初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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最近疲労が溜まりやすい。スッゴイぐったりしやすいんだよなあ。


満ち満ちる時

『お兄ちゃ──ん!!』

『ははは!! 明日香、ここまできてご覧!!』

 

 髪を伸ばした少年が草原の丘に立つ大きな樹の上で根元から少年へと手を伸ばしている金髪の少女に声を出している。

 草原の丘には大きな樹と少年と少女以外には何もなかった。彼らの保護者である親も、家も、友達も、何もなかった。

 

 天の青空にはまばらな白い雲が千切れた綿飴のように伸びている。星の上から世界を照らす太陽の光は樹の直上真っ直ぐの位置から動かない。

 この世界は2人の少年少女だけが存在する幸せな1ページを切り取ったようであった。

 

 そんな幼少期の一時の思い出を見つめる私と明日香さんがいる。明日香さんは私の方を見ない。

 その視線は2人の子供の方に釘付けで私の存在には気づいていないのかもしれない。

 どこか、その目には郷愁にも似た感情が浮かんでいた。

 

「あの2人、幸せそうですよねー。この一瞬が永遠であってほしい。そんな気持ちが伝わって来るぐらい幸せそう」

「……愛理。そう、そうなのね。私、負けたのね」

 

 声をかけて初めて気づいたように虚な目をこちらに向けて呟く明日香さん。

 ここがどこで、どうなっているのかはわからなくても、それがデュエルに負けた結果だと言うことには気づいているみたいだった。

 

「私、これからどうなるの。万丈目くんやあなたのように可笑しくなるのかしら」

「ふふ、それはあなた次第よ明日香さん。あなたがどんな自分を望むか。それがあなたの未来を決めるわ」

「私の……望み?」

 

 不安そうに私を見る彼女に優しく告げる。これからあなたは斎王の手先となって光の結社に入る。それは変わらない。

 デュエルに敗北したあなたに拒否権はない。でも、その先の自分の在り方は自分自身で決めることができると。

 

「斎王の洗脳は確かに強力だけど、それはその人の願望に沿った形から外れないから深く浸透するの。本人の望まない在り方を強制するようなら、そこまで怖い力ではないわ。自ずと自然に解けて解放されるでしょうからね」

 

 洗脳は斎王の力によるものだけど、それほど強力なものではないのだ。彼の力の本質は運命を読み解き、未来を知る力であって、人の心に干渉する力ではないから。

 

 その力はあくまで副次的なもの。目的のために仕方なく活用しているに過ぎない。そのため、洗脳一つにそこまで力を割いてもいない。

 きっかけさえあれば自ずと解けてしまうのだ。

 

 何なら、洗脳するのに一々デュエルで勝たないと、なーんて制約があるくらいだ。その力の弱さもしれると言うもの。占いにはそんな過程必要ないと言うのにね。

 それでも一定の成果をあげれているのはそれが洗脳される側の心に寄り添ったものだがら。

 だから、彼女が恐れているほど、悪い結果にはつながらない。斎王の目的はどうあれね。

 

「そう。そうなのね。愛理、私はどんな私になるのかしら」

「そうねえ、明日香さん、あなたには3つの道が示されているわ。その道のどれを選び取るか。それがあなたの未来となるわ」

「3つの道……?」

 

 指を3本立てて言う私に彼女は鸚鵡返しのようにぼんやりとした言葉を返す。

 

「そっ、3つの道。1つは今のあなたと同じ自分。平穏で変わらない日常を送る自分。勤勉で品行方正で、オベリスクブルー女子の女王の名に恥ない自分。

 だけど何も変わらない、どっちつかずで中途半端。本心に素直になれず周囲の人たちや規則に縛られて恋にもデュエルにも全てを捧げれない明日香さん。

 何も手にすることはないけれど、何を失うこともない未来。これが1つ目の道、平穏無事な平坦でなだらかな変わらないあなた」

 

 彼女に向けた指を一つ折って言う。視線を樹の下で戯れている2人の子供に向ける。

 あれが彼女の原風景。とても大切な記憶で、失い難いもの。愛おしそうに彼女はそれを見ている。

 

「2つ目はデュエルに全てを捧げる道。家族や友達に対する甘さを捨てて本気でデュエルに望む道。この道を選ぶことで明日香さんは友人も、もしかしたら家族との絆さえ失うかもしれない。

 だけど甘さを捨てたことでこれまでにない強さを得られる。デュエルの強さはもちろん、あなたが目指している未来に最短で近づけるわ。

 迷わない強さの代わりに大切なものを捨てていく未来。冷たく悲しさすら感じるけど、夢に向かってひた走るあなたは何よりも美しく輝くわ」

 

 丘の樹の隣に白い制服を纏うもう一人の明日香さんが現れた。それは冷たい瞳で全てを見つめ、立ちはだかる障害の全てを容赦なく薙ぎ倒していく。

 愛も情けもない、迷いすらない一本筋の通ったする後ろ姿。まっすぐ伸びたその姿を私の隣の明日香さんは羨望のような目で見ていた。

 正直、個人的にはあまり選んで欲しくはない未来である。切り捨てる強さを得た彼女は美しいけれど、悲しいから。私は2つ目の指を折った。

 

「3つ目は恋の道。これは私一押しの道ね。できればこの道を選んで欲しいわ。1人の女として、友達として本気で応援してあげるしなんなら手伝ってもあげる」

 

 樹の隣にもう一つの光景が生まれた。そこには明日香さんと十代くんが仲睦まじそうに腕を組んで歩いている姿。

 明日香さんは幸せそうに、十代くんは戸惑い気味に受け入れている。イメージでさえ彼が戸惑い気味の反応をしているのはたぶん、十代くんが自分に恋する姿がイメージできないからね。

 明日香さんは目を見開いて信じられないと言いたげに見ている。

 

「未だ蕾の恋心。でもいずれ花開くことは決まっているものでもあるわ。自覚はないかもしれないけど、あなたが本気で彼を落とそうとすれば鈍い十代くんであってもきっとあなたのものになる。

 この道を選べば素晴らしい青春を送ることができるわ。通常あなたが選ばない甘い恋心に本気になれる。洗脳された状態ならその気持ちに躊躇うこともない、明確な利点ね。

 愛する男性と共にいられる未来。もしかしたらデュエルの強さを失うかもしれない。でもそれはささやかなもの。1番大切な人の隣に居られるなら、幸せに翳りが生まれることはない。デュエルが大好きな彼と共にいれば、少なくとも弱くなることだけはないしね」

 

 未だに戸惑いその光景を見つめている。すでに向こうの2人は家族や友人たちに囲まれながら教会で式を挙げていた。

 ウエディングドレスをきて微笑む彼女を見ると、ぜひこの道を選んで欲しいと心から思う。

 きっと1番幸せになれると思うから。

 

「私は……どうすれば……」

「決めるのは明日香さんよ。私が何を言っても、あまり意味はないわ。大切なのは、理屈ではなくてあなたの心が望んでいる道を選ぶことよ」

「私の…心……」

 

 明日香さんは焦点の合わない顔を俯けて悩むそぶりをした。ギュッと閉じた瞼の裏に理性と願望とのせめぎ合いが起こっている。

 私は辛抱強く彼女が決断する時を待った。ここでの時間の進みはないに等しい。いくらでも迷っていいのだ。

 思う存分、悩んで決めてくれていい。私はいつまでも待つつもりだった。

 

「……決めたわ。私はこっちを行くわ」

「そう、そっちでいいのね?」

「ええ、私はデュエリストよ。この道を進むわ」

 

 顔を上げ強い瞳で先を見つめる視線には牧歌的な仲睦まじい家族の光景でも、恋する少女として当たり前の幸せを求める場所でもなかった。

 

「ここでの記憶は失うけれど、ここであなたが選んだ事実は決して消えることはない。それが良いことか悪いことかは私にはわからない。でも、後悔だけはすることはないわ。

 保証してあげる。その道はあなたの1番欲する願望が示した道。それが失敗に終わったとしても、決して後悔に濡れた未来にはならないわ」

 

 強い足取りで前へと踏み出した明日香さんの背中にかけた声に彼女は反応はしない。真っ直ぐに迷うことのない歩みでその場所を目指している。

 彼女は最後まで振り返ることはなく視線の先にいる冷たい瞳をした彼女に重なり、強いデュエリストになるために全てを捧げる人になった。

 

「──残念ね。その道は1番選んでほしくはなかったわ。でも、祝福してあげる。おめでとう、明日香さん。恋も家族も捨てたあなたは強くなれるわ」

 

 道が定まったことで世界に氷が包んでいく。安らかな草原も愛に満ちた世界も氷のように割れて溶けていく。その背にもはや届くことのない言葉を紡ぐ。彼女の心から私が消えていくのを感じる。

 私が世界から消える瞬間、彼女の冷たい瞳から流れ落ちた雫が見えた気がした──。

 

 

 

 

「明日香──ッ!!?」

 

 ダーク・アームド・ドラゴンの攻撃により明日香さんの姿が見えなくなるほどの爆煙が衝撃音と共に立ち昇った。

 そんな彼女を心配するように吹雪さんが叫んでいた。

 煙が晴れ倒れ込んだ明日香さんに駆け寄る彼らはデュエルに負けた彼女を心配そうに見つめている。

 

「明日香、大丈夫かい」

「なーに、今回は負けちまったけどいいデュエルだったぜ!」

「……ええ、ありがとう兄さん。私は大丈夫よ」

 

 立ち上がった明日香さんは吹雪さんも十代君も見ていない。その目は真っ直ぐと私に向かっていた。

 

「愛理、曇っていた目が覚めたようだわ。これが、光の結社に入った者が見る世界なのね」

「……細かいことは万丈目くんにでも聞いてね。私はそこらへん興味ないから」

「そう? まあいいわ。ありがとう愛理。私の目を覚さましてくれて」

「どういたしまして。運命はあなたの味方よ。決して裏切ることはないわ」

「お、おい明日香。どうしちまったんだよ!」

「明日香……?」

 

 デュエル前と後で様子が変わった彼女に戸惑い疑問の声をかける十代君たち。

 どこか様子のおかしな反応をする明日香さんに戸惑っているようだ。

 

「兄さん、十代、私は今日この時から光の結社の一員となった。世界を光に満たすため彼らと共に行動する同志となったのよ」

「な、何をいっているんだ明日香。こ、これは……どう言うことだ、明日香!!」

「ふふふ、真実の光に目覚めたのよ兄さん」

 

 酷薄な笑みを浮かべる明日香さんに彼女の味方である誰も彼もが動揺を隠さないでいた。

 デュエルで敗北しただけで人が変わったように、発言が180度変わっている。それは私たち側からしてみれば見慣れた光景だけど、彼らからしたら不思議でならないだろう。

 

「そう言うわけだから、明日香さんは今日から私たちの味方よ。じゃあね皆んな、コナミくん」

「愛理ちゃん!!」

「ふふ、コナミくんもすぐに迎えに行くから、期待して待っててね」

 

 明日香さんを連れて会場から去ろうとする私の後ろからコナミくんの声が響く。

 私は軽い笑みを向けながら、コツコツと立ち止まることなく会場から去った。

 

 

 

 

 部屋に戻った私は机にカードを並べてデッキの再調整を行っていた。

 

(私のダークモンスターは明日香さんにも通じた。格上の実力者てあっても、勝利を得られる強さがこのモンスターたちにはある)

 

 机の上に並べられた幾枚ものカード。そこにはダーク・アームド・ドラゴン以外の使用されなかった闇に堕ちたカードが存在していた。

 だけど、まだ足りない。コナミくんに勝つには、あと一手必要だ。そのためのカードはもう手に入れている。

 星の名を持つカードが私の手に……。

 

 私は明日香さんとのデュエルでは入れていなかったカードを取り出し、デッキに投入した。

 これが彼とのデュエルでは切り札となる。

 

 ダークモンスターは見られた以上、対処される可能性はあるが、このモンスターは初見ということになる。

 知られていないと言うのはそれだけで有利に働いてくれる。情報アドバンテージは有効な手段だ。

 彼とのデュエルでも、さぞ素晴らしい働きをしてくれるだろう。

 

 そうして出来上がったデッキを置いて、固くなった体を伸ばしていると、ピピピと私のPDAが鳴った。

 それは誰かからのメールの着信音であり、私はそれを確認しなくとも、中身がわかっていた。

 

「斎王からのメールね。ふふ、ようやくデュエルできるのね。待っててねコナミくん。すぐに私のモノにしてあげるからね」

 

 それはまるで夢見る少女のように、恋焦がれる少女のように、私は蕩けた瞳と笑みで彼との逢瀬の時を思い焦がれ続けた。

 

 




斎王の洗脳はようわからんところが多い。三沢みたいに自力で戻ったり十代に敗けて正気に戻ったりするから割と弱いのかなって印象。
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