという具合で対応している。

 

「万丈目くん、光の結社だかなんだか知らないけれど、最近のあなたたちの行動は目に余るわ。デュエルをして次々と色々な生徒を強引に加入させて、他の皆んなも迷惑しているのよ!」

「天上院くん、世界はやがて白く染まる。それはもう運命によって決められていることなんだよ。どうだい、流れに逆らっても辛いだけだ。君も僕らと共に光の導き共に結社に入らないかい?」

「誰がそんな胡散臭いものに入るものですか!!」

 

 口論している2人を見つめる。正確には口論しているのは明日香さんだけで万丈目くんはのらりくらりと避けている感じだが、まあ口論と言っていいだろう。

 

 周囲に目をやると、2人の会話を聞いてペンキを塗る手が止まっているブルー生徒や明日香さんに期待の目を向ける青い制服を着た生徒がちらほらといるのが見えた。

 

 このまま会話を眺めていてもいいけれど、2人の会話は平行線を辿るのは目に見えている。

 それを彼女もわかったのだろう。会話の矛先を万丈目くんから私へと向けることにしたようだ。キッと睨みつけるような視線をこちらに向けた。

 

「愛理、あなたもあなたよ! 昼間から公衆の面前でコナミとベタベタとひっついて。あなた人前でそんなことするような人じゃなかったでしょ!」

「んー、まあ以前の私はそうね。素直じゃなかったと言うか、変に周りを意識してたから。明日香さんも光の結社に入ったら、自分に素直になれるわよ。まあ、失うものもあるけれどね」

「くっ、あなたも万丈目くんと同じようなことを……」

 

 私の返答に苦々しく顔を歪める明日香さん。割と真面目に善意での勧誘をしたが、素直に入ることはないともわかっていたので、残念だとか特に思うところはない。

 

 ただ、惜しいなあとだけは思った。斎王の光の洗脳は確かに彼に逆らえないというリスクを背負うことにはなる。もちろん私はそんな制約には縛られないし、彼の指示にも逆らうことはできるけど。

 

 彼の洗脳の特筆すべき点として自分の願望に素直になれると言う利点がある。特に明日香さんや以前までの私といった変な生真面目な性格をした人には効果覿面、特に有効に働いてくれる。

 

 変に周囲やルールに気を配って自分を縛り付けることなく、望みに向かって一直線に全速前進することができる。

 絶対その方が開放的で良いと思うのだが、側から見ると人が変わったように見えるのでよろしくない状態に感じるのかもしれない。

 

「どうしても私たちを光の結社から脱退させたいならデュエルで決着をつければいいじゃないですか。明日香さんがその気なら受けますよ、私」

「デュエルで?」

「ええ、万丈目くんたちがデュエルで加入させているのと同じです。私たちはデュエリストなのですから、要求があるからデュエルで決着をつけてしまうのが1番でしょ。ねっ、明日香さん」

 

 加入するにするにせよ脱退させるにせよ、結局はデュエルで決めなければ私たちは納得はできない。デュエリストとはそう言う生き物だ。

 

「ほう、それはいい案だ愛理くん。この万丈目準! 君の誘いには喜んで受けて立とうとも!!」

「……そうね。言葉で言ってわからないなら実力でわからせるしかないわね。やるわよ万丈目くん!」

「あーまってまって! 明日香さん、どうせやるなら私とやりましょ。いいでしょ私とやっても!」

「愛理と……?」

 

 やる気満々に2人がデュエルで決着をつけることに賛同して今にもこの場で始めようとしたのを私は慌てて両手を振って止めた。

 明日香さんとデュエルしたいがためにわざわざ提案したのだ。それを万丈目くんに先にされてしまうのは困る。

 彼女とデュエルするのは私が先だ。

 

「私はどちらが先でも構わないわ。どっちにしても愛理も変な結社から脱退させるつもりだから」

「ふむ、俺も構わない。だが、愛理くん、君の実力を疑うわけではないが、天上院くんの相手は君には荷が重いのではないだろうか。万が一負けて脱退となれば斎王様に迷惑が……」

「大丈夫よ万丈目くん。丁度新しいデッキの調整がしたいところだったの」

「調整ですって?」

「うん、対コナミくんように作ったデッキなんだけど、実戦はまだだから強い人とデュエルしておきたかったの」

 

 三沢くんとのデュエルの時のデッキではパワー不足だった。だから負けそうになったし、三沢くんより強いコナミくんにはとても歯が立たないと思う。

 

 あれから少しして、あのデッキをさらに改良して強くした。自信はある。

 だけど、実際に強い人と戦ってどの程度やれるのかを確かめれていない。だからこの機会にデュエルしようと提案したのだ。

 私より少しばかり強い明日香さんはその相手にぴったりなのだ。

 

「そう、つまり私は本番への前座ってわけ。舐めてくれるじゃない」

 

 私の言葉に剣呑な視線を向けてくる明日香さん。

 

「うーん、強いから指名してるんだけど、前座って言われたら否定もできないなあ」

 

 勝てる確信があって挑むわけじゃないから本当に舐めてるわけではないのだけど、そう受け取られたら否定もできない。

 信じてもらうこともできないと思う。

 

「いいわ。場所を変えましょう。デュエルをするならデュエル場で!」

「うん、それじゃあ行きましょうか。明日香さん」

 

 

 

 

「愛理くん、例のカードを明日香くんに使うのか?」

「あっ、三沢くん」

 

 デュエル場へと万丈目くんや明日香さんと歩く私に後ろから追いついてきた三沢くんがボソリと話しかけてきた。どうやらブルー寮前での話を彼も聞いていたらしい。

 全然見かけなかったけど、どうやらいたようだ。

 

「ううん、あれはコナミくんへのとっておきだから。情報を与えたくないから使わないわ」

「そうか。明日香くんは強い。油断しないようにな」

「わかってる。ありがとう三沢くん!」

 

 不安がないと言えば嘘になる。斎王から奪っ……もらったカードを使わないのはある種のハンデを与えているようなものだ。

 それでも私は明日香さん相手に勝てると思っている。それを可能にするカードを私は手に入れている。かなり渋られたけど、頼み込んだ結果お父さんが用意してくれた。

 

「ルールは私が負けたら光の結社を抜ける。代わりに私が勝ったら明日香さんが光の結社の一員になる。それでいい?」

「もちろんよ。私を舐めたこと。後悔させてあげるわ!」

「ふふ、楽しみましょ。せっかくのデュエルなんだから……ね!」

 

 デュエル場に着いた私たちは向き合いデュエルディスクを構えていた。デュエル場の観客席は私を応援する白い制服を着た生徒でいっぱいだ。

 だけど明日香さん側にも応援してくれる人がいないわけではない。

 

 彼女の後ろにはどこからか聞きつけてきたのかコナミくんや十代君といったいつものメンバーが集まっている。

 

「コナミくーん! そこで見ててね、私の活躍するところ!」

「あーうん。頑張ってね愛理ちゃん」

 

 腕を大きく振る私に彼は小さく手を振りかえして何とも言い難い表情で応えた。立場的に明日香さん側なんでしょうね。

 イマイチ私への応援の力がないわ。ちょっと悲しいけど、まあいいわ、彼との戦いはもうすぐだろうし、私のモノになるその時を待ちましょう。

 

「頑張れよー明日香。事情はよくわかんねえけど、愛理をそのなんとか結社とやらから助けてやれ!」

「わかっているわ十代。私は必ず勝って愛理を助けて見せる!」

 

 明日香さんを応援する十代くんたちを万丈目くんや三沢くんたちは白い目で見ている。

 十代くんの強さを知るが故に斎王の1番の障害になりかねないとでも思っているのかもしれない。

 

 お互いの応援してくれる人たちの声援を背に準備の整った私たちは視線を交わしてデュエル開始の息を合わせた。

 

 

「「デュエル!!」」

 

 




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