「先行は私よ! ドロー!」
電光に見下ろされた会場の下、勢い良くデッキからカードを引いた明日香さんを、私は何ともなしに眺めていた。
(このデュエルはあくまでこのデッキの最終調整のためのデュエル。たぶん勝てるとは思うんだけど………明日香さん次第かなあ、やっぱり…………)
斎王のところから持ってきたカードとは別に用意しているとっておきのカード。それがあれば多少のデュエルの実力差は覆せると自信を持って言える。
ただ、それでもどこまで行けるかわからないのはやっぱり実戦を経験していないからだろう。
私はそのカードの登場を楽しみにしながら明日香さんの行動を見つめていた。
「私は手札からヘカテリスを墓地へ捨てることでデッキから神の居城ーヴァルハラを手札に加え、発動! 私の場にモンスターが存在しない場合、手札から天使族を特殊召喚できる。私は手札から光神機ー桜火を特殊召喚!!」
《光神機ー桜火》 攻撃力2400 守備力1400
あら、珍しい。明日香さんの場に召喚されたそのモンスターを見て最初に思ったのはそんな感想だった。
私の知る限り、明日香さんのデッキは戦士族、それもサイバー・エンジェルや可愛らしい女性型のモンスターに偏っている認識だ。
だからその白い鋼鉄の体に天使族の証であるこれまた鋼鉄の羽根。そして桜火の名前の通り、全身の節々から桜色の発光をした犬型のモンスターの登場には少しだけ予想外という風に驚かされた。
「まだ行くわよ。さらに私はマンジュ・ゴッドを攻撃表示で召喚するわ。その効果でデッキから機械天使の儀式を加えて、これでターンエンドよ」
「召喚まではしない………か。私のターン、ドロー!」
《マンジュ・ゴッド》 攻撃力1400 守備力1000
上級モンスター1体に下級が1体。それに手札には恐らく私が召喚するであろうモンスターの対応をするための儀式モンスターの準備がある…………ね。
うーん、無駄がないわあ。伏せカードこそないものの、仮に桜火が突破されても大した問題にはならないように整えられている。
私のデッキは最序盤からバンバン行けるタイプじゃないのよね。だからこのターン私がするべき戦術は…………。
「私は手札から終末の騎士を攻撃表示で召喚。このモンスターは召喚された時、デッキから闇属性モンスターを墓地へ送れる。私は混沌の黒魔術師を墓地へ送るわ」
「いきなり混沌の黒魔術師を墓地へ…………蘇らせるつもりね」
《終末の騎士》 攻撃力1400 守備力1200
明日香さんがポツリと呟く。それに当たらずも遠からずと内心で答えながら私は手札から一枚のカードを発動させた。
「そして封印の黄金櫃を発動。デッキからカードを1枚、この黄金櫃に封じて2ターン後のスタンバイフェイズに手札に加えるわ」
私の前に現れた黄金櫃に1枚のカードが封じられる。2ターン後の未来に解かれるその封印に目を通しながら、カードを伏せた。
「さらにカードを2枚伏せて、それでターンエンドよ」
「それで終わり? てっきり混沌の黒魔術師を蘇らせてくるかと思ったのだけど、計算違いだったかしら」
「さあ、或いは今伏せたカードで蘇ってくるかも。開けてみてからのお楽しみね」
「そう……私のターン、ドロー!」
怪訝な顔を見せる明日香さん。そんなに即座に墓地から召喚しなかったのが疑問だったのかしら。墓地に送ったのは意味があるからだけど、蘇生がなかったのは純粋に手札に蘇らせるカードがなかっただけなんだけどなあ。
「私は撲滅の使徒を発動! あなたの伏せたカードを1枚破壊して除外。それがトラップなら同名カードをお互いのデッキから除外するわ」
「あら、それは困るわ。私はそれにチェーンしてマジック・ドレインを発動。撲滅の使徒を無効。だけど、明日香さんが手札の魔法カードを捨てれば無効にされない。どうします?」
「…………くっ、私は捨てないわ」
「なら、撲滅の使徒は無効ですね」
苦虫を嚙み潰したように渋い表情を見せる明日香さん。どうやら余程私のリバースカードを破壊したかったと見える。
まあ、手札に機械天使の儀式しかないなら捨てれないでしょうしねえ。マジック・ドレイン以外の1枚を排除しておきたかったんでしょうね。
「なら、私は機械天使の儀式を発動、手札のサイバー・プリマと場のマンジュ・ゴッドを素材にサイバー・エンジェルー茶吉尼ーを儀式召喚ッ!!」
《サイバー・エンジェルー茶吉尼ー》 攻撃力2700 守備力2400
「このモンスターが召喚された時、あなたは──」
「自分のモンスターを墓地へ送らないといけない。でも、その前にこのカードを発動しておきましょっ! 私は激流葬を発動! 場のモンスターをすべて破壊よ!!」
「──なっ!?」
激流葬──自分の場のモンスターも含めた全モンスター除去のカードだけど、三沢くんとのデュエルでやっぱり強いなあと思って入れておいて正解だったわ。
おかげで明日香さんが召喚した超強力な茶吉尼も桜火もまとめて一層できちゃったんだから。お得・お得ってやつね!
「やるわね、激流葬を伏せていたなんて、でもおかげであなたの場は空いたわ」
「んーこれ、もしかしてまずい状況?」
茶吉尼を破壊されて多少落ち込んだかなっと思ったんだけど、思ったよりダメージが少なそう…………というか私がまずそうだわ。
あの余裕、もしかして私、やらかしちゃったかしら。このターンを生き残れるといいんだけど…………。
「私は800ポイント払うことで手札から契約の履行を発動! 墓地の儀式モンスター、今破壊された茶吉尼を特殊召喚するわ!!」
「あちゃー」
《明日香》 残 LP 3200
《サイバー・エンジェルー茶吉尼ー》 攻撃力2700 守備力2400
激流葬が流された結果スッキリとした場に4本の腕に剣を携えた青い体の女性型モンスターが再び召喚された。
効果こそ発動しないものの、その攻撃力をまともにくらえば大ダメージは必至だった。
「バトルよ! 茶吉尼で愛理にダイレクトアタック!!」
「──きゃぁあああ!!?」
《愛理》 残 LP 1300
茶吉尼の四本の剣が私を切り裂き少なくないダメージを与えてきた。それに苦悶の表情を見せながらも、追加召喚されなかったことでライフが残った事実に私は安堵していた。
(よかったわあ。召喚権も神の居城ーヴァルハラもあったから最悪このターンで終わる可能性があったものね。茶吉尼が出てきたときはヒヤヒヤしたけど、生き残れてよかった♪)
そんなことを想っていることなどおくびにも出しはしないが、私はふぅーと胸に手を当てながら息を吐いて心を落ち着けた。
「私はこれでターンエンドよ。どうかしら、これでもまだ私を前座扱いするの愛理」
「ええ、やっぱり強いわ明日香さん。でも、やっぱり前座は前座。本番前のための練習には変わりないわ。私のターン、ドロー!」
「──そう、まだわからないようね。いいわ、わからないなら勝って教えてあげることにするわ」
低くなる声のトーン。彼女は不愉快という気持ちを隠さないし、そう思われて当然のことをしているのは理解しているから、深くは突っ込まない。というか怖いからあんまり反応したくない。
けど、今ので倒されなかったならもう怖くはない。このデュエルは私が勝つ…………!
「私のターン、ドロー! 私は手札からファントム・オブ・カオスを攻撃表示で召喚!!」
「ファントム・オブ・カオス…………?」
「あっ知らない? このモンスターは墓地のモンスターを除外することでこのターンだけそのモンスターになれるの。つまり、混沌の黒魔術師を除外することでそのステータスを得られるってこと!」
渦を巻いた黒い影がうねうねと蠢きながら姿を変えていく。その姿はやがて混沌の黒魔術師の様相をていし固定された。
《ファントム・オブ・カオス(混沌の黒魔術師)》 攻撃力2800 守備力2600
「これは…………!」
「さあ、バトルだよ。ファントム・オブ・カオスでサイバー・エンジェルー茶吉尼ーを攻撃、ファントム・オブ・デス!!」
「──っ!?」
混沌の黒魔術師の幻影となったファントム・オブ・カオスが杖から黒い電の攻撃を放ち茶吉尼を破壊する。
このモンスターはあくまで幻影だからダメージは与えれない。けれど、効果は扱えるため茶吉尼は除外されて明日香さんのデッキでは早々戻ってこれなくなった。
つまり、実質これで強力なカードは消えてくれたってことね。
「ふふ、私はカードを伏せてターンエンド。ターンを終えたことでファントム・オブ・カオスは元に戻る。攻撃力0の状態にね」
「ライフは減っていない。けれど効果は扱える、そういうことね。でも、茶吉尼を倒せてご満悦のようだけど、あなたのライフは残り1300。攻撃力0のそのモンスターを破壊すれば私の勝ちよッ! 私のターン、ドロー!」
彼女の言う通り、ファントム・オブ・カオスはとっても便利なモンスターなんだけど棒立ちになるのがなあ。
明日香さんの手札は2枚。そのうちの1枚が私のライフ以上の攻撃力を持っているモンスターだったら辛いことに…………。
「私はモンスターを伏せてターンエンドよ」
「──! よかった、綱渡りだったけど、私のターンが来たわね。ドロー!」
私がカードを引いた瞬間、地面から這い出てくるように黄金櫃が現れてその固く閉ざされた蓋が開いてきた。
「黄金櫃の効果により私は封じていたカードを手札に加えるわ」
「いったい何を手札に…………」
それは私のとっておきのカード。このカードを出せさえすればほぼゲームエンドへと持って行けると思えるほどの強力な効果を持っている。
ただ、召喚条件がねえ。ちょっと難しいのよねえ。明日香さん相手に出せるかしら…………?
「まあいいわ、私はリバースカード 闇次元からの解放を発動。除外されている闇属性モンスターを特殊召喚できるわ」
「除外されている…………混沌の黒魔術師ね!!」
「ご明察、来てね。混沌の黒魔術師を特殊召喚!!」
《混沌の黒魔術師》 攻撃力2800 守備力2600
今度は幻影ではない。確かな実体──ソリッドビジョンだけど──をもった状態の混沌の黒魔術師が召喚された。
「さらに、混沌の黒魔術師が召喚されたことで効果が発動。墓地から魔法カードを回収できる。私は墓地にある………まあ黄金櫃しかないわね。それを持ってきて発動しておくわ」
再び現れた黄金櫃に適当なカードを封じ込める。あと2ターン、そこまでデュエルが続く予感はあまりしないから、万が一の事態のカードを適当に見繕って選んだ。
「バトル、混沌の黒魔術師で明日香さんの守備表示モンスターを攻撃、破滅の呪文!!」
ファントム・オブ・カオスの効果は使わない。使えば終末の騎士の攻撃力を取り込めるけど、万が一を考えたら、安全策で守備でとどめておくのがいい。
何より墓地のモンスターをこれ以上減らしたくはない。
果たしてその考えは当たっていたようだ。混沌の黒魔術師の攻撃を宣言した瞬間、明日香さんの口元にしてやったりと笑みが生まれて、破滅の呪文を受けたモンスターの正体を現した。
「かかったわね! あなたが攻撃したのはマシュマロンよ! 裏側守備表示のこのモンスターが攻撃された瞬間、あなたに1000ポイントのダメージを与える!!」
「うぃッッたーい!?」
《マシュマロン》 攻撃力300 守備力500
ピンク色のとってもキュートなマシュマロのようなぷにぷにとしたモンスター、マシュマロンはその口から鋭い牙をむき出しにしながら私の腕に噛みついた。
それに思わず叫びながらマシュマロンを振り払って涙目で噛まれた腕をに息を吹きかけた。
《愛理》 残 LP 300
「マシュマロンは戦闘では破壊されない無敵のモンスター。あなたのカードでは突破できないわ」
「そうねえ、混沌の黒魔術師じゃあ突破はできないし。私はファントム・オブ・カオスを守備表示にしてターンエンドするわ」
あわよくば混沌の黒魔術師だけでこのデュエルに勝つことでこのカードを使わず終えれるかもと思ったのだけど、そう上手くはいかなそう。
やっぱり、召喚条件は少し難しいけど、この子を使うことになりそうね。私は手札の中にある1枚のカードに目を細めた。
「私のターン、ドロー! 私は手札からサイバー・チュチュを攻撃表示で召喚!」
「サイバー・チュチュ、直接攻撃を行える効果を持っているけど…………」
「そのためにはあなたの場に攻撃力が高いモンスターだけがいないといけない。だから、まず邪魔なファントム・オブ・カオスを攻撃よ! ヌーベル・ポアント!!」
《サイバー・チュチュ》 攻撃力1000 守備力800
緑色のサンバイザーをつけた可愛らしいモンスターであるサイバー・チュチュが身を可愛らしく翻しながらバレリーナのように回転させ勢いよく蹴り上げることでファントム・オブ・カオスは破壊された。
それを見ながら内心で呟く、残り一体と…………。
「そして私はカードを伏せてターンエンドよ!」
黒い霧となり消えていったファントム・オブ・カオスを見ながら明日香さんを見る。
混沌の黒魔術師がいる状況で攻撃力が低いサイバー・チュチュを躊躇いなく攻撃表示で残した。つまりあの伏せカードは………ドゥーブルパッセの目算が高い………のかな?
「なら、ふふ、このターンでケリをつけましょう。私のターン、ドロー! 私は手札から大寒波を発動! 次の私のターンまで、お互いに魔法・罠の発動及びセットはできないッ!!」
「大寒波ですってっ!? 何故そんな扱いづらいカードがッ!??」
驚き叫ぶ明日香さんを余所にフィールドを吹雪が吹きすさび、明日香さんの場のリバースカードを凍り付かせた。
それを見ながら、私は勝利を確信して笑みを浮かべた。
「さらに私は手札からD.D.クロウを墓地へ送り、明日香さんの墓地にある撲滅の使徒を除外するわ」
「撲滅の使徒を除外………それに何の意味が…………?」
意味なんてない。除外するカードなんて何でもよかっただけよ。このカードの召喚条件を満たすためにね♪
「さーて、これで条件は整ったわ。このデュエルを終わらせましょうか明日香さん!」
「なんですって!?」
「このモンスターは強力だけど、通常召喚できない上に、墓地に闇属性のモンスターが3体のみの場合だけ特殊召喚できるの。今、私の墓地にあるモンスターは3体。いずれも闇属性よ」
「なに、その召喚条件は………聞いたこともない…………」
私の言葉に驚き目を見張り動向を見つめる明日香さん。私は勝利を確信した笑みを浮かべていた。
墓地のモンスターは終末の騎士、ファントム・オブ・カオス、そしてD.D.クロウ。これでデュエルを終わらせる力をもつカードが出せるわ。
「これが私の切り札よッ! 私は、手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚ッッ!!!」
「こ、これは──ッ!!?」
《ダーク・アームド・ドラゴン》 攻撃力2800 守備力1000
混沌の黒魔術師の隣に膨大な闇を吐き出しながら召喚されたのは伝説のカードとも呼ばれる万丈目くんが持つアームド・ドラゴンLV10を闇に染めたモンスターだった。
他を威圧する圧倒的な暴の気配を漂わせるそのモンスターは全身に鋭い刃物を身につけた極めて凶暴なモンスターだった。
そのモンスターの登場に、会場中がざわつかせている。見たことも聞いたこともないカードの登場に、明日香さんも含めた誰もが驚愕の眼をそのモンスターへと向けていた。
「このモンスターは墓地の闇属性のモンスターを除外するたびにフィールドのカードを破壊できる。私は墓地の3枚のモンスターを除外。明日香さんの場のカードすべてを破壊するわ」
「なんですって!! 1ターンに3枚ものカードを破壊できるというのッ!!?」
「ふふ、やりなさいッ! ダーク・ジェノサイド・カッターッ!!」
雄たけびを上げながらダーク・アームド・ドラゴンが全身につけた刃から黒いかまいたちを放ち明日香さんのカードを切り刻んでいく。
その力の前では戦闘において無敵のマシュマロンでさえ耐えきることもできず無残に消えていく。彼女のカードを蹂躙するかまいたちが終わった時、明日香さんを守るカードは1枚として存在しなかった。
「──くっ!」
「これで、道が空きましたね。さあ、これで終わりですっ! 混沌の黒魔術師とダーク・アームド・ドラゴンでダイレクトアタック──ダーク・アームド・バニッシャー!!!」
混沌の黒魔術師が飛び上がり、杖から強大な雷を明日香さんへと撃ち放ち、それに続くようにダーク・アームド・ドラゴンが剛腕に溜め込んだ黒いエネルギー弾を勢い良く振りかぶりながら放った。
あまりの展開に驚愕し身を守ることも忘れた明日香さんはその2体の攻撃を全身で浴びることで、大声を上げながらライフの消失を感じるのだった。
「キャァアアアアッ!!?」
《明日香》 残 LP 0
アニメ世界だと希少そうで誰も持ってなさそうな超強いカードって何かないかなあと思って、時代的なことを考えたらこいつ最強だろと思ったのでダーク・アームドに出張してもらいました。
ボチヤミサンタイは当時基準で見て最強。
アニメ世界のカードの手の入り辛さを考えたら3積みできない点を考えてまあアリかなと。あの世界強いカードは基本ピン刺しっぽいしね。