初心者粉眠くんのデュエル日誌   作:XX

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夢で低評価の嵐を喰らう夢を見てちょっと落ち込んでた。自己評価の反映なんだろうけど、どうせなら逆の夢を見せて欲しいものです。


歪み満ちる愛

 〜〜〜〜♪

 ブルー寮の大広間に音楽が流れていた。ヴァイオリンやピアノが奏でる演奏と共に生徒たちは思い思いに過ごしている。

 音楽と共に讃美歌がどこからか聞こえてくる。讃美歌なんて高尚なものを好き好んで歌う生徒がいるとは思えないため、斎王様の趣味でオーディオか何かから流しているのだろう。

 

「どうした三沢。随分と機嫌が悪そうじゃないか。せっかくのパーティーだと言うのに雰囲気を乱すものじゃないぞ」

「万丈目か。別に、機嫌が悪いと言うわけではないさ。ただ、斎王様のご指示とはいえ、コナミのやつは俺が倒したかったと思っていただけだ」

 

 俺は長テーブルに置かれたジュースを一口飲んでため息をついた。そう、コナミは俺が倒したかった。

 皆の前で俺が奴を倒すことで1番になりたかったのだ。

 

「そう思う気持ちはわからないでもないがな。斎王様が愛理くんに任せると言ったのだ。仕方ないだろう」

「わかっている。わかってはいるんだ。終わったことだし、あの方の指示に反するつもりはない。ただ、心の整理がすぐにはつかないだけだ」

 

 優雅に皿に盛った食事を食べながら話す万丈目に俺もまた食事に手をつける。

 

 何故愛理くんだったのか。勝ったからいいものの、愛理くんよりも俺の方が勝率も勝ちたいと言う思いも強かったはずなんだ。

 それに俺があの方の力になることを選んだのはコナミをこの手で倒すためでもあった。

 

 それ故に斎王様が言った「時を待つことだ。しかるべき時にその時は来る」と言う言葉に従い反目することもしなかった。

 愛理くんに代わってくれとさえ言わなかった。正直言いたかったが、ぐっと我慢したのだ。

 その時とやらを待つことにして……。

 

「ん……ふう。まあ、どうあれコナミもまた俺たちの仲間となり光の結社の一員となったのだ。デュエルする機会ならいくらでも得られるだろう」

「まあ……な。ところで、その件のコナミはどこへ行ったのだ。デュエルのあと、愛理くんがどこかへ連れて行っていたが」

「ああ、なんでもパートナーに相応しい格好があるとかで部屋に戻って行ったぞ。そろそろ……ほら、丁度2人が戻ってきたようだぞ」

 

 万丈目がカップに注がれたジュースを口に流し込みながら見る方、パーティーの舞台となる大広間の入り口が開き、2人のめかし込んだ男女が肩を並べながら入ってきた。

 

「ほう、愛理くんは当然として、存外コナミのやつも似合ってるじゃないか。馬子にも衣装というやつだな」

「……そうだな」

 

 会場中の生徒が黒いドレスとスーツを着こなしている2人の方を見て微笑んでいた。デュエルが終わった後、万雷の拍手でコナミの入会を迎えていたように、会場にいる全ての人間が2人を祝福しているようでもあった。

 

 2人は並びながらゆっくりと大広間の中心に歩いてゆく。パーティーの華を飾るために中心で踊るためだろう。

 それを見た生徒たちがそれぞれのパートナーと共に腕を組んで2人の周りに向かって行く。

 

 パートナーのいない者は長机を端にやり万が一にもダンスをする者たちの邪魔にならないように忙しなく動いていた。

 それを胡乱な目で見ながら思う。やはり、奴は特別だなと。

 

「ん? ほう……おい三沢。どうやら斎王様がピアノを演奏されるようだぞ。貴重な機会だ。拝聴させてもらわなくてはな」

「……そうか」

 

 万丈目の喜びの声に今一乗れずに空返事をして斎王様の方を見た。俺の時も、他の生徒の時も斎王様がこのようなことをすることはなかった。

 1人の人間が結社に入ったことをお喜びになられ、祝宴を開かれるなどと言うことは一度も……。

 

「星に選ばれた…か。斎王様にとってもコナミは特別な位置の人間なのだろうか」

「さてな、俺はとてもそうは思えん。今回の祝賀会は斎王様の気まぐれだろう。愛理くんの希望と言うこともあるだろうさ」

「……どこへ?」

「ふっ、知れたこと。ダンスの時間が来たのだ。天上院くんを探して誘うのさ!」

 

 はーはっはっ! と上機嫌に高笑いして去る万丈目の背中を見ながら流れ出したピアノの音色に耳を傾ける。

 斎王様が弾かれる音色は美しく、ずっと聴いていたいと思えるほどだ。

 

 だが、広間の中心で踊る2人を見るとどうしても心に生まれる膿を消すことができずにいた。

 

 愛理くんはこれ以上ないほど幸せそうにうっとりとした表情でコナミと踊っている。コナミは若干ぎこちない動きで愛理くんについていこうと必死になっているようだ。その目に意思の光がないように見えるが、気のせいだろう。

 きっと、踊りに必死で楽しむ余裕がないのだろうと思う。

 

 男なら誰もが見惚れる程に美しい恋人、夢を叶えるのに十分な恵まれた才能。そして星のカードという世界でも特に貴重なカードに直々に選ばれた運命。

 まったく、いったいあいつはどれだけ恵まれているのやら。それに比べて俺は……。

 

「ふっ、駄目だな。どうにも自己嫌悪が拭えん。外の空気でも吸いに行くか」

 

 俺は耳障りの良い音楽でも祓えない心の淀みを振り払うために外へと向かった。

 ドアから主通路へと出る間際、チラリと背後に踊る2人を見た。多幸感に満たされた至福の時を過ごしている2人に背を向けた俺の背は煤けているように見えるかと、ふと思うのだった──。

 

 

 

 

 外へ出た俺はブルー寮の前の湖の辺りに座り水面のせせらぎに心を委ねていた。

 広間の華やかな世界よりも、静けさと孤独感を味わえるこの場所の方がよほど心を落ち着かせることができていた。

 

「こんなところにいたのか、三沢大地くん」

「──斎王様!?」

 

 しばらく自然の音楽に身を委ねていると、パーティーから抜けてきたのか斎王様が雑草を踏みしめながら歩いてきていた。

 

「パーティーは良いのですか?」

「なに、ダンスの時間は終わったのでね。ピアノを弾くのもやめて出てきたのですよ」

「そうだっのですか」

 

 隣に立った斎王様に失礼のないように俺も立って並んだ。この方は俺の塞がれた心を開いてくれた方、ご不興を買うようなことがあってはならない。

 

「三沢大地くん、君が何を考えているかはわかります。彼と皆の前でデュエルする機会を水無月くんに取られたことが不満なのでしょう?」

「斎王様!? いえ、そのようなことは……」

「ふふ、そう誤魔化さなくてもいい。私にはわかっています」

 

 嘘だ。目を逸らし否定した俺の言葉は容易に看破された。

 

「三沢大地くん、案ずることはない。以前君に言ったように、しかるべき時がくれば、相応の機会が得られます。今日は彼女の番であったと言うだけです」

「はい、わかっています。自分の番は今日ではなかったと言うだけのことは」

 

 そう、デュエルするのは今日ではない。それだけのことだ。それだけの……。

 そう自分に言い聞かせ、納得させようとする自分を見た斎王様は優しげな声で俺に言った。

 

「それに、待っていれば君にとっては彼との決着よりも嬉しいことがあるかもしれませんよ」

「は? それはどう言う……」

「いずれにせよ。今ではありません、時を待つといいと言うことです。そろそろ私は部屋に戻ります。滅多にない機会ですから、心の機微に囚われずパーティーを楽しむといい」

 

 ブルー寮とは真逆の方向へと歩いていく斎王様の背中を見ながら、不思議といつの間にか晴れていた心に流されるようにパーティーが続いている寮へと足を向けた。

 

(どうしたことか、あれほど暗かった心が今は澄んだ水のように白く透明だ。これも、斎王様のお力なのだろうか。ならば、やはりあの方の言う通り、時を待つのが最良なのだ。全てはあの方のためにあるのだから!)

 

 そのためならば、俺の心の膿みなどさしたる問題ではない。俺はより白く、純度の増した光に魅入られるように光が漏れる寮へと足を走らせるのだった。

 

 

 

 

 三沢大地が外へと出向き、ダンスの時間も終えた頃、大広間のはずれにあるバルコニーでは広間から抜け出したコナミと愛理が体をくっつけるようにベンチに座り静かなひと時を過ごしていた。

 

 愛理はその柔らかな身体をしなだれるようにコナミに寄りかからせている。対するコナミは身動き一つせず、照れることもなく、その空虚な瞳を夜空に瞬く星へと向けていた。

 

「私こうして2人でいると幸せだなって感じるの。ねえコナミくんは?」

「…………」

「ふふ、そう。ありがと、私もよ」

 

 彼は何も言わない。私に何を問われても、何を言われても心ここに在らずと言った具合で反応はしない。

 でも私はわかっていた。私だけは感じている。彼も幸せだと感じてくれていることが。

 

「……そうねえ、これからどうしよっかなあ。コナミくんは私のものになったし。うーん……まっ、いっか。そんなこと今はどうでもいいよね!」

 

 そう、どうでもいいのだ。これからどうなろうが、斎王や精霊界にいる者たちが何をしてきて、どうなろうが。

 私の知ったことではない。今はただ、このいっときの幸せを享受していたい。

 

「あっ、そうだ。これ、あげるね。私にはもう必要ないし、コナミくんの物だから」

「……」

 

 彼は私が差し出したカードを見てコクリと頷き、そのカードをデッキに差し込んだ。

 それは水星のカード。彼の持つべき6番目のプラネットカード。

 それを手にした彼の目に星が瞬き消えた。

 

「なんだかんだ、斎王のところから持ってきたはいいけど、やっぱり私じゃダメみたいなのよね。あんまり使いこなせなかったわ」

 

 カードはやはりそれを持つに相応しい人物でなければ本領を発揮できないと言うことなのだろう。

 最終的に勝つことこそできたが、使いこなせていたかと言われれば、さて、疑問だ。

 

「それからね、もう一枚あったんだけど三沢くんにあげちゃった♪ 必要なら今度機会があったらデュエルして貰って。ごめんね!」

「……三沢……わかった……」

 

 彼は私の方を見ることなく星を見上げたまま小さく呟いた。彼の中でするべきことは決まったと言うことなのだろう。

 だけどその前に一つ釘を刺しておかなければならない。彼を倒し、空ろとすることで私の目的はすでに達成したが、斎王の目的は果たせていない。

 

 一応目覚めた恩があるのだ。協力者として本格的に意識を取り戻す前に彼に力を貸してあげないといけない。

 今回水星のカードを渡したことでコナミくんの目に一瞬だけ星が宿り、力が高まったことは確認できた。私の想像していた通り、プラネットシリーズを手にすることで霊使いの力が宿るクリスタルとは別に彼自身の力が強まっているのがわかる。

 

 これで三沢くんの持つカードまで手に入るとたぶん、自力で自我を取り戻してしまい、光の洗礼も受け付けなくなるだろう。

 それはまだ早い。ちょっとだけ待ってもらわなくては。

 

「三沢くんとの対決はちょっとだけ待ってね。そう遠くはないと思うから。それまでは2人の時間を楽しみましょ!」

 

 満面の笑みを浮かべ笑う私に一瞬だけ、目を向けた彼だが、また星に目を向けた。その目に星を宿した彼の視線の先に何が見えているのか私にはわからない。

 でも、私にとってそれは重要なことじゃあない。私が彼のそばにいられるのは今だけなのだ。今を逃すと私が彼と話せるのはいつになることやら。

 

 私たちは飽きることなく、互いの体温を感じながら星を見続けた。

 今見ている星々が明日には忘れられているように、この一瞬の幸せも時の濁流の中に埋もれて行くのかもしれない。

 だからこそ、彼女は星に願い続けた。運命が引き寄せたこの偶然の温もりが永遠であるようにと──。

 

 




ダンスシーンって小説だとどういう風に表現したらいいのかさっぱりわかんない。
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